YggdrasilⅡ ~ユグドラシルⅡ~   作:名無しちゃん

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◆act11 シュゴシャタチノフアン

 ナザリック地下大墳墓第六階層にある円形劇場(アンフィテアトルム)に主だった階層守護者が集まっていた。

 

「いささかこまった事態と言えますね。このままだと私達の存在意義が無くなってしまうかもしれません。これは実に由々しき事態といえます」

 

 デミウルゴスの言葉にアルベドも同意する。

 

「そうね。困ったものね。このままではあの頃と全く変わらないわね。わたくしは我慢できないわ」

 

「いったい二人は何を言っているんでありんす? 妾には全く見当がつかないでありんすが……」

 

 シャルティアの言葉に頷くアウラにも理解できていないようだった。

 

「……あなた達は先程の戦い、どう思ったかしら? 至高の御方がたのドラゴンロードを一方的に蹂躙してしまう素晴らしさ、をね」

 

 アルベドは情感が極まったかのように両腕を抱き締める。

 

「素晴らしい戦いでありんした。まっこと神話として末長く後の世に伝えるべきでありんしょう」

 

「あたしも興奮したなぁー。さすがはモモンガ様とヘロヘロ様だよね。しばらく夢に出てきそうな位凄かった」

 

「……ぼ、僕はやっぱりモモンガ様の超位階魔法が凄かったです。あれだけの膨大な魔力が、あの、凄かったと思います」

 

 シャルティア、アウラ、マーレが上気した顔で至高の御方がたを賞賛している一方でコキュートスは一言も発しない。

 

「コキュートス。君は先程から黙っているが、どう思ったかい?」

 

 デミウルゴスはコキュートスに話をむける。

 

「……ワタシハ恥ズカシイ。……何故至高ノ御方ガタノ隣デ共ニ戦ッテイルノデナクタダ戦イヲ眺メテイルノダロウカ、ト。……タダタダ、自ラノ不甲斐ナサヲ悔シク思ウノダ」

 

 デミウルゴスとアルベドはコキュートスに微笑んだ。

 

「そうなのよ。コキュートスはわかっていたようね。今のままではいけないのよ。今のままの私達では至高の御方がたに必要とされなくなるわ。いずれそう遅くない時期に、ね」

 

 アルベドの言葉にすぐさま反論があがる。

 

「それは不敬なのでは? 我々の忠誠はモモンガ様、ヘロヘロ様に捧げられております。たとえこの身が滅したとしてなにも問題はありますまい? 仮に必要とされなくなれば滅び去るのみ」

 

「……いいや。セバス。それでは駄目なのだよ? 我々は至高の御方がたに必要とされる為に生み出された存在なのだよ。だから必要とされる為に努力をしなくてはならないのだ」

 

「…………シカシ、我々ハドウシタラ良イノカ……ム、ムムム……」

 

 コキュートスのため息に一同は沈黙する。

 

 しばしの沈黙が続いた後、アルベドがゆっくりと口を開いた。

 

「さて、いよいよここからが本題なのだけれど──」

 

 

 

 

 レイモンらを失ったスレイン法国は混乱に陥っていた。

 

「『占星千里』はまだ目覚めないのか?」

 

 闇の神官長マクシミリアンの言葉に光の神官長イヴォンが黙って首を振る。リ・エスティーゼにレイモンらを派遣した際に漆黒聖典の『占星千里』に監視をさせていたのだが、竜王の出現という一言の後に突然部屋が爆発し、彼女も瀕死の重傷状態となってしまった。

 

「やはり、なんかしらかの魔法障壁が作動したと考えるべきじゃろうな……それでレイモンとは連絡つかないのか?」

 

「まさか、竜王に? しかし、魔法障壁はいったい何ものが?」

 

「……いくら真の竜王とて『漆黒聖典』もいたのだ。簡単にやられはしないはずだろう」

 

 ざわめきは大きくなる。今の段階では真の竜王らしき存在が現れたらしい事、『占星千里』を部屋ごと破壊させる魔法障壁が突然発動した事、リ・エスティーゼでレイモンらの消息が途絶えてしまった事などしかわかっていない。

