ウィザード・ディテクティブ~魔術探偵ホタル   作:天木武

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Episode 1-6

 

 

「来た! なっちー!」

 

 バタフライ法律事務所の入り口を緊張した面持ちでくぐった穂樽を待っていたのは、その表情を一瞬で崩させるだけの明るい声だった。受付嬢の抜田より先に飛んできたその声に思わず眉をしかめる。空気読め、と言い聞かせてやりたいとも思えてくる。

 

「一昨日も来た、って聞いたのにすぐ帰っちゃったって言うから。なっち来るの楽しみに待ってたんだよ!」

「……お邪魔します。アゲハさん、このお気楽娘に状況説明してないんですか?」

 

 抱きついてきた5歳年下でありながらかつての同期の須藤(すどう)セシルを無視し、穂樽は階段の上の女所長にそう問いかけた。事前に連絡していたためか、アゲハは穂樽が来るのを待っていたらしい。

 

「勿論説明したわよ。だからアソシエイトをほぼ全員集めておいたし」

「ちょっとなっち、お気楽娘って何!?」

「ややこしいからあんたは黙ってて。それで……」

「コラなっち! 私のセシルんに何て事を言うのよ!」

 

 さらに追い打ちをかけるように絡んできたパラリーガルの天刀(てんとう)もよの言葉に、穂樽は一旦話を進めるのを諦めようと大きくため息をこぼした。こちら側を処理しないとせっかくのシリアスなムードがぶち壊しだ。

 

「……もよさんのそういうセシルに対する態度のせいで、この子もやけにあなたに似てきたと思うんですけど」

「えぇー? そんなことないよぉー。ね、セシルん?」

「うん、もよよん!」

 

 ダメだこいつら、と穂樽は頭を抱えた。入所したての頃からもよは随分とセシルがお気に入りだったらしく、ずっと甘やかしてベタベタとくっついている。出張で一時的に別れる時に泣き出したもよに対して「あんたは親か」と思わず穂樽が突っ込みを入れたこともあるほどだ。さらには自分とセシルが仲良くしてた時は嫉妬心向き出しの視線を向けてくることすらあった。

 

「まあ私に似て来たっていうか、セシルんは私そのものって言っちゃっても過言じゃないぐらいだしぃ」

「……過言でしょ。セシルにそっちの趣味はないと思いますよ。……大体あんた、小田さんとはまだ続いてるんでしょ?」

「ちょ、ちょっとなっち! その話は……!」

 

 急に慌てだしたセシルを横目に、もよは明らかに機嫌を損ねた様子へと変わった。

 

「そう、それ。なっち、あんたセシルんになんで男紹介してるわけ? 変な虫ついたらどう責任取ってくれんのよ?」

「紹介じゃありません。依頼をこなしただけです」

「あ、青空(あくあ)君とは時々会ったりするぐらいだから、もよよんがそんな怒るようなことでも……」

「おーこーるー! セシルんがそり姉みたいになったらどうすんのよー!」

「あたしみたいってどういうことよ、ざっけんなー! あと男紹介できるならあたしにも紹介しろ!」

 

 ついには自分のデスクに座っていた左反まで割り込んできて、もう収拾がつかないと穂樽は天を仰いだ。早いところ話を進めたいのにどうしたらいいものか。そう穂樽が困り果てていると、とうとう見かねたか、アゲハが手を叩いて場を収めてくれた。

 

「はいはい。皆久しぶりに穂樽ちゃんに会えて嬉しいのはわかるけどそのぐらいで。穂樽ちゃん困っちゃってるじゃない。……それでなんだっけ。一昨日の人探しの件、左反ちゃんにプレコグしてほしいんだっけ?」

「はい。何かしら情報があればと思いまして……」

「あたしはいいけど、代わりに男紹介してよ」

 

 予知魔術の一種であるプレコグニションの準備のためにタロットを手にしつつ、左反はそう言ってきた。ため息混じりに穂樽は返す。

 

「……無茶言わないでくださいよ。そもそも一昨日女を磨けとか言ってきたのはそっちですよ? そんな人が紹介する余裕なんてあるわけないじゃないですか。飲みで勘弁してください。喫煙席でいいなら朝まで付き合ってあげますから」

