ツヴァイウィング大好き娘、追っかけ続けて装者になる   作:わらぶく

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少女は人扱いされない

「たのも――ッ!」

 

 今日は弦十郎さんの大きな屋敷に来ています。

 そして、早朝から大声を出す立花さんはとっても元気です。

 

「朝から何事かと思えば、アヤメくんは分かるが響くんはどうしたんだ?」

 

「私もアヤメちゃんと一緒に特訓させてくださいッ! いつまでも足手まといでいたくないんです!」

 

「ふむ、そういうことか。アヤメくんは、その冷静さを見る限り先に聞いていたようだな」

 

「ええまぁ。いきなり部屋に来たときはビックリしましたけどね。いやホント」

 

「えへへ」

 

「いや、笑い事じゃなくて」

 

 響さんって、ある意味凄い人だと思うんです。

 こう、何事もポジティブに考えるというか、あまり考えていないというか。

 

 弦十郎さんが私たちのことをすっごい見つめてきたが、そこにやらしさとかはない。

 というよりは、学校で言う運動部のコーチが生徒の体つきを見て、どんな練習メニューにするか考えてる、そんな目だ。何でわかるかって? 私が元々柔道部で良い感じのコーチに巡り合えたからだ。

 ……まぁ、一年半眠っている間にコーチと会えなくなってしまったけれども。

 

 二十秒ぐらい弦十郎さんが私たちを見て、いきなり聞いてきた。

 

「ところで君たち、映画は見るかな?」

 

「「……え?」」

 

 

 

 

 

 私の特訓メニューが決まった。

 

 月:ランニング20㎞、筋トレ、廊下の雑巾賭け

 火:筋トレ重視、映画鑑賞の後に武術練習

 水:体お休め日、軽いウォーキング

 木:ランニング10㎞、映画鑑賞の後武術練習。

 金:筋トレ重視、サンドバッグを使ったパンチ力の強化

 土:肺活量の強化重視、自主的な歌唱練習

 日:休日

 

 ざっとこんな感じ。うーん筋肉痛不可避。

 でも聞けばツヴァイウィングのお二人もこんな感じの運動をしてるみたいで、そりゃ走りながら歌えるわと感心した。

 もちろん、体験してきた私は死にかけましたとも。

 そして私は改めて、弦十郎さんのおかしさを知ることになった。

 弦十郎さん曰く、強くなるには飯食って、風呂入って、寝る。

 そこにDVDがあれば完璧だそうです。やっぱおかしいわ、あの人。

 ちなみに、響さんは弦十郎さんを師匠と呼ぶようになりました。

 

 まぁそれはさておき。

 弦十郎さんの特訓をするようになってから少し経って、デュランダルという聖遺物を永田町へと移すという話が司令室で弦十郎さんの口から聞かされた。最近この辺りはノイズが頻発から、それから守るためのようだ。

 そしてもう一つ──。

 

「政府はアヤメくんを完全聖遺物『天叢雲剣』をみなし、同じく輸送することになった」

 

「待てよッ! アヤメは人じゃないってのかッ!?」

 

 弦十郎さんが口にする酷薄な言葉に、同席していた奏さんは声を荒げてくれた。

 声に出したのは奏さんだけだったが、他の人たち──オペレーターの二人と響さんが眉を顰めたりしていた。

 いよいよ、私は人扱いされなくなってきたらしい。

 

「……政府の一部からは、体内に聖遺物を宿した人間は危険性が高く直ちにでも確保、収容するべきだという言葉が持ち上がっている。他国から拉致でもされれば、日本にどのような危険が迫るかわからない、とも」

 

「アヤメはそんな危ないことをする奴じゃねぇッ!」

 

「そんなこと誰よりも俺たちがよく知っている。だが、イスに座り続けている人間たちにとっては、見ていないものを容易く信じるわけにもいかないのだろう。聖遺物はどの国も求める、一種の戦略兵器だ。政府としては、もしもの心移りが起きる前に手元から離れないようにしたいのだろうな」

 

「そんなの、人間にすることかよッ!」

 

「ああ、彼らはアヤメくんを完全聖遺物としか見ていないのだろう」

 

 詳しいことを私は全く分からないが、少し前に了子さんから聞かせてもらった話では聖遺物の中には世界を変えかねない驚異的なものがあるみたいで、特に私のアメノムラクモはまだまだ謎の多い聖遺物。解き明かした時、何が出てくるかもわからないブラックボックスなこともあって、博士の了子さんでさえも慎重にならざるを得ないものだそうだ。

 気持ちはわかる。得体のしれないものなんて、怖くて触りたくないに決まってる。

 それが人なら何を考えてるかも分からないわけで……。

 

 ただ、私はここを離れたくない。

 奏さんと翼さん、響さんに私の思ってくれる皆さん、そしてお母さん。皆がいるこの二課から、リディアンから、離れたくない。

 

