神斬り武蔵 作:もやしもん
ガヤガヤと賑やかな酒場で芋焼酎と焼き魚を頼むと俺は煙草に煙管に火をつけた。煙草も好きだが煙管もいい。段々と愛煙家が冷ややかに見られ始めているオラリオでも俺は堂々と濃い煙を吐き出した。そして運ばれた物を食べる。真っ黒に塗られた笠は被ったままで、店員の警戒が伝わる。あまり長居はさせてもらえないのだろう。食事に手を付けようとしたとき猫人の店員が声を上げた。
「ロキファミリアの皆様のご到着にゃー!」
これは面倒くさい。しかし食事を置いてでも逃げ出したい気分だが大して金もない身、そんな思いきったことは出来なかった。俺はさっきより一層隠れるように食事をした。まったく俺らしくもない行動だが今はそうするしかなかった。
彼女らロキファミリアの宴も熱くなってきたようで飲み比べが行われたりしている。幾つか俺が知っている顔もあったがここで気づかれては面倒だった。その時、狼人の少年が声を上げた。
「そういえばアイズ!あの話聞かせてやれよ!」
ベートか。懐かしいな。煩く吠えるのは変わらんな。遠目から見る旧友の姿に昔の姿を重ね懐かしむ。昔はあの中に俺も入っていたのか。ベートに話を振られたアイズはあの話とやらが分からないようで首を傾げている。
「あれだって!!帰る途中で何匹か逃したミノタウロス!最後の一匹お前が始末しただろ!?それでほれ!あんときいたトマト野郎の!」
成る程ロキファミリアが取り逃がしたからあんな上層にミノタウロスがいたのか。俺がいない間にダンジョンのレベルが飛躍的に上がりでもしたのかと思って驚いていて若干嬉しかったがそういうことだったのか。残念といえば残念だな。
「あのミノタウロス倒したの私じゃないよ」
「ミノタウロスって17層で襲ってきて返り討ちにしたらすぐ集団で逃げてった?」
「それそれ!奇跡みてぇにどんどん上層に上がっていきやがってよ、俺達が泡食って追いかけたやつ!こっちは遠征で疲れてるのによぉー」
俺は無言で話を聞いていた。煙管じゃなくてそのうち煙草をくわえだしていた。
「それでよ、いたんだよ!いかにも駆け出しって感じのひょろくせぇガキが!誰が倒したなんて関係ねぇ!」
まぁ何を言いたいかは大体の察しがつく。ベートの昔からの悪い癖だ。
「抱腹もんだったぜ!兎みてぇに壁際に追いやられちまってよぉ!可哀想なくらい震え上がっちまって頬をひきつらせてやんの!」
「ふむ?それでどしたん?その冒険者?助かったん?」
「アイズじゃねぇなら誰かは知らねぇが誰かが間一髪のところでミノタウロスの首を落としたんだよ」
話を聞いて、若干思い当たるふしはあった。悲鳴が聞こえるほうに行ったら吠えてるミノタウロスがいたから首を切り落とした。急いでいたから悲鳴の主が誰かは見ていないしあふたーけあとやらもしていない。トマト野郎とかいう渾名から察して返り血を浴びてしまったのだろう。首を斬ったなら仕方ないといえば仕方ないが申し訳ないことをした。
「それであいつあのくっせぇー牛の血を浴びて、真っ赤なトマトになってたんだよ!くくく、ヒヒッ、腹痛えー!!アイズ、狙ったんだよな!?そうだよな!?頼みからそういってくれ!」
「そんなこと…ないです」
会場が嘲笑に包まれる。とてもじゃないが良い気持ちで見ていられる光景じゃなかった。
「それにだぜ!?あのトマト野郎叫びながらどっか行っちまって!クククッ!うちのお姫様助けた相手に逃げられてやんの!」
「アハハッ!そりゃ傑作やぁー!助けた冒険者に怖がられるアイズたんまじ萌えーー!!」
おうおう盛り上がってるな。ロキまでこれだ。こりゃもう手はつけられんな。
「しかしまあ久し振りにあんな胸糞悪いもんみちまったな。ああいう雑魚が俺達冒険者の品位を下げてるのによ」
今の発言の後に品位を説くか。まったくたまげたな。聞くに堪えないと思い、瓶に残った酒を煽ると懐かしい声が響いた。
「いい加減そのうるさい口を閉じろベート」
リヴェリアだ。懐かしい。変わっていないことに安心した。
「ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。その冒険者に謝罪することはあれ酒の肴にする権利などない。恥を知れ」
「おーおー誇り高いこってエルフ様。でもゴミをゴミと言って何が悪い。」
「これ、やめぇ。酒が不味くなる」
段々と場が静かになる。リヴェリアの言葉で笑った団員は自らを恥じた。ロキにはまったくもって同意だ。少ねぇ金叩いて酒を買ってるんだから旨く飲みたいものだ。
「アイズはどうよ?自分の目の前で震えるだけの情けない野郎を!」
「あの状況じゃ仕方なかったと思います」
「じゃあ質問を変えるぜ?俺とあのガキ、ツガイにするならどっちがいい?」
どうしてこうなった。聞いてる側が恥ずかしい。
「ベート、君酔ってるの?」
フィンは苦笑いで尋ねた。多分全員同じ気持ちなのだろう。
