ツヴァイウィング大好き娘、追っかけ続けて装者になる 作:わらぶく
リディアンの敷地に鳴り響くブザーの音が、いよいよ輸送作戦が始まる合図。
輸送物である私はもちろん、隣に座って私の手を握ってくれている響さんも顔を強張らせて緊張気味だ。ぎゅぅと少し痛いくらいまで握る響さんに、私も強く握り返す。反応して響さんが私の方に目を向けると、にぱっと輝かしい笑顔を見せてきた。
「護衛、お願いしますね、響さん」
「うん! かかる火の粉からはこの手で、アヤメちゃんを助けてみせるねッ! 向こうで別れることにはなるけど、奏さんたちと一緒に迎えにいくからッ! 待っててね!」
そうだ。悲観ばかりするばかりじゃダメだ。
誰も私が拘束され続けなければならない何て言われてないし、ましてや奏さんたちに会うことを禁止されているわけじゃない。
書類何十枚も書けば、最悪でも一回ぐらいは面会が許されるはず。もっとポジティブにいこう、ポジティブに。
『広田防衛大臣殺害の犯人捜索の為として検問を張る! その中を、永田町まで一気に駆け抜ける!』
「名付けて、天下の往来独り占め作戦よぉ♪」
普段と変わらぬ了子さんの柔らかい口調が、作戦開始を告げ車のエンジンが激しく駆動し動き始めた。陣形としては、私たちが乗る車を中央に護衛が囲む鳥かごのような形。高台にあるリディアンから坂を一気に駆け降り人気のない商店街へ、永田町まで駆け抜けるためにまずは橋を渡った先にある工場地帯へと向かっていた。
『道中、襲撃が予想されるッ! ノイズ襲撃の場合、対ノイズ用の対処方を持たない護衛は、一時的に了子くんの車から離れるんだッ! 直ちに奏が向かうッ!』
「護衛はあくまで対人用。ノイズに関しては、シンフォギア装者が対処するわ。それに、巻き込み事故になっちゃったら、アヤメちゃんの身が危ないもの」
そう言いながら了子さんがルームミラーを使って、私の方をみながらウインク。そしてなぜか隣の響さんとウインク。
了子さんはともかく、響さんからも来たことに戸惑っていると、車列はいよいよ工場地帯に向かう橋に差し掛かった。遮光加工が施されて暗く見える景色を眺めていると、耳の無線機から弦十郎さんの声が響いた。
『藤尭からノイズ反応の連絡だ! 来るぞ、全員構えろッ!』
エンジンの音で溢れる車内に、これでもかと聞こえてくる轟音と大きな振動。響さんが「あ、あれッ!」と声を出し視線を向ければ、左前方でガラガラと大きな音を立てながら崩れていく橋の一端。ギュッと抱き締められて、「絶対に守るからねッ!」と新たに意気込みを聞く。
……苦しいッ!
響さんの力が強いから苦しいッ! しかも響さんも響さんで胸が大きいなオイ! ガングニール装者は胸が大きい人しかいないのかッ!?
