夕陽の商人 褐色の守銭奴   作:渓雅 楓

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ダンピールと。

「コイを14匹にカワカマスが8匹、ウナギが5にマスが20匹。完璧ですね。ではいつもの条件で。」

 

積荷を確認し、朝一で村を立ったのはかれこれ9時間ほど前。

 

秋の柔らかな日差しを受けながら荷馬車でのんびりと進み林で夜を過ごし、昼前にはハルファーの街へと魚を卸す。

 

今年で21となる魚商人カルドヴァ・オーガストはそんな予定でこのいつもの行商を行う予定だった。

 

村からハルファーへは森があり、危険を避けるためにわざわざ迂回して薪取りに使われている人の手の入った林を抜けていく予定だった。

 

だが人の手の入った場所というのは人ならざるものを避けられても人は避けられない。

 

そのことを教えられるかのように御者台のカルドヴァは銃を突き付けられていた。

 

水平2連散弾銃。

 

その2つの銃口は悪魔の目のようにカルトヴァを見つめる。

 

風に揺られた木の葉がひらひらと落ちていき、ショットガンの銃口を一瞬隠す

 

「さて、食料を貰おうか。」

 

ショットガンを持つ背の高い野盗が言う。

 

「その赤い目、吸血鬼ですか。そんな事をやっていると直ぐに恥だとしてノスフェラトゥが襲ってくるそうですけど。」

 

「余裕があるのはいいことだ。お前を殺すほうが手速いのになぜ殺さないか、今考えているな。とりあえず腰の銃をこっちに投げな。そのほうが邪念も生まれないだろう?」

 

その言葉に従い、左腰のリボルバーをゆっくりと逆手で抜いて女の方へ投げる。

 

「私を殺さない理由はいくつかあると思いますけどもう一つ追加しません?私は魚のプロだ。貴方が捌いて焼くよりも圧倒的に美味しく調理できる。どうです?」

 

野盗はショットガンを突きつけたままゆっくりと銃を拾う。

 

「それはありだな。私としても今晩の夕食が手に入ればいいんだ。」

 

「なら銃を下ろしてくださいよ。怖くて何もできません。」

 

「まあいいだろう。荷馬車よりも私のほうが早いしな」

 

そういって御者台に乗り込むとカルドヴァの隣に座る。

 

荷馬車はゆっくりと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「お名前は?」

 

「なるほど。吸血鬼のことを多少はわかってるってわけか。」

 

吸血鬼は本名に近い偽名しか名乗れない。

 

名前と、ちらりと見える顔の入れ墨に褐色の肌で相手が誰か推測しようとしたカルドヴァだが読まれていた。

 

「だがこの状況でそんだけ頭が回るってことは十把一絡げの商人風情ってわけではなさそうだな。」

 

カルドヴァは手にかいた汗を手綱で拭きながら考えを巡らせる。

 

「気に入ったぞ。私はラミーカだ。ラミーカ・クロムウェル。普段は商人の護衛をやってる。一応言っておくとダンピールだから偽名も名乗れるがこれは本名だ。」

 

吸血鬼とのハーフ。

 

そう分かってカルドヴァは安堵の表情を見せた。

 

少なくとも血を取るために殺されることがないからだ。

 

「私はカルドヴァ・オーガスト。エピの村の魚商人です。」

 

「エピの村の魚か。それは期待出来そうだな。」

 

そしてカルドヴァはゆっくりと馬を減速させ、道の端に荷馬車を止めた。

 

手綱をしっかりと木に結びつける。

 

その間もミカエラは木にもたれながら銃を突きつけていた。

 

「逃げないから銃向けるの辞めませんか?ダンピールなら俺なんてすぐ殺せるでしょう?」

 

「いいからさっさと薪を集めて料理しろ。じゃないとお前を殺して食うぞ。」

 

「それが脅しになるとでも?」

 

ダンピールは血を吸わなくても生きていける。

 

それを知っての発言だった。

 

「殺すことは人間でもできるからな。私が引き金を引いたらどうなるか。わからないお前じゃないだろう?」

 

カルドヴァはビクビクと薪を集めた。

 

そして木を組んでそこに鍋を吊るした。

 

炭化した布に火花を落とし、乾いたわらで包んで火を付ける。

 

「ほら火も付け足し日も暮れかけてます。もう逃げられないでしょう?だから銃はしまいましょう。ラミーカさんも私に食べさせられるのは嫌でしょう?」

 

ミカーラはもたれかかっていた気に散弾銃をかけた。

 

そして顔を隠していた布を下ろす。

 

焚き火の燃え差しで煙草に日を付け、ゆっくりと煙を彼方へと吐く。

 

その顔は、キツイ目つきで万人受けする顔ではなかったがかなり整った顔立ちだった。

 

一瞬硬直したカルドヴァだったが今が好機と見るやいなや腰に挿したトマホークで襲いかかる。

 

だがその刃はラミーカが左の逆手で抜いたサーベルのナックルガードで受け止められる。

 

「お前が持っていいのは包丁だけだな。」

 

そう言いながらサーベルを収めるとと右手でトマホークを奪い、細い棒でも折るかのように半分に折った。

 

