「なんだ、来たのか」
少女はぽつりと独り言のように呟いた。
「お前も物好きだな、だけど嫌いじゃないよ、お前のそういうとこ」
少女は小さく笑っていた。
「それじゃ語るとしよう、いや、この場合は始めようか?ふむどちらでもよいか、お前が一緒だしな」
◆
ある街に起きるとある事象
世界には未知が溢れていれ、人知を越えた理から外れし者達
異能、怪人、悪魔等々…
果たして隣にいる人は人間なのか、人間の姿をした化け物なのではないか…
冬が訪れた暮宮市、最近この街で人肉を喰らうという事件が頻発している
真夜中にそいつは現れ、獲物を狙う
そいつのせいで最近の夜は不気味なくらい静かだ
そんな静かな夜、執事服にコートを着た青年が少し古ぼけた洋館屋敷入って行く
クーラーボックスにレジ袋、紙袋まで持つ姿は異様である
屋敷内部は明るいが人の気配は無く、此処も不気味なくらい静かだ
青年は屋敷の廊下をしばらく歩き、ある部屋の前に立ち止まり、その部屋へと入る
その部屋は書斎のような部屋で似つかわしないオープンキッチンまで備えてある、寝具にソファー、大型テレビまであり、冷暖房完備、部屋主がどれだけこの部屋から出たがっていないのかが分かる
さらには脱ぎ散らかしてある衣服、ずぼらだということも理解できる
そして、部屋の主である人物はソファーでノートPCを操作している
ヘッドフォンをして扉に背を向けている為、青年には気づいてはいない
「茨、買ってきたぞ」
紙袋を部屋の主である少女の前に出すとようやく青年に気づきヘッドフォンを外した
この屋敷の主、茨 結衣
綺麗に腰まで伸びた赤茶髪、ただし今は寝癖付き
身長146センチ、暖房を点けているからYシャツ一枚だけ羽織っているだけで、なんという体たらくっぷりである
「おかえり彼方、随分と遅かったようだけど?」
紙袋を受け取った茨は、一応聞いてはくるものの、既に興味は紙袋にあるようだ
彼は雛木月 彼方
レンタル執事事業という珍しい仕事をしている青年
黒髪で優しそうな雰囲気な彼だか過保護馬鹿で茨が一人暮らしだと知った時に茨の執事になる事を決意
しかし茨はそれを拒否、代わりに保護者的立場を希望してきた
これは話すと長くなるので追々話すとしよう
「どうせ何も食ってないんだろ?鍋しようか、鍋」
彼方の片手のレジ袋は鍋の材料なのだろう
「鍋!?何鍋!?」
いきなり子供のように食いついた、現金な少女だ
しかし彼方は慣れているのか苦笑していた
「仕事先で旅行が趣味なのがいてさ、蟹貰ったからさ、海鮮鍋でもしようか」
彼方はキッチンに入りクーラーボックスから蟹を取り出し、茨に見せた
「彼方愛してるぞ~!」
「はいはい、どうも」
彼方は苦笑し下拵えを準備をはじめた
「蟹鍋~蟹鍋~♪」
うきうきしながら茨は紙袋の中身を取り出した
まだ紙で包装はされてはいるが小包程度の大きさである
「なぁ、茨」
「うむ?なんだね執事君よ」
「結局頼まれはして取り行ったけどさ、それって一体なんなんだい?」
「む?これは所謂エロゲというやつだ、しかも生産数が少なくてなレア中のレアで…」
茨が言い終わる前に彼方はエロゲを茨から取り上げ高い棚の上に置いた
「な、なにをするのだ!」
「成人になるまでこういうのはしないってお兄さんと約束しなかったっけ?」
「ぐっ、雇われの身で…そもそも私は神だぞ、お前ら人の子と違って見た目より年齢はかなり上なんだからな!」
そう、茨 結衣は神だ
しかし低級の神で、上の神からの指示でこの街の守り神としている
彼方はその事を茨から聞いていて、それでも茨のそばにいる
「そもそも、なんで神様がエロゲなんてしたがるのさ」
「知的好奇心だよ、神だって知らない事もあるということさ、あとそれ神ゲーらしいから」
ドヤ顔で彼方を見る茨に彼方は気づいた
なるほど、神様がやるゲームだから神ゲー…それが言いたかったんだなこの神様は
「さて、下拵え下拵え」
彼方はキッチンに戻り、出来るだけ触れずに戻った
その様子が不服だったのか、茨は頬を膨らましせリモコンを扱いテレビを点けた
『今朝がた未明に暮宮市で変死体が発見されました、警察は殺人事件として捜査を開始しました、また暮宮市には特殊警戒警報が発令され付近の住民は十分な注意を…』
特殊警戒警報とは付近に化け物が現れた時に発令されるものであり、発令された時には特殊武装した警察や軍隊まで出動することとなっている
「やれやれ、またこのニュースか」
「最近多いよね、こういった事件、それに特殊警戒警報ってことはさ」
「彼方が思ってる通りだよ、馬鹿神の指示を待ってたんじゃ被害増える一方だな、まったく…」
やれやれと溜め息をする茨
指示を待たずとしても動くのは簡単だ、だがほいほいと出てしまえば人の子に危険視され狩られてしまう
「だとしても私もお利口ちゃんじゃないしな」
「おぉ、今更気づいた」
「うっさい!いーっだ!」
いちいちお子様っぽい行動だから神の威厳ってのは皆無
しかし愛嬌があるのは間違いない
すると茨のノートパソコンのメールを受信したことを知らせる電子音が鳴り茨はそのメールを確認した
「…なるほどね」
メールの内容を把握した茨はノートパソコンを閉じ、ソファーに横たわり怠け始めた
「あのさ茨」
「うむ?なにかな?」
「とりあえずちゃんとした服を着ようか、食べてる最中にスープで火傷したら大変だしさ」
「おお、そうだな」
茨は早速Yシャツのボタンに手をかける
「茨、頼むから人の目は気にしようよ」
「細かしいぞ、別に私は見られても気にしないぞ」
そう言うと茨は無い胸を誇らしげに張った
それに対して彼方は苦笑混じりに呆れていた
「しかしまあ、彼方が言うのであればちゃんとした場所で着替えてくるとしよう」
そう言うと茨は畳んであった紺のジャージを手に取り部屋から出た
廊下はやはり静まりかえって不気味だ
このまま脱衣室に向かおうと、ふと頭を過るのは先ほどのメールの内容
「やれやれ、悪喰〈バットイーター〉か、意地汚い奴が来たものだ」