ツヴァイウィング大好き娘、追っかけ続けて装者になる 作:わらぶく
本部で受けた報告によれば、ノイズ出現に響さん、翼さん、奏さんのお三方が出撃したところ、二年前に失われたはずの『ネフシュタンの鎧』を纏った少女が現れたとのこと。
最初こそお三方が優勢だったものの、持久戦になり奏さんのLiNKERなるものの効果時間が切れてしまい、あえなく脱落。まるでこちらの手の内を知ってるかのような動きに優勢が劣性に代わり翼さんが……私がかつて使った『絶唱』を歌ったと。
その一部始終を記録したカメラ映像を見せてもらった私は、心の中にポッカリと穴が空くような気分だった。目と口、耳から血を流す翼さんの姿を見て、思わず声を漏らしてしまった。手術室の前で項垂れる奏さんなんてずっと見ていられず、たまらず逃げるようにその場を離れていつもの休憩スペースに。
その後を追ってか、弦十郎さんが私のところにやってくる。
「アヤメくん」
「……弦十郎さん」
「今回現れた少女、彼女は響くんを狙っていた」
「響さんを、ですか?」
「ああ、狙いとしてはシンフォギア装者、その手に持つ聖遺物と思われる。響くんはまだ装者になって日が浅く、戦い方もまだまだ洗練されていない。それは見て取れる。そこを狙われたのだろう」
なるほど、つまり響さんを守るために翼さんを命を懸けたと。
前から防人、防人と言っていたからその覚悟は知っている。それに、私という前例がありながも無茶をしたのなら、その本気度は計り知れない。
自信の無力さが何とも。
この身にお二人と似た聖遺物を持ちながら、一回を活用することが出来ずにただ守られているだけ。危険性はあるとはいえ、お二人を守るためなら割りと命を懸けられる。
だって、あの人たちは私の生き甲斐なんだから。
「聖遺物が狙いであれば、君が狙われる可能性が更に高くなる。出来る限り情報が漏れないようにしているが、いつ外国政府、機関が嗅ぎ付けるかも分からない。アヤメくんには、これからよりいっそうの注意を払ってもらわなければいけない」
「私に、何か出来ることはないんですか。いざとなったらこのお腹のアメノムラクモを使ってでも、残った奏さんを──」
「ダメだッ!!」
「ッ……」
弦十郎さんの怒声に、私は思わず怯む。
「アヤメくんが二人のことを思ってくれているのは知っている。だからこそ、君には今まで以上に自分の身を案じて欲しい。奏にも翼にも、アヤメくんは大切な仲間なのだ。君が無事なら二人も死ねぬ、というものだ」
「そうなんですかね。ずっとこせこせ後ろで隠れているだけの私が、お二人のためになるとはとても……」
「何も前に立って戦うことが人のためになるとは限らない。二人にとっての帰る場所としてどっしりと構えてくれたら、それだけで二人の力になれる。とはいえ、自衛の力は必要かもしれないな」
「ですよねぇ」
「うむ、そうだな。良ければ明日からどうだ? 俺の家なら器具もあるし映画もある。特訓には向いているはずだ」
「弦十郎さん、それ人によったらナンパって取られても仕方ない言い方ですよ。女の子相手に話すときは、もう少し言葉遣いを考えた方を良いですよ。者によってはすぐに警察案件かもですね」
「そ、そうなのか? う、うむ、難しいな……」
そう、今の世の中難しいのです……。
まぁそれはさておき、お二人に迷惑をかけないための自衛力を蓄えるのは、今の私に出来る最善の手。アメノムラクモを展開せずに身を守るためには、正に最強の名が相応しい弦十郎さんにお世話になるのな最適なのだろう。
いやほんと。
生身で何十メートルの高さを簡単に飛ぶ。
シンフォギア相手に勝つ。
しかもその理由が、飯食って映画見て寝る、これを化け物と言わずして何とするか。そんな人に私は投げ飛ばされ続けてるのだ。体も頑丈になろうというもの。
おっそろしいわ!