「お前が持っていいのは包丁だけだな。」

 

そしてロープをカルドヴァの首に縛り付ける。

 

「積み荷も銃も置いて逃げると思いますか?」

 

「右脚の銀のナイフを捨てたら考えを改めよう。」

 

カルドヴァは黙って右脚の銀のナイフとコートの下に吊っていた銃も捨てた。

 

「偉いぞ。じゃあ料理だな。」

 

じっとカルドヴァが睨む。

 

「考えは改めたよ。商人カルドヴァ。お前は危険だ。」

 

「分かりましたよ。何が食べたいですか?コイとマスと、カワカマスを積んでますけど。」

 

最も高級な鰻の事には触れずにカルドヴァが品揃えを教える。

 

「じゃあ鰻を頼もう。」

 

そう言うと一匹のネズミが荷台から飛び出す。

 

そのネズミはそのままの勢いでラミーカの手に吸い込まれていった。

 

「使い魔には警戒した方がいいな。」

 

そう言うとカルドヴァの首の紐を引っ張り荷台へと連れて行く。

 

「この鰻が一番脂が乗ってて旨そうだったな。こいつを貰おうか。」

 

的確な目利きだった。

 

ハルファーの街の警備隊の大尉へ納品する予定の品だった。

 

「それよりも右隣のやつの方が脂の量は少ないですが質はいいですよ。

 

新顧客開拓の為に持ってきたかなりいい鰻だが、納品できないことは避けたい。

 

カルドヴァは天秤はそう傾いた。

 

「次からは樽に納品先を書くのは辞めるんだな。」

 

そう言って水のたっぷり入った樽を軽々と持ち上げる。

 

そして火の横に置くと樽の上面を割る。

 

じゃあ楽しみにしてるぞ。

 

そう言い残すと紐を近くの木に縛りつけ、そのままもたれて寝始めた。

 

カルドヴァは溜息を付くと荷台から木の板と釘を取り出す。

 

 

 

 

 

 

 

ラミーカが起きたのは木々に遮られて夕陽が森に入らなくなった頃だ。

 

「完成したか。」

 

グツグツと煮えている鍋を見てハルファーがそういった。

 

「鰻と香草、燻製にした鮒をワインで煮込みました。ご一緒にパンは如何ですか。」

 

「あれだけ逃げようとしてたのにな。」

 

「もう色々と振り切れました。」

 

「それは方便だろう?実際は寝ている私の見目麗しさに恐れおののいた。どうだ?」

 

「さあね。その身長に声で女性だったんですね。今知りましたよ。」

 

それを聞いてニヤリと牙を向いて笑う

 

「嘘だな。じゃなかったらもう逃げているだろう?お前が逃げないのは私の顔をまじまじと見て」

 

そう言いながらぶつ切りの鰻を骨ごと噛み砕く。

 

そして目を見開き、もう一つ鰻を食べた。

 

「お前魚商人より料理人のほうが向いてるんじゃないか?」

 

「でしょう?自分でも天才的だと思いますね。」

 

パンの上に鰻と香草を起き、カルトヴァがかぶりつく。

 

「大体、漁師も私もこんないい鰻を食べる機会は無いんですよ。」

 

「こんな旨いのは高級取りの私も初めてだ。」

 

「商人の護衛でしたっけ?そんなに儲かるんですか?」

 

ミカーラは咀嚼していた物を飲み込んでから言う。

 

「私がいれば森でもメトロメトロ地下道でも抜けていけるからな。速さがそのまま金になるわけだ。」

 

「強盗とどっちが儲かります?」

 

「強盗だな。これが初仕事だがこの飯なら十分な儲けだ。」

 

そう言って鍋を直接掴んで汁を飲む。

 

「護衛の仕事はクビに?」

 

「ああ全員首にしてやった。初めての客だったんだが森の途中で私をレイプしようとしてな。ムカついたから全員首だけさ。」

 

そう言って腰に指したサーベルを叩いた  

 

「今どきサーベルですか?銃があるのに。」

 

「地下道の亜人共や森の獣は結局近接戦になるからな。持っておくと便利なのさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を終えた二人はそれぞれ荷台と御者台で眠りに着こうとしていた。

 

日は落ちきっており、明かりは木々の隙間から射し込む月光と赤い燃え差しだけだった。

 

「ダンピールは夜寝るんですか?」

 

毛布にくるまって荷台の隙間で寝転がるカルドヴァが言った。

 

「吸血鬼にも二種類いるのは知っているな。」

 

「生まれたときから吸血鬼のノスフェラトゥとノスフェラトゥに吸血鬼にされた普通の吸血鬼ですよね。」

 

「正解だ。私はノスフェラトゥと人間のハーフだから実のところ睡眠はさっきので十分。」

 

そう言うとなるほど。と言ってカルドヴァは眠りに落ちそうになる。

 

「じゃあなぜ貴女は寝るんですか?と聞いてほしいところだな。」

 

「誰かさんのせいで今日は疲れたんですよ。まあいいです。じゃあ何故貴女は寝るんですか?」

 

「それはな。眠った方が人間らしいからさ。」

 

「人間らしさね。」

 

 

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