「師匠、どうにかならないんですか? こんなの、酷すぎます!」

 

「……二課のリーダーとして既に異議申し立てはした。だが、決定事項だとして向こうは聞こうとしない。俺の権限では、向こうの考えを変えることは出来なかった」

 

「私は、人じゃない……」

 

 言わないようにしていた言葉が、思わず漏れる。

 腕に巻いた包帯を外せば、以前よりも黒い部分がちょっと広がった私の体がお目見えする。隣に立っていた響さんがビックリして目を丸くしていたけど、すぐに私の手をとって真剣な眼差しを向けてきた。

 

「アヤメちゃんは人間だよ! だって、そんなに悲しそうな顔は聖遺物に出来ないでしょ?」

 

「響さん……」

 

「そうだぞ、アヤメ。誰が何と言おうとアヤメは人間だ。なぁ弦十郎のダンナ、何とか出来ないのか?」

 

「……すまない、今の俺には何も出来なかった」

 

 奥歯を噛み締めながら、無念そうな表情をする弦十郎さん。

 いきなりの別れになってしまうけれど、ならせめて最後くらい明るくいきたい。

 

「弦十郎さん、謝らないでください。私のために頑張ってくれたこと、本当に嬉しいです」

 

「アヤメくん……」

 

「皆さんもこれまでありがとうございました! 向こうに行っても、皆さんのことは絶対に忘れませんよ! 奏さんも、私は向こうでも応援し続けますよ!」

 

「なっ、アヤメはそれで良いのかよッ!?」

 

「だ、だって、私がここに居続けても奏さんのご迷惑になってしまいますし、下手したら二課の皆さんにもご迷惑が──」

 

「アタシはそんなこと聞いてるんじゃねぇ! アヤメの気持ちを聞きたいんだッ! アヤメは、アタシたちと居たくねぇってのかよッ!」

 

「そ、そんな訳無いじゃないですか! でもですね! 私一人のわがままで皆さんを巻き込むわけにも──」

 

「一つぐらい、わがまま言ったっていいだろッ!」

 

 ……そんなこと言われてしまったら、心に来てしまう。

 でも、弦十郎さんにはもうお母さんのことでわがままを言っているし、奏さんと翼さんにはずっとそばに居させてもらってる。むしろこれまで良い思いし過ぎた。チケットに、ツヴァイウィングに、リディアン。良すぎた。

 なら、今回のこれはもしかしたら、今までの埋め合わせだ。

 

「わがままならいっぱい言いました。それこそお二人の側でずっと居られたことが私は──」

 

「~~ッ! もういいッ!」

 

 奏さんが怒って司令室を出ていってしまった。

 これで良いんです。私のことに固執されるぐらいなら、奏さんは私の事なんか忘れて翼さんと一緒に飛び続けてほしい。それが私の求める奏さんの姿なんだから。

 

 だから私もお二人に出来ることをする。

 二課の皆さんにも、ツヴァイウィングのお二人にも、響さんにも了子さんにも迷惑を掛けない、我も不幸にならないことを私はする。

 

「弦十郎さん」

 

「本当にすまない。今回のことも、これまでのことも、すべては力の及ばない俺の責任だ」

 

「いえ、これまでありがとうございました。翼さんにお礼と、お母さんのことはお願いします」

 

 

 

 

 

 ……なんて、二課では言ってみたけれど、結構心がキツイ。

 

 二課から寮の自室帰ってきた私は、ベッドに倒れながら目を腕で隠す。

 私があんなに楽しい所から離れないといけないなんて、そんなの嫌に決まっている。それに奏さんの近くから離れるなんて、私は絶対にヤダ。

 でも私がグチグチ言ったところで何か出来るわけでもないし、それこそ奏さんに言ったように皆さんの迷惑になりかねない。

 

「キツイわぁ……」

 

 私しかいない部屋の中で、ぼそっと呟く。

 あぁそうだ、この部屋に貼ったポスターも片付けないと。貼りっぱなしだと、次の入居者が驚いてしまう。向こうに持って行っていいんだろうか。無理なら処分、でもお二人のものは捨てたくないなぁ……。

 

 思えば、アメノムラクモって私の短い学生人生引っ掻き回してくれるよなぁ。

 お二人に近付けたのもアメノムラクモなら、お二人から引き離すのもアメノムラクモ。そこに私の意思とかはなくて、全部アメノムラクモが引き起こしたことだ。

 ちょっと自由が過ぎるんじゃないかと。

 

「響さんにでも預けるか……」

 

 スカートのポケットからケータイを取り出して、響さんの電話番号に連絡。

 ツヴァイウィングのグッズは、全部響さんに持っていてもらおう。

 あの人なら、大丈夫なはずだ。

 

 

 

 

 デュランダル、及び私こと天叢雲剣輸送作戦決行日は、二日後に決定した。

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