YggdrasilⅡ ~ユグドラシルⅡ~ 作:名無しちゃん
モモンガはリ・エスティーゼの魔王城に戻ってきた。
「ヘロヘロさん! 大丈夫ですかっ!」
モモンガの心配をよそにヘロヘロはノンビリとくつろいでいた。
「ああ、モモンガさん。お疲れ様です。いやあ、ビックリしましたよ?」
ヘロヘロはモモンガを隣の部屋に連れていく。元は賓客をもてなす部屋だったそこには巨体なベビーベッドが置かれ、オムツと帽子を付けられた卵型の物体が鎮座していた。
「──これは!? いったい……」
モモンガは
(うん? 鉱物……水晶みたいな鉱物みたいだな。それに……アンデッド! …………間違いない。この卵型の中にアンデッドがいるッ!)
モモンガは動揺する。
──まさか、な。そもそもアンデッドが卵から産まれるなんて聞いた事が無いぞ。いや、鉱物だからそもそも卵じゃないよな? だけど運営ならやらかしそうなんだよな。これがイベント? イヤイヤイヤ。しかし、ヘロヘロさんもとんでもないものを産んでくれたな。うーん……
黙り混むモモンガにヘロヘロが頭をかきながら弁明する。
「いやね、モモンガさん。ここの所なんだかお腹がゴロゴロしていたんですよ。で……トイレで踏ん張ってみたら…………出てきたんです。これが……」
「──えっ? それってウン──」
モモンガはふと気付く。
「……えっと……ヘロヘロさん」
「なんでしょう?」
「……ヘロヘロさん、ユグドラシルでトイレなんてした事あります?」
「いや、ないですよ。そんなゲームの中でトイレなんていくわけないじゃないですか──あ!」
ヘロヘロは驚愕する。
「いやいや凄いですよ! これって。本当に現実世界に近いじゃないですか! あり得ない位凄いな、これ。うーん。どうプログラミングしてるのか興味ありますよね」
「確かに凄いですね。ユグドラシルⅡ。それだけ大脳の視床下部に刺激を与えられているとか……どうします?ヘロヘロさん、戻ったら漏らしていたりしたら」
「それはマズイですよね。しまった。こんな事なら紙オムツを履いておくんだった」
モモンガとヘロヘロは笑った。妙なテンションとなり笑い続けた。が、モモンガは急に感情が抑制されて舌打ちをする。
「──それにしてもこれ、どうします?」
モモンガは卵型の物体を指差す。
「……うーん。どうしたら良いですかね?」
ヘロヘロも頭をかかえる。
「……宝物殿、には置きたくないですよね……」
モモンガは呟く。もしかしたら排せつ物かもしれないのだ。出来ればナザリックには置きたくない。
と、ヘロヘロが閃く。
「モモンガさん、ソリュシャンですよ! 彼女もスライムなので彼女の身体の中で預かって貰えばよいですよ」
かくして謎の卵型の物体はソリュシャンが体内に入れて保管する事になった。
◆
「……悪いねー。ソリュシャン」
「いいえ。むしろ至高のお方のお役にたてて光栄です」
ソリュシャン・イプシロン──
やがてモモンガ達はソリュシャンが預かった謎の卵型の物体の存在を忘れていった。
◆
「モモンガさん。温泉ですよ! 温泉掘り当てませんか?」
テンションを上げたヘロヘロがやってくる。
「温泉、良いですね。でも、ユグドラシルⅡでありますかね? だいぶというか、全く地形や世界が違うみたいですよ」
「モモンガさん。そこはあの運営ですよ? ユグドラシルⅡでもベースまで新しくせずに以前のヘルヘイムの表層だけ変えたんじゃないかって思うんですよ」
「……なるほど。よくシステムとかはそのままでキャラクターデザインだけ変えるような感じですね」
モモンガはかつてユグドラシル以前にやっていたオンラインVMMO―RPGを思い出す。
「……そこでこれを使います」
ヘロヘロはユグドラシルのヘルヘイム世界の地図を広げる。
「それってベルリバーさんの……」
ベルリバーはギルドメンバーの一員で自然と孤独を愛する人物だった。
「そうです。で、この地図にはベルリバーさんが見つけた──」
ヘロヘロが地図に書き込まれた記号を指し示す。
「──温泉マーク!?」
更にヘロヘロは冒険者から手に入れた地図を重ねる。
「つまり私の考えが正しければこの辺りを掘ったら温泉が出るんじゃないかと思ったりするんですよ!」
「素晴らしいですよ! ヘロヘロさんッ! 早速行きましょう!」
二人は早速ゲートを開き、出かけていった。
◆
数時間後、出かけた時とはうってかわって意気消沈した二人が戻ってきた。
「……出ませんでしたね。温泉……」
「……申し訳ないです。私の仮説が間違っていたみたいです」
二人は肩を落とす。その様子にあわてたソリュシャンが提案する。
「……あのう……温泉は存じ上げませんが、第九階層のスパに行かれてはいかがでしょうか? ここしばらく至高のお方がたのご利用がないようですが……」
「──あ……そういえば……」
モモンガは思い出す。確かにユグドラシルプレイ中には利用する事が少なかった。
「モモンガさん、行ってみましょうよ」
「……そうですね。行きましょうか」
二人は第九階層のスパにやってきた。かけ流し風に数々の浴槽から溢れるお湯と湯気に感動する二人。
「そういえばギルメンの皆がそれぞれ工夫して作ったんだったな。……すごいな。本当にリアルの風呂みたいだな」
「……あれ? モモンガさん、どうしました?」
「……骨と骨とのすき間がうまく洗えないのでして……うーん」
泡立てたスホンジを握りしめながら困惑するモモンガにヘロヘロが近付く。
「なんだ。そんな事でしたら……モモンガさんを私が洗いますよ」
ヘロヘロの漆黒の粘体がモモンガの身体を包み込む。
「……おう……このピリピリとした絶妙な酸性具合い……実に気持ちいいですね。ヘロヘロさん」
「ここなんかどうです?」
「──うわっ! ちょ、ちょっとくすぐったいですって。ヘロヘロさん!」
二人の身体が絡み合う。と、その時──
「失礼します。お背中をお流し──え?」
湯文字を来たアルベドが扉を開け三つ指を揃え挨拶をしようとして、固まる。
「……違うぞ。違うんだアルベド──!!」
モモンガの叫びが虚しく響き渡るのであった。
◆
(…………そろそろ外の様子が知りたいがな……まだスライムの中だと不味いな)
卵型の物体の中でイビルアイは考える。いきなり漆黒のスライムに取り込まれた彼女はとっさに強度がある水晶で壁を作り、溶解してしまうのを避ける事が出来た。
──しかし、間一髪だったな。
所々火傷が残る白い肌が痛々しかった。スライムの攻撃時の酸により、仮面を含めた装備のほとんどを焼失していた彼女は全裸に近い有様だった。
イビルアイは辛抱強く機会を待つ。タイミングを間違えたら今度は間違いなく彼女自身が消滅してしまうだろう。
彼女は水晶の中で裸の身体をかき抱きながら瞳を閉じた。長い眠りにつくかのように。
ガガーラン「なんだい。水晶の卵の中身はおチビさんだったのか。水晶から産まれた水晶太郎だな」
イビルアイ「私は女だ!」
ティナ「……じゃあウン子」