YggdrasilⅡ ~ユグドラシルⅡ~ 作:名無しちゃん
ナザリック地下大墳墓 第二階層 屍蝋玄室──のんびりと入浴しているシャルティアにシモベのヴァンパイア・ブライドからの〈メッセージ〉が届いた。
〈シャルティア様。侵入者です。如何致しましょうか?〉
シャルティアはたちまち不機嫌になる。
〈──ああ? 如何致しましょうじゃねえだろ? さっさと排除しろよ? ……まあ、お前達じゃ相手にならないからとりあえず相手の人数と戦力を調べておけ。エルダーリッチとお前達で出来るだけ罠にはめて恐怖公の所に送ってやんなまし。存外ぷれいやーに効果ありんしょう。妾が第二階層で迎え撃つからPOPじゃないブギーマンやデスナイト、デスウォリアーを集めておきんなまし。高位アンデッドは第三階層で準備をさせておくでありんす〉
シャルティアは風呂から上がると脇に控えるシモベ──寵愛を受けているヴァンパイア・ブライドだったが──に身体をふかせながら〈メッセージ〉を発動させる。相手は守護者統括のアルベドだ。
〈──わかったわ。とりあえずシャルティアに任せるわ。モモンガ様の留守はわたくし達で守らないと……しかし以前みたいに大勢のぷれいやーでなければ良いのだけれど。念のためにアウラとマーレにシモベを準備させておくわ〉
シャルティアは深紅のフルアーマーに身を包み、ゴッズアイテムのスポイトランスを手にする。
〈──シャルティア様。侵入者は十名です。エルダーリッチの部隊で囲みながら転移罠に追い込んだ所、呆気なく
シャルティアは念のためにアルベドにそのまま伝えると、また入浴を再開するのだった。
◆
シャルティアからの報告を受けたアルベドは眉をひそめた。侵入者が弱すぎる、あまりにも弱すぎるのだ。もっとも以前にも『初心者』と呼ばれるぷれいやーのパーティーが迷い込んでくる事は皆無ではなかった。
些細な事だ──と彼女は頭の隅に違和感を押しやる。今の彼女にとってモモンガ達が戻った時に成果を報告出来る喜びの方が重要だったからだ。
◆
バハルス帝国四騎士の一人、“重爆”レイナース・ロックブルズは逸る気持ちを押さえきれないでいた。
先日、皇帝ジルクニフ・ファーロード・エル=ニクスの招集を受けた帝国四騎士──“雷光”、“激風”、“不動”、そして“重爆”レイナースは陪席していた帝国首席魔術師のフールーダ・パラダインから任務についての説明を受けた。リ・エスティーゼ王国の辺境に未発見の先史時代のものと思われる遺跡が発見され、その調査部隊を率いてもらいたい、というものだった。
“雷光”バジウッドはあからさまに不満をぶつける。
「……陛下。そんな事はワーカーに任せれば良いと思いますぜ? そんな辛気臭い場所なんて俺はごめんですぜ」
フールーダは黙ったまま長い髭をしごいている。
「……うん? 皆もバジウッドと同意見かね? それなら──」
「陛下。私にお任せ下さい。必ずや新しい発見を持って帰ります」
レイナースはみずから立候補した。彼女は我知らず顔の半面を撫でる。そこにはかつてあるモンスターを退治した際に受けてしまった呪いが醜い痕を残していた。高位の神官にも解呪出来なかったこの呪いをとくマジックアイテムがもしかしたら未知の遺跡ならば見つけられるかもしれない、それがレイナースの本当の目的だった。
遺跡の入り口には見事な彫刻が施された門があり、神代の紋章を象った金銀の糸で編まれた旗が掲げられている。レイナースは兵達を指揮して静かに降りていく。フールーダの高弟の魔術師、そして帝国軍の精鋭の兵士達だ。
「──ッ!」
レイナースは思わず舌打ちをする。この地下大墳墓は無人では無かったらしい。
彼女は兵士達に指示を出すと剣を構えた。
◆
レイナースは満身創痍だった。通常の墳墓なら主であろうエルダーリッチが群れを成して襲いかかってきた。雨のように降り注ぐファイヤーボールをかいくぐり、なんとかヤツラから逃げ出せたのは彼女一人だった。
