ツヴァイウィング大好き娘、追っかけ続けて装者になる   作:わらぶく

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少女は今回も生き永らえる

 目を覚ました私の視界に収まるのは、いつか見た病院の天井。

 意識を失っていたみたいで、私は懐かしいベッドの感触を背中に感じながら横になっている。最早、別に意識を失うことはおかしいことじゃない。どうせお腹のアメノムラクモのせいで、私はこうなっているんだろう。

 

 ……また、弦十郎さんたちにご迷惑をかけてしまった。

 

「んっしょっ……と」

 

 ベッドの縁に腰掛け、辺りを見回す。

 半年前に入院した時とは違って体に包帯や点滴は繋がれていない。どこかを怪我した様子も無く、ビックリするぐらい至って健康的。ベッド横のテーブルに置かれたお見舞いの品──フルーツ盛り合わせ──が用意されていて、響さんと奏さん、そして病衣を着たままの翼さんが笑顔で映っていた。

 どうやら、絶唱の際の傷は何とか治ったらしい。

 酷い怪我のしていたらしいから気が気じゃなかったけど、面会謝絶じゃなくなったならもう大丈夫なはずだ。

 

 やっとというか、あの趣味が悪くて窮屈な拘束衣も解放された。

 それだけでも、今は嬉しい。

 

「おはよう、アヤメ」

 

「んえ、翼さん?」

 

 病室の入り口で、点滴スタンドを片手にこちらへ微笑みかけてくれる翼さんの姿があった。

 私の側までやって来ると、隣にぽすんとお座りになる。こうして近くで翼さんの体を見ると、その肉体美を思い知らされる。すらりと引き締まった肉体美、それこそ翼さんがいつも自負している剣のように鋭くて、ほれぼれしてしまう。

 

「もう動いても平気なんですか?」

 

「ええ、少しの間ICUで寝たきりが続いていたから当分はリハビリをこなさないといけないけど、それでも病院内を歩き回れるぐらいには回復したわ。アヤメの方こそ、奏から大変なことになったって聞いたけど」

 

「私はもうピンピンしてますよ。それこそ翼さんよりは早く退院できそうなくらいには。それで何ですけど、奏さんからその大変なことについて何か聞いてます? 実は私、作戦途中で意識を失ってしまってですね、あの後のことを全く覚えていないんです……」

 

「私も奏からは大変なことしか聞いてなくて……」

 

 なんてこった!

 情報が全然ないじゃないか!

 

 まぁそれはさておいて、翼さんが復帰するのは喜ばしいことだ。

 これまで全然見れなかったツヴァイウィングとしてのお二人が、ようやくみられるようになる。それだけでもファンである私としてはお釣りがくるレベルだが、それを間近で見られるのだからなおよし。

 

「まぁその辺りは了子さんか弦十郎さん辺りに聞きましょうか。喉が渇きましたね、お茶を買いに部屋を離れても?」

 

「ならまずナースコール。アヤメが目を覚ましたことはまだ誰も知らないんだから。勝手にいなくなったら、司令からの叱責は免れないわ」

 

「確かに、それでは皆さんにモーニングコールといきましょう」

 

 ベッドに枕元にあるナースコールの紐を引っ張り、弦十郎さんがたちが来るまで私たちはおしゃべりを楽しんでいた。特に、ツヴァイウィングをどこで知ったのとか、いつから奏さんに目を惹かれるようになったのかとか、根掘り葉掘りである。

 

 

 

 

 

「アヤメくんが目を覚ましてくれて本当に良かった。体の方に違和感や痛みはないのか?」

 

「はい、それはもう何で病院に入ったんだろうって思う位には。怪我も何もしてませんし、気分の悪さとかもありませんよ。奏さんと響さんは?」

 

「奏は今仕事、響くんはリディアンだな。奏は仕事が終わり次第、すぐにこっちに来るみたいだぞ」

 

 病室には、私、翼さん、弦十郎さん、了子さんが集まっていた。

 

「さて、私から伝えたいことがいっぱいあるのだけど、良いかしらアヤメちゃん?」

 

「あ、はい。もしかして、私が意識を失ってしまったことですかね……?」

 

「ええそうね。そのことがものすごく関係しているわ。特に、あなたのアメノムラクモがね。話したいことがいっぱいあるのだけど、二つに絞るわね。

 

