ケモミミだらけの異世界で顔の良い人に拾われた件について   作:疾風怒号

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7:任地、或いは天使の姉妹

 

 

 

 

 

宗教国家ラテラーノ。約二週間の旅を終えた俺を待っていたのは、その名に恥じない荘厳な街並みだった。至る所に嵌め込まれたステンドグラスに華奢な尖塔、薄麦色の石材とレンガで組み上げられた建造物は、目が滑るように現実感が無い。何処となくイェラグと似た雰囲気を醸しながらも、その実多くの差異が含まれるのは、気候の違いか種族故か。

 

ドライヴスルーの業務用窓口を通り抜け、ついでに道案内を受けて市街に進入する。そこまで混雑はしていない交差点を曲がって……クソ、また信号だ。

 

 

「なぁ」

「ん?」

「モスティマは、感染者をどう思う?」

 

 

残り一つになったグミを口に放り込んで、横目でモスティマを見る。宿での一件で俺が感染者だとは知っている筈のこの天使は、何を思ったかがここまでヒッチハイクを継続していた。そうなれば当然、コイツが持つ感染者に対する意識も気になってしまう。況して、窓口の反応から察するにモスティマは産まれも育ちもラテラーノの生粋のラテラーノ公民だ、感染者に対する知識も偏見も無いイェラグとは違う。

 

 

「感染者と一口に言っても色々あるからね、私は『感染者』という括りに特定のイメージを持ち合わせていない」

 

 

対して彼女は、何でもないようにそう言ってボトルの水を呷った。「君の期待する答えとは違ったかな」と唇を歪めながら脚を組み直す。

 

 

「……お前ならそう言う気がしてたよ、何処まで話したっけ、旅の話」

「ウルサスの鉱山鉄道の話まで、続きを聞きたい?」

「機会があったらな。 ってそうじゃなくて、モスティマが感染者(おれたち)を一つのイメージで括らないのは、色々な物を見てきたからだろ」

「……かもね」

 

 

信号が青に切り変わる。微妙に規格の違う車の群れを潜り抜けるようにハンドルを切った。

 

「お前は何処で降りるんだ」「君の目的地でおりようかな」なんて要領を得ない取り留めのない会話を二、三度交わす間に取引先の建物が見え、西日を浴びながら船を漕いでいたモスティマの脇を小突く。俺の新しい仕事場は、タージマハルじみた妙な造形の、大凡企業の建物だとは思えない程荘厳な建造物だった。

 

 

 

 

 

 

「いやービックリしましたよ、カランド貿易の人が来たと思ったら、車から先に出てきたのがモスティマだったんですから」

「俺もどういう経緯であぁなったのか殆ど覚えてないんですけどね、愉快な車旅でしたよ」

「またまた、モスティマの事だから散々振り回されたでしょう?」

 

 

アーツユニット製造会社『ディオニシウス・インダストリー』の本社、その営業部の端に設けられた一室が俺の仕事場になっていた。とは言っても普通のデスクと収納、こじんまりとした本棚、ラテラーノらしい金属細工があしらわれた壁掛け時計がある程度のシンプルな部屋だ。ここでカランド貿易のほうに連絡を取ったり、取引内容の整理とか製造ラインの確認とかエトセトラ……と言った具合、嬉しいのは椅子がふかふかの新品って所だな。ウチの椅子は綿が薄いもんで……。

 

んでもって、机を挟んで俺の向かいにいるのが営業部長のヴァーチェさん。漆色の髪と真白に光る輪っかが目を引く美人さんだ。ていうか、車内にいる殆どの人がサンクタ族かリーベリ族なのであちこち光ってて眼が痛い。これならサングラスでも買ってくるんだった。実際ヴァーチェさんもフレームレスのサングラス掛けてるし。

 

 

「振り回された……と言うか、なんというか」

「あの子、休みを取ってはあちこち飛び回るんですよ。

 仕事柄仕方ないとは言え『黒いリングのサンクタ』なんて怪しまれるからやめろって言ってるのに……」

 

 

ヴァーチェさんは『仕事柄』と言った。モスティマのリングと翅に黒ずんだ部分があるのは彼女に前科があるからではなく、モスティマの仕事が原因なのだと。

 