「いちゃいちゃしてるところ悪いけど、二人ともちゃんと体勢整えて身構えなさい。私のドラテクは狂暴よぉ?」
「うぇっ──どわぁぁぁぁぁッ!?」
急にハンドルを切られ、私たちは車の壁に頭をドン。
「あいたたたた……了子さぁん……」
「だから狂暴って言ったじゃない」
頭を押さえながら体を起こすと、窓の外では一台の護衛車が橋の下へと落下していた。了子さんは脇目を振らずに車を走らせる中、橋の下からは大きな爆発が起きる。
隣では響さんが瞳が震え酷く動揺しているみたいだったけど、今度は私が抱き締めて落ち着かせる。これでも、二年前の地獄は乗り越えている。今私に出来るのは、響さんの精神を安定させること。シンフォギアの性能は、精神面にも影響があるらしいからせめて万全の状態で戦ってもらえるようにしないと。
「大丈夫ですか、響さん」
「に、二課の人たちが落ちて……」
「問題ないですよ。あの人たちはプロ中のプロ。私たちが気にしなくても、自衛なんておちゃのこさいさいです」
「アヤメちゃん……ちょっと古くない?」
「情緒不安定かッ! でも、その軽さが今は少し頼もしい」
……私が戦えれば何も問題はないはずだ。
私がもっと、このアメノムラクモを使いこなせていれば、二課の人たちをここまで巻き込まずに済んでいたはず。
そんなこんなの内に、私たちは橋を抜け検問を突っ切った。
工場地帯の居住地を突き抜けていく私たち。周囲に建つ建造物が多く、素人の感でもここで襲われるんだと悟ってしまう。
基本的に、そういう感は当たってしまうことを、私は知っている。
「ッ!!」
「うわぁッ!?」
了子さんの声にならない踏ん切り声と同時に、車が大きく揺れて私たちの体が振り回される。
「弦十郎くんッ、マンホールの蓋が飛んだわ!」
『ヘリからも確認したッ! 敵は下水道を使って攻撃を仕掛けているッ! マンホールに注意するんだッ!』
「そんなこと言われても、法廷速度もビックリのこんな速度で急なハンドルを切ればタイヤが持っていかれるわ! それに──」
「了子さん、上、上ッ!」
前方の護衛が高く打ち上げられ、空を舞いながらこちらへ飛んで来た。流石は了子さんのドラテクか、衝突寸前で何とか回避し後ろに消えていく車を見送りながら、私たちは互いにぶつからないよう支え合う。
し、死にかねない!
こんな激しい揺れ、絶対に頭をぶつけて死んでしまう!
『三人とも無事かッ!?』
「まだなんとか。でも、これ以上は厳しいわよ。何よりアヤメちゃんが」
「ま、まだなんとかです」
流石に、感情が顔に出過ぎてたみたいだ。
『良い考えがあるぞ。そのまま行ったところに薬品工場エリアがある。了子くんたちには、そこに行ってもらいたいッ!』
「正気ッ!? 万一爆発でも起きようものなら、デュランダルはもちろん、アヤメちゃんの命が危ないわよッ!?」
『敵の目的はデュランダル、及びアヤメくんと推測される! ならば危険地帯に飛び込み、相手の手数を封じるという作戦だッ! このままでは数で押すノイズに囲まれ、いずれ手足を千切られ、なす術もなくなってしまうだろう。
……危険だということは承知している。判断はアヤメくんに委ねたい』
私に、投げられてしまった。
助けを求めるように響さんに目線を向ければ、「私はアヤメちゃんに従うよッ!」って言わんばかりに覚悟を決めた顔を見せられてしまう。
……そんな顔をされたら、ひよることなんて出来ない。
やるっきゃない。迷惑なんてかけられない。
「私は、大丈夫です、弦十郎さん。だって響さんが守ってくれるんですもんね」
「~~ッ! 師匠、アヤメちゃんは私が守ってみせますッ!」
『アタシも忘れるなよッ!』
……ほんと、頼もしい人たちだ。
『そうか、三人の覚悟、しっかりと受け取ったッ! 了子くんッ!』
「無茶な四人組に私も付き合ってあげますよ。だけと、勝算はあるの?」
──思い付きを数字で語れるものかよッ!!
