皆さんは転生というものをご存知だろうか。
今やアニメやゲームに留まらず、ネットを漁れば直ぐに転生物の創作物は見つかる。色々と種類はあるだろうが、その中で一定数存在するのが神様転生と言うやつである。
何らかの理由で死んでしまった主人公が神様の手によって特典やら何やらを与えられ、異世界に転生するというのがテンプレであろうがこれを体験した俺から一言だけ言わせてもらいたい。
あのクソ神、今度会ったら絶対殴る。
さて、先程言った通り神様転生の被害?に会った俺だが、それ自体には不満は無かったのだ。死んでしまった事はショックだったし、家族の事も頭を過ぎったが、直ぐにどうでもいいと思ってしまった。その辺は未練が残らないように思考を弄ってあったらしい。今思えばこの時点で怪しいがその時の俺は全く怪しまなかった。むしろ流石神様だとすんなり納得してしまったくらいだ。………もしかしてアレも思わされたんだろうか。
とにかく、真っ白な空間で特典を選ばされ、転生させられるというコテコテのテンプレ展開になった訳だが、この辺でもう少し詳しい話を聞いておけばよかったと後悔している。
特典は何がいいかと問われた俺は神に向かってこう答えた。
「サイヤ人にしてほしい」
自分でももっといい能力はいくらでもあったとは思うが、男なら一度は憧れる事だろう。かめはめ波とか撃ってみたい。
俺の願いは神にとっては容易い事だったらしく、あっさりと了承の返事をもらえた。
望み通りの特典を貰えて、じゃあ何が問題だったのか?
答えは単純である。
俺は今、自分の目の前にある建物。その看板に書かれた文字を見上げている。
"FAIRYTAIL"
俺は前世で存在していたマンガ、アニメの世界に転生してしまったらしい。
ここまで聞いて、原作を知ってるなら原作の展開の改変なり、不遇キャラの救済なり、色々とやれて楽しそうだと思う人もいるかもしれない。
だが、それは原作を知っていればの話である。
"FAIRYTAIL"という作品がかなり人気のある作品なのは知っている。
俺の友人にこの作品が好きな奴が居て、そいつに耳にタコが出来るぐらいにしつこく聞かされたから原作キャラの何人かの名前ぐらいは分かる。だが、内容は殆ど知らない。
手を出してみようかと思った時期もあったのだが、友人の『下手なエロマンガよりエロい少年漫画』という言葉を聞いて、俺は"FAIRYTAIL"という作品はエロコメディ的なジャンルの作品だと思い込んでしまっていたのだ。
俺も男だし、そういうのが嫌いな訳では無いが、あまり露骨にお色気方面を押し出した作品は手を出しづらかったので、というか親や友達に見つかってからかわれるのが嫌だったので、結局読まないままだった。
結構広い層から人気があったみたいだし、今となっては多分勘違いだったのだろうなとは思うが、今更気づいてもどうしようもない。
あの神もどうせなら知っている世界に転生させてくれれば良かったものを。てっきり俺はありふれたファンタジーな、中世ヨーロッパ的な世界に飛ばされると思い込んでいたのだ。
漫画やアニメの世界がありならドラゴンボールの世界がよかった。生存率は絶望的だろうが、サイヤ人になったのなら希望はまだあっただろうし。
俺は何故か持っていた鏡で自分の顔を見る。………何で鏡があるんだろう。あれか、これで自分の容姿をきちんと確認してくださいね的な感じなのか?もっとフォローするべきところがあっただろ。他に何も持ってなかったんだぞ。つまり無一文だぞ。これからどないせいっちゅうねん。
鏡に映る俺はサイヤ人の特徴である黒髪黒目。前世基準で見れば寝癖で爆発したような髪型になっているが、サイヤ人ならこんなものか。地味に前髪がある事に安心した。ベジータみたいにM字ハゲになるのは嫌だからな。サイヤ人は頭髪が基本的に変化しないはずだし。
顔立ちもあまりキツい感じというよりは穏やかそうに見える。ベジータよりも悟空に近い感じだろうか?
ふと背中越しに腰の辺りを見てみれば、自分の体から生えている尻尾が確認出来た。
「おお、本当に尻尾がある!」
思わず尻尾を掴み、その瞬間、力が抜けてその場にへたり込む。
……そういえばサイヤ人って尻尾握られるとこうなるんだっけ。忘れてた。自分でこうなるとかアホかよ俺。
と、ここで自分の服装にも目が向いた。
「この服って……GTで悟空が着てた道着か?」
水色の道着にオレンジのズボン。ピンクのリストバンド。GTにおける悟空の服装で間違い無い。何でこのチョイス何だろう。山吹色の方じゃ駄目だったのか。不満がある訳ではないので別にいいけど、サービスする気があったのか無かったのかどっちなんだよ。
「それに……何か縮んでねーか?」
俺の身長は180cm程だったはずだが、どう見ても今の体はそんなにでかくない。測らないと正確な事は言えないが、手足の長さから考えても明らかに子供になっている。
考える事が山積みで頭が痛くなりそうだが、とりあえず自分の事はこれぐらいにしてこの世界について考えよう。
この世界には魔法?というのがあったはず。実際にどういうものかは知らないが、世界観的にサイヤ人の近接、肉弾戦はどうなのだろう。
最悪遠距離からのエネルギー波とかだけで戦わなくちゃいけないんだろうか。いや、そもそもこの世界ってバトル物なのか?
主人公の名前は………あれ、何だっけ?
待て、落ち着いて考えよう。絶対に思い出せるはずだ。これぐらいも分からないようではただでさえ少ない知識が余計に信用出来なくなるではないか。
「つ……いや、な?………ツナ?って違う。これは別の作品だ。そうじゃなくて……」
「待て!ナツ!!」
「そうだ!ナツだ!って、え?」
思考の海から抜け出し、目の前に目を向ければ。そこにはもう目と鼻の先に迫った少年の姿。
咄嗟の事で避ける事も出来ず、鈍い音を立て額が衝突した。
これは────戦闘民族の妖精の物語。
メインで書いてる作品がスランプになってるので気分転換のつもりで書きました。続くかは知りません。