YggdrasilⅡ ~ユグドラシルⅡ~   作:名無しちゃん

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◆act01 ギャクサツノムラ

「ふむ。ゴブリン、オーク、オーガか。低レベルモンスターはユグドラシルとあまり違いはなさそうですね」

 

 大森林を歩くモモンガは傍らのヘロヘロを振り返る。

 

「そうですね。なんだか始まりの街、にでも来てしまったような気がしちゃいます」

 

 ヘロヘロはそれでも楽しそうに空を見上げた。

 

「でも、悪くないですね。『ピクニック』している気分ですよ」

 

 ヘロヘロはプルンと身体をゆらす。

 

「……ぴくにっく、ですか……」

 

 モモンガは記憶の奥底を探る。確か環境汚染がまだ酷くない頃にはお弁当を持参して出掛ける『ピクニック』というレジャーがあったらしい。

 

「……仕事を忘れてこんなにノンビリ出来るなんて思わなかったです」

 

 ──ヘロヘロはシステムプログラマーの仕事をしていていつも仕事に追われていたらしい。会うたびに身体がボロボロだと愚痴をこぼしていたものだ。だから楽しそうにしているヘロヘロの姿にモモンガはつい、微笑ましくなる。

 

「……ヘロヘロ様。モモンガ様。この先に人間の集落があるみたいです」

 

 戦闘メイドの一人、ソリュシャンが足を止める。と、アルベドとコキュートスが武器を構えて前に出る。

 

「モモンガ様はこのアルベドが必ずお守りいたします」

 

「……ドウヤラ敵ニナリソウナモノハイナイヨウダガ……」

 

 コキュートスの呟きの通り、小さな村には死体が転がるばかりで生きているものは無かった。

 

「……うーん。文字が読めないな。……そうだ……」

 

 モモンガはアイテムボックスから片眼鏡を取り出す。様々な文字を解読する事が出来るマジックアイテムだ。

 

「……カルネ村。この村の名前のようだな。聞いた事がない地名だが……」

 

 ヘロヘロは死体の持ち物を調べる。

 

「まだ温かい。傷口は剣によるものかな? この村を襲ったヤツラはまだ近くにいるのかも……どうします?」

 

「これはイベントですね。やりましょう。せっかくですし。となると敵の所在地を──」

 

「モモンガ様。どうやらあそこで戦闘が行われているようです」

 

 ソリュシャンが片目を手で押さえながら方角を指さす。

 

「よし。久々に暴れましょうか」

 

 モモンガは楽しそうに笑った。

 

 

 

 スレイン法国 陽光聖典隊長ニグン・グリッド・ルーインは戸惑いを隠せなかった。

 

 今回のターゲットであるリ・エスティーゼ王国の最強戦士であるガゼフ・ストロノーフを首尾よく討ち取ったと思ったら、異形なものたちが忽然と現れたからだ。

 

 スレイン法国でも精鋭が集められた六色聖典、なかでも後方撹乱や暗殺を得意とする陽光聖典は第三位階魔法を扱えるエリート部隊であり、隊長であるニグンにはその強さに絶対の自信があった。

 

 『神人』と呼ばれる人外のバケモノがいる漆黒聖典を除けば自らが率いる陽光聖典はスレイン法国最強の部隊だと自負していた。

 

 それなのに、である。

 

 リ・エスティーゼ王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフにとどめをさした瞬間、ヤツラが現れた。

 

 輝くライトブルーの巨体に二本の剣を持った異形の怪物、禍々しいバルデッシュを担いだ漆黒のフルアーマーの女戦士。

 

「──ま、まて……」

 

 相手のまとう禍々しいオーラに魅せられるかのように隊員達は攻撃魔法を次々と唱える。狂ったように。

 

 〈ファイヤーボール〉が、〈ウインドカッター〉が、〈正義の鉄槌(アイアンハンマーオブジャスティス)〉が雨のように降り注ぐ。が──

全ての攻撃は相手に届くことなく消え失せるのだった。

 

「 ──ば、馬鹿な……そんな……ことが……」

 

 ニグンの咥内は乾き、喉がヒリヒリ痛くなる。

 

「…………魔神……か?」

 

 かつて神話の時代に現れ人類を滅ぼしかけたといわれる魔神、あるいは魔王……その圧倒的な存在にニグンは思わず硬直する。

 

 一瞬だった。水色が両手に持つ剣と漆黒の持つバルデッシュが同時に一閃した。

 

 陽光聖典隊員二十六名と召喚された天使十体は、ただそれだけで命を奪われた。

 

 残されたニグンは切り札をだす。

 

「……かくなる上は最上位天使を召喚する」

 

 ニグンはかつて魔神を倒したといわれる上位天使(ドミニオン)が封じられた水晶を掲げる。

 

 と、《神》が現れた。

 

「……アルベド。私を守れ。コキュートスは万が一に備えて下がれ。しかし、最上位天使か……勿体ないな。ヘロヘロさん、あれ、奪えます?」

 

「……あなた様は……スルシャーナ様……」

 

 ニグンの目が大きく開かれ、その顔が驚愕に包まれる。と、次の瞬間──ニグンの姿は闇に包まれた。

 

