ダンガンロンパ 狛枝   作:雪哉

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Chapter3 セカンド・ゲーム

『A』の扉を抜け、次の部屋まで廊下を歩いていく。その途中で狛枝が私に質問してきた。

「……ねえ、琴江木さん。一つ聞いてもいいかな?」

「何でしょう?」

「さっきの話なんだけど、最初にボクがどの扉が正解か聞いた時、君はずいぶん自信があったようだったね? そして、それは見事正解だった。どうして分かったの?」

「ああ、そういうことですか……」

 誤魔化しても良かったが、これからも自分の『幸運』が必要になる展開が訪れるかもしれない。私は自分の『幸運』について狛枝に説明した。案の定、狛枝は驚いた様子を見せていた。

「へ、へえ、そうなんだ! 君も『幸運』なんだね……。そうか、だからボクが『ツイてない』って言った時にあんなに怒ったんだね……」

 狛枝は納得したように頷いている。そして、

「君の話を聞く限りだと、ボクとはまた違ったタイプの『幸運』のようだね」

 としきりに何かを考え込んでいたかと思うと、

「えーっと、琴江木さんは今まで『不幸』な目に遭ったことはないんだよね?」

 そう尋ねてくる。

「ええ。そうです……。といっても、今初めて『不幸』な体験をしているわけですが……」

「なるほどね……。まさしく『幸運の女神』ってわけだ」

『女神』だなんて大げさだったが、悪い気はしないので黙っていた。そんな会話をしている内に、次の部屋の前に着いた。二人は扉を開けて中に入る。すると――

『まずは一つ目のゲームクリアおめでとう、と言っておこうかな。さあ、狛枝クン、君に挑戦してもらう二つ目のゲームはこれ。題して『ワンルート・マインスイーパ』だ』

『モノクマ』のアナウンスを聞いて、私は部屋を観察してみた。

部屋の床は、縦五マス×横五マスの、二十五マスに分割されていた。一番手前のマスには「1」という数字が浮かび上がっている。マインスイーパなら知っている。隣接するマスの中に潜む地雷を読みながら、地雷以外の全てのマス目を解放すれば勝利のゲームだ。しかし、この場合は――

『お察しの通り、今回は全てのマスを開けてもらう必要はない。今君たちがいる手前のマスから、部屋奥の扉前のマスまで地雷を踏まずに辿り着ければ、ゲームクリアだ。そして――』

『モノクマ』は言葉を切ると。

『通常はマスに表示されるのは、隣接するマスの中に潜む「地雷の数」だけど、この「ワンルート・マインスイーパ」では、「地雷の無いマスの数」を表示しているから注意してくれ』

 と言った。私は唖然とした。つまり、手前に表示された「1」という数字は地雷の数ではなく、安全なマス目の数を示していることになる。この場合、確率は五分の四から、五分の一になるということか。更に『モノクマ』は追い打ちをかけるように、

『そして、安全なマスの中にも「ダミー」が紛れ込んでいる。この「ダミー」のマスの上に立ってもアウトだ。要するに、手前のマスから、奥の扉前のマスまで、一本道を辿らなくてはならない』

 そう言い放った。私は『モノクマ』に抗議する。

「ちょ、ちょっと。いくらなんでも、それはあなたに有利過ぎるんじゃない?」

 しかし、『モノクマ』は私の言葉など全く相手にせず、

「大したことじゃないよ。ねえ、『超高校級の幸運』の狛枝クン?」

 と、挑発するように狛枝に問いかけた。すると、

「そうだね! ようやく面白くなってきたね!」

 こちらもこちらで嬉々としている。私は呆れて何も言えなくなってしまった。

『喜んでもらえたようでボクも嬉しいな! じゃあ、ゲームスタートといこうか。あっ、もちろん失敗したら死んでもらうよ。今回は、床に仕込んである地雷が「凶器」だから、よろしく』

(……やっぱり、本物の地雷があるのね……)

 私は身震いした。爆死なんて、嫌な死に方ランキング上位に組み込むだろう。だが、私にはどうすることもできない。いっそ狛枝に代わって私がどのマスを選ぶべきかを決めた方がいい、とさえ思ったが、それは『モノクマ』が許してはくれないだろう。これは狛枝と『モノクマ』との『コロシアイ』なのだから……。

