ツヴァイウィング大好き娘、追っかけ続けて装者になる   作:わらぶく

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ちょっと、ちょっとやらしい描写があります。
ご注意を。

追記:お気に入りが百を超えました! 本当にありがとうございます!


少女は暖かさに包まれていた

「これではまるで……ッ!!」

 

 腕を組み顔をしかめる弦十郎の視線の先にあるのは、今回の輸送作戦にあたって政府の方から送られてきた明乃菖蒲に着用させなければならない拘束衣なのだが、その趣味はあまりにも悪いと言わざるを得なかった。それを口にしたのは弦十郎だが、この場にいるアヤメを除いた全員が思っている。

 体を覆いつつある聖遺物の痕を差し引いてもまだ瑞々しい豊満な少女の体を隠すには、あまりに小さすぎる布面積。ジッパー、ボタン、ベルトを複合させ徹底的に複雑化させた着脱機構。外気から身を守るのは透明なラバーのみ。公的機関が着させるとは思えないその服を、簡単な一言にして伝えるとするならば──。

 

「奴隷、とでも言いたいのでしょう?」

 

 これまでにないほどの冷たい了子の声が、しんと静まり返った司令室に嫌というほど響いた。

 実際、目の前にある拘束衣は誰の目に見ても、奴隷または娼婦が着る売春用の露出服にしか見えない。少なくとも、現代を生きる少女に着せるべきものではないはずだ。だが上は完全に聖遺物として考えて、安全のためだけにこのような服をよこしている。

 

「ええ、その感性は間違いではないわ。武装保持禁止を名目に極限まで肌を露出させ、アメノムラクモが宿る腹部を誰の目にでも見れるようにさせる。それもこの指令が防衛省の方から飛んできたのが、広木防衛大臣が亡くなった後。しかも次の人間は国際協調路線を掲げる親米国派。ここまであからさまだと笑っちゃうわぁ」

 

「笑っている場合かよ了子さん! こんなの、アヤメに着せるなんてアタシは──」

 

「上からの命令。そうでしょ、弦十郎くん」

 

「……グッ」

 

 弦十郎の漏れる激情の声が、握りしめた拳から漏れ出るその悔しさを物語っていた。

 特異災害ノイズと対抗するためにシンフォギアという特異兵器を扱う以上、現場での二課の権限は大きいものの政府内となるとその権限は防衛省、ないしは内閣に帰属する。複雑なことを省き簡略化して説明するならば、『上からの命令は絶対』である。

 だからこそ、今回の命令書ものどまで出てきた憤慨の言葉を飲み込み、苦汁を舐めるような思いで受け取ったのだ。奏もこれまで二課に所属してきた経験上、そのことはしっかりと承知している。それでも反目の言葉を自重できなかったのも、二年前に絶唱を歌わせてしまった負い目が大きい。

 

「あいつは、アヤメは人間扱い出来ねぇってのかッ!?」

 

 溜め込み、一度決壊した激情を奏には止められなかった。目を瞑り何も言えずにいる弦十郎のシャツの襟首に掴みかかり、怒りに燃える橙色の瞳を向けて唾を飛ばさんばかりの勢いでまくしたてる。

 

「アタシらとアヤメを一緒に見てきた弦十郎のダンナなら分かるだろッ!」

 

「か、奏さん」

 

「止めてくれるなよ響。アタシは今ここでぶちまけねぇと収まりがつかねぇッ!」

 

「……そうだ響くん。これまでアヤメくんに不自由を強い続け、どうしようもないと今日まで事態を引き延ばし続けてきたのは、全ては俺の選択と責任だ。奏の怒りを受け止める義務がある」

 

 仲介に入ろうとする響を、弦十郎は声で留め周囲の人間に目配せをする。

 メインのオペレーターたちは自身の席へ、了子はあわあわと慌て続けている響の肩に手を置き司令室から出ていく。了子に背中を押され廊下を歩く響は、閉じていく司令室の扉へと目を向け続け、まくしたて続ける奏の姿を最後までその目に焼き付けていた。

 

 

 

 

 

 

 今日のリディアンは日が出る前から騒がしい。二課の黒服と青服を纏った大人たちが慌ただしく動き続け、車やヘリ、そして聖遺物輸送のための準備を行っている。

 

 そして私は、聖遺物扱いとして両手両足にGPS付きの鉄製の拘束具をはめられ、武器を隠し持っていないことを証明するために露出の多い拘束衣を着せられている。目映いピンク色をした了子さんの車の後部座席に座らされていた。右隣に置かれたのは大きなアタッシュケースに入った完全聖遺物のデュランダル。了子さんに聞いたところ、デュランダルはまだ起動していないみたいで、今は人間が触れても何も起きないガラクタ同然らしい。

 

 私はというと、偽者ではないと示すために身体中に巻いた包帯を外して、炭のように黒く変色した肌を晒すはめになっている。以前と比べて更に黒いところが広がっていた。アメノムラクモがあるお腹は当然として、胴は肌色が所々シミのように見える程度。腕も肩から肘にかけては完全にアウト、足もそんな感じ、首はそろそろ包帯で巻けなくなってくる所まできていた。

 

 ……明らかに少し前よりも痕の広がり方が早くなっている。

 私が病院から退院してリディアンに入るまでの半年は、寿命を終えるまで体全体に痕が広がることがないと了子さんから太鼓判を押されるほどにはゆっくりだった。なのに、今は一日でこれまでの半年分を超えるほど広がっている。

 確かにこんなの事情を知らない人が見たら、間違いなく人間に見えないだろう。

 