「……うーん。モモンガさん、マジックアイテムは溶かさないように注意したんですが、人間の方は跡形もなくなっちゃいました。これってイベントクリアになりますかね?」

 

「……どうでしょう? なんだかイベントの割にはなんだかガバガバな設定みたいですしね……それにしても──」

 

 モモンガは陽光聖典の死体を持ち上げる。

 

「──うわぁ……この死体、リアルすぎますよ。引いちゃいますね。ここまでリアルに再現しなくっても……ほら、この断面なんてまるで本物と区別つきませんって……」

 

 モモンガは肩をすくめてみせる。ヘロヘロはじっと死体を見つめながら言った。

 

「……モモンガさん、せっかくですからこの死体をナザリックに持って帰りません? なんかに使えるかもしれませんし……」

 

 モモンガは思案する。ユグドラシルではアンデッドを増やしたり、テイムしたモンスターの餌として住民のNPCを使用する事もあった。また、大量に殺戮する事でカルマ値をマイナスにして特殊な種族にクラスアップする事もあったから、ヘロヘロの意見に同意するのに問題は無かった。

 

「じゃ、とりあえず〈ゲート〉を開きますか。そうだ。数が多いからシャルティアも呼びましょう。……ああ、そうそう……」

 

 モモンガは平伏するアルベド、コキュートス、ソリュシャンにむかい、顔を上げさせると言った。

 

「うむ。アルベド、コキュートス、ソリュシャン。ご苦労だった。十分な戦果といえよう」

 

 

 

「間違いないのか? その……」

 

 スレイン法国最高執行機関の一員であり、六色聖典を束ねる立場でもあるレイモン・ザーグ・ローランサンは耳を疑った。

 

「間違いありません。土の巫女姫様がはっきりとご覧になっています」

 

 土の巫女姫は遠方の地を監視するため特殊なマジックアイテムにより魔法力を増幅させた存在だ。

 

「……で、ルーイン、いや、陽光聖典はスルシャーナ様と邂逅して……どうしたのだ? 神は……スルシャーナ様は私達をお導きになる筈だ」

 

 レイモンの言葉に部下は首を振る。

 

「…………どういう事だ?」

 

「……ニグン様はスルシャーナ様の逆鱗に触れ、従者様に滅されました」

 

「……なん……だ……と……」

 

 かつて実在したとされる闇と死を司る神──スルシャーナ。彼ら神々を信仰し、忠実なる僕であらんとする事がこのスレイン法国の存在理由である。

 

 それを神自らが否定された──それはあってはならない事だった。

 

「……この事は私から最高神官長様のお耳に入れる事としよう。……で、神々はその後どちらに向かわれたのだ? 神都か?」

 

「……わかりません。土の巫女姫様の話では何処かへ転移されたそうです」

 

 レイモンは落胆する。無理もない。スレイン法国はスルシャーナ神が他の神々によって消滅させられた後、いつか復活されると信じて今日まであり続けた国家であった。スルシャーナ神の光臨はまさに待ちに待った出来ごとなのだった。

 

「しかし……ルーインめ。余計な事を……」

 

 レイモンは亡き部下を苦々しく思うのだった。

 

 

 

 

「モモンガ様。お言いつけの通り、死体は全て第五階層の〈氷結地獄〉で氷漬けにしんしてありんす」

 

「うむ。ご苦労」

 

 玉座の間でシャルティアからの報告を受けたモモンガは頷く。

 

「そういえばシャルティア。貴女の所の恐怖公が新鮮な死体を欲しがっていたわね」

 

 アルベドの一言にシャルティアは顔をしかめる。

 

「……それはそうなんでありんすが……」

 

 恐怖公。ナザリック地下大墳墓第二階層の〈黒棺〉(ブラックカプセル)の領域守護者。その姿は──いわゆるゴキブリであった。 

 

「恐怖公といえば……るし☆ふぁーさん……あの人が一緒だったら大変でしたね」

 

 モモンガは思わず呟く。恐怖公を製作したのは彼だ。しかも何万匹もの眷族が蠢く中に落とされるトラップ〈黒棺〉はその悪質さからユグドラシルにおけるアインズ・ウール・ゴウンの悪名を確実なものにしたのだった。

 

「……いや、安心出来ませんって。るし☆ふぁーさんの事だから案外何処かにいるかも、です」

 

「……たしかに。どこかで魔王でもやっていたりしそうですね」

 

「魔王といえば……モモンガさん、やっぱりそっちの路線で行きます?」

 

「そうですね。まだプレイヤーの姿は見掛けませんが、どうせアインズ・ウール・ゴウンの悪評は知れ渡っているでしょうからね。むしろ期待に応えるべきだと」

 

「モモンガ様こそはこの世界を支配するのが相応しい御方ですわ。わたくしも全身全霊、お手伝いしましょう」

 

「……わた、わらわも全力投球でお手伝いしんす。全力投球?」

 

 シャルティアがあたふたする。

 

「シャルティアはやっぱりペロロンさんの娘ですよ。プログラムでここまでは再現出来ません。脱帽です」

 

 ヘロヘロがおどけてピョコンと頭を下げる。モモンガは仲間達との団らんに暖かな心地がするのだった。

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