「ほたりん、やっぱりその辺り変わったとね」

 

 長崎弁交じりの言葉でそう言ってきたのはアソシエイトの甲原角美(かぶとはらつのみ)だった。一見上品なお嬢様育ちっぽく見えるが、コスプレが趣味という意外な一面を持っている。穂樽も「乙女激戦隊アグレッジャー」という戦隊ヒロイン物のコスプレをさせられそうになったことが何度もあり、それだけは困った点でもあった。

 

「ガサツになりました?」

「そこまでは言わんけど……。あんまりさそりん見習わん方がよかと?」

「なによつのみんまでそんなこと! ……っと、そういやほたりん、あんた眼鏡変えたの?」

 

 立ち上がって会議スペースへ向かおうとしながら反論したところで、左反は穂樽の眼鏡が変わっていることに気づいたらしい。

 

「変えたというか、こっちは本来尾行時とかに印象を変える予備用なんですけど。普段使ってたお気に入りのは昨日壊されまして」

「壊された……?」

 

 バタフライ法律事務所で数少ない男のアソシエイトである蜂谷(はちや)ミツヒサが耳ざとくそこに気づいたらしい。「法廷のターミネーター」の異名を持ち、長身であることに加えて一見無口で無愛想なために怖そうな印象を受ける男性である。が、数年間共に仕事をした穂樽は、何かと気を回してくれる性格であることをわかっていた。それ故気づいたのであろう。

 

「依頼されて探していた人物のアパートを尋ねたら怪しいウドの連中に襲われたんですよ。そのまま3階から叩き落されて。私はどうにか魔術で対応したので大したことなかったんですけど、さすがにそこから放り出されてアルファルトに直撃した眼鏡は修理が出来ない状態になっちゃいました」

「え……? なっち3階から落ちたの!?」

 

 驚きの声を上げたのはセシルだった。あんたはそれより遥かに高い上空から落ちたこともあっただろうと突っ込みたかったが、その言葉は飲み込むことにする。

 

「まあね。砂使いでよかったわ。砂の特質のおかげで可能な限り落下の衝撃を吸収させられたから、ほんと大したことはないし。ただ頭を最優先に守ったから、その分体ちょっとまだ痛くてあちこち湿布張ってあるけど」

 

 セシルはなおも心配そうな表情だったが、穂樽は問題ないと手をひらひらと振って健康だとアピールして見せた。それより、と会議スペースを取り巻くように集まった人間の真ん中にいる左反へと声をかける。

 

「左反さん、準備は?」

「いいわよ。で、何を占えばいい?」

「私の探している人間の居場所、と言いたいところですが……。さすがにそれをピンポイントで見つけ出すのは難しいですよね」

「うーん、多分プレコグじゃ厳しいわね。私がもっと情報に明るければ正確度は増しそうだけど、かなり曖昧な形で出ることになっちゃうと思う。占い程度の低い信用度レベルでいいなら出来るかも」

「じゃあそれは次善策ということで。プレコグの方は……今夜都内で異変がありそうなお店。もっと絞るなら、襲撃されそうな宝石店、でお願いします」

 

 取り巻いていた面々がざわついた。一瞬左反も意外そうな顔を見せたが、穂樽の表情が真剣そのものであることで冗談でもなんでもないと気づいたのだろう。一度深呼吸し、プレコグニションを開始した。

 

「ほ、穂樽君。それは最近騒がれている事件だろう? 勿論知っているが……。それを解決するのは探偵の君じゃなくて警察の仕事じゃないのか?」

 

 左反の邪魔にならぬよう、小声でそう指摘したのはアゲハの弟で事務所の実質的ナンバー2である蝶野セセリだった。強面な印象と裏腹、金銭面やマナー等にはやかましいものの基本は紳士的な人物である。暴走することも多い事務所内のアソシエイトのブレーキ役として、これまでも弁魔士が首を突っ込む範疇を越える出来事の場合は苦言を呈してきたことが多かった。

 

「犯人の逮捕自体は警察にやってもらいます。……まあ壊された眼鏡の借りは返したいところですが」

「ちょ、ちょっと待って! なっちが襲われたのって、今話題の宝石店強奪グループなの?」

「おそらくそうね。私が探している今川は何らかの形でその事件に関わっている。警察に足取りを追われているという情報をクイン警部から手に入れたからほぼ間違いないわ。そしてその今川のアパートを訪ねて襲われたとなれば、その相手も事件に関係していると考えるのが妥当よ。

