ケモミミだらけの異世界で顔の良い人に拾われた件について 作:疾風怒号
主宰エンシオディスによって任命された、カランド貿易に於ける俺の役割は主に二つある。
一つは連絡員長。主に書類や資料・伝票を預かり、事務員と配達員の間を繋ぐ橋渡し……と言えば聞こえは良いが、実際のところ雑務係である『連絡員』と呼称される従業員を取り纏める事。
もう一つは護衛員長。連絡員のうちごく一部、雇用時点で戦闘の心得があった者や、連絡員の中から志願した者によって構成される『護衛員』を統括する者。配達や取引の場に派遣される……要するにSEC●Mだな! え、違う?
兎に角、俺には二つの役割がある。そして今回の場合は『荒事』と言われた以上、後者の割合が大きい。 品物を配達する訳では無いので、エンシオディス本人や対談相手を護衛するのが仕事、という事で…………。
「本ッ当に申し訳ありません!!!!」
絶賛謝罪中です、いや本当に申し訳有りませんでした。マジで言い訳のしようが無い完全な俺のミスです。
情報を漏らしたのは(多分)俺の部下、ルートを最終的に決めたのも俺(と運転手)、その結果到着予定が半日遅れ、正直なところ網張って来る方が悪いと言いたいけどそういう言い訳は通用しないのがイェラグクオリティ。やばい、なんか泣きそう。
「落ち着いて下さいエンシレントさん……! まだ連絡員から情報が漏れたと決まった訳じゃ」
「どちらにせよルートを提案したのは俺です、もう少し気を付けておくべきでした……」
直角に腰を曲げた俺におろおろと声をかける運転手ことコッレーガさん。ヴァルポ族特有の尖った耳がピクピクと震えていて、どうやら彼女もかなり動揺しているらしい。大丈夫、責任は8:2で俺持ちだから、情報漏洩させた馬鹿は俺が焼肉にするから。だからどうかその見ているこっちが苦しくなるレベルで真っ青な怯えたチワワみたいな顔をやめてくれ。
ちなみに運転中は思い切りタメ口だったが彼女はガッツリ先輩である。小動物系運転手先輩カワイイ…………。
さて、エンシオディス様とヤーカが、スチュワード家のお偉い様と対談もとい商談を持ちかけてる間に俺がしないといけなくなった事は情報を漏らした犯人探しだ。本当はやりたか無いけどね、流石にね?
こういう輩は再発防止の為にも、冷酷な程の姿勢を以って対応しなければならない。連絡員がやったと決まった訳ではないから、目的は対談だから、なんて理由で有耶無耶にするなんてのはもう最悪、『舐め腐ってやがり下さい』って言ってるようなモンだ。エンシオディス様にも許可取ったし、俺も解雇なり何なりされるのは当然として、その前に連絡員長として働かなければ。
「連絡員、全員一列に並べ」
適当な号令にもしっかり従って几帳面に整列してくれる。俺みたいな奴に従ってくれるの、本当良い奴らだよな。いや、寧ろ俺の下にいるのが嫌でこんな真似を? いやいや、コッレーガさんの言う通りまだ連絡員がやったと決まった訳じゃない、諦めるな俺。
「まぁ……、俺が何を言いたいのかは分かってると思う。もし『私がやりました』っていう奴がいるなら、今の内に手を挙げて欲しい。 今挙げてくれたら、多分、解雇されるだけで済む」
反応はない、バレないとでも考えてるのか、それとも本当にこの中に犯人がいないだけか。後者であって欲しいが前者なら最低だ。これでもし全員白だったら……その時は土下座でもすっか。
「なら良い、疑って悪かった」なんて何でもないように言いながら、さり気なく杖を二回地面に打ち付けてアーツを展開した。電波ってのは、多少の布なら透過してその中身を暴き出す事が出来る。下品な事を言えば、今の俺には半径数メートル以内の地形だとか、金属だとか、コッレーガさんの下着の刺繍柄だとか、そういうのが全て把握出来る。
連絡員の装備は全て統一されている。各部にカランド貿易を示すロゴが入ったダークグレーのジャケットや、サッカーで使うレガースじみた防具が仕込まれたブーツ、合皮のグローブ、携行する通信機まで全て同じ。手荷物検査も出発前に抜かりない。だから妙な物を隠し持っていたら、それだけで怪しい。
一人目、特に無し。
二人目、特に無し。
三人目、特に無し。
四人目…………特に無し。
順番に連絡員に意識を向け、余計な物を持っていないか確認していく。ほら、何も持ってないだろ。 ん、待てよ?これだと全部俺の責任じゃね? やっべ解雇は嫌だな何か言い訳を考え…て、おか…………「オイ、お前」
最後の五人目、キャプリニーの反った角が目立つ若い男。その左胸にある物を見た瞬間、停止する思考と反対に身体は迅速に動き出していた。素早くジャケットの奥、インナーの内側にある『それ』を取り出して首根っこを掴み抑える。ぐぇ、と苦しげで間抜けな声がした。
「これは
「……ッぐ、そ、れは…………ぁ」
「それは……何だ。 私物は持ち込むなって、普段から言ってるよな? こういう事をされるとさ、俺はお前を疑わざるを得ないんだよ。
コッレーガさん、これをマッターホルンに渡してきて欲しい。状況も伝えてくれ、至急だ」
「わ、分かりました……!」
邸宅の中に入っていく背中を見送ってから視線を戻す。キャプリニーの男は苦しげだ。首を掴まれてるから当然だろうけど。
「…………何でこんな事をした、言え」
