YggdrasilⅡ ~ユグドラシルⅡ~   作:名無しちゃん

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◆prologue オワリカラハジマル

 DMMO-RPG『ユグドラシル〈Yggdrasil〉』

 

 かつて隆盛を誇ったゲームの終了の瞬間を玉座に腰かけてモモンガは待った。

 

 40名のギルドメンバー一人一人と過ごした日々は記憶の中に封じられてしまうだろう。

 

 モモンガは目を閉じる。絢爛豪華なナザリック地下大墳墓をまぶたの裏に焼きつけるように、しっかりと。

 

 …………おかしい。

 

 モモンガはそっと目を開ける。そこには変わらないナザリックの玉座の間だった。

 

 ……サーバーダウンが延期した?

 

 戸惑うモモンガを誰かが呼んだ。

 

「いやいや、参りましたよーモモンガさん。ログアウトした瞬間に寝落ちしたんですが、うっかりまたログインしちゃっていたみたいでして……」

 

「ヘロヘロさん!」

 

 玉座の間の扉を開けて入ってきた黒色のスライム──エルダー・ブラック・ウーズ──は頭をかいた。

 

 彼の名はヘロヘロ。モモンガがギルドマスターをするナザリック地下大墳墓を拠点に活動するギルド、アインズ・ウール・ゴウンの一員である。ユグドラシル最終日に久しぶりに顔を見せて、先程別れたばかりだった。

 

「……うーん。さっきからログアウトしようとしてるんですけど、バグっちゃっているみたいで……モモンガさんは如何です?」

 

「私の方も駄目ですね。というか、ユグドラシルがまだ終わっていないみたいですよ?」

 

「……あ、本当ですね。確か24:00にサーバーダウンの筈ですよね。うーん。もしかしてユグドラシルⅡが始まったとか……」

 

「……まさか。実際出来るんですか? そんな事」

 

「まあ、普通ならやらないですよね。そんな事したらバグだらけで大変な事に…………うわっ!鳥肌が立ちそうです。仕事がらトラウマもんですよ。……しかし……うーん。あの運営ならやるかも……いきなりβ版でテストプレイとかね。DMMO-RPGでやるのは犯罪行為ギリギリなんですけど」

 

 ふと、二人の会話に初めて聞く声が割り込んできた。

 

「……至高の御方がた、どうぞわたくしにご命令を……」

 

 しかしながら興奮したモモンガとヘロヘロは気付かない。

 

「……するとこれはユグドラシルⅡという訳ですね。GMコールは……うーん。駄目みたいですね。ああ、コマンド入力は異なりますがアイテムや魔法は使えるみたいですね」

 

「しばらくログアウトは出来ないみたいですから開き直ってユグドラシルⅡを楽しんじゃいますか。なんだか眠気も吹き飛んじゃいましたし」

 

「ヘロヘロさんもですか? 私もなんだか眠くなくなりましたよ。明日は四時起きだったんですが、これは事故みたいなものですから仕方ないですよね? ハハハハ……」

 

「──様。なんなりとご命令を」

 

 ようやくモモンガが声の主に振り返る。そこには守護者統括のNPC、アルベドが慈母のような笑みを称えてかしこまっていた。

 

「──え? えええ? ああ、う、うむ。そうだな。私はこれからヘロヘロさんと相談がある。とりあえずお前は待機、うん。待っていろ。後で指示を与える。……良いな?」

 

「──はっ」

 

 平伏するアルベドから目をそらすとモモンガはヘロヘロを誘った。

 

「……とりあえず円卓の間に場所を変えましょう。しばらくバグが続くかもしれませんし、対策を考えておかないと……」

 

 モモンガとヘロヘロは円卓の間へ移動した。

 

 

 

 

 円卓の間に着くなりヘロヘロが口を開いた。

 

「……モモンガさん、さっきのアレってどう思います?」

 

「さっきのアレ?」

 

 モモンガは首を傾げる。あまりにもいろんな事が起こりすぎていて混乱していた。

 

「NPCですよ。エヌ・ピー・シー」

 

「ああ、アルベド……確かに喋っていましたよね。そんなプログラムなかったですよね」

 

「いやいやいや。モモンガさん。アルベド、普通に会話したじゃないですか? それにあの反応……あんなのプログラム不可能ですって。あそこまで自然な動作や表情をさせる為にはかなり高度なAIが必要です。それも自ら考えたり学習する能力つきの、ね」

 

 モモンガは先程のアルベドのまるで生きているかのような仕草を思い出す。

 

「──あ!」

 

 モモンガは思わず小さく叫んだ。

 

「……そういえばヘロヘロさん。実はさっきアルベドの設定を閲覧していて……」

 

「なにかありましたか?」

 

「……その……ちょっとしたイタズラというか……なんというか……」

 

「何かあったんですね?」

 

「……いや、書き直したというか……その……ですね」

 

「モモンガさん。ズバッと言っちゃって下さい。こうなったら腹をくくりますって」

 

 モモンガの声は極端に小さくなる。ヘロヘロは危うく聞き逃す所だった。

 

「…………モモンガを愛している」

 

「──はあ?」

 

 円卓の間にヘロヘロの叫びが響き渡った。

 

 

「なぁんですぅってぇええ‼」

 

 

 

 

「──というわけで、まあ、ちょっとしたイタズラというか……気の迷いというか……」

 

 モモンガが恥ずかしそうに語った内容は、何気なく覗いてみたアルベドの設定にあった『ちなみにビッチである』を消して『モモンガを愛している』という一文を加えた、というものだった。

 

「……設定はいわゆるフレーバーテキストに過ぎませんから、やはりユグドラシルⅡになってNPCが進化したとみるべきですよね」

 