「でも、弦十郎さんの心遣いはとても嬉しいですよ。私も出来ることをしたいですから。いつまでも、お二人の迷惑になるわけにもいかないです。もっと、私が追い付けないくらいに高く、高く飛び続けてもらわないといけないですからね」
「ああ、そうだな。奏創案のツヴァイウィング、こんなところで怯むものじゃない」
「何とッ! ツヴァイウィングは奏さんが作ったんですか!?」
「何だ、知らなかったのか。奏が作ったユニットだぞ。思えばあの時から、奏の考え方も変わったのだったな」
「はぇぇ……ツヴァイウィングって私にとっても、奏さんにとっても人生の転換点だったんですねぇ。良い話が聞けました。過去話とかは、奏さんの方から聞ける時に聞こうと思います。本人の知らないところで昔のことを根掘り葉掘りするのは、私が嫌ですから」
「そうか。君は、本当に奏のことが好きなのだな」
「そりゃあもう! もちろん、翼さんのことも好きですけどね! 無色だった私の人生に色を付けてくれたんですよ。お二人が居なかったら、私はただ勉強しか取り柄のないちり紙以下の人間だったんですから。孤独でも、熱狂的になれるものがあれば何だかんだ生きていけるものですよ!」
本当に。
ただふよふよと、どこにも着かず飛ばされ続ける根無し草であるよりも、ツヴァイウィングに熱中する女オタでいられる今の方が生きているって実感するんだから。
二課から寮の自室に帰ってきた。
明日からは朝から一日練習だろうと考えて、私は家から持ってきていた旅行用バッグに荷物を詰め込んでいく。泊まり込みの修行になるだろうから、ある程度のものは弦十郎さんのところに置いおこうという寸法だ。
着替え、ツヴァイウィングのCD、石鹸、洗髪剤、CDデッキ、ツヴァイウィングの写真集、ツヴァイウィングのサイン入り色紙。
……ん?
──ピンポーン
「ん、はーい、今出まーす」
時刻にして午後九時。
門限がとっくの昔に過ぎているから、寮母さんかなと考えながら玄関に向かいドアを開ける。首だけを外に出して応対してみれば、そこに居たのは寝巻き姿の響さんだった。
「あ、アヤメさん!」
「さん付けしなくても良いですよ。一年生ですよね?」
「はい。そうですけど……」
「なら同級生です。対等に生きましょう、対等に」
「えっ、同級生なんですかッ!? 私、てっきり翼さんと同じ三年生だと──」
「ちょっと、声が大きいですよ……!!」
響さんの声の大きさに私はたまらず口を押さえて、周囲を見渡す。まだ寝てる人間の方が少ないだろうけど、そこまで響かなかったらしく誰も玄関先に出て文句を言いに来ない。
胸を撫で下ろしながら響さんに目を向ければ、目でごめんなさいを連呼していた。
「ふぅ……とにかく玄関先で話すのもなんですからぁ……あ、待ってください部屋のなかを片付けてきますから、くれぐれも、くれぐれも外で待っていてくださいね。お願いですよ」
「え、あの」
やべぇ……やべぇッ!
来客なんて想定してないんだから、部屋中に張ったツヴァイウィングのポスターを外さないとやべぇッ! こんなん見せたら響さんからどんな目で見られるようになるか……!
偏見だけど口の軽そうな響さんに見られたら、これからのリディアン音楽院で私のどんな噂が広まるか……ッ!
──アヤメさんの部屋ってツヴァイウィングのポスターだらけなんだよ!
……死んだな。
あーでも外す場所がないッ! どーしよどーしよッ!
響さんをずっと外で待たせるわけにも……
「あ、あのぉ……」
「アッ!!」
私後ろですっごい不思議そうな顔をする響さん。
……死んだなッ!!
なぜ入ってくるんですかぁ響さぁん……。
まぁどうせ隠すような場所もなかったし結局は時間の問題なんでしょうけど、せめて私の覚悟を決めさせて欲しかったぁ……。
「わぁ、すごーい! これ全部ツヴァイウィングのッ!?」
「ええ……そうですよぉ……」
終わりもうした……私の学院生活、ここで終わりもうした……。
「翼さんに奏さん、でもちょっと奏さんが多いような?」
「そりゃ私は翼さんもですけど奏さん最推しなんですよッ! あぁ……部屋のことなんて、ツヴァイウィングのお二人にも言っていないのに……」
お母さんしか知らないことが、まさか響さんにバレてしまうとは……不覚ッ! いっそのこと開き直ってやろうか。
「えぇそうですよ。私はツヴァイウィングのお二人が大好きなんですよッ!! 悪いですかッ! 私はお二人を見ながら死んでいくと決めたんだァッ!!」
「アヤメさん!? 落ち着いて──」
「うがぁぁぁぁッ!!」
閑話休題。
響さんにこの部屋のことを公言しないことを約束させ、私は暖かいお茶を出していた。
「で、私に何の用ですか」
「私、聞きました! アヤメさんが二課のすごく強い人と修行をするとッ!」
「それどこから聞いたんですか……まぁ、そうですね。自身の安全を考えると、自衛の力を身に付けた方が良いかと思いまして」
「私も、奏さんと翼さんと並び立てるようになりたいんです。人を守れる力をしっかりと扱えるように、もっとたくさん人助けが出来るようになりたいんです。だからお願いしますッ! 私も修行も参加させてくださいッ!」
「私に言われてもぉ……明日一緒に弦十郎さんの所に行きましょうか。あの人なら、一人くらい増えても大丈夫でしょう。それと、私に敬語はNGです。むず痒い!」
「うん! ありがとう、アヤメちゃん!」
それだけ言うと、響さんはお茶を飲み干し自分の部屋へと帰っていった。
えっ? それだけ?
私の部屋の秘密を暴かれたのに、それだけ?
……。
ふて寝する。お休み。