ウィザード・ディテクティブ~魔術探偵ホタル   作:天木武

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Episode 7-3

 

 

 初日の調査を終え、穂樽は事務所兼住居へと戻ってきていた。結果的に現時点で収穫は無し、まだ一応情報待ちの状態ではあるが期待はできない。ほぼ無駄足だった、と言い切ってしまってもいいかもしれない。

 

 バタ法を出た後、アゲハが手渡してくれたもよの住所が記されたアパートを訪ねてはみた。が、案の定彼女はいなかった。いや、いないどころかそこに普段からいるのか怪しいのではないかと、探偵のカンで感じ取っていた。

 そのまま帰るのも面白くない。穂樽は当初から当てにするつもりでいた知り合いの刑事である江来利(えらり)クイン警部を呼び出し、もよの魔術届け出、及び警察データベースに情報がないかを調べてもらうように頼んだ。ここ最近いいように、しかも彼女の身内ばかりを調べてもらうような行動に不承不承ではあるが、クインは頼みを聞いてくれていた。

 今、帰宅後の一服をしながら穂樽はその連絡を待っているところである。しかしどうにも今日は空振る気がしていた。

 煙草を吸い終えた頃、携帯が震えた。クインからではあったが、メールではなく着信。それに先ほどの嫌な予感は的中したとなんとなく悟る。

 

「はい」

『ああ、あたしだ。なあ、聞きたいんだがわざわざ頼み込む必要あったか? 調べてみても魔術届出なんてあるはずがなかったし、データベースにもこれと言って何も無し。だからメールじゃなくて電話した。あたしはあんまり話したこと無いからわかんねーけど、なんか引っかかることでもあったのかよ?』

「いえ、さっきも言ったと思いますが、調査ですので一応です。すみません、お手を煩わせて」

『かまわねえよ。あたしの貸しが着々と増えていくってのは、まあ悪いことではないだろうからな』

 

 電話で話しつつ、顔に苦いものが浮かぶのを穂樽は感じていた。どういう形で返済を迫られるか。考えるのもあまりよろしくはない。

 

「……お手柔らかにお願いしますね。飲みでしたら喜んで承りますが」

『もうちょっと色つけてもらうかな。ま、思い出した頃に返してもらうよ』

「ともかく、ありがとうございました。またよろしくお願いします」

『一応断っておくが、あたしはお前の使いっぱしりじゃねえんだからな。その時はきっちり貸しが増えていくんだから覚えておけよ。それじゃあな』

 

 気軽そうな声と共に通話は切れた。通話が終了をしたことを確かめ、穂樽はポツリと呟く。

 

「……貸しを返せるまで私もあの子も無事でいられたら、喜んで返しますよ」

 

 ソファに深々と体を預け、天井を仰ぐ。結局今日の進展は何も無し。もよには異変があった様子も無く、先週までは今日から休むことを感じさせてもいなかった。

 

「穂樽様、やっぱり気のせいだったと思うニャ。居住区にいたから見てはいニャいけど、使い魔である私は昨日ニャにも感じニャかったニャ」

 

 と、そこで横から使い魔のニャニャイーが口を挟んできた。今の言葉通り、彼女は昨日もよが来たということすら気づかず、浅賀と同じようにひとつ前の客の存在しか認知していなかった。穂樽がもよと話し、それから苦悶の声を上げていたあの間はまるでなかったかのように発言している。ただし浅賀の発言と違う点として、ニャニャイーは前の客の男が帰った後、2度連続して扉の鈴の音を聞いているというところがあった。

 

「ねえ、もう1度確認するけど、私と女の人の会話も、私の悲鳴も聞こえなかったわけ?」

「だから聞こえニャかったニャ。扉の鈴を2回連続で、付け加えるとするとその2回目の前に穂樽様が待つように言った言葉を聞いただけニャ」

 

 穂樽は頭を抱える。もよと話していた時間が無かったかのようになっている。あの時間が、実は自分が見た白昼夢か何かで本当は存在していなかったのではないかとさえ思えてくる。