 そっち関連は私が襲撃されたとき、録画に成功した相手の顔画像情報と引き換えにクイン警部にもう洗ってもらってる。そのうち連絡があると思う」

 

 感心した声を上げる一同。そんな中、満足そうに頷くアゲハの顔があった。

 

「……さすがね、穂樽ちゃん。手際がいいし、なによりクイン警部の扱い方をよく心得てる」

「アゲハさんのご指導の賜物ですよ。まあ同じ喫煙者同士、タバコミュニケーションで向こうも気を許してくれてるところもあるとは思いますけど」

 

 どちらかというと個人プレーが得意な穂樽から相談を受けた時に、アゲハはこのまま弁魔士を続ける他に探偵という今の彼女の職業も含めて紹介した。実のところ、いずれは自分のポジションを譲ることまで考えていたアゲハからすれば、穂樽の独立ということは少々残念ではあった。しかし餞別という意味合いも込め、その時に黒に近い方法まで含めての交渉術や駆け引き、その他自分が持ち得る知識を授けていたのだった。

 

「それで、穂樽ちゃんが探している今川って男の人は、犯行グループにあくまで利用されているだけ、と考えているわけだ」

「ええ……」

 

 左反のプレコグの結果が出るまでの時間、穂樽は大まかに状況を説明した。最終的には弁護まで依頼しようと思っていることだ、今更隠し立てをする必要もないだろう。

 説明を終えると、難しい顔のまま、アゲハが口を開く。

 

「……穂樽ちゃんの推測はおそらく当たってると思うし、そうであってほしいとも思うわ。でももし、今川さんが自ら進んで犯行グループに参加していたとしたら……。たとえば、依頼人の八橋さんから何かを盗んだために魔術を行使して記憶を消した、とも考えられない?」

「アゲハさん! それはあんまりです!」

 

 非難の声を上げたのはセシルだった。史上最年少で弁魔士となった彼女はまだ若い。故に穂樽の気持ちを裏切ってもらいたくない、今川を信じたい、という純粋な気持ちがあるのだろう。

 

「それじゃなっちの依頼人さんがかわいそうすぎます! それに彼を信じたと言ったなっちも……」

「いいのよ、セシル。私だってそのことは考えてる。依頼人の八橋さんにもその可能性は示唆したわ。知らない方がいいこともあるかもしれないって。それでも彼女は確かに恋人であった人に会いたい。可能なら失った彼との記憶を取り戻したい。どういう結果が待っていても、それを知りたいと言ったわ。……そして私はどんな結末になろうともあくまで第三者として、その事実を客観的に受け入れるだけよ」

「そこがほたりんの強うところとね」

 

 セシルはまだ割り切れない様子だったが、穂樽に感心の言葉を述べた角美に肩に手を置かれたことで多少は納得したらしい。穂樽もセシルの才能はよくわかっている。しかしまっすぐ過ぎる彼女の心は、長所でありながらも時に危ういと思うこともあった。

 

 と、その時、穂樽の仕事用の携帯が鳴った。クインからの着信とわかると一旦穂樽はその場を離れて通話に出る。

 

「はい?」

『あーもしもし、お手柄だよ。詳しくはメールに添付して情報送っておいたが、お前が撮った犯人の身元割れたぞ。こっちのデータベースに情報があった。顔の照合に加えて風使いという点まで一致してる、ほぼ間違いない。怪我をした警備員も吹き飛ばされて壁に背中を打ちつけたと証言してたしな。今川との接点だが、中学の同級生で柏って奴だ』

「なるほど……。そいつの居場所とかは?」

『さすがにわからなかった。だがどうせあんた今バタ法にいるんだろ? 男大好き姉ちゃんになんとかしてもらえ。それから状況によっちゃ踏み込むことになるかもしれないだろうが、一応事前にあたしに連絡よこしとけ。現場につけたら事後でも可能な限りで擁護はしてやる』

「すみません、何から何までありがとうございます」

『なに、今日は12星座中最悪の運勢なはずだったのに、予想以上のお宝だったからな。これで犯人連中捕まえたらあたしの手柄になるし特別サービスだよ。それじゃあな』

 

