がっこうぐらし! Megatenist No Faith.√ 作:グレンフォード
なお、内容は本編とはおそらく、きっと、多分、関係がありません。
閑話//としこし!
「はぁ~……平和だねぇ~」
私立巡ヶ丘学園旧生徒会室、現学園生活部部室の中央。リノリウムの床に、タイル式カーペットを広げた上に、堂々と置かれている場違いなコタツに潜りながら、黒髪を一房後ろに結んだ少女――『祠堂 圭』が、コタツの天板に身体を委ねながらはふぅ、と零す。
「こら、けい? 確かに今は平和だけど、ちょっとだらけ過ぎじゃない?」
そんな圭に、呆れた、と言わんばかりの視線を向けながら苦言を呈する、アッシュブロンドのショートヘアの少女――『直樹 美紀』。
「えー、たまにはいいじゃん。せっかくゆっくりできるんだしさー。ねー、ゆきちゃんパイセン~?」
「そうだよみーくん。けーちゃんのいうとーり、ゆっくりできるときにはしっかりとだらけたほうがいいんだよ~? ……ぁむ、ぁう、すっふぁい」
その苦言に、圭は同じく隣に潜っていた、ピンクブロンドのセミショートヘアな小柄な少女――『丈槍 由紀』に同意を求め、求められたほうも全力で――精一杯だらけながら――同意を返し、おもむろに目の前に置いていたみかんを一房口に含み、それの酸味が予想よりも強かったのか、その愛らしいと言える顔を顰めた。
そんな二人に、軽く頭を抑えつつ“先輩まで……もぉ”、とため息をつくと、それにしても、と窓から外を見やる。
「本来なら、もうそろそろ用意し終えてるころ、なんだよね……」
その瞳が映すのは荒廃した世界、なれどかつてに想いをはせて。そしてそのまま滑らせた瞳の先は、すでに残り一枚となっていたカレンダーに向かう。
その紙には、いろいろな色で、都合30個の×印が刻まれていた。
――12月31日。それが、かつて暦と呼ばれていた括りに於ける、今日と言う日を端的にあらわす言葉であり。
即ち、本来なら世間が、さらには世界が新たな門出を迎える最後の準備を行い、あるいは終えている“筈”の日でもあった。
「……大丈夫かな、先輩も、あやねも」
そして美紀の思考は、その場にいない人物のうちの二人へと向かう。その胸にあるのは、8割方の心配と、2割方の不満や憤りが混ざり合った、少しだけ複雑な想い。
――二人は大丈夫だろうか。いや、きっと大丈夫。というかそもそも、だ。
「思い込んだら一直線。確かにそれはあやねらしいよ? ――けどね?」
――それでも、事前に一言ぐらいあってもいいと思う。それがたとえ必要なことだとしても。そして、元々があやねの発案じゃなかったとしても。
「それで、いつもの
――それで心配する人がいるってことくらい、いい加減判ってほしいと思うのは……そう『想う』のは、間違っているのだろうか?
「け、けーちゃん、みーくんがこあいよぉ」
「ぅぁ、なんまんだぶなんまんだぶどーまんせーまんどーまんせーまん……荒ぶる
――妖しい輝きを宿した瞳で壮絶に
その光景を疑問に思った姉妹の姉、ダークブラウンの長髪で、左の前髪を一部だけくるりと括った豊満な少女――『若狭 悠里』は、ありのまま(若干脚色が入っていた、と震えていた少女たちは後に語る)説明され。
説明を受けた悠里もまた、同じような美しい、それでいて壮絶な笑みへと表情を移したことで、震える少女の中に一人、その妹である栗色のロングヘアの少女――『若狭 瑠璃』の姿が加わったとかなんとか。
「ぁぅぁぅ、りーねぇがこわいの……ぁぅぁぅ」
「二人ともこあい……なんか笑顔でも目がこわい……」
「はらいたまえきよめたまえはらいたまえきよめたまえ主よ哀れな子羊に愛の手を……」
なおこの事態はさらに数分後、帳簿代わりの家計簿ノートを手に、くたびれた様子でピンクブロンドのロングヘアをした女性が入ってくるまで続いたと、関係者から証言が出ているのだとか。
なお、それにより“今は抑えて、来るときに一気に開放しましょう?”という“
……“知らぬが仏”とはよく言ったもの、なのだろうか?
