――その日、僕はいつものように高校から帰って来た。
本当にいつも通りで、僕は家に着くとすぐに自分の部屋に行った。
持っていたカバンを適当なところに放り投げ、僕はベッドに倒れこむ。
腕を額に当て天井を見つめる。
そして思うのだ。
――詰まらない、と。
その思いに呼応するかのように、部屋の窓が勢いよく開かれた。
僕は反射的にベッドから飛び起きた。
何だ、と思い窓を見続けていると、何かが入って来た。
よく見るとそれは少女だった。
おかしい、ここは二階だ、どうやって入って来たのか、そんな疑問が浮かんだが、それらはその少女の言葉でどこかに飛んで行ってしまった。
「フハハハ! 我、降臨せり!」
――そう言った彼女の背中には、黒くて綺麗な羽が生えていた。
僕が高校に入学してから、どれだけの時間がたっただろう。
ゴールデンウィークはとうに過ぎ、今や六月となってしまった。
友人は一応いる。
だが僕の高校生活が満たされているか、と問われれば、頷くことはできないだろう。
なぜ? と訊かれればこう答える。
僕の望んだものがないから、と。
僕は非日常が欲しかった。
今までの人生が、平凡と評さざるを得ないものだったからだ。
では何をして非日常とするか。
そんなもの僕にも分らない。
だからこの先僕が満たされることはないのだと思う。
それなら僕はどうしたらいいのだろうか?
そんな話を友人に話したら、鼻で笑われたのが今日の高校での出来事だ。
僕としては結構真剣に悩んでいたので、少々頭に来たが軽く流しておいた。
こんなことで突っかかっても意味がない。
そのあとは適当に話して解散となった。
ただ、僕は一つだけ隠していることがある。
中学の頃、一年間だけ神隠しのようにこの世界からいなくなったことがあるのだ。
しかし、僕が言った世界での一年間は、この世界では全く関係していなかった。
つまり、僕が消えた時間はこの世界では一分もたっていなかったのだ。
ここまできたら最早笑い話になってしまう。
言わなかった理由としては、言ったところで誰にも信じられないだろうし、頭のおかしい人間に見られるのは、今後の生活ん支障が出てしまうからだ。
僕の非日常を望む欲求はここからきているのが大きい。
もう一度、あんな体験をしてみたい、と。
そんなこんなで僕は帰路についている。
陽は傾き、夕暮れ時だ。
後ろを振り向けば、僕の影が長く続いていた。
空を見上げ、息を吐く。
どうにも憂鬱な気分である。
理由は特に何もないのだが、偶にこういう日がある。
抑圧された欲望が抑えきれなくなった、とでも言えばいいのか。
そんな僕の気持ちに引かれるように、なんだか体まで重くなってきた気がする。
これは早々に家に帰って寝よう、そうすればこんな気分忘れられる。
僕は歩く速さを上げた。
――――――――
そして帰ってきたらこの有様だ。
僕は思わず額に手を当てた。
「……意味が分からない」
「む、貴様何者だ!」
「ここは僕の家だ……」
いきなり現れた少女は、既にこの家の所有権を手にしているようである。
何様のつもりだ、そう言葉に出そうになって寸でのところで止めた。
初対面の相手にケンカを売るような言動はすべきではないだろう。
「僕が君は何者なのか、訊きたいところなのだが? 親は居ないのか?」
言いながら、僕は壁に掛けられている時計を見る。
既に五時を過ぎていた。
「時間も、君みたいな子供が一人で行動するには遅い時間だろうに……」
その少女は、見た目で言えば小学生程度だ。
背も百四十位だろうか。
「ふん! 我を子ども扱いするでないわ! 我が名は――」
「はいはい、もういい。コスプレ好きの子供はとっとと帰りなさい。家の住所は分かる? もしくは電話番号とか」
「ええい! 勝手に話を進めるな!」
「いや、僕も子供の遊びに付き合うほど暇ではないんだよ。その羽は綺麗に出来ていて、誰かに見せたいと思う気持ちは理解できないわけではないがね」
「ほう、貴様にもこの羽の優美さが分かるか……。話の分かる人間らしいな」
彼女は徹底的に僕の意見は聞かないらしい。
例外として褒めると反応するようだ。
彼女はその羽を触りながら、何だか分からない自慢話を繰り広げている。
この羽は高貴な悪魔の証だとか、毎日手入れは欠かさないだとか。
どうやらこの少女、存外痛い奴なのかもしれない。
いつまでもそんな話を聞いている暇はないので、僕は無視して話を続けた。
「そんな話はどうでもいい。君は何しにここに来た?」
「ククッ、良いだろう話してやる。心して聞け……我はこの世界を征服しに来たのよ!」
「……はあ」
頭が痛くなってきた。
確かに非日常を望んではいたが、こんな痛い少女を連れてくることはないじゃないか。
おお、神よ。
僕に一体どうしろと言うのか。
「……両親は?」
「ふふん! 我の父は、現魔界の主、ティニアス・アルターク。そしてこの我は、その娘のミレニア・アルタークである!」
「……頭痛薬はどこにあったっけ」
本当にこれはどうすればいいのだろうか。
僕には何も思いつかない。
またため息がこぼれた。
「えー……。じゃあ、住所は?」
「ジュウショ?」
「……言い方が悪かったか、住んでいるところは?」
「魔界だ!」
本格的にこれはどうすればいい?
僕は、もう出来の悪い夢を見ている気分になって来た。
「君は、これから、どうする?」
「ここに住もうではないか! 多少貧相でも、我は寛大だからな、許してやろう!」
「……はあ」
もうどうにでもなれだ。
僕はベッドに倒れこみ、目をつぶった。
意識が落ちる最後に思ったのは、このままこの子供が家にいると、僕が誘拐したことにならないか? であった。