 

「とりあえず帝国に働きかけてみるべきだろうな。とにかく情報が欲しいところだからな。かのパラダイン老の力も借りる必要があるだろう」

 

 最高神官長が結論を出す。

 

「竜王国からの要請は如何しますか?」

 

 竜王国は現在ビーストマンの襲撃を受け、スレイン法国は救援の要請を受けていた。いつもならば陽光聖典を派遣するのだが、陽光聖典は壊滅している。

 

「仕方ない。各聖典を引退した者達を召集して送れ。時間稼ぎ位は出来るだろう」

 

 

 

 かつて聖典にいた隊員の中で引退して一般人としての生活に戻った人間は少なくはない。竜王国にやって来たのはそんな彼等が集められた部隊で、総数は五十人程である。

 

 彼らには気負いが全くなかった。引退したとはいえいずれもミスリル級冒険者位の実力者であり、個々の戦闘力が強いビーストマンとはいえ脅威ではなかったからだ。

 

 丘から見下ろすと竜王国の王城を遠巻きにしているビーストマンの軍勢が見える。どうやら王城へ行くにはビーストマンをけちらかさないとならないようだった。

 

 隊長は突撃の号令をかける。五十騎の部隊は一斉にビーストマンにむかっていった。

 

 ──おかしい。隊長は違和感を感じる。ビーストマンの軍勢は既に崩壊していた。彼らが王城にいたのは攻めていたのではなく『恐怖』から逃げていたのだった。

 

 隊長の前でビーストマン達が割れ、『恐怖』が姿を現す。ただ、それだけで全てが死んでいく。『恐怖』とは『死』そのものだった。

 

 

「いやあ、楽しいですね、ヘロヘロさん。これだけ相手のレベルが低いと皆バタバタと死んでくれますよ」

 

 疾走するソウルイーターにまたがったモモンガは同じくソウルイーターに乗ったヘロヘロを振り返る。モモンガはスキル『死のオーラ』を仲間に被害が出ない程度で展開していた。その影響もあり、駆け抜けるだけでビーストマン達が死んでいくのだった。

 

「こちらも負けていられませんね」

 

 ヘロヘロも負けずとばかりに『毒の霧』を身にまとっていた。毒性をあまり強くするとソウルイーターが消滅してしまう為、なかなか調整が難しい。二人は楽しそうにスレイン法国の部隊の横を駆け抜いていった。後にはビーストマンの軍勢と法国の五十騎の死体だけが残された。

 

 

 

「リモートビューイングでイベント見つけられて良かったですね」

 

 王城を歩くモモンガは上機嫌だった。

 

「どうやらこの扉の中が玉座みたいですね」

 

 ヘロヘロが扉を開くと中で王冠を頭に乗せた少女と随臣、兵士らが倒れていた。少女の装いからみるとどうやら女王らしかった。

 

「……あ、『死のオーラ』切り忘れてました……」

 

「……私も毒の霧を出し続けていましたよ」

 

 二人はすぐにも切り替える。女王から良さそうなアイテムを奪うと宝物庫を探す。大したアイテムは見つからなかったが満足した二人はリ・エスティーゼに帰っていった。

 

 

 

 

 至高の御方に失望されないように階層守護者は何ができるか、という課題を持ち帰ってそれぞれの持ち場に戻っていく様を眺めながらデミウルゴスは小さく咳をした。

 

「……さて、守護者統括アルベド。私の推測が正しいならば貴女が残った理由は……最後までお残り頂いた至高の御方の為、についてですね」

 

 アルベドは金色の瞳を鋭くさせながらも、にこやかに笑う。

 

「さすがはデミウルゴス、というべきなのかしら? いったいいつから気がついていたのかしら?」

 

「……残念ながらほんの数日前から、です。なんとなく違和感はあったのでしたが……」

 

「……そう。わたくしは最初から気がついていたのだけれど…………ちょうど良いわ。デミウルゴスにも是非手を貸して頂きたいのだけれど。至高の御方がわたくし達をお見捨てにならない為に……」

 

「勿論ですよアルベド。これまでもそうしてきましたから」

 

 

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