それもその筈で、アイツの勤め先は公証人役場。しかもその中でも『法定執行人』と呼ばれる役職に就いているらしい。それならアイツが野盗を伸していた事も肯ける。執行人と言えばその性質上荒事を担当する事が多く、仕事内容によっては殺人を許可される場合もあるという話も…………この事にはこれ以上関わるのは止めよう、考える事も、とても良くない気がしてきた。

 

 

「あ、そうだ!」ポニーテールを揺らして、パッとヴァーチェさんが振り返る。「今日の夜、飲みに行きませんか!」

 

「飲み……?」

「ええ、飲み会、歓迎会ですよ!私ったらごめんなさい、言うの忘れてて…………!」

 

 

思考を切り替えて彼女の話に耳を傾ける。要するにアレか、前世でも見たような気がするアレか。

 

 

「あんまり飲めませんよ、良いんですか?」

「勿論、営業部のみんなで企画したんですから!」

「じゃあ……、お言葉に甘えて」

 

 

まぁ、一ヶ月以上ここで働く事になるんだから、コミュニケーションは欠かしたら駄目だよな。それにみんな良い人そうだし、単純に断るのも忍びない。歓迎会と言ったからには多分奢ってくれるだろうしな、他人の金で食う飯が一番旨いんだよ!

 

そんな最低な事を俺が考えている内に、ヴァーチェさんは営業部の皆様に俺の参加を伝えて回っている。

 

あの距離感バグ女と何処で知り合ったのか聞きたいぐらいに明るい太陽みたいな人だ。扱いは一応上司って事になるんだろうが、ああいう人の元なら無限に働ける気がするね。…………エンシオディス様? あの人は恩人なので人間性以前の問題だよ。

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

「それではカランド貿易、エンシレント・アウレアイグニスさんの到着を祝って!」

「「「乾杯!!!!」」」

 

 

歓迎会の会場は、本社から歩いて二十分くらいの繁華街の一角にある至って普通のレストランだった。

 

十数人座るには少し狭いテーブル席に掛けて、何処から用意したのか『Today's protagonist(本日の主役)』と書かれたタスキまで渡された。大皿にこんもりと盛られた料理が並び、肉からサラダまでどれも旨そうだ。そしてそれは良い、それは良いんだが…………。

 

 

「ねぇねぇエンシレント! もっとイェラグの事、教えて!」

 

 

誰だコイツ!?誰だこのいつの間にか潜り込んでた元気娘!?

 

 

「あ、エクシアちゃん」

「エクシアちゃんこんばんは」

「みんなこんばんは!」

 

 

聞いた感じ名前はエクシア、赤みがかった臙脂色のロングヘアーに橙色の眼、にかっとした笑顔が眩しい。んでもってちょっと煩い。

 

 

「エクシア!あなた何処から入ったの!?」

「何処からも何も入り口からだよ、ヴァーチェ」

「ええと、知り合いですか……?」

「私の妹です……、ごめんなさいエンシレントさん……」

 

 

姉妹という割には似ていないな、というのが正直な感想だった。纏う雰囲気も見た目も、何一つ類似する点が無い。もしかしたら義姉妹なのかも知れない。頭を下げるヴァーチェさんを愛想笑いで宥めて、料理を摘むのも程々にエクシアの相手をしてやる。どうやら彼女はラテラーノの外に出た事が無いらしく、興味が強いようだった。

 

 

「何度も言うがイェラグは馬鹿みたいに寒いからな、特に寒い時なんかは吐いた息が凍っちまう」

「それ本当!? 良いなぁ見に行きたいなぁ!」

「やめとけやめとけ、寒いだけで何にも無いぞ?」

「何処でも良いって訳じゃないけど、私はとにかくラテラーノの外に行ってみたいの。

 ヴァーチェもモスティマも、いっつも私を連れて行ってくれないんだから!」

 

 

そう言って頬を膨らませたエクシアの視線から逃げるようにヴァーチェさんを見る、すると彼女は申し訳なさそうにまた頭を下げた。いやそうじゃなくて、連れて行ってあげなよ…………。

 

 