「……単なる備品ではなくなった、とかですかね。内政とか出来るようになっていたら便利ですね」

 

「良いですね。まずは以前のユグドラシルとの違いを確認する必要がありますね。NPCのプログラム用のツールとかデータクリスタルの仕様とかも確認しないと……」

 

「システム面はヘロヘロさんにお任せします。まずは階層守護者を集めてみますか。まさか反逆イベントとか無いですよね?」

 

 モモンガは少し不安になる。階層守護者に設定した五名、守護者統括のアルベド、他に二名のレベル百のNPCがナザリックにはいる。同じくプレイヤーのモモンガ、ヘロヘロもレベル百である。

 

「念のためにモモンガさんはギルド武器『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を持っていた方が良いですね。あれならなんとか出来ると思います」

 

「そうですね。万が一、がないとは言い切れないですからね。あの運営の事ですからユグドラシルⅡにはなにがあるかわかったものじゃないですから」

 

 モモンガは楽しそうに笑った。思い起こせば運営にはずいぶん振り回されてきたものだ。しかしながら今回のサプライズには感謝したいものだ、そうモモンガは思った。

 

「〈メッセージ〉」

 

 モモンガはこめかみを指で押え、アルベドをイメージする。

 

〈モモンガ様。なんなりと──〉

 

〈うむ。アルベドよ。階層守護者たちを集めて欲しい。そうだな、第六階層の闘技場が良い。……ああ、ヴィクティムとガルガンチュアは呼ばなくて良い。その代わりセバスと戦闘メイド(プレアデス)も呼んでおけ〉

 

〈はっ。モモンガ様。畏まりまして御座います〉

 

 モモンガはヘロヘロに振り返った。

 

「さて、まずは始めの一歩といきますか」

 

 

 

 

 それから数時間後、モモンガとヘロヘロはナザリック地下大墳墓第一階層を歩いていた。

 

「……それにしても……凄かったですね」

 

 ヘロヘロがため息をついた。

 

「……あれだけ忠誠心をあらわされると……正直、引いちゃいますよね」

 

 第六階層の闘技場に集められたNPC達はモモンガ達を前にすると全身全霊を込めて忠誠を誓うのだった。

 

「……以前とは随分と仕様が変わったものですね。まさかNPCを連れ出せるようになるとは……」

 

 以前のユグドラシルでは拠点NPCはあくまでも拠点防衛のみの存在だった。だから拠点の外に出すことは不可能だったのだ。

 

「……お陰で傭兵NPCを使わなくて済みますね」

 

 傭兵NPCは金貨などで召喚するNPCだ。用途に応じて選べるのだが、レベルが高いNPCはそれだけコストも高い。なかには召喚中にずっと金貨を消費するNPCもいる。

 

「……そういえばモモンガさんはやっぱり傭兵NPCを使っていたんですか? その……最近はあまりログインするメンバーがいなかったんですよね?」

 

 ヘロヘロは少しばかり遠慮がちに尋ねた。彼自身もリアルでの仕事が忙しくて何年もログインしていなかったからだ。

 

「……そうですね。まあ、ナザリックを維持するだけでしたから一人で行ける範囲でなんとかやっていましたよ。ミッションとかもたいしたものはここ数年ありませんでしたし。まさかユグドラシルⅡが始まるとは思いませんでしたが」

 

 モモンガは枯れた声で笑った。

 

「……モモンガさん。いや、ギルド長。ありがとうございました。そしてすみませんでした。モモンガさんのお陰でこうしてβ版のユグドラシルⅡを体験出来たのですよね。本当に感謝です」

 

 モモンガは軽く咳をした。

 

「……ま、まあ、そんな大袈裟な。……とはいえ、そろそろログアウト出来ないのはまずいんじゃないですか?」

 

「いやあ、なんだか段々ログアウト出来なくても良いような気がしてきちゃいましたよ。なんだか体調も凄く良いんですよね。なんか」

 

「ヘロヘロさんもですか? 私もなんだか調子が良いんですよね。まるで本物のアンデッドになった、とかだったりして。笑っちゃいますよね」

 

 二人は顔を見合わせて笑った。やがて大きな門が目に入る。二人を招くように門がゆっくりと開いていき──

 

 

「うわぁ! 星空だ!」

 

 モモンガは感嘆する。リアルでの暗くどんよりとした空ではなく、透き通り星々がまたたく夜空が、そこには広がっていた。

 

「……まるで星に手が届きそうだ」

 

 モモンガは思わず手を空にのばす。

 

「……日本も昔はこんな夜空が見えたんですよね……」

 

 感慨深くヘロヘロは呟いた。

 

「いやあ、この夜空が見られただけでもユグドラシルⅡに来た価値がありますって。このままずっとログインしていたいな、なんちゃって」

 

 スライムの身体を波打たせながらヘロヘロがおどけてみせた。

 

「……おどろいたな。セバスの報告通り、沼がない。辺り一面草原だ……」

 

 第六階層でNPC達を集めた際に執事のセバスにその部下でもある戦闘メイド(プレアデス)の一人を付き添わせて地上の様子を見に行かせた。その時の報告では実感出来なかったが、こうして実際に目の当たりにしてみるとモモンガの心の奥に久しぶりに未知に対する好奇心といった感情が湧き上がってくるのだった。

 

 ──ユグドラシルⅡ……待っていろよ。堪能してやろうじゃないか。

 

 




モモンガ「いやあ、階層守護者達の忠誠の義、緊張しましたね、ヘロヘロさん」

ヘロヘロ「まだ階層守護者達は人数が少ないから良いですよ、モモンガさん」

モモンガ「え? それはどういう意味ですか? ヘロヘロさん」

ヘロヘロ「これからホムンクルスの一般メイド達の……時間がかかりますよ」

モモンガ「……うーん」
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