 しかしその時言ったようにもよは今日からバタ法に姿を見せていなかった。携帯も繋がらない。その点は確かに合致している。

 

「夢でも見てたんだと思うニャ。依頼人が帰って気を抜いて寝ちゃって、誰か来た時に目が覚めて追いかけた、とかじゃニャいかニャ?」

「……だったらどれだけ気が楽なことだか」

 

 太股に走った激痛とそこから血が抜けていく感覚、そして嗅覚を支配した血の臭いを思い出す。幻影魔術にしろ実際に傷つけた後に治療したにしろ、あんな真似は普通のウドには絶対に無理な芸当だ。

 

「幻影魔術もあるなら……鎌霧(かまきり)さんに話聞くのも手かな。あの人なら色々知ってそうだし」

 

 元バタ法の弁魔士、鎌霧飛朗(とびろう)は現在90歳という高齢のため、穂樽がバタ法を抜けた翌年に引退し、今は隠居生活をしている。それでもまだまだ元気で、頼めば相談に乗ってくれるとアゲハは言っていた。彼は幻影魔術使いであるため、そこを当たるのもありかもしれない。名簿を探し出して彼の住所を調べるか、と穂樽が思ったその時。

 突然プライベート用の携帯が鳴った。メールかと思って手に取ると、そこには「非通知設定」の文字が浮かんでいる。訝しげにそれを見つめてから、穂樽は通話状態にして耳へと当てた。

 

「……はい」

『あ、なっち? もよよんだよ』

 

 思いもしなかった相手の声に、穂樽は目を見開く。

 

「もよさん!? 今どこに……」

『あーストップストップ。悪いけど質問は無し。伝えようと思ったことがあってかけただけだから。言うことを聞いてくれないならこの通話はすぐに切っちゃうよ。……オッケー?』

 

 電話越しにも、昨日のあの威圧感のようなものが感じられた。何より、手詰まり気味で藁にもすがる思いでいたのは事実だ。穂樽は静かに「……わかりました」と了承の意図を相手へと伝えた。

 

『うんうん、いい心がけだね。……どこにいるかは教えられないし、これは公衆電話からかけてることになってるの。でもなっちが早くも困ってるみたいだから、少しサービスしてあげようと思って』

「サービス……?」

『明日の朝、バタ法に電話してあげる。私は突然旅に出たくなったから急遽アゲハさんに連絡して家を出た。でも旅先で携帯を壊しちゃったから連絡がつかなくなってるけど、心配はいらないし来週には戻ります、本当にごめんなさーい、って内容。で、多分その時に、アゲハさんから今日なっちが事務所に来たってことを言われると思うから、私の履歴書やら何やらを開示していいって伝えておくね』

「なっ……」

 

 自分の行動が筒抜けになっている。どこかで監視でもされていたのかと背筋に冷たいものが走った。

 

『アゲハさんとはあまり話す気はないから、あくまで私の経歴を教えちゃっていいですよってことぐらいを伝えておくね。……まあ言っちゃえば無駄なんだけど。結局クイン警部からは何も情報を得られなかったでしょ? それがアゲハさんに変わるだけのことだよ』

 

 穂樽は完全に言葉を失っていた。意図せず携帯を持つ手が震える。やはり昨日のあれは白昼夢でもなんでもない、実際に起こったことなのだとわかった。そして改めて、彼女がその気になればセシルを「もらう」ことなど容易いのだと直感した。

 

『でもなっちは自分で確かめないときっと納得しないでしょ? だから自分で調べるといいよ。ただし条件をひとつ追加、もし私の経歴が詐称だとわかっても他の人に漏らさないこと。それから忘れないでね。期限は次の満月、日曜日の夜。……あまり時間は無いよ』

 

 最後の一言は、穂樽が知っている天刀もよからはほど遠い凄みがあった。昨日一瞬だけ見せたあの笑み、それを思い浮かべて僅かに身震いしながら返す。

 

