YggdrasilⅡ ~ユグドラシルⅡ~   作:名無しちゃん

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◆act05 ネム・エモット

 全身に痺れるような怠さを感じながらガガーランは目覚めた。

 

 周囲を見回すがどうやら森の中のようだった。木々の枝を弦のようなもので縛り、あたかも巨大な天幕のようにした中にベッドのように藁が敷かれていた。

 

 ツンとする薬草の刺激臭に顔をしかめながら見やると、包帯まみれとなったティアとティナ、そして傍らで薬草を磨り潰している少女がいた。

 

「……ティア、……ティナ、……無事か……?」

 

 掠れる声でガガーランは問いかけるが答えはない。

 

「……おはようございます」

 

 少女が恐る恐る声をかけてくる。ガガーランは出来るだけやさしい声で尋ねた。

 

「……助けて、くれて、ありがとう。……ここは、どこだい?」

 

 少女は距離を保ったまま答えた。

 

「……賢王さまのお住まい、だよ」

 

 ガガーランはまだ少女が警戒している様子を見て、改めて名乗ることにする。

 

「……俺、私はガガーラン。そっちはティナとティア。王国の冒険者をしている。まずは私達を助けてくれてありがとう」

 

 ガガーランは藁の上に起き上がる。と、自分が裸なのにようやく気付く。

 

「……私はネム。ネム・エモット。カルネ村のエモット」

 

 ガガーランはトブの大森林に入る前に立ち寄った村を思い出す。真新しい墓標が立つ村……

 

「…………そうか……それは大変だったな」

 

 ガガーランの力ない呟きにネムの涙腺が決壊した。嗚咽はいつしか叫びにもにた泣き声にかわっていった。

 

「──ネム、どうしたでござるか? 怪我人に虐められたのではござらんな?」

 

 ノンビリとした口調とは裏腹に強大な獣が入ってくる。

 

「……け、賢王様……」

 

「……あんたが賢王様かい? 仲間と一緒にいろいろ助けてもらって感謝する」

 

 ガガーランは頭を下げる。

 

「……そっちの二人の具合はどうなんだい? かなりヤバそうにみえるが……」

 

 ガガーランの問いかけにネムが答える。

 

「……強力な酸で火傷みたいです。薬草を磨り潰して塗ったのでいくらか楽になると思います」

 

 見た目は七、八歳くらいの村の少女にしか見えないが、薬草について詳しいみたいだった。

 

 

 いろいろ話をしてわかったのは、この『森の賢王』はトブの大森林の一画を縄張りにしている魔獣で、たまたま森に逃げ込んだネムを保護したらしい。そしてそのネムが裸に剥かれて放置されていたガガーラン達三人を見つけ、賢王に頼んでここまで運んでくれたのだという。

 

 ──くっそッ! アイツラめ!

 

 ガガーランは心の中で悪態をつく。

 

 俺達を裸にひん剥きやがって! 追い剥ぎ野郎共めッ!

 

 一方でガクガクと震えが襲う。むりもなかった。あの異形の四体はいずれも破格の強さだった。水色の四本の剣を使う巨体、死そのものを具現化させたかのようなアンデッド、ティナとティアを一瞬で戦闘不能にした漆黒の粘体(スライム)、翼を持つ悪魔……いずれも神話の世界に出てくる魔神、いや、魔王に匹敵しそうだった。

 

「……死にそびれたな」

 

 ガガーランは小さく呟いた。彼女はまだ、そこにラキュースとイビルアイの姿がない事に気がついていなかった。

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓 第十階層 モモンガの居室──

 

「いやいや、ヘロヘロさん。流石でしたよ。あの女盗賊が一瞬で裸になったのは実に見事でした」

 

「私もあそこまでいけるとは思いませんでしたよ。以前なら下着までで、それでも下手したら運営にアカウント停止させられましたからね。まさにアップグレード万歳、ユグドラシルⅡ万歳ですよ」

 

「かえすがえすもペロロンさんが居ないのが残念ですね。知ってます? ペロロンさんのゲイ・ボウの九連射という技」

 

「なんです?」

 

「ゲイ・ボウって昔の神話で十個昇った太陽を次々に射落として一つにした逸話からきているそうなんですが、ペロロンさんはその技を極めちゃいましてね」

 

「ふんふん」

 

「〈フライ〉で空を飛んでいる女性プレイヤーを九連射で攻撃して……装備をみんな消滅させちゃったんですよ」

 

「……うわ! 鬼畜ですねぇ」

 

「で、直ぐに運営にアカウント停止されてしまったと…………アバター消滅の時にVサインしていましたよ」

 

「ペロロンチーノさんらしいですね」

 

 ひとしきり笑いあった二人は真面目な顔になる。

 

「……しかし、どうしたものですかね? ナザリックにまさか侵入者が来るなんて」

 

「……新人プレイヤー? それともNPCでしょうか? ギルメンが少ないからまともに攻略しに来られたらやっかいですね」

 

「とはいって、アリアドネの問題があるから塞ぐわけにもいかないですしね……」

 

 アリアドネとは他のプレイヤーによる拠点攻略が可能にしなければならない、というルールを守らせる為のシステムである。

 

「と、なるとナザリック以外にも拠点を作っちゃいます? 手っ取り早く都市を攻略して……」

 

「いいですね。それ。それでいきましょう。……で、折角ですからちょっとやってみたい事が──」

 

 この晩の二人の会話から一つの国家が滅亡する事になろうとは誰にもわからなかった。

 

 

 

 

 トブの大森林でティナ、ティアのリハビリも兼ねてモンスターを狩るガガーラン達。

 

「さすがだな。もうだいぶ復活したんじゃねえか?」

 

 ガガーランの言葉に二人は首をふる。

 

「……まだ足りない」「……せめてガガーランに勝てる位まで戻さないと」

 

 二人の悪口にガガーランは笑う。

 

「……言ってろよ。口だけは以前より達者じゃねえのかよ」

 

 ふっとガガーランの表情がかげる。

 

「……しかしよぉ、ラキュースとイビルアイ、どこにいっちまったんだろうな? アイツラに持ってかれちゃってないと良いけどよぉ」

 

 ネムと森の賢王の話では、ガガーラン達を保護した際に既に二人の姿は無かったそうだ。

 

「……とりあえず王都に戻り姫様に報告。で力を貸してもらう」

 

「そうだよな。それしかないよな」

 

 ラキュースの蘇生魔法、そしてイビルアイの高い戦闘力は王国としても失うわけにはいかない。きっと助けてくれる筈だ。

 

 

 

 

 翌朝、トブの大森林を後にする事を決めたガガーラン、ティナ、ティア、そしてネムの四人は森の賢王に別れを告げて王都リ・エスティーゼに向かった。

 

 

 途中でカルネ村に寄る。ネムの姉の墓標には花が植えられていて直ぐにわかった。兵士から妹を身をていして守った勇敢な姉(エンリ)の墓前にガガーラン達も冥福を祈るのだった。

 

 

 

 

 そしてようやくたどり着いた王都は──

 

 ロ・レンテ城もヴァランシア宮殿も影も形も消え失せ、かわりに禍々しい魔王の城がそびえ立っていた。




モモンガ「次回は『魔王城でおやすみ』」

ヘロヘロ「……違います」
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