 そもそも、こんな人間の尊厳もクソもない服を着せられている時点で、私は人間扱いされていないことが丸分かりだ。

 

「体の痕、やっぱり気になるのね」

 

 肌を擦り続けている私を見て、運転席に乗った了子さんが聞いてきた。

 

「それはもう。こんな体になってしまったからには、しっかりと確認しておかないと。こんな服のおかげで、体の痕も見えやすいので」

 

 頭で考え言える限りの、八つ当たりに近い精一杯の皮肉。

 だけど普段からひょうひょうとした掴めない性格の了子さんには、こんな拙い皮肉なんて軽い微笑みで容易くいなされてしまう。もちろん、こんな服を着せたのは了子さんじゃないし、何なら二課の皆さんはむしろ私の身を案じてくれていることは知っている。

 それでも、ちょっとぐらい八つ当たりをしない精神衛生上よろしくない気がする。

 

「私の白衣を着くまで貸してあげる。これで肌の露出を抑えられるはずだから、人の目は少しぐらい気にしなくてもいいはずよ。思春期の真っただ中だもの、本来ならもっと暴れていい年頃。今の内に吐き出したいこと、全部言っちゃいなさい。私は開始まで仮眠するわ。昨日の研究は少し長引いちゃったのよぉ」

 

 そう言って、了子さんは着ていた白衣を私に貸して、エンジンのかかっていない車のハンドルのもたれかかるように前のめりに倒れた。わざとらしくイビキまでかいていて、仮眠の時は絶対にいびきをかかないことを知っている私は何とも言えない嬉しさの感情であふれる。

 何だかんだ、了子さんも優しい。今はその優しさに感謝しかない。

 

 だから、優しさに従うように胸の内を少し吐き出す。

 

「実は、という感じで本音を言ってしまうと、私は二課から離れたくないです。弦十郎さんが居て、了子さんが居て、職員の方々が居て、響さんが居て、何よりもツヴァイウィングのお二人がすぐ側に居てくれて、これまでの人生で間違いなく楽しい日々でした。何より皆さん優しかったですから。今の了子さんもですし、全部です。それに最近来た響さんの明るさには参るところもありましたけど、何より元気づけられるところが多かったです。だから、私はこれからも二課の皆さんと一緒に──」

 

「アヤメちゃん!!」

 

「うぉぉぉああっ!?」

 

 ガバッと、ここには居ないはずの響さんに抱きしめられている。

 

 アイエェェェェッ!? 何で、何でこんな所に響さんがッ!?

 というか、何故に車の扉が開いているんですかッ!? まさかッ──

 

「エヘッ♪」

 

 りょーこさぁぁぁぁぁぁぁんッ!?

 謀られたッ! いかんよッ! 響さんどころか弦十郎さんと奏さんも外でこっちを見ていらっしゃるッ! 恥ずかしいぃぃぃ!

 

「ったく、最初からそう言えばいいんだよ。アヤメは出会った時からホント変わらないよなぁ。ほら」

 

「ほえっ、か、かにゃでさん……ッ!」

 

 車の中から引っ張り出されて、ぎゅっと抱きしめられてしまう。

 だ、ダメだァ……。もう何度めかも分からない抱きしめに、顔が熱くなっていくのを実感してしまう……。やっぱり、お下品なんですけども、胸の感触が……奏さんの方が背丈が高いから胸が顎とか首とかに当たってぇ……。

 

「安心しろアヤメ。向こうに行っちまっても、アタシと翼、それに二課の皆で絶対に迎えに行ってやる」

 

「胸が、胸が……」

 

「アヤメは相変わらずだな……いつになったらアタシの抱きしめに耐性が出来るんだぁ?」

 

「で、できるわけないでしゅ……」

 

「あはは、変わらないアヤメ、アタシは好きだぞ」

 

「すっ──!?」

 

 アッ、ダメです今そんな言葉を掛けられてしまったら──

 

「ぷへぇぁ……」

 

「あ、アヤメちゃーんッ!!」

 

 響さんの声を全身に感じながら、奏さんに抱きしめられたまま脱力。

 体が下にずれて顔いっぱいの奏さんの柔らかさ感じることになりながら、意識は失わずに呼吸が荒くなっていく。あたたかぁい……。こんなん向こうに行く前に違う意味で死んでしまう……。

 

 よかった、幸い鼻血は出なかった。

 私の血で奏さんを汚したいなんて、そんなヤンデレみたいな思考はぁ……まぁないこともないんだけど、間違いなく奏さんに嫌がられる。それは嫌だからしない。

 

「奏、そろそろ時間だ。ヘリに乗ってくれ」

 

「はいよ、ダンナ。アヤメ、アタシが絶対に守ってみせるからな」

 

「は、はひぃ……」

 

 奏さんはニコッと笑ってしっかりと車のシート私を座らせてくれると、手を振ってヘリの方に走っていった。

 

 弦十郎さんは何も言いはしなかったけど、良い笑顔で力強く頷きヘリの方へと歩いていった。その背中がビックリするぐらい頼もしくて、背中で語るという言葉の意味を思い知らされた。

 

 ……それで、なんですけど。

 

「不肖、響ッ! アヤメちゃんをしっかり守らせていただきますッ!」

 

 護衛ということで、響さんは私と同席し、奏さんはヘリから見守ってくれるらしい。

 なんか、距離近いなぁ……。

 

「それで何だけど、奏さんとはやっぱり……?」

 

「まだ引きずってたんですか!? 響さんってやっぱりムッツリですよね!?」

 

 作戦開始まで響さんの質問攻めにあい、この人のムッツリさを思い知らせることになった。

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