門を出ると相も変わらず眠りこけている美鈴がいた。
「もう食べられませんよぉ…」
「そう、ならしばらくご飯抜きね」
「…ハッ!わわ、咲夜さん!?寝てません、寝てませんよ!!ちょーっと目を閉じてただけですよ」
「あぁ、そうだったの」
「はい!!」
「じゃあ言ってた通りご飯はもういらないのね」
「すみません、寝てました!!」
妖精メイドにその旨を伝えようと踵を返すと美鈴は反射的に答えた。
「最初から素直にそう言えばいいのよ。そう言えば―」
「ご飯いっぱい?」
( # ^ ω^)
「惨いお仕置きが酷いお仕置きになるわ」
「ほとんど変わってないですよおおぉぉぉー!!!」
「それじゃ行ってくるから、後は頼んだわよ」
「……我知道了(了解しました)」
美鈴は帽子を胸に当て恭しくお辞儀した。
紅魔館を発ちながら、私は美鈴の最後の言葉の意味を考えていた。
「いらっしゃい、今日は何をお求めで?」
「残念ながら今日は客ではありませんわ」
「客じゃない客人は間に合っていたんだが」
「まぁいいじゃありませんか」
「…そこにかけるといい、今お茶を淹れてくるよ」
「君は変わらず綺麗だね」
他愛もない雑談の折、唐突にそう切り出され思わず吹き出してしまいそうになった。
「…それは皮肉?それとも私を口説いているかしら?」
「言葉通りに受け止めてもらえないのは悲しいね」
初めてあった頃とほとんど変化が見られない彼に言われても皮肉にしか思えない。
「客じゃない客人にでも言ってあげるべきだったわね」
「マスタースパークと夢想封印の合わせ技をいただいたよ。流石の僕も身の危険を感じたよ」
「私もエターナルミークした方がいいかしら」
「やめてくれ」
淹れてくれたお茶を飲み干し、席を立つ。
「もう行くのかい?」
「えぇ。お茶、結構なお点前でしたわ」
「お粗末様、次はどこに向かうんだい?」
「次は――」
「今日はここまで」
「気をつけー礼ー」
里の行きつけの店への挨拶を済ませ寺子屋の前を通りかかると授業を終えたところだった。
「あ、手品のお姉ちゃんだ~」
私に気付くと子供達は一斉に群がってきた。
「今日も手品見せてくれるの?」
子供達は既に期待に目を輝かせている。
「う~ん、どうしようかしら」
手ぶらなのでタネも仕掛けもあっても演出の仕様がない。
「こらこらお前達、咲夜を困らせるんじゃない」
「え~」
私の様子で察したのか、慧音が子供達を窘める。
「別に構いませんわ」
「いいのか?」
さて、どうしたものか。
「おーい慧音、筍持ってきたぞ」
タイミング良く現れた妹紅の持つ籠には筍が入れられていた。
これなら―
「それじゃあ皆、先生の帽子を見ててね。3、2、1…」
そこで時を止め、籠の中の筍と慧音の帽子を入れ替えた。
時を戻すと「「「おぉ~」」」という感嘆の声と共にパチパチと拍手をいただいた。
「よし、お前らもういいな」
「うん!先生、お姉ちゃん、もこたん、さようなら~」
「さようなら」
「気を付けて帰るんだぞ」
「おい」
子供達が帰路に就くと帽子を被り直した慧音がこちらに向き直った。
「いつもすまないな」
「これくらいならお安いご用ですわ」
「…………」
妹紅はじっと私を見つめて黙っていた。
「ん?どうした妹紅」
「慧音、ちょっと」
そう言うと妹紅は慧音にそっと耳打ちした。
それを聞いた慧音は目を大きく見開いた。
「こんな目の前でいちゃいちゃされると妬いてしまいますわ」
「ふふん、いいだろ」
肩を組んで仲の良さをアピールしている。
「そんなこと言ってる場合じゃな―」
「慧音」
私は人差し指を唇に当てた。
「貴女達を見てたらお嬢様が恋しくなってまいりましたわ。そろそろお暇させていただくわ」
「あぁ、じゃあな」
妹紅の笑顔に見送られて私も家路についた。
「ただいま戻りましたわ」
「なんだ帰ってきたのか」
「そういう約束でしたから」
「猫にでもなったかと思ったがやっぱり犬のままだったか」
「?」
「こっちの話だ」
「そうですか。それより今日は歩き通しで疲れましたわ。お先に休ませてもらいます」
「主人より先に寝付くとはとんだ完璧で瀟洒な従者もいたものだ。だが赦す」
「ありがとうございます、お休みなさいませお嬢様」
「あぁ、お休み」