YggdrasilⅡ ~ユグドラシルⅡ~   作:名無しちゃん

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◆act12 ホシニネガイヲ

 モモンガとヘロヘロは度々階層守護者達の訪問を受けるようになった。

 

 アウラとマーレにねだられてトブの大森林に出かけた時にはレイドボスらしき魔樹と戦闘になり、レアアイテムの特殊な薬草を手に入れた。

 

 シャルティアに誘われてアンデッドのシモベを使ったボーリングもした。

 

 コキュートスとはかなりレベルが高い模擬戦をした。

 

 意外だったのはデミウルゴスで、彼は郊外に繁殖牧場を作っていた。そこでは亜人を中心に様々な種族の交配実験をしていて、実に興味深かった。

 

 回復魔法が使えるトーチャーに混ざって人間の女が一人いたが、なんでも彼女は甦生魔法も使えるので牧場の管理に置いているのだという。どこかであった気がしなくもないが、薄汚れて陰気な表情をしていてどうにも思い出せなかった。

 

 アルベドにはいきなり押し倒されそうになったが、かつて彼女の設定を書き替えてしまった故の行動だと思うと無下に出来なくて困る。NPC達とこうして過ごしているとかつてのアインズ・ウール・ゴウン全盛期の頃を思い出してしまう。

 

 ヘロヘロは笑いながら言った。皆モモンガさんが何処かへ行ってしまわないか不安なんだと思います、と。 

 

 だが、こんな楽しい日々にもとうとう終わりがやって来た。

 

 

 

 

 

 

 その日はいつもと変わらない一日になる筈だった。

 

 ナザリック地下大墳墓 宝物殿にヘロヘロと訪れていたモモンガは少なくともそう思っていた。

 

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウンワールド』ではいくつものワールドアイテムを所持していたのだが、その強力すぎるが故に今まで使用した事がないものもいくつかあり、一度試してみよう、という軽い気持ちから宝物殿にやって来たのだった。

 

 宝物殿の扉の前で突然ヘロヘロは立ち止まった。モモンガはふと、イヤな予感に襲われた。

 

 ヘロヘロはゆっくり振り返ると、ただ、モモンガの名前を呼んだ。

 

 モモンガはそれが何を意味するのかしばらくわからなかった。が、やがて、理解する事が出来た。

 

 ────ああ、そうだったのか……

 

 

 モモンガは一言、彼に伝える。『ありがとう』と。

 

 楽しかった日々は終わる。

 

 ────楽しかったな

 

 

 

 やがてモモンガの意識は闇に堕ちていった

 

 

 

 

 

 

 

◆Da capo

 

「──モモンガさん? ……ギルド長! ……」

 

 モモンガは目を開く。目の前にヘロヘロが心配そうに見つめていた。

 

 どうやらヘロヘロと話している内にウトウトしてしまったらしい。

 

 時間はたいして過ぎていなかったが、何だか長い夢を見ていたように頭が重かった。そんなモモンガの様子にヘロヘロは心配そうに声をかける。

 

「……モモンガさんもだいぶお疲れなんですね。すみません。最後なのにくだらない愚痴ばかり話をしちゃいまして……」

 

「ああ、すみません。ちょっと気が抜けちゃいまして……」

 

 モモンガは慌てて取り繕う。

 

「しかし、まだナザリックがこうして残っているとは思いませんでした。モモンガさんがギルド長だったからこうしてまた来る事が出来たんですね。本当に感謝です」

 

 ヘロヘロは円卓の間を見回して懐かしそうな顔をする。

 

(──良かったらこの後……)

 

「ユグドラシルⅡがあったらまたお会い出来ますね。きっと──」

 

(──良かったらこの後、最後までご一緒……)

 

「……そろそろ限界みたいです。名残り惜しいですが──」

 

「──良かったらこの後、最後までご一緒しませんか?」

 

「──え? ああ、えーと……そうですね。ユグドラシル最後ですもんね。ご一緒します」

 

 

 

 

 モモンガとヘロヘロは玉座の間でユグドラシル最後の刻を待つ。傍らには守護者統括アルベドが寄り添うように立っている。

 

 

 

 

 23:55:48……『ユグドラシル』サービス停止の刻がせまる。

 

「……いよいよ、ですね」

 

 ヘロヘロの緊張した声にモモンガは黙って頷く。

 

 ……23:59:58、59──

 

 ナザリック地下大墳墓が消失していく。数々のギルドメンバー達との思い出と共に。

 

 モモンガは満足していた。

 

 彼のささやかな願いは成就したのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリックと共に消えていくアルベドは微笑んだ。彼女は全てを見ていた。ただ、玉座の間に立っていただけではあったが、金色の瞳が全てを見つめていた。一人玉座に座ったモモンガが最後に小さな指輪にたくしたささやかな願い──星に願いを──(I wish……)『ギルドメンバーとユグドラシルの最後の瞬間を過ごしたい』──彼女はその様子をじっと見まもっていた。

 

 そして指輪は奇跡を起こした。

 

 

 

 

 

 宝物殿でパンドラズアクターは静かに思い返す。モモンガが使用した流れ星の指輪(ウィッシュ・アポン・ア・スター)による超位魔法〈星に願いを〉が彼に新しい息吹きを与えたあの時の事を。同時に彼が何のためにモモンガに産み出されたのかを知り、何をすべきかを啓示された瞬間を。

 

 創造主(モモンガ)の願いを本当に叶える事は彼には出来ない。あくまでも渇きを一時的に満たすだけだ。だが、それこそが彼に課せられた役割だったのだろう。

 

 そう。渇きを満たされた主は真の願いを叶える力を得たのだった。

 

 パンドラズアクターにとっての素晴らしき時間──幾度も、何度となく繰り返してきたモモンガとの日々は終着する。モモンガの願いが実現したその瞬間に。

 

 

「……モモンガ様……」

 

 

 えも知れぬ高揚感と幸福の中で彼もまた、消失する。ナザリックと共に。彼の役割は終わったのだ。彼の身体の細胞の一つ一つが虚無に変わってゆく。大きな満足に包まれていく

 

 ──Es war ein gutes Leben,gutes Leben! …………Mein Herr──

 

 かすかな呟きが闇の中に堕ちていき、全て虚無になった

 

 

 

 

 

 

 

           fin




完結です

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