――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――
――事の発端は数時間前に遡る。
おおよそ朝とは言い難いが、それでも昼と呼ぶにはまだ早いと言われるだろう時間。学園生活部部室にて、その中央に置かれたコタツにいそいそと潜り込んだ、緑味を帯びた黒髪をショートで無造作に流した少女――『沢代 理音』が、それまでの結果などを軽く全員に伝えた後のこと。
「……そういえば、今年はどうしましょうか?」
ふ、と思い出したかのように言う彼女に、棚に置かれたポットから湯を注いだカップを持っている、艶やかな長い黒髪を両側頭で結んで流した少女――『恵飛須沢 胡桃』が胡乱な視線を向ける。
「んー? 今年? どうするって、なにをだよ?」
そういって、手の中のカップから、今となってはとても貴重だと言える、赤みを帯びたこげ茶色の液体をそっと啜り……そして“あちっ!”と口を離す胡桃に、だってほら、と視線を壁に、もっと言えばそこにかけられた物に滑らせる。
「ぁっつつ……ぁー、そうだなぁ。……もう、そんなになるのか……」
その視線の先を追って視線を移した胡桃もそれを――壁にかけられたカレンダーを確認すると、思わずとも視線が遠くに飛んでいく。
その脳裏には、かつての幸せな、あるいは甘酸っぱいような、そんな平和な日常が映っているのだろうか? と思ってしまい。そしていつもの快活なものから想像できないほどのはかなげな表情に、理音は思わず息を呑む。――その表情が、なんだかいつも見ている生活部の先輩とは結びつかないほど、それほどまでに艶かしく見えたから。
「――ぁ、の。せ、先輩?」
「――ん? あ、あぁ、悪い。で、どうするか、か……」
理音の言葉に我に返った胡桃は、むー、と頭を軽く抱えつつ、そのままコタツの近くにあった椅子を傍に引っ張ると、背もたれを抱えるような格好で座り、カップの中身を今度はゆっくりと慎重にすすり上げた。
そしてふう、と息をつくと、むむむ……と首をひねってから、そういえば、と視線を理音の手元、彼女の持つスマートフォンに向け。
「なあ、あやね?」
「はい? どうしました?」
その特殊性を思い出した
――ちょっとりーさんやめぐねえには悪いかも、だけどさ?
――その提案は、まさしく
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そして時間は冒頭よりもちょっとだけ前。まだ明るいものの、あと少ししたら日も翳ってくるような時間。
「おーい、そっちはどうだったー?」
「はいはーい、ちょっとこれが……あ、ありましたー」
「おっけ、でかしたっ!」
かつて何かの工場だったであろう敷地の中、倉庫と思しき場所に、件の二人の姿はあった。
自家発電なのか、奇跡的に未だ電子的な設備が生き残っていたその施設のロックを理音のスキルでこじ開けた二人は、中に居た未だ勤勉な“かれら”全員を
やがて目当ての物――その施設を統括している端末――を見つけた二人は、興奮で頬を上気させつつ作業をこなしていく。
「――シッ! 先輩、在庫確認できました! やっぱり倉庫にあるようです!」
「りょーかいっ! こっちもアシは見つけたから乗ってくれ、ナビ頼んだ!」
「はい、じゃあ後ろに失礼します。で、そっちの突き当りを――」
理音のナビどおりにアシ、もといそう呼んだフォークリフトを動かしていく胡桃。どうやらうまく保存されていたようで、二人の少女を乗せてはいても、そのエンジンは軽快に回る。
やがて目的の場所にたどり着いた二人。そこにあった端末を確認した理音は、フォークリフトから降りるとスマートフォンを片手にその端末に近づいていき――端末の接続部分に、スマートフォンからつながるケーブルを差し込んでなにやら画面を操作する。と、ものの数分で管理者権限を掌握したのか、何の抵抗も見せずにロックが解除される音が響いた。
「っと、ロック解除。やっぱりこの手に限るね。先輩」