「エクシア、外に出たいだけなら運送業だ、嫌でも遠出しないといけなくなるぞ」

「エンシレントはそういう会社の人なんだっけ?」

「そ、だからディオニシウスに出向してきた。此処まで大口の取引は初めてだから俺が送られたんだ」

「へぇー……、信頼されてるんだね!」

「だと良いんだがな、いかんせんあの人は底が知れないから……」

 

 

何か一つ俺が見聞きした事を話すたびに眼を輝かせて頷かれるのは悪い気分じゃない、悪い気分じゃないが近過ぎないかお前、パーソナルスペースガン無視だわ、『ラテラーノ人がみんなモスティマのような距離感バグの変人ではない事を祈りたい』とか考えてた先週の俺、見てるか?モスティマと同レベルに距離感が壊れてる奴もう一人いたぞ。圧倒的にハイテンションな奴がな。

 

ちなみに当のモスティマは俺が社員寮まで案内された辺りまで付いてきて、そろそろ周りは「コイツ誰だ……?」って目線を向け始めた辺りで「また今度様子を見に来るよ」と言い残して何処かに行った。アイツの事だから絶対来る、来て欲しくはないけど来る。 まぁ、アレだ、幸いヴァーチェさんはドの付く普通の人だし、他の営業部の人達も気さくで良い人ばかりだから、きっと大丈夫だ。大丈夫ったら大丈夫だ。

 

歓迎会は恙無く進行して、程なくお開きになった。ヴァーチェさんの一発芸がラテラーノ人特有の『銃』を使ったガンアクションだった事は多分忘れない、アレは凄い技術だ、多分アレだけで大道芸人はやっていけるな。

 

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

 

「はいはーい、こちらモスティマだよー、……ってアレ、聞こえてる? もしもーし」

『…………お前、マジで深夜に掛けてくるの、やめろ』

「あはは、ごめんごめん。 さて、ラテラーノに到着してからもう一週間、仕事には慣れたかな?」

『お陰様で……いや、モスティマは何もしてないな。まぁ、慣れたよ』

 

 

薄暗い車内、青い髪に黒ずんだリングを浮かべる天使が端末を片手に笑う。『モスティマ』と呼ばれた彼女は、楽しげに曇った窓ガラスをなぞった。

 

 

「ヴァーチェ、良い人でしょ。あの子は面倒見が良いから、今の内に頼ると良い」

『言われるまでもなく頼りっぱなしだ。お前と知り合いなんだってな』

「知り合いというか、それなりに古い付き合いだよ。それこそ前の職場からの、ね」

『前の職場?』

 

 

返ってきた疑問の声にモスティマはほくそ笑んだ。当たり前だが彼は何も知らない。これなら()()()()()()()()

 

勿論彼がラテラーノに来た事も、思っていたよりもかなりお人好しだった事も全くの偶然なのだけれど、その偶然のお陰で私は『計画』の駒を進める事に成功している。ラテラーノを包む大きな計画の影に潜ませた、ほんの僅か小さな計画。矮小で、でも私自身にとってはどうしようもなく譲る事の出来ないもの、それはきっとお人好しな彼になら任せられる筈だから。

 

 

「ううん、気にしないで」

 

 

だからエンシレント、今はまだ何も知らなくて良い。君は不幸にも既に私の駒の一つとなってしまったのだから。 悲嘆する事は無い、コレには誰も気付けない。私の"上"にいる人間も、私に首輪を掛けた気になっている人間も、誰にも気付けない。コレはそれぐらい、本当にどうしようもなく小さな我儘なんだ。

 

 

「きっと知らない方が幸せだよ」

 

 

何事か言い掛けた彼を無視して通話を切断すると、青い天使は微笑んだ。蛇のように冷たく、総毛立たせるような底知れない笑み。その真意を知る者は、この世界には彼女自身しか存在しないのだろう。

 

 

 

 

 

 









滑り込みだけど何とか毎日投稿継続出来ました(真顔)

前回に引き続き沢山のコメントや誤字報告ありがとうございます、皆さんの応援が心とモチベの支えであり励みです、本当にありがとうございました。

ところで、ニアールさんは恋愛経験皆無の恋愛クソ雑魚騎士だと思うんですけど皆さんはどうですか?




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