ツヴァイウィング大好き娘、追っかけ続けて装者になる   作:わらぶく

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 聖遺物『天叢雲剣』と保有者『明乃菖蒲』の観察結果。


 本日明朝、サクリストDと腹部に聖遺物『天叢雲剣』を内包した人間『明乃菖蒲』の輸送作戦を敢行。結果としては失敗に終わる。しかし作戦行動中、私はこれからの聖遺物研究において、とても参考になるものを見ることが出来た。サクリストDの起動、そして聖遺物『天叢雲剣』の活動活発化である。
 これまで完全聖遺物を短時間で起動させるためには万単位の人間が必要とされていたが、今回観測された事象を整理するならばまず二課所属のシンフォギア装者『立花響』が重要なファクターとなる。彼女は『Project:N』が行われた二年前、天羽奏が身に纏っていたガングニールの破片の心臓に受け、現在『融合症例』として観察対象になっている人間である。
 今回、何故『天叢雲剣』を持つ『明乃菖蒲』に『立花響』を引き合いに出したのか。それは両者とも──体内に聖遺物を内包している──という共通点があるからだ。
 この点を、理解しておいてほしい。

 ここからが本題となる。
 今回観察された事象、それは『天叢雲剣』が活発化したことにより『明乃菖蒲』の身体に重大な……(報告書はまだ作成中である)


聖遺物『天叢雲剣』ともう一つ

「アヤメちゃんッ! しっかりして、アヤメちゃんッ!!」

 

 ノイズに囲まれる中、体内から刃が突き出したことによる多量出血によって、地面に出来た血溜まりに倒れ込むアヤメの姿に響はもちろん、普段動揺することが少ない了子でさえその場に立ち尽くしていた。響が抱きかかえるアヤメの体は酷く熱く、事実彼女に触れる地面は半ば融解し赤く輝く。シンフォギアを纏う響はギアの防御力によって守られているもののそれでも火傷するほどには熱く、その熱はじわりじわりと周囲に広がりつつあり了子を巻き込みかねなかった。

 そこに周囲のノイズが体を槍状に変化させアヤメの向かって突撃するも、その距離三メートルまで迫った所で炭となる。周囲には淡く靄のような何かが漂っていた。

 

「ひどい熱……ッ! どうすれば良いですか、了子さん!」

 

 響が問いかけても、了子は答えない。

 この時、了子の視線の先にはもう一つの聖遺物、起動し宙に浮かぶデュランダルがあった。切っ先が欠けたみすぼらしいものではなく、手入れされたような刀身に鮮やかな黄金の輝きを放つ剣だ。

 了子の経験と知識上、完全聖遺物を運用できるまでに起動させるには膨大なフォニックゲインが必要になる。それこそ万単位の人間で一日、もしくは一人の人間で半年。そして現在、この周辺にはシンフォギア装者は二人だけである。たった二人、そんなちっぽけなフォニックゲインで完全聖遺物を起動させるのは土台無理な話、であるはずだった。

 

 そのはずなのに、目の前の出来事はこれまでの経験と前提を覆している。

 脳細胞がフル回転する。目の前の出来事を理解するために、これまでの知識を総動員して目の前の事象を解明しようとする。だが、出来ない。どのパターンには当てはまらない。これまで積み立てていたものが活用できない。理解できない。解明できない。

 何が足りないのかと、こんな状況であるのにも関わらず了子は周囲の観察に務める。映る立花響、映る明乃菖蒲と体内から突き出る刀、その二人に立ち込める高濃度の霧となったフォニックゲイン。頭の中にある情報を片っ端からひっくり返して、了子は一つの可能性に至った。

 

(立花響と明乃菖蒲……融合症例……もしや……)

 

「了子さんッ!!」

 

「……っ、アヤメちゃんは一時的にフォニックゲインで守られているわッ! 私たちにはあの子にしてあげられることは無い。今はデュランダルの保護をッ!」

 

 思考の邪魔をされ満月のように丸い金色の瞳を向けるも、高ぶる感情を抑えつけて了子は響に指示を飛ばす。

 

「はいッ!」

 

 指示を受けた響は「ごめんね」と言いながら、アヤメの体をゆっくりと地面へと下ろす。

 そして自身の後方へ視線を移せば、宙に浮き煌々と輝くデュランダルの姿が目に入る。響にとって第二に守るべき重要な物、駆け出しその柄へと手を伸ばす。その距離にして十メートルほど。シンフォギアの性能をもってすれば秒と経たずに届く距離だ。