できたよ、と目配せしながら、そのままドアを操作して開放する。
どうも室内の空調は勤勉であったらしく、十全に動いていたそれが、外に居た二人に風を吹きつけた。思わずそれで閉じてしまったまぶたを、手を翳して守りながら再び開いていく二人。と、そこには。
「こ、これは……先輩――」
「ああ。……これなら――」
「「きっちりと年を越せる(よ)っ」」
山のように、とまでは行かないものの、大きな袋に入った何らかの――いや、隠すことはないので有り体に言ってしまおう。中身のたっぷりと詰められ、その正面に堂々と“国内産蕎麦”と書かれた大袋が、木製パレットの上に数十袋。
流石に全てを持っていく、とまではいかないため、端に積まれていたパレットに幾袋かを積みなおす必要こそあったものの、それでもその物資収益には二人の表情も晴れやかで。
その後、それを今回乗ってきた――以前ショッピングモールだったかホームセンターだったか、はたまた
――確か、学園の地下倉庫には、少量ではあるけれどもち米もあったはず。倉庫にはイベントで使われていた臼とかもあった筈だし、何なら石臼とかも――
今後の物資調達に思いを馳せる理音と、学園に待つ皆の驚いた顔を想像して思わずニマニマとしてしまう胡桃。そんな中。
「ふぅ、じゃあ―――ッッ!?」
「ん? どうしたんだアヤ、急にビクッてして……風邪か?」
ゾクリ、と。氷柱を背中につきたてられるよりも、なお冷たい悪寒が、理音の、そして――
「い、いえ、そんな感じじゃないんですけど……なんかこう、厭なというか、マズいような感じが……」
「なんだそりゃ。ま、風邪とかじゃなきゃいいけd―――ッッ!?」
胡桃の背を駆け抜ける。
「ふぇっ? せ、先輩?」
「――ぁ、い、いや何でもない……うん、なんでも。あ、あたしもなんかヤな感じがしただけさ……」
ハハハ、と未だ背を伝う冷や汗をそれは奇しくも、理音の幼馴染と生活部の差配者である部長が、艶めかしくも壮絶な笑みを浮かべた頃と時をほぼ重ねていたのだが……今の二人には与り知らぬことであった。
「せ、先輩? ……ま、まさかりーさんに怒られるとかはない……ですよ、ね?」
「は、HAHAHA、ま、まままさかかかかか、みきとかもきっと、ゆ、ゆゆゆゆ……」
「せ、せんぱい? どうして目を逸らすんです? どうしてそんなに震えているんです? ねぇ、先輩? 先輩ぃぃぃッ!?」
ドッタンバッタン。狭いと言うほどではないものの、かといって決して広いとはいえないトラックの車内で、震え言い合いながらも、目の前に迫る恐怖から必死に目を逸らし続ける二人。
その先に待つ
―・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・―
そして、事は数十分後。二人が無事に学園に着いてから動き出す。
かれらを避けつつ、あるいは排除しつつ、車を駐車場に停め、その上であたりが安全であることを確認した二人は、そそくさと
そしてお互いに、その物資にどんな反応を示すだろうと――先ほどの悪寒を無意識に無視して――思いつつ、それを部室へと運んでいく。時に二人で担ぎ、時には紐などを利用して。
その作業自体は二人とも慣れたもの。本来なら大の大人でも苦労するそれらの作業を、手製の器具などを駆使してなんと言うこともなく校舎内、張り巡らされたバリケードの内へと運び込んでいく。
そして、無事に生活部の部室の前へとたどり着いた、のだが……。
ゴクリ、と。どちらともなく――否、おそらく二人ともか――同じタイミングで、そこから漏れ出してくる異様なオーラに、思わず息を飲み込み、互いに顔を見合わせ……そして二人ともが図ったように、意識することなく声を最大限に潜めて話し合う。
「……先輩? 私の気のせいだといいんですが……?」
「……あ、ああ。きっと、気のせいだろ。……先、入っていいぞ」
「い、いや先輩こそ、先に入って休んで? 疲れてると思うし……」
「あ、あたしはだいじょうぶだって。……アヤこそ、ソレで疲れてるだろ? だから――」
