ケモミミだらけの異世界で顔の良い人に拾われた件について   作:疾風怒号

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4:通話、或いは信用と信頼

 

 

 

 

「俺、エンヤお嬢様と初めて話したな」

「……初めて?」

「うむ、今回が初めて」

「何も言うまい、まぁ……エンヤ様は少し内気な所もあるが、根本的にはエンシア様とそっくりだ、お前さえ良ければ、変わらず接して欲しい」

「モチのロン、断么九(タンヤオ)ー盃口(イーペーコー)清一色(チンイーソー)だ」

「…………俺は時々、お前の言う事が全く分からない」

 

 

マニアックなスラングだと思ってくれたまえワトソン君、いや随分筋肉質なワトソンだな?

 

既に電気を落とした室内、二段になった来客用ベッドでヤーカと話し込む。正直寝た方が良いのだが、吹き荒ぶ風、打ち付ける豪雪、軋み続ける窓枠が眠気を片っ端から追い散らしてしまう。つい数十分前までのビデオ通話のお陰で会話のタネには困らないのが幸いだった。

 

 

「タブレット、とは多少便利なノートとしか思っていなかったが、ああ言った事も出来るんだな」

「そうだ。何もタブレットだけじゃない、ドローンに源石エンジン、発電機にカメラ、イェラグの外には、イェラグとは全く違う品がごまんと有る、食料だってな」

「それを、イェラグに持ち込む……か」

「主人の考えが完全に実現すればそうなるし、イェラグは大きく変わる。勿論、その景色を見る為には、過程に起こる動乱を乗り切る必要があるがな」

 

 

歴史を齧った事のある人間なら分かるだろうが、国外との貿易の最初期にはロクな事が起こらない傾向にある。最初期で無くとも、国力であったり、売り買いする品物であったり、色んな要素によって問題は容易く発生し、時に一つの国を食い潰す。麻薬を売り付けられ、それを制限したら戦争になったり、国内の貴金属が大量に流出したり。

 

とにかく、カランド貿易が軌道に乗ればそういった類のゴタゴタは間違いなく起こる。それは間違いない。起こらなかったら俺が土下座する。…………誰に?

 

 

「イェラグはこの手の物事に関しては素人も良い所だ、だがカランド貿易は違う。 なぁヤーカ、今度勉強会を開こうと思うんだ、お前も来ないか?」

「勉強会?」

「経済と貿易の事についての、な。 下っ端は働かせれば良いだけだが、一定以上の地位を持つとそうも言っていられないだろ。最低限の知識は備えておくべきだ、ワンマン経営は必ず限界が来る」

 

「エンシレント」ヤーカが遮った。

 

「ん?」

「お前は……、本当にスラムの出身なのか?」

 

 

失礼な、スラム出身者がみんな粗暴で馬鹿で短絡的で妙に狡賢い奴だと思うなよ? 俺の場合は例外も例外だろうけど。お前だってフォルテ族がみんなお前みたいに筋骨隆々でTシャツがパッツパツな松●人志じみた野郎だと思われたら嫌だろうに。 眉を顰めているであろうヤーカの顔を思い出しながら、二段ベットの二段目を下から蹴った。

 

 

「俺はたまたま周りの大人に恵まれてただけだ、それ以外は本当にただのスラムのガキだよ……っと」

「おい蹴るな、分かった悪かった、悪かったから」

 

 

ヤーカはお手上げと言った様子だった、流石にやり過ぎだったかも知れん、反省しよう。

 

その時だった、枕元に置いていた端末から電子音が鳴る。相手はクーリエ。と言うより、今のところ俺と通信出来るのはエンシオディス様、ヤーカ、クーリエにコッレーガだけだ。

 

 

「もしもし?」

『あ、繋がった! もしもしエンシレント、私だよ、エンシア!』

「エンシアお嬢様!?」

「エンシア様ッ!!??」

 

 

思わず飛び起きた、んで頭を打った。いやマジで何を考えてやがるこの人懐っこい元気娘がよ、良い子は寝る時間だぞ!?

 

 

『しーッ、声が大きいよ!』

「いやいやいやお嬢様? これクーリエの端末ですよね!?」

「まさか何かあったのか!?ご無事ですかエンシア様!!!!」

『何もないってば、声が聞きたかっただけだって……!』

 

 

端末の向こうでエンシアがたじろぐ。そしてヤーカは動揺しまくってる。部屋から飛び出そうとした筋肉男を取り押さえながら、スピーカー機能をオンにしてテーブルに置いた。ビデオ通話ではなく通常通話、だがヤーカもいるのでこっちの方が都合が良い。一先ず話を聞いた結果なんだが、エンシアお嬢様は本当に声が聞きたいという理由だけでクーリエから端末をちょろまかし、皆が眠ったタイミングで通話を掛けたらしい。