「ほら、答えろよ。雌のお前はどっち雄に尻尾振ってどっちの雄に滅茶苦茶にされてぇんだ?」
「……少なくともそんなことをいうベートさんとだけはごめんです」
アイズは俺の妹分だったんだ。血なんて繋がってないしここ5、6年はあってないが。でも俺の妹分を傷つけた罪は重い。
「無様だな」
「うるせぇババア!」
「じゃあお前はあのガキに目の前で好きだの愛してるだの抜かされたら受け入れるっててのか!?」
「…それは出来ません。待っている人がいるので」
その時、大きな音とともに一人の少年が店を駆け出した。弱々しい背中で食い逃げをするようには見えなかった。もしかしたら彼が噂のトマト野郎なのかもしれない。案外世界は狭い。どちらにせよベートにはお仕置きをくれてやらねば。俺はロキファミリアの卓に行き、喚くベートの髪を後ろから鷲掴みにして机に叩きつけた。
「まぁよく吠える犬っころじゃこと。躾せねばのう」
髪を掴んだまま此方に顔を向けた。くわえ煙草を手に持ち、肺まで吸い込んだ煙をベートの顔に吹き掛けた。挑発としては十分な行為だろう。
場が静まり返った。俺の正体に真っ先に気づいたのはアイズだった。
「…武蔵?」
「ああ、ただいまかえった。色々めんどうじゃからのう、しばらく身を隠そうって思ったんじゃがどうにもこいつがうるさくての。のぅ?犬っころや」
喚くベートをもう一度机に叩きつけた。
「それにあいずに待たれてるっていわれちゃあ顔出さんわけにはいかんじゃろ」
アイズは嬉しそうに微笑んだ。しかし状況が状況だった。片手でベートを押さえつつ話をする。時折ベートが騒ぐと叩きつけて黙らす。その光景は拷問にしか見えなかった。
「しっかしロキファミリアも落ちぶれたのう。ミノタウロスごときを取り逃がして上層まで逃がしてそのせいで出た被害者を笑うと。やってること自分で自分の首しめてるだけじゃねぇの。お前らの方がよっぽど面白いぞ」
そういうと全員が顔を伏せた。ロキでさえなにも言わなかった。
「まぁ、いいわ。行きたいところもあるしな。じゃあな。犬っころもじゃあな」
そろそろ良いだろう。鷲掴みにしていた手を離して頭をわしゃわしゃと撫でた。
「あいずも元気にやるんじゃぞ。また会えるといいのう」
そういうと若干ショボくれた顔になったアイズは俺に手を振った。
「待ちな!」
俺が出ようとするとドワーフの女性に呼び止められた。
「ミアさんすまんの、金払い忘れてたわ」
「それもあるけどあんたただいまの一言も言わずにこそこそ隠れるなんてどういう了見だい?」
「すまんて!面倒事が嫌いなだけじゃっての!この通り!」
ミア手を合わせて御辞儀して見せる。
「謝るときは顔見せんかい」
「俺としたことが、すまんのう」
黒塗りの浪人笠を取った武蔵の顔は綺麗で女性的な美しさもあった。真っ白で艶のある肌に切れ長の美しい目、瞳は真っ黒で、髪は青みがかった黒すなわち濡羽色で綺麗に伸び、項のちょっと上で簪を使って丸く纏めてた。女性と言ってしまえば誰も疑わないだろう。身長が高すぎるのが問題だがよくいる冒険者のようにがっしりとした体型ではないからスタイルの良さとして寧ろプラスに働くのでは。そしてその美貌に釣り合わぬ「~じゃ」というドワーフのような語尾が逆にギャップになって良い味を出していた。質の良さそうな深緑の羽織と黒の袴を着こなし、足元は黒い二枚歯の高下駄で纏めている純和風の服装と日本美人的な顔がよく似合っていてそれはそれは美しかった。
が、その特徴的なほど美しい顔は同時に周囲に自分の存在を勘づかせた。
「か、神斬り…」
一人の冒険者がそう言った。それは冒険者の間に伝わる実在する冒険者の渾名だった。神を斬り殺した人間。
「ミアもこれでええじゃろ。これお代じゃ」
正確な金額なんて知らなかったしこのままここに長居しても面倒なことしか起きないのは予測できたから懐に突っ込んであった金貨が入っている小包ごとミアに渡した。これで俺は一文無しだ。ダンジョンに潜って金を稼がなきゃ宿すら泊まれない。とっとと店を出ようとする俺をロキが呼び止めた。
「行く宛はあるんか?」
「ダンジョンじゃな」
「そう言うことやなくて…!」
「どっちにしても俺は一文無しじゃ。稼がなきゃどこにもいけぬ。ったく愛煙家は金がかかるのぉ。じゃあな」
そうぼやきながら武蔵は新しい煙草に火をつけて外に出ていった。武蔵は楽しいことがなくても笑っているような子だった。寧ろ武蔵が深刻な顔して悩んでいる姿なんてロキは数える程しか見たことが無かった。今さっき店を出ていった武蔵も笑ってはいたがかつてのような無邪気さを感じるものではなく貼り付けたような笑顔だった。ロキはかつての眷族のことが心配で成らなかった。
セオリー通り。迷惑料込みでお金を払うという部分は有りませんが。
全然関係ない話題なんですが最近タバコ高すぎませんかね!?僕もともとそんな本数吸う人じゃないんですがそれでも愛飲の赤マルボロのソフトが570円ってキツいです、、、