 狛枝が最初のマスの上に立ち、ゲームが始まった。

 彼はしばらく首を傾げていたが、右隣りのマスに立つと、

「うん! じゃあ、このマスをオープンしてもらえるかな」

(……まあ、そこよね……)

 私も直感で同じ所を選んでいた。ここまでくれば疑いの余地は少ないだろう。狛枝の『幸運』も本物だ。

『了解。オープンするよ』

『モノクマ』がそう答えると、狛枝の足元のマスが点滅し、「ピンポーン」という正解音とともに新しく数字が浮き出てきた。数字は「2」。次に正解を引ける確率は二分の一だ。

『さあ、狛枝クン。お次はどのマスにする?』

 煽るように話しかけてくる『モノクマ』に全く反応を示さない狛枝は、

「じゃあ、次は――」

(右斜めだわ!)

「右斜めだね!」

 私が心の中で叫んだのと同時に、狛枝も同じ選択をした。結果は当然――

『……ご名答』

 正解だ。浮き出てきた数字は「3」。ここで私は一瞬戸惑ってしまった。なぜなら「3」という事は、次に開けるべきマスのどちらにも地雷は仕掛けられていないことになる。つまり、どちらかのマスは「ダミー」であることは間違いない。だが、結局地雷が仕込まれている時とやることは変わらない。「正しいマス」を選べばいいだけだ。

「……左斜め前」

 狛枝は何の迷いもなく足を踏み出した。

 一瞬の間をおいて正解音が流れる。これで二十分の一の確率を引き当てていることになる。だが、まだだ。『幸運』はこんなところでは止まらない。私は、どこか自分が高揚しているような感覚を覚えた。しかし、次に現れた数字を見て、はっと我に返る。

 数字は「5」

 これまでの情報から、隣接する八つのマスの内、地雷二つ、安全マス二つの位置は把握できる。しかし、そこからが分からない。残り四つのマスの内、三つは安全マス、一つは地雷だ。更に三つのマスから正解の一つを選ばねばならない。確率は四分の一だ。しかし――

「左隣り」

 狛枝は何の苦も無く即答する。

『…………』

 正解音が鳴り響き、足元のマスに「4」の文字が現れる。これで再び二分の一の確率で正解を引ける、と私がそこまで考えた時、

「ああ、終わりかな?」

 狛枝は突然ゲームの終了を宣言した。私は虚を突かれて驚いたが、すぐに彼の言わんとする意味を理解した。

(そう、もう終わりだわ……)

 次に開けるマスは、左斜め前か左隣りだが、私は『左斜め前』を選ぶだろう。そして、狛枝も同じはずだ。それが正解なら、もうゴールしたも同然だ。なぜなら、そのマスの右斜め前がもう扉の前のマスだからである。そのまま進めばゲームクリアだ、それを見越しての言葉だろう。

『……オープンするよ』

 ここが分水嶺だと私は身構えた。だが、杞憂に終わった。狛枝の足元には正解音と共に「5」の文字が現れた。彼は足元の数字に目を向ける事すらせず、そのまま扉の前に立った。

「おーい! 終わったよ『モノクマ』! 琴江木さんもこっちに来てよ!」

 百六十分の一の確率を、何の問題もなく引き当てた狛枝は、そんな風に軽い調子で私を呼んだ。とても、命懸けのゲームを乗り越えたばかりとは思えない態度だ。私は、凄いと思うのと同時に、何か得体のしれない気味の悪さを感じていた。

(やっぱり、私の『幸運』を捻じ曲げて、この状況に引きずり込んだのは、この男で間違いないわね……)

 二人が扉の前に立つと、モニター内の『モノクマ』が淡々とした口調で話しかけてきた。

『……ふーん。それが『幸運』か。ほんとに憎たらしいね……。そう、殺したいくらいに憎いよ』

 それを聞いた狛枝は薄ら笑いを浮かべた。

「……ねえ、『モノクマ』。実はボク、君の正体に見当がついたかもしれないんだけど……」

 その言葉に私の方が驚いた。

「ええっ? 本当ですか、狛枝さん?」

「うん。どうする『モノクマ』? 聞いてみる価値はあると思うけど……」

『……ふーん。面白いじゃん、言ってみてよ』

 狛枝は更に歪んだ笑顔になると、

 

「……希望ヶ峰学園の『予備学科』ってところじゃない?」

 

 そう言った。

 

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