しかし、彼女は不敵に微笑む。これだけのモンスターが守っているのだ。きっと素晴らしい宝があるに違いない。きっと彼女が求めてきた全知全能の神の血と呼ばれる幻のポーションだって──
レイナースは一見すると壁にしか見えない所に不自然な取っ手がついているのに気付く。
間違いない。隠し部屋だ。彼女は静かに扉を開け──
空間がゆがんだ。叫ぼうとしたが声が出せなかった。何か苦い刺々したモノが彼女の穴という穴を蹂躙していった。
◆
地下大墳墓の入り口を観察しながらフールーダ・パラダインは焦りを感じていた。トブの大森林の近くに突如として現れた謎の遺跡、そしてそこに出入りする強大な力を持つ何ものか……
バハルス帝国の主席宮廷魔術師の立場を捨てても是非彼らとまみえたい、そんな思惑から皇帝ジルクニフに遺跡の調査を直訴した。だが、同行を名乗り出たのは四騎士の中でレイナースだけであった。四騎士中もっとも腕がたつ彼女ではあるが、いささかその真意が計り知れない点があり、その事はフールーダに一点の不安を残していた。
そのレイナースに高弟と精鋭の兵士八名をつけ、先遣隊として探索に向かわせてから半日が過ぎた。
──人選を誤ったか?
フールーダは顔をしかめる。
この遺跡──地下大墳墓に何らかの巨大な魔力を持つ者が出入りしている事を事前に知っている人間は彼だけだった。
「……ふむ。やはりわし自ら行かねばならぬか……」
フールーダは腰を上げると居残る高弟と兵士を集める。その数は六名で決して多くはない。だが、フールーダに不安は無かった。かつての十三英雄すらしのぐという自負がある『三重魔法詠唱者』に匹敵する程の魔術師の存在など考えられなかった。
かくしてバハルス帝国が出した大墳墓捜索部隊は全員が地下に降りて行き、誰一人として戻らなかった。
◆
「……ほう。珍しいな。侵入者か……」
ナザリック地下大墳墓に戻ってきたモモンガは報告を受けて微妙な顔をする。
ナザリック地下大墳墓は悪名高いギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の拠点であり、かのギルド連合千五百の侵攻を撃退して以降は一度も侵入者は無かった。
「──で、何階層まで達したのか? 第六階層まで位なら良いが……」
「…………第二階層です」
「──へ?」
モモンガは思わず気の抜けた声を上げる。
「……正確には第一階層で十六名、第二階層までたどり着いたのが一名、でございます。第二階層ではシャルティアが倒しました……が……」
アルベドはなんだか奥歯にものがはさまったような言い方をした。
「……うん? なにかあったか?」
モモンガはふと、悪い事態を思い描く。『血の狂乱』──シャルティアのハンディキャップがわりのスキルで、血を浴びすぎると制御不能となるものだ──でも発動させてしまったか?
「それがシャルティアの話では第一階層を突破してきたマジックキャスターはシャルティアを前にすると跪いて祈りを捧げ、あまつさえ足もとを舐めようとしてきたので即座に消滅させたそうです」
「……………」
「……えっ? シャルティアが足を舐めたのでなく相手が? ……」
無言のモモンガの隣で小さな声でヘロヘロが呟いた。
レイナース「フールーダ様。呆気なく消滅しちゃいましたね」
フールーダ「うむ。どうやらワシは知りすぎてしまったようじゃ」
レイナース「つまり秘密保持の為に殺された……と? ……え? もしかしたら私は巻添え……」
フールーダ「せっかくじゃ。その秘密とはな……」
レイナース「なんでしょう?」
フールーダ「この作品、今時点で作者は夢落ち──うげぇ!」
作者「…………危ない危ない」
レイナース「…………マジ?」