「……ご忠告感謝します。でも、セシルはあなたには渡さない……。天刀もよの正体、必ず暴いてみせます」

 

 電話口の向こうから、無邪気に笑うような声が聞こえてきた。ややあってそれが落ち着き、笑いを堪えるような様子と共に返事が返ってくる。

 

『やっぱりなっちにこのゲームを提案して正解だったよ。すっごくいい答え。セシルんには到底叶わないけど、なっちも私のお気に入りだよ。……じゃあ私が何者なのか、正解にたどり着けるよう頑張ってね。そうしないと、今のセシルんの折角の努力も無駄になっちゃうし。私は楽しみに待たせてもらうから、探偵さん』

 

 一方的にそう告げられ、通話は切れた。携帯を机の上に放り投げ、煙草を1本取り出して火を灯す。

 

「穂樽様……」

 

 電話中、ずっと不安そうに見つめていたニャニャイーが声をかけてくる。一瞥してから穂樽は煙を吐き出した。

 

「……やっぱり昨日のは気のせいでも白昼夢でもなんでもない。本当のことなのよ。彼女は私が今日何をしたか、全てわかっている。おそらく私のちゃちな想像なんて遥かに超えた何かなんでしょう。そんな相手を無視することはできない。……もう私はルビコン川を渡ってしまっている。正解にたどり着くしか、残された道は無いのよ」

 

 セシルの夢を潰すわけにはいかない。「もらう」などという、彼女の都合だけで弄ばれてはいけない。深く煙を吸い込みつつ、穂樽は静かに心を昂らせた。

 

 

 

 

 

 翌日、午前中の内に予想通りアゲハから連絡があった。内容は完全に昨日もよが言ったとおりだった。

 

『もよちゃんから連絡があってね。なんだか急に旅に出たくなったとかなんとか……。平謝りしてたし、どうしてもって言うから大目に見ちゃった。それで携帯が壊れちゃって、丁度世俗からしばらく離れたかったところだし帰るまでそのままでいるって、公衆電話からだったの。あまり長く話す時間はなかったけど、穂樽ちゃんの依頼の件、軽く話したら来週戻ってから詳しく聞くって。使いたいなら私が持ってる履歴書だののデータを送っても構わないって許可貰ったから、メールで添付して仕事宛のアドレスに送るわね』

 

 アゲハの話は大まかにそんな内容だった。本当に旅に出た、で押し切ったところに驚いたが、よりありえない力を目撃していては別にそのぐらいどうということはないのかもしれない。

 それより、とタブレットPCを起動して送られてきたデータを確認する。が、軽く見ただけで、彼女の眉がしかめられた。

 

「穂樽様? どうしたニャ?」

 

 煙草の箱を開けて1本取り出して咥えてから、ニャニャイーの問いに答える。

 

「……当たりようがないかもしれない。におうわ、これ」

「煙草臭いかニャ?」

「まだ吸ってない。あと空気読んだ発言しなさい」

 

 事前の使い魔の抗議を無視して穂樽は火を灯した。そのままディスプレイを見つめる。

 

「父も母も既に他界、兄弟無し。データにはそうある。つまり血縁関係から当たるのはほぼ不可能ね。バタ法の入所は私の少し前……これはおそらく本当でしょう。とはいえ、それが本当でもどうしようもないけど。そうなると残されたのは……出身校か」

 

 昨日のもよの口調では詐称、と言っているようにも聞こえた。だが確認するまでは鵜呑みにはできない。もしかしたらそこに彼女を知る手がかりがあり、それを隠すためにわざとそう言っている、という可能性もありうる。

 

「……99%ないとわかってはいるけど」

 

 煙と共に付け足すように愚痴を吐き、恨めしそうに穂樽は画面を眺める。他に当たれそうな項目は無い。9割9分嘘とわかっていても、自分でそれを確認するまで、そして現状で他に当てが無い以上やむを得ないだろう。

 煙草の葉を燃やし尽くし、穂樽は荷物をまとめる。貴重な時間を割くことになる。だが確認しなくてはならないことだと自分に言い聞かせ、調査の準備を始めることにした。

 

