ツヴァイウィング大好き娘、追っかけ続けて装者になる 作:わらぶく
少女、二課へ行く
『さぁ皆! アタシたちのライブはまだまだ始まったばかりだ! もっともっと盛り上がっていこうぜッ!』
「奏さーんッ!!」
熱気に包まれるライブ会場、揺れるサイリウムの波、轟く歓声。
早速だが、私、
だってめっっっっちゃカッコいいもん!
赤と青、奏さんも翼さんも凛々しい声で歌ってて、聞いてる私はもう死んでしまいそう。
アッ、興奮しすぎて意識が──
……どうやら興奮のし過ぎで本当に意識が飛んでしまったみたいだ。
周囲の観客席はガラガラ、色彩豊かなライトは消えて盛り上がっていたはずのライブ会場はガランとしていた。
いつもこうだ。これでツヴァイウィングのライブは五回目、今回は二階席の端だったもののスピーカーからはお二人の声が聞こえていたし、何より楽しい。両手にサイリウムを持って曲のリズムに乗って振るのはもっと楽しい!
でも、絶対にライブの途中で意識を失ってしまう。
はぁ、辛い……。
「帰ろ……」
私はコンサート会場を後に、新幹線に乗るため駅に向かうことにした。
自慢になるが、私はツヴァイウィングのファンサイト、番号が一桁台の古参勢である。
当初は小さいライブハウスでのコンサートだったけど、私はお二人の声と奏さんのビジュアルに一目ぼれしてすぐにファンになった。胸ポケットのファンサイトの会員証は、私の家宝である。
「もう握手会とかしないのかなぁ……。今じゃもう開いてくれないもんなぁ……」
かなり前、私の手を奏さんが握ってくれたのは、まだまだ記憶に新しい。
手のひらの温もりがすごくて、また握ってもらいたいなと考えていたら。
「……? 何これ?」
視界でふよふよと漂う黒い砂に気が付いた。
手で触れてみようとするが、すり抜けてしまう。漂う匂いも、キャンプファイアでよく嗅ぐ木炭っぽい。
あれ……? 炭……?
疑問に思いながら曲がり角を曲がれば、ザクッと砂を踏んだような感覚。ゾクゾクっと寒気が足から頭のてっぺんまで駆け抜けていった。
カラフルな人型の化け物。
特異災害ノイズ、自分の家族を殺した存在。触れた人間を炭素に分解する人間だけを殺すような奴ら。
見た途端、悪寒が止まらなくなって体が震える。喉が一気に乾いてきて、逃げなきゃいけないのに足が動かない。
「あっ……ぁ……」
動け、動け……ッ! 奏さんに手を握ってもらうまで死ねないだろ、私……ッ!!
ゆっくり、ゆっくりと近付いてくるノイズ。
その距離は目の前に迫っていて、ノイズの手が迫っている。もう助からないと覚悟して、死ぬ恐怖で今さら腰が抜けた。
ペタりと座り込む私の頭上をノイズの手が掠めて、ピカピカと光る発光体みたいなのがこちらに向く。
ようやく体が言うことを聞くようになったけど、腰が抜けて後ずさることしか出来ない。今度は逃がさないとばかりに、周囲を囲んでから手を伸ばしてくるノイズに絶望して諦めれば。
「させるかぁッ!!」
──何度も聞いた凛々しい声。大好きな人。
目の前に赤い髪が翼のように広がっていて、気付けば周囲のノイズが塵になって消えていた。ヘンテコな衣装を着て槍を持っているが、その後ろ姿は間違いなく大好きな天羽奏さん、その人だった。
「大丈夫か?」
「は、はひっ……」
声が出ない。こんな近くに奏さんを感じて──
「怪我はなさそうだな」
奏さんの手が手首に触れて。
アッダメデスそんなに近付かれたら、
「アッ──」
「おっ、おい!?」
奏さんの言葉を最後に、私は興奮で見事に失神した。
そして今。
「ようこそ明乃菖蒲くん、特異災害機動対策二課へ!」
たくさんの人たちに囲まれて、クラッカーの紙吹雪を浴びていた。赤いシャツを着たガタイの良い男性がここの責任者みたいで、左右に並ぶのはここの事務員みたいだ。
私はというと、意識を取り戻したらこんなところに居て、正直とても怖い。そりゃ怖いでしょうよ!!
でもそんな思いもある人がいると知って、安らぐ。
「よっ、元気そうでよかった」
後ろから肩にポンと手を置いた奏さんが居て。
「ふしゅぅ~~……」
「うぇっ!?」
また失神するのでした。