「し、シルバーアッシュを……っ、始末できたら、か、カネが入るんだ…………!」
「目的は金か?」
「オレには、家族がいる……、お前達貴族には、分かるまい……」
「驚いた、俺は『どうして私物を持ち込んだのか』を聞いただけなんだが」
男が『しまった』とでも言いたげな顔をしたがもう遅い。というか俺は何もしていませんしお寿司、お前が勝手に吐いたんだし。 だからそんな恨みがましい目で俺を見るな。その行動を選んだのはお前の責任で、そして俺はそれに対処する責任がある。それだけだろ。
「コイツを拘束、車内にぶち込んでおいてくれ」
「了解しました」
連絡員の中で一番の古参が、俺の手が離れた瞬間逃げ出そうとして後頭部を殴打された男の腕と脚を、手際良く縛って抱え上げた。正式な処分は……エンシオディスが決めるか。良くて解雇、最悪の場合…………止め止め、そんな事考え出したらキリがない、切り替えろ俺、切り替えろ、俺。
「リーダー」
「気にするなレガト、俺は大丈夫。 俺達は俺達の仕事を全うするんだ。一旦この話は終わり、持ち場につけよ!」
「……次の休み、飯奢りますよ」
そう言い残して、最古参は裏門へと向かっていった。いつの間にか空は翳り、風が吹き付けてきている。このままいけば、日暮れには吹雪が来るだろうな。
夜、そんな予想が呑気な物だったと笑えるくらいの猛吹雪が襲来した。どれくらいかって言えばかなり頑丈な筈の邸宅がガタガタ鳴ってるくらい。これはヤバいな。勿論連絡員はあの馬鹿野郎を含めて避難済み、下手なところだと入れて貰えない可能性すらあるのでスチュワード氏の御心が広くてやったねた●ちゃん状態です。
対談自体は上手く行ったみたいで、エンシオディス様は滅茶苦茶上機嫌でしたよ、もうウキウキルンルンって感じの顔してた、氷属性福●雅治が癒し属性福山●治にクラスチェンジ、これには俺もニッコリ。ヤーカもニッコリ。 でもエンシオディス様? どうして俺とヤーカを相部屋にしたんですか?端的に言って凄い気不味いんだけど。
あ、飯もご馳走になりました。小さな肉と芋のスープに固いパンとやっぱり質素だったけど、スパイシーで中々美味しかったです、まる。
暇になったので杖を弄って遊んでたら、ヤーカが部屋に戻ってきた、いつものライダーじみた服装ではなくシンプルなシャツ姿、筋肉が凄すぎてパッツパツだけど大丈夫かそれ。
「旦那様からご連絡だ、今回はお前の責任は問わないそうだ、エンシレント」
「…………マジ?」
「お前はこういう時に冗談を飛ばすか?」
「いや、それはそうなんだけど、解雇を覚悟してたモンで…………」
「正直な所、俺もそうなっても仕方がないと思っていた。 ただ、『再発防止に努めるように』とは仰っていたぞ、気をつける事だな」
いや〜……マジか、どうやってイェラグから抜け出そうかとばかり考えてたから実感が湧かねぇ…………、エンシオディス様としては「不始末は不始末だけど、お前のアーツで回避出来たのも確かだし今後もっとバリバリ働いて精進する事だな」的な裁定だと思うんですけど、全くお咎めなしか…………。
「アイツはどうなる」
「……『事故』だ」
「…………やっぱりそうか」
俺とヤーカの間では言うまでも無い事だったのでサラッと受け流したが、『事故』ってのはそのままの意味じゃない。
カランド貿易を含め、企業に対して『こういう事』を仕出かした奴は大体の場合始末される。大っぴらに発表出来る訳もないから、それは不幸にも不慮の事故に遭った事になる。それが余りに冷たくて残酷だと思う心は、十数年以上経過する内に凍り付いてしまった。
この世界は、地域や組織によって、俺が元々いた世界より進んでいたり遅れていたりする。それは技術であり、意識であり、人の在り方そのものでもある。いや、考え方だとか生活に根付いた文化だとか、そういうのを進んでる遅れてるって尺度で測るのはナンセンスだと言う他ないが。
技術は……滅茶苦茶に進んでる、元の世界の感覚で言うならば近未来の域に達している部分もあるだろう。その中で航空技術だけがほぼ発達していないのが不思議な程、ドローンは沢山見るのにな。
『遅れてる』と言ったのは、この世界の人間はみんな、根本的な部分で原始的で殺し殺される事への忌避感が薄い事だ。さっきも言ったが『遅れてる』というのは俺の元々の価値観に基いた主観的で
だからという訳でも無いが、俺はあの男を自分で殺す事にした。それがせめてもの責任だと思うから。ヤーカと一緒にエンシオディス様にその旨を伝えたら、やはりと言うか何と言うか、一発OKのゴーサインが帰ってくる。
どれにせよ、この吹雪が過ぎ去るまでは何も出来ない、精々杖を磨くか、ヤーカと干し肉を食みながらカードゲームに興じるくらいだ。数日後に人を殺すってのに余裕綽綽で遊んでいられる俺も、その『遅れてる』奴らの仲間入りをとっくの昔に果たしているんだろう。要は慣れだ、朱に混じれば朱に染まるし、郷に入っては郷に従うのが長生きの秘訣、オカンだってそう言ってた気がする。
不意に、携帯端末からアラームが鳴った。画面に表示された名前は《
コッレーガ→ collega(古典ラテン語)→『同僚』
レガト→レガトゥス→ legatus(古典ラテン語)→『副官、任命される者』