ダンガンロンパ 狛枝 作:雪哉
私と狛枝は『モノクマ』の指示通り、廊下を渡って扉の前に立った。
「開けるよ」
そういって狛枝は部屋の中に足を踏み入れる。私もそれに続いた。私が部屋に入った瞬間、後ろで勝手に扉が閉まった。またしても閉じ込められてしまったわけだが、私と狛枝の視線は前方に向けられていた。再びアナウンスが流れる。
『ご足労掛けたね。それじゃあ、早速一つ目のゲームを始めようか。まずは前の方に注目してほしい』
言われずとも私はそうしていた。前方には、それぞれA・B・Cという文字が描かれた三つの扉がある。それを確認したところで、
『見てもらった通り、三つの扉をご用意させてもらったよ。一つ目のゲームとして、狛枝クンに挑戦してもらうのは、「モンティの扉」だ』
聞きなれない言葉に私は首を傾げたが、狛枝は何かに気付いたらしい。ひきつった笑みを浮かべている。
『簡単にルールを説明しよう。AからCの扉の内、正解として次の部屋に続いている扉は一つだけだ。狛枝クンには、この扉がどれなのか当ててもらう。それだけだよ』
(なるほど……、つまり三分の一の確率ってわけね……)
私がそう思った瞬間、
『おっと、このゲームはそれだけじゃない。狛枝クンが扉を指定した後、ボクは残り二つの扉の内、ハズレの扉を一つだけ開けて、中を見せる。狛枝クンはそれからもう一度だけ、どの扉を開けるか選べる、というルールになっているんだ』
そこで、それまで無言だった狛枝が口を開いた。
「……ルールはわかったよ。さっさと終わらせよう」
『まあ、焦るなよ。じゃあ、最後に一つだけ。もし二回目の選択でハズレを選んでしまった場合、どうなるか。ハズレの扉の中にはマシンガンがセットされている。失敗すれば、めでたく君たちは蜂の巣だ。じゃあ、がんばってね』
そう言うと、『モノクマ』は「ゲーム開始だ」と宣言した。すると、狛枝は私の方を振り返ると、こう言った。
「琴江木さん、君にはどれが正解の扉か分かるかい?」
分かるかと言われても、結局は運任せだ。だが、私には絶対の『幸運』がある。私は言い切った。
「私は『A』の扉だと思います」
すると狛枝は、「なるほどね」と呟いたかと思うと、
「ねえ、『モノクマ』。ボクは『B』の扉を選ぶよ!」
私は愕然とした。
「ちょ、ちょっと、狛枝さん! 何言ってるんですか? 私は『A』って言いましたよね?」
狛枝は私の抗議に耳を傾けることなく、『モノクマ』の方を見ている。すると、
『最初の選択は「B」だね。了解したよ。じゃあ、残りの二つの内、ハズレの扉を一つだけ見せてあげよう』
そのアナウンスと同時に、『C』の扉が開いていく。中を覗き込むと、確かにマシンガンが置かれており、銃口がしっかりとこちらに向かれていた。冗談ではない。やはり自分の身も危険ではないか。何が「君はすぐに開放するつもり」だ。この様子では、狛枝の「負け」は自分の死に直結してしまう。
「こ、狛枝さん。今度はちゃんと『A』の扉を選んでください。お願いします!」
狛枝は分かっているのか、いないのかはっきりしない態度で頷いている。私はそれを見て、「ああ、駄目だ。この人は『B』を選んでしまう」と直感した。狛枝も『超高校級の幸運』なのだ。自分の『幸運』に少なからず自信を持っているに違いない。慌てふためく私を余所に、狛枝は二回目の選択をした。
「『モノクマ』、もういいよ。正解は『A』の扉だ。早く開けてくれないかな?」
私はびっくりして狛枝の顔を見た。彼の表情には相変わらず引きつった笑みが浮かんでいる。
『……いいよ。じゃあ、「A」の扉を開けてみようか』
『モノクマ』がそう言うと、ゆっくりと『A』のドアが開き始めた。つばを飲み込んで、中を恐る恐る確認したが、どうやら『アタリ』を引いたらしい。奥に続く廊下が見えた。もちろんマシンガンは置かれていない。私は大きく息をつくと、狛枝に詰め寄る。
「やっぱり、『A』じゃないですか! 最初にそう言ったでしょう!」
狛枝は私の文句を飄々と受け流す。
「いや、琴江木さんの言葉を疑ったわけじゃないんだ。ボクはより確実な選択をしただけだよ」
「……どういうことですか?」
「あのね、ボクは一回目の選択でわざとハズレの方に賭けて選んだんだ。そうすれば、もう一つのハズレはあっちが教えてくれる。最後に残ったのが正解の扉ってわけさ。こうすれば、三分の一からじゃなく、三分の二の確率から始められるでしょ?」
(……なるほどね。そういうことだったんだ。でも――)
「それならそうと言って下さいよ! おかげで余計な心配しちゃったじゃないですか!」
ごめんごめん、と狛枝は笑っている。
「最初から正解の扉を選んでも良かったけどね……。それだと面白くないでしょ?」
要はゲームを盛り上げたかっただけか。釈然とはしなかったが、何となく『モノクマ』の鼻を明かしてやった気がしないでもない。わざと最初にハズレの扉を選ぶことで、失敗するのではないかと期待させておき、あっさりと正解を選択する。腹黒さでは『モノクマ』と同じかそれ以上だ。私は何ともいえない気分になった。そんな私の隣で、狛枝は仰々しく片手で頭を押さえている。
「……狛枝さん? どうかしたんですか?」
いやね、と彼は面倒そうに言葉を漏らす。
「ボクも大概舐められたものだなぁ、と思ってね……。たかだか三分の一だか三分の二程度の確率でボクを試そうとするなんて、失礼だとは思わなかったのかな? せめて、六分の一とか、十六分の一とかだったら良かったのにね……」