 絶好のチャンス、しかしそれは敵にとっても同義である。

 

「させるかぁッ!!」

 

「ぅあっ……ッ!?」

 

 響の右頬に命中するのはネフシュタンの飛び蹴り。

 勢いと重力が乗った一撃の衝撃は強く響の体は容易く吹き飛ばされたものの、これまでのトレーニングによって鍛えた身体能力で受け身を取りすぐに体勢を整えた。口内が切れたのか口端から垂れる血液を手の甲で拭いながら、自身を蹴り飛ばした本人を見据えるために顔を上げた。視界に映るのは以前に見たネフシュタンの少女。響が以前、全く太刀打ち出来なかった強敵だった。

 けれど、今日は以前と様子が違う。笑みを浮かべて余裕綽々な態度を見せる少女の姿はなく、青筋を浮かべんばかりに怒りの感情を剥き出しにし犬歯が見えるほどに歯を噛み締めて、響のことを睨みつけている。

 

「お前もあいつを……アヤメを大人の事情で道具にしようってか……ッ!」

 

「アヤメちゃんを知ってるの……?」

 

「あたしの質問に答えやがれッ!! てめぇも大人と同類なのかッ!?」

 

「……ッ! 私は、私はアヤメちゃんが決めた覚悟を、無駄にはしないッ! 私たちのために決めてくれた覚悟をここで無碍にしたくないッ!」

 

 響の言葉に少女の表情は更に険しくなっていき、その手に握るムチを力の限り振るって背後にある建物ごと薙ぎ払う。響は跳躍し足先にかすめながらも回避すると、少女から目を離さずに警戒し続ける。

 

「話し合おうッ! ちゃんと話し合えば、アヤメちゃんの覚悟もあなたに分かってもらえるはずッ! だから──」

 

「覚悟だと……ッ!? てめぇは行きたくもねぇ場所に行かされる心構えをするのを覚悟っていうのかッ!! 大人の勝手な事情で無理やり道具にされなきゃいけねぇことを、てめぇは覚悟だってぬかすのかッ!! アヤメの弱さにつけ込んですることに、覚悟もクソもあるものかッ! そんなのクソくらえだッ!!」

 

「そ、それは……」

 

「良いかッ! 冥土の土産に教えてやるッ! 私が大人が大っ嫌いだッ! そして、そんな大人に付き従うクソみたいな奴はもっと大っ嫌いだッ!! てめぇも同類なら、ここでくたばりやがれぇッ!!」

 

 その手に握るムチを振るい続け、ただ怒りのままに響へ攻撃を開始した。

 無茶苦茶な攻撃、周囲を気にする様子も無く工業所が攻撃に巻き込まれて崩壊していく。無規則無秩序な攻撃ながらもその標的は響だけに絞られていて、了子やアヤメにムチが流れていく心配はなかった。

 だからこそ、響も目の前のことに集中できる。ムチに巻き込まれて炭になっていくノイズを横目に、縦に振ろ降ろされたムチをサイドステップで回避。同時に前へ前へと距離をゆっくりと詰めていき、響は会話のチャンスを計っていた。

 

「たかだか少し戦えるようになったからって、調子に乗ってんじゃねぇッ!」

 

「調子になんか乗ってないッ! 私はただあなたと話がしたいだけッ!」

 

「てめぇなんかに交わすような言葉なんざ持っちゃいねぇッ! 大人にただ付き従うクソ女と、誰がぁッ!!!」

 

 がむしゃらに精細さが欠け、殺意だけが込められたムチが響に襲い掛かる。

 互いに、アヤメはもちろん了子も近くにいるため、一気に戦闘力をそぐための大技を使用できない。響からすれば一打一打、削り取っていくように攻撃を加えることしか出来ないために戦闘時間が長引く。とはいえやられるわけにはいかない。奏の姿が見えなかったが、無線で何も飛んでこない現状を考えて、奏が戦闘離脱になってはいないはず。

 が、アヤメのこともあり長引かせ続けるわけにもいかないのが現状。

 

「くたばれぇッ!!」

 

「ぐぁッ!?」

 