 通話を終え、穂樽はバッグからタブレットPCを取り出した。メールに添付されていたデータに目を通し、確かにあの時自分を壁に叩きつけた相手であることを確認する。

 

「間違いない……。あの風使いだ」

「そっちも何か来たみたいね。こっちも終わったよ」

 

 聞こえてきた声に振り向くと、左反が得意げな表情を浮かべている。

 

「向こうにも予知魔術使いがいたみたいね。ほたりんが張り込んでた時に気づかれたってのはそのせいだと思う。生意気にもプレコグの妨害魔術張り巡らされてたから間違いないし、さらにはそれが今日また犯行に及ぶという裏付けに他ならないわね」

「妨害って……。じゃあそり姉のプレコグは……」

「セシルっち、あたしを舐めないでもらえる? そこら辺の予知魔術使いなら気づかず引っかかるところだろうけど、あたしならそんな妨害抜けるのは楽勝よ。逆に妨害し返してやったわ。これで連中がプレコグで自分達に起こることを予知するのは難しくなる。ほたりんが今日行動を起こして連中に影響が出そうでも、それを予知出来ないと思うわ」

「……要するに建物に侵入したらトラップがあったから、それを回避して逆にトラップしかけなおしてやった、って解釈であってます?」

 

 まあそんなところ、と穂樽の例え話を適当に肯定しつつ左反は立ち上がった。そのまま他のアソシエイトの面々を差し置いて階段を降り始める。

 

「ばーみん、調べてほしいところがあるの。宝石店なんだけど、場所は……」

 

 左反は抜田のところへと歩いていき、セシルと角美もそれに続いた。が、肝心の穂樽はそこではなく、アゲハの元へと近づく。

 

「アゲハさん、段々と話が核心に迫ってきたと私は考えています。ですが、おそらく今川は犯行グループと多少なりとも繋がりがある……。どう転んでも、最終的に魔法廷での案件となって弁護が必要になると考えています。ですので……」

「わかってるわ。皆まで言わないで。困った時はお互い様だもの。乗りかけた船よ、最後まで付き合うわ。……ハチミツ君」

「はい。穂樽、今川の弁護が必要になるなら俺が引き受けよう」

「蜂谷さんがですか? ……てっきりセシルが名乗り出るものだと思ってました」

「あいつに言えば、間違いなく願い出るだろうな。だが今現在、須藤は母親の再審の件で断続的に忙しい状態だ。他のアソシエイトについても、甲原は案件を抱えているし、左反は魔術が荒事向きではない。ならこれは犯行グループと一戦交えた場合のことまで考えて俺が担当すべきだろう」

 

 もっともな申し出と、加えて強力な助っ人に穂樽は反射的に頭を下げていた。蜂谷の弁護能力も、加えて魔術の力もよく知っている。無愛想で口数が少ないことを除けば、これほど心強い存在はない。

 

「ありがとうございます。よろしくお願いします、蜂谷さん……!」

「礼は後だな。今川を確保して満足いく判決を勝ち取ったら、その時に改めて聞こう」

 

 やはりどこか冷たいような物言いではあったが、それが彼なりの態度だということはよくわかっていた。改めて、とは言われたが心の中では既に感謝している穂樽のところに、階下の左反から声がかけられた。

 

「ほたりん、来て。多分狙われるのはこの店だよ」

 

 穂樽も抜田の元へと駆け寄り、その宝石店を確認する。ここからそう遠くはない、小一時間で到着すること自体は可能な距離だった。

 

「どうしますか穂樽さん? クイン警部に連絡しておきます?」

 

 抜田の提案に首を横に振って否定の意思を示す穂樽。

 

「それだと犯人グループに警戒させてしまう。それに今川の状況も不利になります。私としては彼には第2の事件が起こる前、さらには警察に逮捕される前に彼に自首してもらいたいと考えていますので」

「……直接の実行犯ではなく、あくまで幇助。魔禁法違反があるとしても自らの意思からではなくそれ相応の事情があり、さらに自首も重なればかなり減刑が見込める。場合によっては無罪も勝ち取れる、か。……やっぱ穂樽ちゃん手放したのはちょっと惜しかったかな」