 ⒈気を失ったアヤメちゃんの顛末と五日前の輸送作戦の結末

 ⒉アヤメちゃんの今後

 

 さあアヤメちゃん、どっちからが良い?」

 

「えっ、じゃ、じゃあ一番で……」

 

「良いわ、まずこの写真を見てくれる?」

 

 了子さんがその手に持つファイルから、二枚の写真が裏返しのまま差し出される。

 左からと笑顔で言われてしまい、その言葉に大人しく従って写真を受け取った。ひっくり返してみれば、そこに映っているのはぬらりを不気味に光る鱗を無数に纏う八つの蛇の頭を持つ翼の無い龍みたいな奴。そして、天高く伸びる大きな太い光、先が剣の切っ先みたいになっていて、その根元にいるのは……奏さんみたいだ。

 

「えっと、何か特撮とかで見るような怪獣が居るんですけど、あの後いったい何があったんです?」

 

「アヤメちゃん、信じられないと思うけどこれはあなたなの。意識を失った後、あなたの体を突き破った刃が形を変えて神話の怪獣になったという訳」

 

「……?」

 

 ……いや、理解が出来ないというか、信じられないというか、現実性が無さ過ぎるというか。

 ぽけーっと開いてしまった私の口を閉じることも出来ず、了子さんの顔と写真に写る怪獣を何度も見返すことしか出来ない。一年半も眠っていたと言われた時よりも、今の了子さんの言葉があまりに信じられなくて頭が思考を完全に停止していまっている。

 翼さんも絶句して口が半開きになっていたが、弦十郎さんは「本当だ」と言わんばかりに強く頷いている。やがて、口を開いた。

 

「それは、上空で飛ぶヘリに搭乗していた俺が撮った写真だ。了子くんの話が事実であることは俺と、後から来る奏が証人になる。あの時、アヤメくんの体は体内の『天叢雲剣』によって、その写真に写る怪獣へと変化した」

 

「……これ、マジで私なんですか」

 

「ああ、本当と書いてマジと読むくらいには事実だ。二課には記録映像もある」

 

 これが、私かァ……マジかぁ……。

 いや、だってさ。こんなのもう人間じゃないじゃん。分かりやすい言葉で言ったら化け物、それこそ怪獣よ。何ですか、今まで守られる側から今度は退治される側ですか?

 

「奏さんも、これを見ていたんですか?」

 

「ああ」

 

 嘘でしょ……。

 何とも受け入れがたいことを見せられると、頭が自動的に拒否しようと考えてしまう。とはいえ弦十郎さんが嘘なんてすることもないだろうし、実際に本当なんだろうけど、これは……。

 

「アヤメくんには受け入れがたいことだろうということは分かっている。だが、事実を隠し続けるわけにもいかない」

 

「あーいえ、現実離れが激しすぎてですね……。半分、絵空事なんじゃないかという考えが、どうしても……。一年半寝ていたって言われた時以上に、全然受け入れられないというか。何と言えばいいか分からないんですけど、まぁ簡単には受け入れられないことは確かですね……」

 

「アヤメ……」

 

 ホント、どうしようこれ……。

 そこに追い打ちをかけるように、了子さんがもう一枚の写真を渡してくる。

 

「それは?」

 

「一枚目の続きよ」

 

「……え?」

 

 裏がえしてみれば、そこに映っていたのは月もびっくりなクレーター。

 居住区と工場地帯が丸ごと巻き込まれていて、一端から海水が入って大きな湖になってしまっている。

 

「奏ちゃんが振り下ろしたデュランダルが怪獣にぶつかって、発生したエネルギーが爆発。写真の通りになったということよ。幸い、この爆発で死人は出てないから安心して」

 

「は、はぁ……」

 

 アカン、非常識に非常識が重なってきやがる……。

 

「アヤメ大丈夫? 顔色が少し悪いけど……」

 

「いやぁ、こんなにハチャメチャが押し寄せてきたら、頭の回転が追いつかなくて顔色も悪くなりますって。『起きたら化け物になって、大きなクレーター作ってましたッ!』なんて聞かされたら、翼さんもこの気持ちが分かりますよ……」

 

「そ、そう……?」

 

 そら、そんな反応になるよ。

 

「アヤメくん、水だ。先程から何度も唾液を飲んでいただろう。一度水でさっぱりすると良い」

 

「ありがとうございます」

 

 弦十郎さんが自動販売機で買って来てくれた水を少し飲む。いやぁ、喉が渇いていると思考も回らない。冷たい水が頭を冴えさせてくれる。

 

 それにしても、私の人生がすごいことになってきたぞ?