弦十郎さんの力強い言葉に了子さんが笑顔を作ると、ギュンッ! と車が加速して更に進んでいく。
奥へ、工場地帯へと進んで、住居が並んでいた景色が一変する。無機質なコンクリートと鉄が建ち並んだ場所。駆け抜ける私たちの後ろには無数のノイズが後を追いかけ続けている。
ずっと逃げ切れるわけもなく、建物の影から伸びてきた明るい紫色のムチがタイヤに命中する。ハンドルを取られコントロールを失った車は即座に横転。ケースを抱え込むようにして体勢を整えたおかげか、激しく揺さぶられたもののそこまでダメージはなかった。
ただし、肩を思いっきり打ったからスッゴく痛い。
しかも逆さ吊りの状態だから、かなりしんどい。
「アヤメちゃん!」
「づッ~~……何とか無事です。了子さんは……?」
シートベルトを外し、床になった車の天井に叩きつけられる。頭を打つ前になんとか庇えたものの、引き離していたノイズがこちらへと迫ってくる姿が見えていた。運転席では頭を打ったのか、唸っている了子さんの姿。
響さんがこじ開けてくれたドアからデュランダルを持って這い出ると、白衣に付いたガラスの破片やらを払った。
「了子さん、大丈夫ですか?」
「えぇ何とか……早くこの場を離れましょう」
──逃げる必要なんてねぇよ。
頭上から聞こえてくる声に私たちが全員見上げれば、タンクらしき物の上に立つ人影。以前、翼さんが絶唱を使わざるをえなかった、『ネフシュタンの鎧』を纏った少女だ。
頭につけたバイザーのせいで顔は見えない。
「あの子が、翼さんを……」
「アヤメちゃんはやらせないよッ!」
無力な私たちの前に響さんが立ちはだかって、大きく両手を広げる。その後ろで私は了子さんを立たせて、手を引き出来るだけここから離れるために必死に走った。
──Croitzal ronzell gungnir zizzl──
「うぉらぁぁッ!!」
奏さんの聖詠が聞こえ、ネフシュタンが立っていた場所を槍が抉る。それに合わせて響さんも歌い、同じくガングニールを身に纏っていた。
「弦十郎さんッ! ナビゲーションお願いしますッ!」
『その通りをそのまま走り続けるんだッ! 現状、そこが一番ノイズが少ないッ!』
「はいッ!」
とにもかくにも走り続ける。
トレーニングを始めていたこともあって体はまだまだ動くし、疲れることもない。右手に持つデュランダルが嫌になるくらい重いけど、投げ捨てるわけにもいかなかった。
私が諦めれば、了子さんが死んでしまう。
だからなんとしてでも、この場を離れるしかない。
『気を付けるんだアヤメくんッ! 周囲から君の元にノイズが集まりつつあるッ!』
「なんて不幸な……ッ!」
お腹のアメノムラクモがずっとピコピコと反応してるせいで、ノイズのことなんて言われなくてもわかっていた。
だけど、お腹に意識を取られすぎたせいで、横から来たノイズに反応が遅れる。了子さんが腕を引っ張ってくれたおかげで、白衣が炭素になっただけで済んだけど、今のが当たっていたらと冷や汗が流れた。
拘束衣だけになってしまったけど、こんなときに羞恥心なんて出している暇なんてない。
「ありがとうございます」
「お礼なんて良いわ。それより、いよいよダメそうね……」
周囲を取り囲むノイズの数々。
360度どこにも逃げ道なんてなくて、半ば諦めていれば今度は響さんが助けに来てくれた。
「大丈夫ですか!」
「ナイスタイミングよ、響ちゃん! 奏ちゃんは?」
「ネフシュタンは一人で対処するそうです!
私が道を切り開きますッ! 二人は私の後ろをッ!」
その言葉がどれだけ頼もしいか。
実際、響さんが振るう拳の鋭さは、弦十郎さんのそれに似ていて破竹の勢いでノイズを粉砕していく。視界が炭で濁っているが、それを突っ切って私たちは進んでいく。
響さんの歌は力強い。
気持ちの入った歌声に背中を押されるような形で走り続けて、体の中が熱くなっていく。それにつられて私のお腹も反応して──
──ブシャリッ!!
いつか聞いた生々しい音と、久しぶりに感じるお腹への激痛。肉を裂くような生々しい音、頭が真っ白になっていくのを感じながら、その場に膝をつき唸り声をあげてしまう。
私はこの感覚を知っている。二年前の聖遺物起動実験、あの時もこんな感じだった。だからお腹を見ればやっぱりと、頭の中で納得してしまう。
「また、なの……アメノムラクモ……!」
体の肉を裂いて飛び出した刀身。ゆっくりと広がっていく血溜まりが私の出血量を物語っていて、それでも体の至るところから刀身が突き出し続ける。
……ははっ、ハリネズミになった気分だ。
「この現象、まさか二年前のッ!?」
「アヤメちゃんッ!?」
頭を真っ白に染め上げていく何かに私は抗えず、響さんと了子さんの声を最後に私は意識を失ってしまった。