 

 

 

 

 調査はまたしても空振った。アゲハから受け取ったデータにあったもよの出身校と記述されている学校に赴き、人探しという名目で学校に保管してある卒業アルバムを当たった。しかし記述されていた学年、及びその周辺数年分を探しても「天刀もよ」という人物は見当たらなかった。

 

「血縁もダメ、出身校もダメ、手が無いわね……。本当に彼女の言ったとおりだと考えるのが妥当かもしれない」

 

 既に夕暮れ時。帰宅後、体は疲れていたが、穂樽は居住区のソファに座ってタブレットPCとにらめっこをしていた。

 アゲハ以外のバタ法の情報筋として抜田を使うという手もある。だが「経歴詐称とわかっても他人に漏らさないこと」という条件が追加されている。もし抜田が何かを得たとしても、出身校が違ったということがわかれば条件を破ることになる。その際のペナルティがどんなものかは想像したくない。ありえない力を用いた、最初に味わったような体験はもうしたくない。少なくとも、ウドですらない抜田を巻き込もうとは思いたくもなかった。

 

「手詰まりだわ……。昨日から進展ほぼ無し。どうすんのよ……」

 

 タブレットPCを机に置き、天井を見上げる。いっそ左反に頼んで予知魔術(プレコグニション)でも使ってもらえば多少は好転しそうな気もするが、そうなるとやはり左反を巻き込むことになりかねないし、条件を破ることにもなりかねない。

 

「とりあえず明日鎌霧さん当たるかな……。あの人なら巻き込まむことなく参考になる話を聞けそうな気はする。でもそれも空振ったら本格的にまずいわね。今後の展望を含めてどうにかしないと……」

「穂樽様、困ったときは切り口を変えてみるニャ。だから弁魔士をやめたんじゃニャいかニャ?」

「……まあそれは一理あると思うけど。でも切り口を変えろといってもどうしろっていうのよ」

 

 煙草の箱を手で弄びつつ、唸り声と共に考えをめぐらせる。

 

「切り口を変える……。彼女自身じゃないとこから当たるとするなら……こだわっているところ、対象のセシル絡み? でもあの子はトラブルメーカーでわけありすぎだから、思い当たる節なんて逆にありすぎるぐらい……」

 

 そこで穂樽は不意に口を止めた。そして「そうだ!」と何かに思い当たったように口走り、携帯を手に電話帳を探る。

 

「どうしたニャ?」

小田青空(おだあくあ)! この間興梠さんと話してる時、彼の持ってた幼少期の写真がもよさんにそっくりだったってことを思い出した!」

 

 小田青空はかつて人探しの依頼のためにファイアフライ魔術探偵所を訪れたクライアントでもある。その依頼の相手とは、他ならぬセシルだった。彼とセシルとの間には複雑な関係があったが、セシルは彼に会うことを決め、青空は最終的に再会を果たすことに成功していた。

 セシルの友人、ということで仕事の関係を越えて番号交換をしておいてよかったと穂樽はその番号をコールした。時間的にまだ迷惑かもしれないが、この際どうこう言ってられない。

 ややあってコールが止まり、しばらく前に聞いた声が携帯から聞こえてきた。

 

『……はい?』

「あ、小田さんですか? 急なお電話申し訳ありません。穂樽夏菜です、お久しぶりです」

『穂樽さん? ああ、お久しぶりです。セシルの件ではありがとうございました』

 

 向こうも穂樽のことを覚えていてくれたらしい。これなら話は早い。

 

『どうしたんですか、急に?』

「ちょっと聞きたいことがありまして……。つかぬ事を伺いますが、確か小田さんは一人っ子でしたよね?」

 

 一瞬間があった。穂樽の質問を訝しんでいるのか、考えているのか。

 

『……ええ、一人っ子です。母の再婚後も、兄弟は生まれていません』

「ありがとうございます。もうひとつ。天刀もよ、という女性を知りませんか?」

 