 最初はただツヴァイウィングのお二人を追いかけ続けてきた人生だったのに、いつの間にか特異災害やらにずぶずぶと足を突っ込んでしまっている。

 

「黄昏そうなところ悪いけど、まだ一つ話さなければいけないことがあるの。アヤメちゃんの今後なんだけどね?」

 

「あ、そうです。私はどうなるんですか? また輸送ですか?」

 

「安心して。今回の事件で永田町への最短ルートが潰されたから当分はないわ。ヘリはノイズの飛行型が出たらひとたまりも無いし、現状の装者の能力じゃ対空に望みはない。だから二課でお預かりぃになったのよぉ♪」

 

「ほ、ほんとですかッ! やったー!!」

 

 何と! 禍を転じて福と為すとはこのことかッ!

 いろいろあったけど、結果行かなくていいのならこれ以上に嬉しいことは無い!

 翼さんは何の事が分からなさそうにしていたけど、雰囲気で嬉しそうにしていた。

 

 ただ、弦十郎さんはずっと険しい顔のままで俯いている。

 そのことに翼さんは疑問そうにしてから、質問した。

 

「司令、どうしたのですか」

 

「……最近、鎌倉の方で動きがあると八紘の兄貴から連絡があってな」

 

「鎌倉……!?」

 

 私の知らないところで話がドンドン進んでいく。

 思わず顔を見まわして様子をうかがっていると、翼さんの方から解説を入れてくれた。

 

「風鳴八紘、私のお父様だ。今は内閣情報官として政府の要職に就かれている」

 

「はー、なるほどお父様ですか……。何か、風鳴家ってすごい人が多すぎません?」

 

「防人だからな!」

 

「????」

 

 めっちゃすごいキメ顔で言われてしまったけど、防人とは……?

 それに鎌倉と聞くと、1192(いいくに)作ろう鎌倉幕府しか出てこない私は、うんバカなんだろうね……。

 

「おそらくは『天叢雲剣』関連だ。今はまだまだ動きが弱いが、一度動き出せば俺もどうなるかは分からない」

 

「な、何か恐ろしいですね……」

 

「実際恐ろしい力を持っている。その話は、また別の機会にしよう。アヤメくんも突飛な話ばかり聞かされて疲れただろう。今日はじっくり休み、またトレーニングで体を鍛えていこう。翼の剣術練習もな」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 その日はそれでお開きになった。

 今日聞かされた情報はとんでもない物ばかりで、しかもそれが全部事実なんだから恐ろしい。こうしてベッドの中に潜り込んでいても、頭の中でずっと今日のことを考えているんだから私もどうしようもない。

 

 あの後奏さんと響さんが来てくれたけど、奏さんは仕事の小さな合間に来たみたいで十分ぐらいしか話せなかった。響さんも同じく、帰り道によって食事の約束があるみたいで十分ぐらいで帰っていった。

 悲しい……。

 

 あー話がしたい。こういう時は響さんと話すと気がすっきりするんだ。

 なぁんで今響さんが近くに居ないんですかぁ、不貞腐れますよ私は。

 まだ正当じゃないけど夜の病院なんて不気味なんだから、何か楽しいことをしたいんですよぉ……。

 

「誰か、特に響さんが来てくださいよぉ……」

 

 ──コンコンコン

 

「ん? もしかして私の願いが届いたか? はーい、どうぞぉー」

 

「失礼する」

 

 入ってきたのはメガネをかけた、すごい賢そうな人。

 立ち姿から結構な威厳が漂ってくるけど、何ですか今日はヤバい人しか来ないんですか。

 

「あ、あの、どちら様ですか?」

 

「何だ、弦の方には来客としていくと伝えてあったのだが、何か連絡の行き違いでもあったか。すまない、驚かせるようになってしまったな」

 

「あ、いえ私は大丈夫なんですけど、その、お名前を聞いても……?」

 

「私は風鳴八紘。翼とは戸籍上の父だ」

 

「は、はぇぇ……」

 

 

 拝啓、お母さん。

 私の人生はいろいろと雁字搦めで死んでしまいそうです

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