ツヴァイウィング大好き娘、追っかけ続けて装者になる   作:わらぶく

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少女は覚悟を決めたい

 遂に、人扱いされなくなった。

 ただツヴァイウィングのお二人を昔から追いかけ続けてきただけなのに、最後はこうなるとは誰が予測できるのか。少なくとも私には考えられなかった。

 

 向こうに行ったら、どうなってしまうのだろう。

 監禁、人体実験、解剖、その他諸々……。

 怖い。昨日皆さんの前ではああ言ったけど、やっぱり怖い。

 もし生き甲斐を奪われることがあれば、私は脱け殻の人形になりかねない。

 

 ……街に行こう。

 素肌を隠し、帽子を被って目元が見られないように、適当なファッションにしておく。これ以上肌の色がおかしくなれば、いよいよ外出できないかもしれない。流石に目出し帽とか、銀行強盗とかに間違えられそうだ。

 これも、一種の住み分けだ。人と聖遺物、交わらないように別々に分けとかないと危なっかしく敵わない。

 

 まさか私が聖遺物の側に回るとは思ってもみなかったけど。

 

 人生ままならないねぇ、的な感じで街に出たものの、憎らしいほどになにも変わっていない。私が進んで街を取り残しているのか、街に私だけが取り残されているのか。

 変わっていく私と、変わらずにいる街。

 あぁ……つらみ……。

 

「おい、何しけた面してんだ?」

 

「あの時の人……」

 

 以前見た、オシャレな服の人と再会するとは……。

 今こういう時って、何も知らない人と会話できるって気持ち的に楽だ。

 

「最近色々ありまして……」

 

「はーお前でも悩むことあるんだなぁ。てっきり馴れ馴れしいだけの奴かと思ってたけど」

 

「中々失礼な……私にも悩みの一つや二つ、百個ぐらいはあるものです」

 

「多すぎんだろ。まぁ、あんたには飯を食わせてもらった礼もあるからな。無理やりだったけど、腹一杯飯食わせてもらった分の相談は乗ってやるよ」

 

「優しいんですね」

 

 何この子、優しすぎて涙出そう。まだ知り合って少ししか経っていないのに、こんなに優しくされたら私チョロ属性付いてしまいそう! なんて考えているくらい、私は意外と精神的に痛め付けられているらしい。

 

 ともかく、往来のど真ん中でべちゃくちゃと話し続けるわけにもいかず、彼女の提案で近場の喫茶店に入った。シックな内装で少し高級感溢れるオシャレな喫茶店にも関わらず、出てくるサンドイッチとかはリーズナブルなお値段。しかも電気マネー決済搭載も可能。こういう個人店はまだまだ現金払いだと思っていたけど、どうやら私の思い込みだったみたいだ。

 私たちは二人用のテーブル席に向かい合うようにして、彼女はオレンジジュースを、私はコーヒー(ミルクましまし)を頼み、座る。店内の空気はすごく良くて心が落ち着く。それを象徴するかのように、古時計の振り子のカタリカタリという音がとても心を落ち着かせてくれた。

 

「良い店ですね。行きつけなんですか?」

 

「いや? 目についたから適当に入っただけど。お前に任せたらまた牛丼屋に行きそうでさ」

 

「う゛っ」

 

「その反応、図星だな? お前さぁ、相談だっつってんのに牛丼屋はないだろ。せめてファミレスとかにしろって。誰があんなデカイ牛丼食いながら話するんだよ。話してる最中に吐くぞ」

 

 彼女の正論が心に突き刺さる。いてぇいてぇ。

 ど正論をぶっ込み私にまだまだ言いたいことがあるようだったが、彼女はそれっきり何も言わずに頬杖をついて物憂げな表情をしながら窓の外の景色を見ている。結構目尻を吊り上げていた初めの出会いの印象が強かったけど、こう見たら可愛さも綺麗さも比例していてモデルにいそうだ。

 

 少しの間、私たちは何も言わずに黙り続けていた。

 彼女はともかく、私は明日からのことを頭の中で何度も考えていた。ビックリするぐらい女々しいけど、まだまだ未練を引きずり続けている。どう切り出して良いかも分からず、ただチビチビ飲み続けているだけ。

 そんな私を察してか、彼女は私の方にオレンジジュースを差し出してくれた。

 

「悩みがあんなら、酸っぱいやつ呑むと案外頭冴えるぞ」

 

「ありがとうございます……」

 

「お、おう。初めてあったときの図太さが嘘みてぇだな……」

 

 中々酷いことを言われているが、別に良し。むしろその無遠慮さが今の私には良い意味で染み渡る。いっそのことブラックコーヒーで自分の体を追い詰めれば良かったと後悔。外を歩いている民間人に八つ当たりしたいぐらいだ。

 

「んで、何悩んでんだよ」

 

「色々あってあんまり詳しくは言えないんですけど、実は遠くの方へと引っ越すことになりまして……。もう、こっちには帰ってこれなさそうなんです」

 

「……遠くへ行っちまうのか」

 

「行きたくは、ないんですけどね」

 