 

……はっきり言う、心臓に悪いからやめてくれ。マジで。

 

いや分かるぞ?こういう事したくなる気持ちは分かる、分かるけどさ、今でこそ離れてるけど俺は貴女のガードでもあるんですよ、一気に老け込んだような顔でベッドに潜り込んだヤーカなんかは『一族丸ごとシルバーアッシュ家に支えてきた』家の出だ、凄え心配してたぞ。

 

クーリエも含めて、俺達は貴女の命を守る者なんですから、それがクーリエの端末からエンシアお嬢様の声が聞こえたらビビるでしょ。実際絶対何かあったと思ったよ、俺は。

 

 

『ご、ごめんなさい…………』

 

 

という旨の事を伝えたら謝られた、謝らなかったら謝るまで説明するつもりだったけど。素直なのはこの子の美点だと思う、あと可愛い。兄貴譲りのクールフェイスでふにゃっと笑うのが可愛いんだコレが、まだまだ子供だけどそれにしてはスタイルも良い、『起伏は目立たないけどその内にしっかりと"雌"を内包している体型』って、俺は好きなんだよな。

 

……今何か凄えキモい事言ったな、俺も寝た方が良いかも知れん。

 

 

「……まぁ、俺個人としては嬉しかったですよ。クーリエには伝えないでおきますから、上手くやって下さい、お嬢様」

『うん、ごめんねエンシレント、ありがとう』

「こちらこそ、コレなら残りの仕事も頑張れそうです」

 

 

僅かに、息を呑む気配がした。

 

 

『ねぇ』

「はい?」

(あたし)ね、もう少し大きくなったら、カランドに挑もうと思うの』

 

 

カランド、というのはカランド貿易の事ではない、その名の由来となった霊峰の名だ。それに挑むという事は、登山家(クライマー)として登頂を目指す。という意味だろう。

 

 

「それは……」

『だからその時は、エンシレントが付いてきて欲しい』

「ヤーカじゃあ駄目なんですか?」

『ヤーカおじさんは忙しいし、クーリエは山に良い思い出が無いみたいだし……』

 

 

コイツ、俺が忙しくないみたいな言い方しやがったな。俺だって山に良い思い出は無いぞ。

 

 

「俺で良いんです?」

『違う、エンシレント"が"良いの。 登山の話を真剣に聞いてくれたのは、エンシレントだけなんだから』

 

 

しまった。遭難するのが嫌すぎて真剣に話を聞いていたのが、こんな形で回ってくるとは思わなかった。

 

信頼を受けるのは悪い気分じゃない、でもそれに伴う関係性は苦手だ、ギブアンドテイクの存在しない関係性はある種の麻薬に近い。脳を幸福で満たしておいて、後になるとすっかり消える。次いでに()()()と素晴らしい苦痛を味わう事になる。それはきっと、地獄よりも地獄に近い。

 

 

「……分かりました、その時は俺を呼びつけて下さい」

『ぃやった!』

「しー、用件はコレで終わりですか?」

『うん!コレで終わり。 おやすみエンシレント!』

「はい、おやすみなさい。エンシアお嬢様」

 

 

とは思っているものの、断る理由が無いのでそのまま承諾してしまった。というか、エンシアがその気になれば態々頼み込まなくても俺を引き回せるんだよな……元より断る意味も無い、南無。 端末の電源を切って二段ベッドを見れば、ヤーカは眠ってしまっていた。あれだけ驚いてたんじゃ、どっと疲れるのも分かるぞ、また今度何か奢ろう。おやすみヤーカ。

 

のそのそベッドに潜り込んでも、俺の眠気はすっかり何処かに行ってしまった。元からいなかった気もするが、今はそれよりも目が冴えている。何となく落ち着かない。分かった、コレ喜んでんだ。もしかしなくても俺喜んでるな、いや恥ずかしいわ、滅茶苦茶舞い上がってんじゃん、落ち着けよ俺。

 

 

「……馬鹿か?」

 

 

率直な気持ちを口に出してみる。すると不思議なほど落ち着いた。冴えていた意識がふっと心地よく遠くなる。あぁ、良い気持ちだ、今なら眠れる、きっと。 起こしていた上体をベッドに倒して、頭に毛布を被る。視界が温い闇に包まれると、俺の意識は拍子抜けするほど簡単に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、といってもまだ太陽も昇っていない時間帯。すっかり吹雪は過ぎ去って空は晴天、青紫に染み込むように東の空が白んでいる。真白い雪原とのコントラストが美しい…………と言うような気持ちではない。ジャケットを脱いでレガトに預け、悴んだ指を慣らすようにロッドを回す。

 

十数メートル離れた先に、キャプリニーの馬鹿野郎の姿があった。

 