それはある意味、生物としては当たり前の行動に帰依するものであり――
「ええ。そうよね? 二人ともとーっても働き者なんだもの。“そ・れ・は・そ・れ・は”疲れているわよねぇ?」
「ふふふ、お疲れ様ですあやね、先輩? 今日も“と・っ・て・も”上手くいったみたいですねぇ?」
「そうですねぇ。二人とも、“心配させないために何も言わず”に、いっぱい荷物を持ってきてくれているみたいですから」
「「「ねえ、恵比須沢さん(先輩)、沢代さん」」」
「「――――ッッッ!!」」
――この期に及んでは、まったくの不正解だった、と言えよう。……尤も、今日この時に於いては、恐らく“正解”と言うものは無かったのだが。
とはいえ、その正解の無い中でも数多ある選択のうち、二人が選んだのは最も“間違いポイントの大きな”選択肢の一つではあったのも、また事実であった。
ビクリ、と肩をふるわせた二人。まるで関節の油が切れたかのように、ぎこちなく視線をドアに向けるとそこには。
「お帰りなさい、二人とも。さて、お話の時間ね?」
「ふふ、二人にはたっっっくさん、聞きたいことがありますからね?」
「準備ならすべて整っています。ですから……」
顔だけを見るならとても綺麗で、尚且つ妖艶とも言えそうな艶やかな、しかしながら目が笑っていないどころか、そこからハイライトさえも夜逃げしたかのように怒りや、あるいは別の感情を湛えて濁り切った瞳の笑顔をした学園生活部の意思決定担当の三人(りーさん・めぐねえ・美紀)の姿と。
「「……(なんまんだぶなんまんだぶなんまいアーメン……)」」(ガタガタブルブル)
「ぅぅ、りーねぇとみきねぇがこわいの……」(ガクガク)
部屋の隅で固まりがたがた震えて祈りをささげている、学園生活部のムードメーク担当三人(=ゆき・けい・るーちゃん)の姿と。
「「あ、あの、これは……」」
「「「お話はあと(よ)(ね)? ここ(に)、正座(。)(よ)(ね)」」」
促された二人が進む先に用意された、足ふみ健康器を複数個使って作られた、固くて痛そうな座布団であった。
「「―――――ッッッ!!!」」
……なお、断末魔の叫びを上げた二人が解放されたのは、そこに正座をさせられてから大凡90分が経った頃であり。
その上で
……だがこれは、いくらサプライズだとは言え、他の部員たちに全く相談することなく行動に移してしまった二人の落ち度と言えよう。
そして、その上でただこう言うのみ。――さもありなん、と。
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「うぅ、ひどい目にあった……」
先の惨(喜)劇から数分程。
立たぬ足を何とか動かし、漸くと言った体で部室内のソファに腰を下ろすと、背もたれに体重を預けきりつつはふぅ、と零す。
「ま、全くですね……確かに、何も言わなかったのは悪いとは思うけどさぁ」
ひどいよ、とその言葉に、これまた完全に力を抜いてコタツから応え、続ける理音。先ほどの
そこに、哀れみを湛えつつも、若干呆れを混ぜた声が掛かる。
「アハハ……お疲れ。でも二人もちょっと、ねぇ?」
「だよねぇ。どこへ、とか何を、とか何も無く、ただ“ちょっと出かけてくるから”なんて言って出てっちゃうんだもん。怒るのもとーぜんだよね」
「……あやねぇ、くーねぇ。……じごうじとく?」
「「ぐはぁ」」
幼いが故、摺れてないが故に放たれた悪意の無い一言が、的確に二人の心を抉る。
それが致命的な一押しとなったのか、そのまま二人の身体から最後の力が抜けていき、そこから二人が立ち直るまで、数分を要したと言う。
「ぁぁ……と、ところで、ゆき達だけか? 三人は今何を?」
先に立ち直ったのは意外にも、と言うか、或いは当然と言うべきか、胡桃の方だった。そして、当然のごとく、今ここにいない人物について問う。
「うん、りーねぇとめぐねえせんせーは、ふくろの中の……そばのみ? をもって、かていかしつまでいくんだって」
