ケモミミだらけの異世界で顔の良い人に拾われた件について   作:疾風怒号

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5:職務、或いは三族議会

 

 

 

運送企業カランド貿易は、実は国営企業という扱いになっている。

 

国営企業ってのは読んで字の如く、国が運営する企業、いわば税金で資金繰りしても許される企業だ。主宰が絶賛没落中であるシルバーアッシュ家の人間である以上、おいそれと税金使ってウハウハ出来るかと聞かれるとそうではないが、兎に角カランド貿易は国営企業って事になるんだな。

 

ならその(イェラグ)の舵取りをしてるのは誰だって話になるんだが、此処がこの国の珍しい所で、シルバーアッシュ家を含めた三家の貴族が作り上げた『三族議会』ってのが最高機関になっている。三権分立もクソも無く、何なら何処にだって貴族が介入できる素晴らしいシステムだ。……勿論、今のシルバーアッシュ家に発言力なんて無いに等しいので実質二族議会みたいなモンだが。

 

大方、元々は三つの家が睨みを利かせ合う事で権力集中や横暴な真似を防ぐ為のシステムだったんだろうが、今となっては何がどうなったのか、二つの貴族が結託して残った一つを蹴落とし、美味い汁を分け合って啜っているのが現状。なしてこうなった?

 

停滞してガチガチに固められた支配体制は腐り落ちるが常、まして自然環境が厳しく食う物にも困る上、国土も広大とは言えないイェラグなら尚更だ。

 

 

「エンシアお嬢様、尻尾を引っ掴むのはおやめ下さい」

「だって……やる事無いし」

「やる事が無いからって人の尻尾を触るのはぅあッ!? エンシアお嬢様!やめ、やめて、尻尾を握らないで!」

「まだ、時間は掛かりそうですか……?」

「ええと前回は三時間ほどで終わったと記憶していますのでもう30分もすれば終わるかと痛たたたた!」

 

 

何故こんな事を考えていたかと言えば、今現在がその三族議会の真っ最中だからだ。前回エンヤお嬢様は体調が優れずお留守番だったが、今回は二人ともエンシオディス様について来ている。メンバーはシルバーアッシュ三兄妹、ヤーカ、クーリエ、俺と連絡員二人、最後にコッレーガさん、合計九人になる。

 

この前スチュワード邸に行った時と比べて護衛対象と護衛者の比率が心許ない気もするが、コレがシルバーアッシュのスタンダードだったりする、この前の時は連絡員(実際には護衛員)を"チラ見せ"する意図もあったってエンシオディス様御本人が言ってたから、後々企業が大きくなれば護衛員も増員してガンガン派遣するつもりでいるんだろう。

 

滅茶苦茶に尻尾を振ってお転婆雪豹を振り払いながら、改めて待機室を見渡す。数人が入るには些か以上に広い室内には何台かのテーブル、椅子、室外に配管が伸びた薪ストーブとシーリングファン、その他調度品が目に入る。

 

 

「レガト、館内図を」

「はいリーダー」

 

 

レガトから受け取った館内図を見ながらアーツを起動、脳内に浮かび上がるぼんやりした立体マップと見比べていく。本当ならもっと早くしたかったが、屈強そうな衛兵が何処に行っても闊歩するような場所でしても気が散って出来そうになかった

 

二階建ての広過ぎる建物、中庭や巨大な食堂、多数の休憩室やその他諸々を備えているのがこの『三族議会館』。出力を強めれば、地下に埋没した通路や隠し扉が出るわ出るわ、万が一此処が襲撃されてもほぼ間違いなく逃げ出せそうだな……。

 

 

「レガト、オルニット、今すぐじゃなくて良いからコレを頭に叩き込め、万が一って時に役に立つ」

 

 

ペンで簡単に『どの通路が何処に繋がっているか』『どこに通路が隠されているか』といった事を書き込んだ地図を連絡員二人に渡しておく、隠し通路なんかは施錠されてそうなモンだが、俺の知る限りヤーカに次いで力が強いフォルテ族のレガトと、アーツ操作に長けるリーベリ族のオルニット、護衛員のダブルエースなら無理矢理打ち破って入り込めるだろう、壁の材質とか基本的に木だし。

 

そうこうしている内に、一際大きな部屋に集まっていた人影が動き始めた。ゆっくりとした足取りから察するに、会議は滞りなく終了したらしい。

 

 