 単刀直入に穂樽は切り出した。彼の反応次第では、もしかしたら意外に簡単に答えにたどり着けるかもしれない。

 

『……すみません、覚えが無いです。誰ですか?』

 

 やはりダメか、と反射的にため息がこぼれた。同時に、その言い訳も考える。

 

「もよさんはセシルの担当パラリーガルで、彼女とすごく仲がいいんです。それで以前小田さんがお持ちいただいた幼少期の写真を見て、その彼女に少し似てる気がしまして……。今の小田さんは男性らしい雰囲気だったために気づかなかったのですが、先日ふと気になってしまってから引っかかっていたものですから。職業病だと思うのですが、妙な質問をすみません」

『ああ。探偵さんの(さが)ですかね。でもさっきも言ったとおり自分に兄弟姉妹はいませんし、その女性も知りません。……それにしても俺に似てる女性がセシルと仲が良いとは、なんだか奇妙な偶然ですね』

「当のセシルは気づいている様子も無いですけどね。……それで、近頃はセシルとどうです?」

 

 目的は果たしたが、このあたりの会話はあった方が自然かもしれない。そういう考えから、雑談を切り出した。

 

『まあ……。ぼちぼちです。ただ彼女、近々お母さんの再審があるからって、しばらくの間少し俺と距離を置くように提案してきました。なんだか気を使わせてるみたいで悪いんですが』

「あ、そうか……。すみません、考えが至らず」

『気にしないでください。時間の経過と共に少し心に整理がついて、そこでセシルから真実と思える発言を聞いて……自分の中では一応は納得してるつもりですから』

 

 口ではそう言っても、やはり複雑な感情があるように穂樽は感じていた。それでも青空は「変わらずセシルのことを好きでいる」と告げたはずだ。だとするならその彼の心のため、隠された真実のためにセシルを守らなくてはいけない、と改めて思う。

 

「私は陰ながらですけど、2人のこと応援してますよ。……急に電話して、なんだか茶化すみたいな内容になってしまってすみません」

『いえ、自分に似てる方がセシルと仲が良いと聞いて少し興味が沸きました。セシルが落ち着いたら、話を聞いてみようかと思います』

「それはいいかもしれないですね。……ありがとうございました。ではこれで失礼します」

 

 相手側の応答を聞いてから、穂樽は通話を終えた。事実だけを見れば外れである。が、穂樽の心には若干の安心感も生まれていた。

 

「小田さんは彼女と関係無い……。まあそれ自体は良かったわ。でも、だとするとなぜ彼女は彼に似ている点があるのか。答えはわからないけど……切り口を変えた手応えとしては、おそらく悪くない。心当たりありすぎるけど、セシルから当たっていった方がいいかもしれないわね」

 

 そうは言っても確証も何も無い。今の青空の話にしたって、世の中には似てる人間が3人はいると言われるために偶然ということは十分にある。だが一方で、本人の知らないところで彼が巻き込まれていたという可能性も考えられた。その後者を考慮し、穂樽は思考を働かせ始める。

 

「2人の接点……。ずっとセシルが追い続けている10年前のお母さんの一件、か。確か一旦命を落としたはずのセシルは召喚魔術で命を取り戻した、と言う話だったっけ。……ん? 召喚魔術……?」

 

 穂樽は頭の中でピースがはまるような感覚を覚えた。召喚魔術には代償が必要なはず、という記憶を呼び起こす。だから麻楠のルシフェル召喚の際には触媒となるセシルの他に、召喚魔術の代償として立ち会った信者が視力、すなわち光を失っていた。結局その魔術は失敗に終わったが、そのせいで興梠の父は失明状態で逮捕されたはずだった。

 ではセシルの魂を召喚魔術で呼び戻した際の代償は何か。それがなんだったのかは、対象であるセシルですら知らないことだろう。知っているとすれば、行使した当人以外ありえない。

 

「……麻楠史文。4年前の一件を企て、ずっと暗躍し続けていた男。当たってみるだけの価値はあるかもしれないわね」

 

 


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