YggdrasilⅡ ~ユグドラシルⅡ~ 作:名無しちゃん
バハルス帝国帝都アーウィンタールの皇城の執務室では皇帝、ジルクニフが頭をかきむしっていた。
「…………いったい何が起きているというのだ? わからない。次に何が起こるかも予測不能だ……」
自身の師でもあり側近中の側近である首席宮廷魔術師のフールーダが遺跡の調査に向かって消息が途絶えてからというもの、発生した様々な事態に彼は混乱していた。隣国のリ・エスティーゼ王国首都のレ・ロンテ城等の消滅──伝聞によれば巨大なモンスターが突如出現したらしい──その後魔王城の出現、さらには好機とみて密かにジルクニフが兵を進めたエ・ランテルでのアンデッドの大量発生──噂では住人の多くもゾンビと化してしまったらしい──
「……ん? なんだあれは…………」
ジルクニフは眼下の広場に違和感を覚え、目を凝らす。広場の片隅になにか空間の歪みが生じていたのだった。その歪みから異形の何ものかが姿を現す。
「…………アンデッド! どうして帝都にアンデッドが現れるんだ?」
◆
〈ゲート〉から姿を見せたモモンガは周囲を見回す。頭には何故か黄色のヘルメットをかぶっている。
「ああ、良いんじゃないですか、ヘロヘロさん。この辺でやっちゃいましょう」
〈ゲート〉からヘロヘロも姿を現す。やはり頭に黄色いヘルメットをかぶっていた。
「ここなら平らだし良さそうですね。地図だと……うーん。あの城がちょっと邪魔みたいですが、どうします? モモンガさん」
「……壊して更地にしちゃいましょうか? 〈メテオ〉でもやります?」
モモンガは楽しそうに笑った。
「……うーん。まあ、城はよけて広場の真ん中にしますか。駄目だったら少し広ければ良いですし」
ヘロヘロが再び〈ゲート〉の中に入り、今度は巨大なゴーレムに乗って現れる。このゴーレム──攻城城用兵器ガルガンチュアの頭にも黄色いヘルメットがかぶせてあった。
「ではいきますよ。ガルガンチュアドリルモード!」
ヘロヘロが叫ぶとガルガンチュアの胸部が割れ、中からドリルが現れる。ドリルは広場の地面を削っていき、どんどん穴を開けていく。
◆
「──これは、なにが──」
広場の巨大ゴーレムによる激しい振動にジルクニフは思わず座り込む。
「陛下。大変です。広場で妙な奴等がやってきました! 陛下?」
廊下をよろめきながら帝国四騎士のバジウッドがやってくる。
「わかっている。くそっ! じいがいればな。あいつらじいの不在を狙ったのか? 王国の次はわが帝国という訳だな……バジウッド、勝てるか? あの者たちに」
「冗談じゃないですよ、陛下。あんな化けもの相手にどうしろってんですか? 命がいくつあっても足りませんぜ?」
バジウッドはブンブンと音がする位に首を振る。
「……あ、あれは……? ナザミか?」
広場を見おろしたジルクニフが呟いた。ゴーレムが開けた穴の近くに両手に大盾を持った騎士が近づいていく。
──と、一段と大きな揺れが襲った。
「…………肝を潰したぞ。凄い揺れだったな…………うん? ナザミ……?」
起き上がったジルクニフが広場に目を凝らすと騎士の姿は消えていた。
「…………ナザミ……?…………ナザミぃいいー!」
◆
「……出ませんね。温泉……」
「……ここはハズレみたいですね。うーん……」
広場一杯になった大穴を前にしてモモンガとヘロヘロは腕を組む。
「とりあえず次に行きますか」
「そうですね、モモンガさん」
再び〈ゲート〉を発動してガルガンチュアと共に二人は姿を消していく。後には大穴が残されていた。
◆
スレイン法国最高神官長会議──人類の守護者を自認するスレイン法国の中枢を担う最高神官長らが一堂に会した会議は紛糾し続けた。
「──以上がこれまでに観測された『ぷれいやー』と思われる者達の行動です」
一通りの説明を終えて土の神官長、レイモンが腰をおろす。
「……信じられん。本当に陽光聖典が全滅したのか? それにリ・エスティーゼを壊滅させたなど……いやいや、信じられん……」
水の神官長、ジオディーヌ老は首を振る。無理もない。これ程の力を持つ存在など、真の竜王か神──かつて『ぷれいやー』と呼ばれた者達くらいしか考えられない。