「……終わったっぽいな、連絡員は移動準備、コッレーガさんはお嬢様達といて下さい」

「リーダーはどうするんです?」

「俺はエンシオディス様達を迎えに行く、"見えて"はいてもこういうタイミングが一番怖い」

「了解です。 っていうかそのアーツ、本当に便利ですね」

 

 

「間違っても誰かに言うなよ」と言い残して部屋を出る。トレンチコート(この世界に塹壕が有るのかは知らないけど)のボタンを留めながら脳内のマップを頼りに歩いていくと、曲がり角の陰からぬっと女が飛び出した。エンシオディス様達の位置に注意を割きすぎた所為で反応が遅れ、軽くぶつかってしまう。

 

 

「っ……と、悪い」

「いえ、お気になさらず」

 

 

身長の割にすらりとした体型の、フェリーンの女性だった。金色の眼に暗灰色の髪、服装は普通の軽量防寒着なんだが、いかんせんスタイルが良いせいで眼に毒だ。肩に掛けている縦長のバックには一般的な物より遥かに大きいクロスボウ、服の内側や下着の中にも針やワイヤー、小さなナイフなんかが大量に仕込まれている。……どう考えてもただの護衛じゃない、傭兵、もしくは私兵だろう。

 

 

「……何か?」

「いや、何でもない。少しぼうっとしてたみたいだ。 それじゃあ」

 

 

関わらない方が良いと全神経が警鐘を鳴らしていた。 そそくさとその場から離れて目的地へ速足で向かう。

 

いや怖えよ、滅茶苦茶怖え。アイツはアレだな、一瞬でも気を抜いたら即袖から出てきたワイヤーで首絞めコロコロされてしまう感じだ。鞘に納められているのに鋭さを感じ取れるナイフみたいな、明らかにヤバいタイプだ。

 

 

「あぁ、エンシレント。待たせたな」

「とんでもない、この後は?」

「残る用事も無い、家に戻る」

「了解致しました」

 

 

エンシオディス様、隠してはいるけど滅茶苦茶嬉しそうだな。取り敢えず上手くいったんですね分かります。でも後ろの護衛二人が明らかに疲弊してるのは何?

 

 

「俺だ、お嬢様達とコッレーガさんを連れて車庫まで来てくれ」

『了解ですリーダー』

 

 

レガトに連絡を入れてからクーリエに近寄って耳打ちする。エンシオディス様は既にヤーカを伴って前を歩いていて、その背中を遠い目で見遣りながら、クーリエは溜息を一つ零した。

 

 

「クーリエ、何があった?」

「いえ……概ね上手くいったのです、これなら予定通り国外との貿易に踏み切れそうなんです、ですが……」

「ですが……?」

「その、先日の情報漏洩についても言及された辺りから」

「……もう良い大体分かった、大体分かったからもう何も言うな」

 

 

あの福山●治、やっぱり闇属性なんじゃねぇかな? いや、俺としてはそう言うところで牽制してくれるのは凄い嬉しいけど、あの場でそれを言うのは完全に挑発行為、イエローカード、しかも二貴族の差し金という証拠はない(十中八九奴らの仕業だろうが)。俺個人としてはもっとやれと言いたいけど、護衛員長としては完全アウトだ。前みたいなのはマジで嫌だからな。

 

これは車内で聞いた事だが、スチュワード家が元々持つ国外とのコネとエンシオディス様が留学中に得たコネを悪魔合体させて、実験的に世界経済の一大地と名高い移動都市、『龍門』にある電子製品の製造会社、及び高い技術力と厳格な宗教で知られる『ラテラーノ』のアーツユニット製造会社とイェラグの鉱石採掘業者との間で、取引を成立させる事が決まったらしい。

 

ちなみに取引先は先日の会談の時点で決まっていたとのこと、根回しが手際良すぎてビビるわ。天才かって。

 

後は現『カランドの巫女』の後釜がどうたらとか、何処そこの家で双子が産まれたとか、新しく雇った傭兵が美人だとか、どうでも良い世間話だったと聞いた、その間エンシオディス様の空気がヤバかったのは想像に難く無い、あの人そういうTPOを弁えない無駄話とか嫌いだもんね。

 

というか俺の同僚二人の胃袋が痛め付けられたの、それも含めると9:1くらいで向こうの方が悪いでしょ。今俺の横にエンシアお嬢様を挟んでクーリエが座ってるけど、いつもよりぐったりしてるよ?お嬢様に耳を引っ張られても反応返してないよ?