 

「分かってると思うが、殺す事になった。 ……悪い」

「何を今更」

 

 

男の声は冷たかった。冷たくて重い、きんとした鉛のような声。その手には支給品のサーベルが握られていて、ゆらゆらと風に揺れる。何もかも諦めて、心底から俺を軽蔑する、それでも何処かこうなった事に納得しているような声に……俺は何も感じない。すっかり慣れたものだ。

 

 

「俺を殺して全力で逃げれば、まだ助かるぞ」

「できる訳が無い」

「……ならさっさと剣を置け、苦しめずに」

 

 

そこまで言った瞬間、ロッドを回して飛んできた石礫を弾き飛ばした。キャプリニーらしい軽快な足捌きで男が迫る。十二分に殺意を漲らせて振られた刃が到達する前に、その腹を蹴り付けて吹き飛ばす。 勝てないと思っているなら何故戦うのか、それはきっと怖いからだ。死ぬ事ではない、家族を残してしまう事が。だから抗う、抗うとは即ち生きる事、あのキャプリニーは今まさに生きていた。

 

冷徹にロッドを突き込む合間に、アーツを起動させていく。角から額に、額から首に、首から肩を通って肘、そして前腕へ、徐々にエネルギーが充填される。

 

男の脚によって煙幕代わりに撒き散らされた雪を被る、視界が埋まるが特に気にする事でもなく、斜め後ろから回り込んだ攻撃を後ろ手に受け止めて廻し蹴りで側頭を揺さ振る、すると相手は二、三歩たたらを踏んで体勢を崩した。

 

 

「まだ…………ッ、まだ……!」

 

 

男はすぐに立て直してサーベルを打ち込んでくる。よく訓練された無駄の無い動き、俺の下に来たばかりの時はド素人だったっけ。

 

……凄いよ、お前。 とっくに諦めてるように見えて、その剣は微塵も負ける事を考えてない。しつこく急所だけを狙ってくる。息が切れる様子も無い。最近はあまり見てやれなかったけど、相当な努力を積んだんだろう。 だからこそ、こんな事はして欲しくなかった。お前だって一生ヒラなんて事はあり得ない、企業が大きくなれば給料だって増えた筈だ、それなのにお前は。

 

甲高い音を立てて、一際大きくサーベルが弾かれた。

 

家族が大切だったか?生活が苦しかったか? ならどうして、一言でも俺に相談してくれなかったんだ。そんなに俺は信用が無かったのか? これでも真面目に働いて、コミュニケーションだって欠かさないようにはしていたんだぞ?どっちが悪いなんて今更どうしようも無い事を言う気はないけど、こんなのはあんまりじゃないか?

 

 

「もう、終わりにしよう」

 

 

地面に叩き付けた尻尾をバネに身体を前に送り出し、ガラ空きになった懐に肉薄する。金色の電流が棘みたいに絡み付いた腕を突き出して、掌底打ちと同時に電撃を解放した。 づぃん、と妙な音がして、悲鳴も上げずに男が崩れ落ちる。その身体が地面に付くまでに腕を差し込んで、抱え上げ、仰向けに寝かせてから目蓋を閉じさた。

 

静寂だけがあった。…………虚しい、とても虚しい。今まで何人も殺してきたが、こんな気持ちになったのは今日が初めてだと思う。

 

 

「最初に吹っ掛けたのは、お前だ。 悪く思うなよ」

 

 

コレで初めて、連絡員の中から『事故の犠牲者』が出る事になる。裏切り者が出るたび、情報を漏らそうとした奴を見つけるたび、こんな事をしているのであろうヤーカやクーリエ、諸々の先輩達を改めて尊敬した。 こんな事はもう金輪際真っ平御免だ、もう二度とやりたくない。

 

万が一に備えて周りを囲んでいた連絡員達が武器を下ろし、邸宅の方向へ去っていく。残ったのは俺とレガト、それと遺体を積む為に車を走らせてくれたコッレーガさんだけ。彼女は困ったような顔をして、「自分を責めないで」とだけ俺に言った。勿論だ。と口中で呟く。情報を漏らした馬鹿野郎を、俺が殺すという形で責任を取ったと言うだけ。ただそれだけ、別に珍しい事じゃない、そんな事は分かってる。

 

 

「はは、今更かよ、情けない」

 

 

だと言うのに、心臓に電撃を叩き付けた左腕の震えは、暫く止まりそうになかった。

 

 

 

 

 

 







元々メインで書いている連載の息抜きとして描き始めたコレが、予想よりも遥かに多くの方に触れて貰えて驚きと喜びで冷静さを失っています。皆さん、本当にありがとうございました。

ちなみに作者は感想を頂けるとテンションとモチベーションがが爆上がりしますよ(ホシガリス)





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