転生先では幼なじみ達の笑みを失いたくない   作:キメら

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遅くなりました、11月中にあげたかった……。
今回は青峰とオリ主の1on1回です。途中、赤司の三人称視点あるので、注意して読んでくださーい。


第2Q 5人目

 入学前の春休みではほぼ毎日屋外のストリートコートで日が落ちてボールが見えなくなるまでプレーしていた。3月とはいえ流石に気温が低下して風まで吹くと冬と変わらない寒さを感じる。今日は4月に入り、まだ夕暮れ時で明るく、体育館の中のはずなのに寒い、というより悪寒がする。赤司に焚き付けられたこの1on1であいつは何が目的なのか、それともただの気まぐれなのか。少なくともいい気分ではない、ということは確かだ。

 

「うし、始めようぜ。先攻は俺でいいよな?」

「おう」

 

 まあ、このことを考えるのは後でいい。今は目の前の1on1に集中すべきだ。負けるのは好きではないし、特に大輝には。

 今の大輝はまだ型のない(フォームレス)シュートは使えない、が最高速度とストップを活かした緩急、ストリートで磨かれたボールハンドリング、自由かつ卓越したフィニッシュ力、それらを組み合わせて存分に才能を発揮させるセンスはこの時からずば抜けている。完全にブロックやスティールを奪うことは非常に困難で、それらを狙ったディフェンスでは基本止められない。

 あくまでシンプルに、腰を落として自分の間合いを保ち続けることがベスト。相手が下がれば詰め、詰めてくれば下がる。その判断を的確かつ高速で。一瞬でも考えがまとまらなかったり気を取られると追いつくことは難しい。

 

「じゃ、行くぜ」

 

 先攻の大輝がボールを俺に1度投げ、返した瞬間にスタート。大輝は数歩下がってドリブルをつき始め、俺は数歩詰めて腰を落として右足を下げて左半身を大輝に寄せて手は大きく開いて腕を伸ばす。

 入部テストが終わっても赤司を含め、10数人が体育館に残っているはずだが誰一人として声を発せず耳に入るのはコートにボールが一定のリズムで跳ねる音と僅かに擦れて生じるバッシュの摩擦音のみ。俺の意識は大輝のリズムに集中している。

 大輝の得意技の一つ、『チェンジオブペース』。これによってリズムが変わる際の僅かな硬直に最高速度まで一気にギアを上げて予測不可能のハンドリングで撹乱、あっという間に抜き去るのが主なパターン。その硬直の一瞬で次の動きを読み切れば俺の勝ちだ。

 

 

(……来る)

 

 

 張り詰めた糸が切れたかのように大輝が動き始める。姿勢が低くなり、ボールを置き去りそうなスピードで1歩目を踏み出し、それを認識した時には2歩目は既に空中に浮いていた。

 ここではまず、最初に下げておいた右足を軸に後ろに下がる(バックステップ)。同時に左手を伸ばして牽制、次の動きを誘う。大輝はビハインド・ザ・バックの要領でボールを背中に通すクロスオーバーで俺の右側から抜こうとする。今度は左足を軸に地面を蹴ってドライブコースに間一髪で入り込み、正面から受け止める。が、

 

(やべえ! コイツ、()()()()()()()()()()!)

 

 ドライブコースを塞ぎ正面でぶつかった時の衝撃を利用して後方に跳び再び距離を取る、ここまでが俺の描いたシナリオだったが接触直前で大輝はブレーキをかけて勢いを殺し、最小限の衝撃しか得られなかったことで間合いが近くなり過ぎた。これでは反応が追いつかない。

 

「もらった!」

 

 急加速でゴールを狙う大輝にこの体勢から追いつくのはもう不可能。だったらギャンブルを行う他ない。

 

(届け!)

 

 後方に仰け反りながら右腕を斜め後ろに目一杯伸ばす。腕が届くか、伸ばした腕が引っかかってファールにならないか、ボールのみを弾けるか……幾重もの賭けに勝利してボールは大輝の左手から零れ落ち、力なく跳ねた。

 マジで自分の身体ながらこれは気持ち悪い。あそこから届くか普通……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 面白い、ここまで高度な駆け引きを見れるとは思わなかった。攻撃側の青峰がチェンジオブペースから最大速度で動く間に高度なビハインド・ザ・バックを容易く行い、相手がフィジカルで止めにくることを読み切って急減速、本来であれば間違いなく得点は奪える状況。

 だが、それを白河が超えた。抜かれてからバックチップを狙うのではなく横に並んだあのタイミングで腕を伸ばせば引っ掛けてファールを吹かれる、と言うよりもまず届くことはない。やはり彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()腕の長さ(ウィンクスパン)に関しては身長より数センチ所ではないだろう。手の大きさもおそらくバスケットボールを余裕で掴めるほどにはある。

 規格外の手の大きさとウィングスパン故に同じ背丈の選手と比べても守備範囲は比ではない、正確に距離感を掴めなければ瞬く間にボールを奪われるだろう。想像しないところから手が伸び届く。時として身長よりも大きな武器になる。

 もちろんそれ以外にも彼が優秀なディフェンダーである理由は挙げられるが、俺が知りたいのは彼のオフェンス力、自分で仕掛ける際にどのように攻められるか。紅白戦ではアピールのために攻めたがる他のチームメイトがボールを執拗に欲しがる中、自身からは要求せず適切なオフボールの動きでパスを()()()。結果としてチームの誰よりも点を決めながら、積極性に欠くという点において一軍に選ばれなかった要因になったと思うが。将来、共にチームを担うだろう選手の動きを司令塔である俺は把握していないといけないからな……。

 