 詳しいことは出来る限り隠して、大まかなことだけ彼女に伝える。流石に聖遺物のことやらは伝えられなかったけど、大人の都合的なことを伝えた。

 すると彼女はキッと目尻を吊り上げて、奥歯を強く噛み締め強張り僅かに開いた唇から犬歯が見えている。

 

「やっぱり大人か……ッ!!」

 

「大人は、嫌いなんですか?」

 

「ああ大嫌いだ。あたしの言葉なんて聞こうともせずに無茶苦茶ばかりしやがる。あんたの今もそうだろ。あんたの言葉を聞こうともしないで、何でもかんでも勝手に決められて。あんたは嫌じゃないのかよ」

 

「嫌ですよ。私はここから離れたくありません。だけど、私がお世話になっている人たちに迷惑をかけてしまいます。だから、こうして私は覚悟を必死に決めようとしてるんです」

 

「けったくそわるい話だな」

 

 グサグサ、ズバズバまっすぐ突っ込んでくる彼女の言葉が、ある意味羨ましい。あそこまで我を通していけるなら、今の私はここまで悩んでいないかもしれない。

 この人になら、私の秘密を少し打ち明けてしまっても良いんじゃないかと思い始めた。ほんの少し、入りのところだけでも見てもらっても──。

 

 ……というか。

 

「あの、すっごい気になるんですけど、何でそんなに食べ方汚いんですか。口の周り酷いことなってるんですけど」

 

「おまっ!? 今それ関係ないだろっ!?」

 

 本当に酷い。

 私が悩み続けていたときに頼んだらしいナポリタンのソースが、口の周りを汚しまくっている。食べかすまみれで見ていられたものじゃない。使っていない私のお手拭きを使って、身を乗り出しながら彼女の口を吹く。最初こそワーワー言っていたけど、途中から私に為されるがままだった。

 

 いやほんと可愛いな。妹みたいだ。

 

「ほら、綺麗になりました。何だったら、綺麗な食べ方教えてあげますけど?」

 

「教えていらねーよ! ったく、真面目に心配したあたしがバカみたいだ」

 

 流石にやり過ぎたみたいで、彼女はプイッと顔を背けてしまう。でもすぐにこっちを向いてくれて、優しく微笑んでくれる。

 

「あはは、ごめんなさい。でもあなたのおかげでちょっと元気が出ました。覚悟決めようと思います」

 

「なら、行っちまうのか」

 

「……はい。少し寂しいですけどね。そうだ、名前聞かせてください、お近づきの印に。忘れないようにします」

 

「……そうだな、最後に教えるなら問題ないだろ。あたしの名前はクリスだ。雪音クリス」

 

「クリスさんですね、覚えておきます。私は明乃菖蒲です」

 

 こんなに優しい人に、私の秘密を巻き込んでしまうわけにはいきません。この秘密は全部持って帰りましょう。

 

 

 

 

 

 食事を終えた私たちは電子決済を済ませ、喫茶店のマスターにお礼を行って退店した。お腹いっぱい、とはいかなかったけど心はいっぱいだ。奥深くまで聞いてこなかったことはありがたかったし、色々と吐き出せただけでも満足。

 少しだけ肩の荷が軽くなっている。

 

「今日はありがとうございました、クリスさん」

 

「別に気にすることでもないっての。あんたもよく分からない奴だな、馴れ馴れしかったりしょげてたり、情緒不安定かよ」

 

「あはは、申し訳ない。最近ハチャメチャが押し寄せてきて頭がバグりそうなんです。今日クリスと会えたのは幸運でしたね」

 

 歩きながら、話す。

 暗い話は喫茶店だけにして、帰り道は何でもない楽しいことを話す。特にクリスさんは楽しいことを結構話してくれて、優しさが染み渡る。

 いや、私がチョロすぎるだけかもしれないが。

 

 でも、今日は色々と気が楽になった気分だ。

 聖遺物との生活、ツヴァイウィングのお二人に響さんに二課の皆さん、そしてクリスさんの優しさを無駄にしないためにも、私はもっと頑張らなければいけない。

 それに、離れても記憶の片隅にでも覚えていてもらえたら、私は万々歳だ。

 

「なぁ!」

 

「?」

 

 二課への帰り道に足を伸ばそうとする私を、クリスさんが呼び止めた。もしかして初対面でのことを色々言われるのかなとか、呑気なことを考えながら振り向けば、少し離れていたはずのクリスさんが目の前にいる。

 

「あんたの、その理不尽な大人、あたしがぶっ潰してやろうか?」

 

「何を」

 

 冗談を、と言おうとして真剣な眼差しに刺されて、私は押し黙る。冗談なんかじゃない、本気の目。私ならやってやれるって、言わんばかりの鋭い目線。

 だけど、断る。

 

「……これは私の問題です。クリスさんを巻き込むわけにはいきませんよ。それに、ぶっ潰しても他の人に迷惑がかかってしまいますから」

 

「……そうか」

 

「はい。また会えたら会いましょう。その時は、この喫茶店で会いたいですね」

 

「そうだな」

 

 ハハッと笑って手を振り、今度こそ二課への帰り道につく。

 別れ際のクリスさんの悲しそうな笑み、あれが私の頭に酷く焼き付いていた。

 

 

 

 

 そして翌日、輸送作戦が始まった。

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