 

 

「ねぇエンシレント、クーリエ寝ちゃった」

「寝かせてやって下さい、疲れてるんですから」

「エンシレントは疲れてないの?」

「……『疲れてる』って言ったらそっとしてくれます?」

 

 

話しかけてきたエンシアお嬢様が、俺の尻尾を掴んだ。掴むというより軽く握る感じで顔のあたりまで持っていくと、その先を指でグリグリと押し込んで擽ったいな!!??

 

慌てて尻尾を引っ込めると、頬を膨らませてお嬢様が俺を見る。

 

 

「……そんな顔しても駄目ですよ、大人しくして下さい」

「エンシレントの意地悪」

「意地悪で結構です」

「もー!!」

 

 

大体、俺の尻尾なんて殻は硬いわゴツゴツしてるわで特に触っても面白くないと思うんだが……そう思うのは俺だけか?その点三兄妹の尻尾はとても触り心地が良さそうだ。しなやかで、もふもふで、それでいて艶やか、許されるなら一度触ってみたい。

 

何事かぶぅたれているお嬢様をいなしながら、小さな窓から外を覗いた、遠くに見える三族会議館は風に舞い上がる雪に霞んでいて、まるでフィルターを通して見ているようだった。その斜め上に傾き掛けた太陽が控えめに鎮座して、白金色の光線が乱反射する。

 

 

「帰ってからなら触っても良いですから、今はクーリエを起こさないで。良いですね?」

「……むぅ、分かった」

 

 

機嫌が悪かったり、何かを抑えるときに唸る癖は姉貴に似ているな、と思った。多分、エンシオディス様とエンヤお嬢様を足して二で割って活発にしたらエンシアになるんだろう。そんな不躾な考えは梅雨知らず、エンヤお嬢様は俺と反対側の窓を見て、じいっと黙り込んでいた。

 

エンシアお嬢様が大人しく座り直すと、車内は一気に静かになってしまう。疲れ切ったような弛緩した空気が、コッレーガさんの欠伸に溶けて、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺をラテラーノに、ですか」

「あぁ。 頼めるか、エンシレント」

「ご命令とあらば、何処へでも。 しかし、本当に俺で良いのですか?」

 

 

邸宅に帰還した翌日エンシオディス様直々に言い渡されたのは、ラテラーノへの出向だった。……取引を行う以上、いつまでも電話口だけで受け答えをする訳にもいかないので予想はしてた、予想はしてたけど遠いんだよなぁ…………ラテラーノ。

 

イェラグ南東部を通ってビクトリアを経由し、リターニアの南にある平原部を通過してやっと辿り着くような場所だ、行きだけで二週間は掛かる。しかも向かうのは俺一人、その上イェラグには天災の予報や察知、回避を専門とする天災トランスポーターもいないので中々スリリングな旅になる事請け合い。まぁ、この辺りは新興企業のカランド貿易が向こうの企業の信用を得られていないのが前者の原因なので眼を瞑ろう。

 

そして1番の懸念材料は、俺が額を指差した事で相手にも伝わったようだった。ラテラーノにはウルサス帝国のような感染者を問答無用で拘束するような制度は無かったと記憶しているが、それでも大き過ぎる不安材料だ。出向先で豚箱行きなんて冗談にもならない。

 

 

「問題無い、取引先を通して公証人役場にも話を通してある。 だが……、コレを持っていくと良い」

 

 

さらりと凄い事を言いながら、エンシオディス様が一本のバンドを投げ渡した、黒い布にカランド貿易のロゴと『Karlan Trade(カランド貿易)』の文字が小さくプリントされている、コレで額を隠せという事だろう。そういう細かな心遣いがとてもありがたい、後で給料天引きとかだったら笑ってしまうけど。

 

 

「……ありがとうございます」

「構わん、頼む」

「お任せ下さい」

 

 

俺の返答を待ってから、エンシオディス様が握ったペンで一枚の書類にサインを入れた。カランド貿易・連絡員及び護衛員長、エンシレント・アウレアイグニスのラテラーノ出向が、めでたく決定した瞬間である。

 

 

 

 

 

 






オルニット→ ornit(古典ラテン語)→鳥(の)

アウレアイグニス→ aurea(古典ラテン語) ignis(同じく)→黄金(の)火


感想を送って下さった皆様、本当にありがとうございました。毎秒とか毎フレームとか毎コンマ更新は無理だけど出来るだけこまめに更新できるように努力しますので、これからも宜しくお願いしますm(_ _)m





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