 

 

 

 


 

 

「まず俺の勝ちだな」

 

「行けると思ったんだがなぁ……」

 

 不服そうにボールを拾ってきた大輝が今度はゴールを背に向けてディフェンスに回る。ワンハンドでさっと投げ返して構える。ディフェンスも相変わらず型破りだ。基本的には腰を下げて重心を低くすることを口酸っぱく言われるが大輝のそれはセオリーと全く異なっている。足を肩幅より少し広めに開き、腕をダラっと下げて軽い前傾姿勢をとる。重心は高く手は低い、指導者から見れば頭の痛くなるような構えだが大輝にとっては最適解だ。元々持つ敏捷性(アジリティ)に加えて並外れた反射神経と積み重ねた経験が昇華した勘、どんな動きにも対応出来るボディバランスでシャットアウトする。隙があるように見えて隙がない、とはこのことを言うのだろう。

 

 どうしたものか、とボールをドリブルせずに保持できる僅かな時間の合間に答えを巡らせる。ジャブステップ、肩や視線の小さなフェイクに全て反応しながら、おそらくその場合の動きは見切られている。

 こういう時はシンプルな動きに限る。

 

 左手に持ち替えてドライブを仕掛ける、すぐに反応されてコースを塞がれる。が、強引にパワーで押し切り、エルボーポジションまで押し込む。ここで左足を軸に力を入れて右足に重心を移動させる中で右肩をぶつけてスペースを作る。僅かに距離を開けたところで後方に飛び、モーションに入る。

 

「フェイダウェイだろうな、お得意のよ!」

 

 俺の方が跳ぶタイミングが早かったにも関わらず、反則級のアジリティで追いつき、ブロックに伸ばした腕が完全に俺を覆いかぶさった。

 ここで打てば間違いなく捕まるだろう。勝利を確信した大輝の表情には当然と言ったような微笑を浮かべている。

 

「悪いクセが出てるぞ、大輝」

 

「あ?」

 

「お前のその勝ちを確信した表情を出した時が、俺が勝ちを確信する時だ。それまでは完璧だったお前に一瞬の隙が生まれる」

 

 この技はようやく最近になって使い物になった。オフェンスパターンが限られてる俺が少ないチャンスを決めるための方法。

 背中を軽く反り、膝と腕を曲げる。背面にエネルギーを溜めるイメージで空中で一瞬固まり、右半身を前に出して腕を普段のシュートフォームの時より高くあげてボールに全てのエネルギーを集めて射出する。

 

『ダブル・ポンプ』、カラクリは大したものでは無い。本来、地面を蹴った力をボールに伝えて打つジャンプシュートを、空中で行うだけ。ただし背筋力と体感、そして滞空力が求められる。

 火神程の滞空時間があれば容易に行えるこの技だが俺にはない。だから、ウィングスパンを最大限に利用して、背筋力に腕と指で遠心力を加えることで補っている。

 

 大輝がブロックに伸ばした手があるおかげで高さの基準となり、ブロックの上を行くシュートを放ることが出来る。仮に通常のフェイダウェイでは下から凄まじい勢いで飛びついて来る大輝のブロックに止められるが、空中でこれ以上伸びることの無い腕にボールを叩かれる心配は一切ない。

 目論見通り、ボールは高い弧を描いてリングを捉え、縁に沿って回りながら吸い込まれていった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ──────ダム。

 

 

 勝敗を決めるシュートが決まり、リングからこぼれ落ちてコートを転がる。それを見届けたと同時に俺も大輝も地面に崩れ落ちた。

 

「……長ぇよ。何分やってたんだ俺ら」

 

「……さぁな」

 

 

 先取点を奪ったはいいものの、それが大輝に火をつけてしまった。連続で取り返された後にシーソーゲームが続き、どちらかが決めれば勝ちと言う局面に至ってからの時間の方がそれまでよりも長いよう気がしたらというか絶対長かった。

 ダブル・ポンプはまだ実戦では使えない。決まったのは初回だけでそれ以降は決まらなかった。終盤になると体勢を保つのがとてもキツく、体力に余裕があるタイミングでないと使えない。それがわかっただけでも収穫だが。

 

 

「お疲れ様。凄いな、まさか1on1を1時間も見続けるとは思わなかったよ」

 

 

 息を整えながら周りを見ると体育館にはもう俺たちの他には赤司しかおらず、俺たちの荒い呼吸だけが響き渡っている。

 

 

「さすがにもう帰ろうぜ大輝。もう今日はキツい」

 

「何言ってんだ、まだやるぞ」

 

「今日は無理! てか、そろそろ体育館閉めないと不味いだろ」

 

「そうだね。まだやるにしても、時間が時間だ。片付けてしまわないと」

 

「ハァー……、わーったよ」

 

 3人でゴールのクレーンを折り畳み、床をモップで拭いて汗を取りながらテキパキと帰り支度を始める。とにかく今日はこのまま帰り、布団に潜り込みたい気分だ。

 

「明日から俺と青峰君は第1体育館、白河君は第2体育館で練習が始まる。一軍と二軍の違いはあれどお互い頑張ろう」

 

「そうだな」

 

「つか、俺はワクが二軍なの納得してねえんだけど。さっさと上がってこいよ」

 

「まあ、全中までには……」

 

「いや、その必要はない」

 

「ん?」

 

 不意に背後から声が聞こえ、そして思い出した。

 俺たち(選手)の素を見るために、監督が普段の練習の指揮を取らないことを……。




まあ、不定期更新と言えどさすがに遅すぎるので今年の間に後2回、全中前くらいまでは書けたらいいなと思います。読んでくださってありがとうございます。

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