 

 冗談交じりとわかっていたが、自分を賞賛したアゲハに穂樽は苦笑を返すしかなかった。だが次にはその表情を引き締め直す。

 

「前回の犯行は閉店直後、今川が監視カメラに映ったのは閉店間際。つまり仮に今川が現れるとしてもまだ早い……。でも、今からこの店に張り込むだけの価値はあると思う」

「根拠は?」

 

 張り込む、となれば自然とそれに付き合うこととなる蜂谷が尋ねた。

 

「カン、ですかね……。私の見立てでは今川という人物はかなり慎重な性格だと思っています。彼女の記憶と携帯の解約まで含めて自分の関連証拠を消し、学校にも表れずアパートにも戻らない。さらに閉店間際に滑り込んで事を成功させている。となれば、下調べとして店の外見や店員の配置の確認に当日も下見をしていた可能性は十分にあります」

「一理、あるな。ここで話しているよりは効果的だ。行こう」

 

 言うなり蜂谷は自分のデスクに戻って上着を羽織り、荷物を手にした。穂樽も抜田のPCにある店舗をメモし、荷物をまとめて受付のカウンターを迂回する。

 

「ちょっと待ってなっち!」

 

 それを呼び止めたのはセシルだった。

 

「今川さんの弁護、セシルに任せてもらえない?」

「ダメよ。もうアゲハさんに蜂谷さんに任せるよう頼んである」

「どうして……!」

「あなた、お母さんの再審の資料集めだなんだで暇じゃないんでしょ? 今日、事がうまく運んだとしても彼の弁護を引き受けるとなったら今後もしばらくそれに付き合うことになる。……申し出はありがたいけど、気持ちだけ受け取っておくわ。あなたは自分のすべきことをやりなさい」

「だけど……。なっちにはこの間の青空君の件もあるし、セシルも何か力になりたいの!」

 

 穂樽はため息をこぼす。セシルの気持ちはわかるしありがたいが、今回の一件は蜂谷の協力を得られるというだけで十分と言ってもいい。

 

「アゲハさん、なんとか言ってあげてください」

 

 事務所のボスからの鶴の一声があればさすがのセシルも諦めるだろう。そう踏んで穂樽はアゲハに発言を求めた。が、返って来たのは予想外の一言だった。

 

「いいんじゃないの? セシルちゃんが手伝いたいなら」

「アゲハさん!?」

「ありがとうございます!」

「ただ、あくまでメインはハチミツ君で、セシルちゃんはサポートに回るというのが条件ね。……穂樽ちゃん、今日に限れば人手が多いほうがいいわ。最悪荒事までありえるわけだから」

「それは……そうですが……」

「人手が必要になったら連絡を入れること。その時はセシルちゃんを援軍として送るわ。蝶野としてはこれが最大の譲歩。どう、穂樽ちゃん、セシルちゃん?」

 

 2人とも苦い顔だった。穂樽としては今回は関わらせたくなかったし、セシルとしてはもっと手伝いたいという思いが交錯してのことだろう。だが落としどころとしては無難かもしれない。共に渋々納得した。

 

「あ、アゲハっぴ! それでまた須藤君がディアボロイドを造って魔禁法違反の罰金なんてことになったら……!」

「その時はうちは無関係を決め込めさせてもらうわ。セシルちゃん本人と、あと今回依頼協力を仰いで来てるファイアフライ魔術探偵所さんに払ってもらうということで」

 

 セセリの抗議をあっさりと却下したこの一言に、穂樽は苦笑を浮かべるより他なかった。いかにもアゲハらしい物言いだ。罰金は御免被りたい。セシルを呼ぶことになっても、ディアボロイドだけは生成させないようにしようとも思うのだった。

 

「では蜂谷さんをお借りします。アゲハさん、ご協力ありがとうございます」

 

 罰金の件以外では惜しまず協力してくれたかつての上司に頭を一度下げ、穂樽は蜂谷と共にバタフライ法律事務所を後にした。

 

 

 




バタ法メンバー勢揃い。原作の数年後なんで本来は新人とかいるべきなんでしょうけど、そこまで考慮には入れてないです。
長崎弁がわからないので角美にほとんど喋らせられません……。

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