#0 毀れ落ちて
今日もまた、人を救った。
――― この、人殺し! ―――
今日も、また、人を助けた。
――― 化け物! ―――
今日も、また、人を、殺した。
――― 死ね! ―――
いつも通り同じことの繰り返し。
苦しんでいる人には手を差し伸べて、力のない人の盾になり、奪う人を殺していく。
衛宮士郎にとって変わらない日常。血と硝煙と剣戟の絶えない場所こそが彼の居場所だった。
足取りが重くなることなんてなかった。自分を動かす原動力が戦場にこそあるのならば、苦になるなんてことはなかった。
名声が欲しいわけではない。金が欲しいわけでもない。英雄になりたいわけでもない。
利益なんて、救われた人の笑顔を見るという自己満足さえ満たされれば、それでよかった。
だから、罵倒の声を受けようとも、怨嗟の声を聴こうとも、信頼を裏切られようとも、それでも誰かが笑顔でいてくれるなら甘んじて受け入れた。
―― これは
衛宮士郎という人間の人生の全てを賭して為さねばならぬ業。
見捨てたのも、切り捨てたのも、裏切ったのも、泣かせたのも、全部彼から始まったのだ。
たくさんの人を傷つけたのだから、同じだけ救わなくてはならない。そんな強迫観念を抱き続けて生きてきた。
救う対象は日に日に増していった。最初は一人、次は十人、更に百人、仕舞には世界を救うだなんて規模に膨れ上がっていた。
元々そんなに器用な人間じゃない。むしろ不器用な方だろう。人一人助けるのだって彼にとっては至難な事だった。
今に思えば、不器用だから自分の裁量を見誤ったのだろう。世界に自分の死後を預けて、分不相応な力を手に入れて、救える人が増えるだなんて思い込んで。
最後の最後には『救うこと』を目標としていて『人』の事なんて頭からなくなっていて。
ああ、だから人の心がわからないブリキの人形は、他人に理解してもらえなかったのか。
閉じていた目が開かれる。死んだように眠っていた男は、言葉通り死にそうなのに変わりない。体のいたるとこに見受けられる裂傷、銃創からの出血はすでに致死量に近い。
ギチギチと錆びた鉄をこすりあわせる様な音を立て、男が空を見やる。煤けた厚い雲は太陽を隠し、大地には草一つ生えていない。
男、衛宮士郎以外に生物の気配なんてこれっぽっちも存在していなかった。
ぼんやりとした頭で、自分がここで死ぬことをひどくあっさりと受け入れた。士郎が死んだところで、その死後は今の生活と大した違いはない。
武力をもって人の起こした業を祓い、武力をもって人という種を存続させる。永遠と繰り返される人の罪の尻拭い。
ボロボロの手が空へと延びる。小鹿のように震え感覚さえもない腕を、それでも空へと。厚い雲の切れ間から光が漏れる。
終わりが近い、消えてゆく自我の中、一瞬鮮明に浮かび上がったあの顔は、かつて裏切り、切り捨ててしまった大切だったはずの人たち。