その疑問に答えたのは、生活部最若年の少女。どうやら姉より、メッセンジャーの役目を受けていたようだった。
次いで、反省したらすぐに来てほしい、との発言も、続けて今回の
その言葉に、一旦は首をかしげる一行だったが……
「……あ、そうか、殻をむかないといけないから」
「「「あ~」」」
その中身を思い出した由紀の言葉に、三人の言葉が重なった。
「?」
なお、メッセンジャーだった幼女はその後しばらく首をかしげていたと言う。
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その後は、まあ忙しない時間が過ぎて言った。
しっかり反省しているかと、改めて念押しされた二人。ビクリ、と肩を震わせる様子に、今後は独断専行は慎むように、と慈からの有難い(ものの威厳のかけらも無い)お言葉を戴き、二人そろって改めて謝罪すると、それでこの話はおしまいだ、と言わんばかりに仕事を振られる。
そして振られた二人は、せめてもの罪滅ぼしか、或いは先ほどの
――倉庫から引っ張り出されてきたと思しき石臼で、もってきた実を引くこと数回。見事に粉となった実を三人とともにキッチンへと運ぶと、後は私達の仕事よ、と言わんばかりにその場から追い出される二人。
「ぁー……にしても、だ、アヤ?」
「はいー、なんでしょー……」
ゴロゴロ、と、台車を使って倉庫代わりにしている教室に石臼などを運び込んだ帰り、徐に発された胡桃の言葉に、ふらふらしながらも返す理音。
その様子に苦笑しつつ、胡桃は悪かったな、と話す。
「ぁー、いえ、私の所為でもありますし。と言うか、きっと私も同じことを言ってたと思うから」
でも流石にキツかったですけどね、と言いながら、理音はその背をググ、と伸ばした。
そしてそのまま軽い雑談をしながら、二人は改めて部室へと戻っていく。
「まあでも、これで今年のうちに遣り残したことは……まあまあありますけど、それでも出来るだけのことは出来ましたし」
そもそも出来ること自体が減ったのだ、と言うのも半分、まだまだ出来ることはあるはずだ、と言うのも半分。故に“来年もがんばらないとですし”、とおちゃらけながら軽く力瘤を作る動作をする理音に、胡桃もそうだな、と微笑う。
その表情は、若干複雑な感情が篭りながらも、それでも晴れやかだと言える、見る人(大体圭あたり)が見れば“オトナの女性”だと評しただろう、そんな表情だった。
そんな、普段の姿からは想像できないような綺麗な笑みに。
「――!? せん、ぱい?」
――トクン、と。僅かに理音の胸が高鳴ったような気がしたのは、彼女自身の錯覚か。
「おーう、あたしだぞー。どうしたんだー?」
「――ぁっ、いえ、なんでも。ね。……(気のせい……ううん、そうじゃなくて、かな)」
一ついえること。それは“あの日”から、季節が二つは移り変わった、と言うことだろう。即ち――多感な年頃に、その時間は決して短いとは言えない、ということだ。
「おうおうなんだよー、一緒に説法うけた仲じゃんかぁー」
「(クスッ)先輩、それじゃなんか違いますって。説法じゃお坊さんか神父さんが必要じゃないですか」
「おー? なんだなんだ細かい事言ってんなよぉ。先生かアヤは」
ころころ、と。かわる話題に転がる笑い声。それは、部室の中に入る頃まで続いていたそうな――。
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「はい、お待たせ、みんな。お蕎麦が上がったわよー」
「「「「「「はーい(やったー)(おおー)(なのー)」」」」」」
「熱いので気をつけてくださいねー?」
それから数時間。まもなく日付も――そして、年も移り変わろうかと言う頃。
普段はすでに寝付いている事が多い一同も、この日は全員がしっかりと起きていた。――そう、年越しを起きて迎えるために。
「ソレにしても、何とかこの日を迎えられたわね。みなさん、本当にお疲れ様」