 地面を這うように振るわれたムチが、空いていた響の脇腹へ潜り込み打ち込まれる。

 構えがめくられ強い鈍痛に襲われ響の意識が飛ぶ。全身から力が抜け立つことが出来なくなってしまった響の体は人形のように吹き飛ばされ、やがて工場のコンクリートで作られた外壁に衝突し建物内に消えていった。

 少女はその足を建物に消えた響へと向けられたが、一本の槍が少女の足を止めさせる。

 

「やってくれるじゃないか……ッ!」

 

「どいつもこいつもろくでもない大人とばかり手を組みやがる……ッ!」

 

 取り囲んでいたノイズを殲滅した奏が、今度は少女の前に立ちはだかる。

 その光景にまた舌打ちをする少女。立ちはだかる奴らは全部排除してやるとその目に炎を燃やして両手に力強くムチを握り締めた時。

 

 ──キシャァァァァァアアアアアアアッ!!!

 

 地を割り空を裂いて、鉄を引き裂かんばかりの強烈な咆哮。

 それまで怒りに囚われていた少女の意識も現世へと引き戻されて、体を襲う恐怖感に襲われてしまい立ち竦む。心の底から湧き上がってくる、生物的本能の恐怖。目の前に立ちはだかる奏の青ざめた顔を見て、その正体を探るために視線を背後へと向ければ、先程まで倒れていたアヤメが四つん這いになりその体を黒く染めて人ならざる者の雄叫びを上げる。

 

「アヤ、メ……?」

 

 そう呟いたのは少女だったか、それとも奏だったか?

 腹部から突き出し続ける刀がやがてドロリとした液体に変化していき、アヤメの体を中央にして形を成していく。ぐにゃりと形を変えて塔のように高く屹立したのち、先端が八つに裂けて蛇の頭に変化しその姿を現した。

 

 ──キシャァァァァァアアアアアアアッ!!!

 

 赤く輝く瞳が少女と奏を睨みつけまた咆哮。空気が震えるほどの音量と音圧に気圧され、二人は敵同士ということも忘れて後退る。そんな場所でも、奏は二課所属の装者としてデュランダルの安全を確保しなければならない。何よりも、あの了子が目の前の出来事に気を取られ唖然としているなんて初めて見る光景。

 ノイズが居ないとはいえ、異形と化しているアヤメの近くにこれ以上了子さんを置いてはおけない。だから悩んで、どうするかを決めかねている。

 

「奏ちゃん、今の私たちではあの子に太刀打ちできない。ここは逃げるしかないわ」

 

「なっ、だからってアヤメをこのまま放っておくのかよッ!?」

 

「無謀に命を燃やすこともないわ! この場を離れるの!」

 

「……なら、あれを使えばいいんだろッ!」

 

 目を向けた先に存在するのは、浮遊し続けるデュランダル。

 今のアタシではどうにもならないと唇を噛み我慢しながら、自身は宙に浮き続けているデュランダルへと手を伸ばす。そしてその手にデュランダルを握り締めた時、奏の意識は間を置くことなくとぷんと意識を闇の中へと容易く引きずり込まれてしまった。

 

「う゛ぅ、う゛ァァァァァァァァッ!?!?」

 

「奏ちゃん!?」

 

「ガァァァァァァアアアアアアッ!!」

 

 デュランダルの大きな力に飲み込まれてしまった奏は、自我を失い体の中に溢れる破戒衝動に従って握りしめていた。

 殺せと命じられる。

 潰せと命じられる。

 消してしまえと命じられる。

 抗うことなんて出来ない。深い意識の沼から伸びる手が奏の思考と自我をしっかりとつかんで、沼の底へ底へと引きずり込んでいってしまう。やがて意識のすべてが破戒衝動に塗りつぶされた時、デュランダルは嘲笑うように刀身を輝かせて、エネルギーを纏い始める。

 

 不滅不朽の名が示す通り、発生させるエネルギーの量は計り知れない。それほどまでに強大なエネルギーで作り上げられた大きな刃の破壊力は、いかほどばかりか。振り降ろされた先は、八つの頭がある巨大な化け物と化したアヤメ。真正面からデュランダルを受け止め押し留めると、互いに行き場のないエネルギーが両者の間で溜まってしまい、それは大きな爆発を引き起こしてしまった。

 

 

 

 ──それを遠くから目撃した人間をこう語る。

『大きなきのこ雲が上がっていたと』

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