神斬り武蔵 作:もやしもん
雲一つ無い快晴の青空、初夏の涼風が気持ちよくこんな日にはきっと面白いことがあるに違いないと天界きっての悪戯好きの神(トリックスター)は街を彷徨いていた。それは大した根拠もなく強いて言えば暇をもて余す神の勘で、見慣れた街を見渡しながら何か面白いことはないかと自分の退屈を塗り替える存在を探していたときにそれはいた。そいつは極東の服を着た小さな、少女か少年かの判別もつかないくらい可愛い顔をした子供で街のガラスをボンヤリと眺めていた。いや、正確に言えばあれはガラスに写る自分を見ていたのだろう。子供ながらに哀愁のある顔で、しかしその眼には歴戦の戦士のような目力があった。達観しているかのような、物凄くつまらないものを見るような目でガラス越しの自分を見つめていて、この時間帯のこの人の流れの中でその子供だけが浮き彫りになって見えた。こんな面白そうな子供に絡みにいかないなんてトリックスターの名が泣く。そう思って少年に話しかけた。
「こらかわえー子やねー」
ナンパである。自分に向けられた言葉だと気づいた少年はニカッと笑った。その腰元には二つの極東の武器、刀が差してあった。少年が持つには少々長すぎるようにも感じるそれは異様な気配を放っていて、それを携える少年はスッと腰骨が伸びるような姿勢の良い立ち方で強そうにも見えた。
「もしかしてお主が神というやつか!?」
無邪気に笑いながら彼はそう言った。
「せやせや!ウチはロキっちゅうねん!あんたファミリアは?」
「ふぁみりあ?なんじゃそれは?」
ここオラリオの常識に首を傾げるということは初めて来たのか。しかし相手は子供だ。家族がいてもおかしくはない。
「あんた家族は?」
「ん?おらぬおらぬそんなもん。それよりお主が神か!?斬らせてくれぬか!?」
少年の驚愕の発言にロキはビックリして一歩下がった。
「お前なんちゅうこと言うねん!びびるわー!!」
「やはり神は斬ってはいけぬものか?」
「あたりまえや!人間も駄目や!まさかあんた!?」
「やっておらぬやっておらぬ!」
ロキは目の前の子を見つめたが嘘をついては居ないようだった。本当にそれは不思議な子供で年相応で無邪気なように見えては時々哀愁を感じさせるし、たまに歴戦の戦士のような凄みを感じたり、無数の色を持っている子供だった。からかおうと思ったトリックスターが逆にからかわれる始末。純粋にその子供を面白いと思った。
「あんたダンジョンには興味ないんか?」
「だんじょん?」
「モンスターがウジャウジャいるところや」
「そのもんすたあとやらは斬っていいのか?」
「おお、ええで」
「ならばいく!」
今すぐにでも行きたいと言った様子の彼はまた気持ちのよい笑顔浮かべた。
「でもなダンジョンに行きたなどっかのファミリアに入らんといけんの」
「ならばふぁみりあとやらになろうではないか!俺は武蔵じゃ!よろしくのぉ!」
それが宮本武蔵と名乗った少年とロキの最初の出会いであった。
フィンは最初ロキがつれてきた極東の子供を見たときに親指の疼きが止まらなかったことを覚えている。その子供が強大な物に見えて、まるで一本の鍛え上げられた刃物のようにも見えた。今でこそただの無邪気な少年でしかないがきっと将来強くなって世界を変える冒険者になるのだろうと思った。言ってしまえば最強を掴む素質があった。
何のために冒険者に成りたいのか、そう聞けば彼は斬りたいからと単純に無邪気に答えた。
「斬って斬って斬りまくって天辺に立ちたいのじゃ!」
単純かつ壮大な目標だった。しかし彼には謎の説得力があった。磨けば本当に天辺を掴んでしまうような気がした。
武蔵という彼は素振りや筋トレのような基礎トレーニングをかなり嫌がった。しかしフィンやガレスが手合わせをすると言えばパーっと喜んで立ち上がった。フィンやガレスを武蔵が圧倒する、なんてことはなく勝ったことすらなかったが戦っているときに必ず冷や汗をかくような場面が何度かあったり負けたとすら思うような場面も何度かあったりした。
「君はなんでそんなに手合わせしたがるのかな?他の団員は手合わせの方が嫌がるんだけどね」
苦笑まじりでフィンが尋ねた。
「そっちの方が楽しいに決まってるんじゃ!楽じゃない、楽しいのじゃ!」
そう言った。基礎トレーニングは楽だけど面白くないと。傷は増えるしキツいけど手合わせした方が楽しいと。それが武蔵という子供だった。
意見あれば是非是非是非!!