「……私はかの者達を『ぷれいやー』と『従属神』だと確信しております。ただ、残念な事は…………」
レイモンは言葉を飲み込む。──もしかしたら我々は神の怒りを買ってしまったかもしれない──これはスレイン法国の終焉を意味する事だったからだ。重い静けさが場を支配する。と、最高神官長が口を開く。
「なんとか謝罪出来ぬものかの? ……現在、リ・エスティーゼに居城をお造りになられておるのは我らが謝罪に行くのを待っているのではなかろうか?」
「……わかりません。ただ、何かしら敵意が無いことを示す行動は必要でしょうな」
光の神官長が発言する。
「……『絶死絶命』なら、『絶死絶命』にアレらを持たせたら倒せるのではないか? いくら強いといっても真の竜王まではいくまい」
「……それは危険だ。仮に『ぷれいやー』を倒せたとしても評議国は黙っていまい。今度は評議国と闘わなくてはなるまい?」
最高神官長が色をなす。『絶死絶命』──ハーフエルフである神人の番外席次に法国の至宝である装備をさせて戦いに参加させる事はいにしえに真の竜王達と交わした盟約に反する行為であった。よって、残存する竜王達の国家、アーグランド評議国がスレイン法国に敵対する事になるのは明白だった。
「結論は出たようだな。使者と護衛の人選はレイモンに任せる。出来るだけ少ない人数で行かせよ。陽光聖典の二の舞は御免だからな」
◆
トブの大森林を越えた先に広がる大きな沼地にリザードマンのグリーン・クロー族の集落があった。
沼地の片隅には木の棒が等間隔に立っていて、その間には細い棒を大量に使って仕切られていた。その仕切りの中で元気そうに魚が飛びはねる。
族長のシャースリューは尻尾をバタバタと振った。
「……兄者。まだ食うには早い。もっと大きくなったら食わせてやる。我慢してくれ」
「……勘違いするな。俺は別にそんなつもりはないぞ?」
シャースリューは声をかけてきた弟──ザリュースを振り返る。ザリュースはシャースリューの胸元にはかつて追放された事を示す傷痕があった。そう、彼は『旅人』だった。
「……この『養殖』がうまくいけばかつてのように争わなくても食糧が十分に手に入るようになる」
『旅人』としていろんな国を旅したザリュースはこの『小さな魚を育てて大きくする』アイデアを土産に戻ってきたのだった。
「──ん? な、なんだ?」
湖の真ん中の空間に黒っぽい歪みが現れた。そこから何ものかが姿を現す。ザリュース達からは距離があるためハッキリとはわからないが──
「……なんかヤバイぞ、あれは……」
ザリュースが身構える。
「……あのあたりはシャープエッジの集落があったあたりだが……」
シャープエッジはかつてグリーン・クローと食糧を争い、滅ぼされた部族だった。わずかな生きのこりは他の部族をたよって逃げていった為現在は無人である。
「……なにか巨大なもの……明らかにヤバイ」
巨大なゴーレムが現れ、大地が震えた。魚達は狂乱し、得たいのしれない恐怖がザリュース達を縛りつける。リザードマンの兄弟は謎の者達の姿が再び消えるまで動けなかった。
◆
「……うーん。温泉、出ないっすね」
ヘロヘロはガルガンチュアをナザリックに戻しながらため息をついた。
「……うーん。やっぱりマップも完全に変わったのですかね? 一からマッピングしないと駄目かな?」
「せめて正式にユグドラシルⅡのサービス開始したらやる気も出ますが、まだ明らかに不具合だらけですから先は長そうです」
「相変わらずログアウト出来ないですしね。GMコールも出来ない、運営もしかして潰れた、とか。ハハハハハ……ハハ……」
二人はまだユグドラシルⅡの世界だと思い込んでいた。
◆
彼らが去った後には巨大な穴があった。
「……凄いな。……兄者、見てみろ。あそこになんか光っている場所があるぞ?」
リザードマンの兄弟は大穴で幾つもの貴重な鉱石を発見したのだった。
やがて富と食糧を牛耳る事になったグリーン・クローは他の部族を押えリザードマンの盟主として君臨するようになるが、これはまた別の話である。