「んー、あったかぁい。そーだねー、ズズ、ほんふぉ……んく、ハフ、たいへんだった……ズルル、ハムハム……ん、からねーぁむ」
「もー。ゆき先輩、食べるか話すかどっちかにしてください。るーちゃんを見習って?」
「ん、んく、んく、ぁむ。……んー、おいひぃね、りーねぇ」
「そうね、るーちゃん。でも熱いから焦らないでね? お蕎麦は逃げないから。ゆきちゃんも」
「そうですよ? だいたいゆきちゃんは――」
いつもなら、この時期には各家庭で行われていただろう団欒。それは、一時ではあれど、確かに“かつて”を思い起こさせる、暖かな一時。
「……ね、あやね?」
「ん、なーに、みき」
「あったかい、ね」
そんな時間を、少しだけ距離が近いような、かわいい幼馴染と。
「そーだね、みき、あやね」
「とと、けい。――そうだね、あったかい」
仲良くなって久しい、こちらもかわいい悪友(親友)と。
「―――」
「――、―――。―――――」
「――――? ―――――、――」
「――――――」
そして、騒がしくも暖かな、先生や先輩達と。
「――――? ……ぁ、鐘の音が聞こえるような」
「んあ? ゆき、聞き間違いじゃ――」
「ううん、お外から聞こえてくるの。ちいさいけど」
「あらあら、もうそんな時間。ゆきさんとるーちゃんが言っているのはきっとあのお寺ね。この間胡桃さんたちが――」
気づけば、時計の針はどちらも真上を通り過ぎ、世界は時を跨いだことを示していた。
「――ね、あやね、けい」
「はーい、なーにー?」
「ん、みき、そうだね。けいも」
「おおう、あやねまで。どうしたって、そっか」
それを見た美紀がテーブルに器を置いて、隣にいる
二人もそうだね、と器を置くと、ゆっくりとお互いに向き合って微笑み、そしてそのままコタツの向かい側/隣の辺にいる面々に、姿勢を正して向き直り、軽くみんな、と呼びかけて。
「「「あけまして、おめでとうございます。これからもよろしくお願いします」」」
と。綺麗に揃った声で、三人からの新年の挨拶を行って。
「――お、おう、よろしくな! みんなも!」
「そーだったっ! みんな、よろしく!」
「ええ、よろしくね。ふふ、先に言われちゃったわ」
「はい、よろしくお願いします。でも無理はしないでね? 先生も心配ですから」
「よろしくおねがいします、なの。あやねぇ、みきねぇ、けーねぇ」
そしてめいめい、新年の挨拶をしていくのだった。
――
小さいながらも、力強く拳を、気炎を上げていく一行だった――。
――そして。
「で、あたしは何時まで生地を練ったり茹でたりし続けてればいいんだろうな?」
「「「「「「「「あ゛。ご、ごめんなさい(です・なの・すみませんでした)っ!?」」」」」」」」
ほとんど話に加わらなかったが為か、見事に面々(と作者自身)に存在を忘れられていた、ショートカットにメッシュを入れた、チョーカーをつけた少女――『柚村 貴依』の静かな怒りが、数分後、部室の中に響くのだった。……貴依、正直スマンかった……。
はい、書くだけ書いていたものの、全く間に合わなかった年越し話でした。取り合えず、私の仕事始めはまだなので正月だ、と言う強弁をしてのネタ出しでした。今年はこの娘達全員(残り一人)+αが出せるように書ききっていきたいところです。
あと本当に最後近くになるまで、チョーカーさんの存在をトばしていたもよう。あのさあ……。
ま、まあ何はともあれ年が明けてしまいましたが、皆様今年も、どうか拙作をよろしくお願いします。
昨年は結局“生きてるだけで、それでいい”と言う、ある意味Kちゃんに真っ向から喧嘩を売るような年となってしまいました。いろいろと被害が大きかった年にもですね。
願わくば今年こそ、明るい話題にあふれる一年となってほしいものですね、と言う祈りとともに、今回は失礼させていただきます。
尚、今回の閑話は、正式な4話が書け次第頭の方に持っていく予定ですのでご理解頂けると幸いです(小声)。
それでは結局正月休みの間、ほとんど何もできなかったので失踪します。