ツヴァイウィング大好き娘、追っかけ続けて装者になる   作:わらぶく

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少女は『天叢雲剣』を使いこなしたい

「ぷはぁ……染み渡るぅ……」

 

 リディアンの屋上で涼やかな風を感じながら、私は水筒の中から湯気立つシジミ汁を飲んでいた。

 いや流石に年寄り臭いかと思ったけど、今の私にはこれくらいがちょうどいい。聖遺物起動、輸送作戦、人外化、人権剥奪。二年前から今日まで、あまりにも濃厚すぎた。それこそ、一つ一つが人生に一つあれば良いぐらいの重大な事件だったから、もう何十年も生きて本当に年寄りになった気分だ。

 

 退院してから少し、私はようやくリディアンに帰ってくることが出来た。

 流石に二課での都合で休み過ぎたこともあって、授業が全く理解できないところまで進んでいたけど、そこは流石担任の先生と言ったところか。私専用の授業内容まとめプリントを作ってくれて、一気に理解できるようにしてくれていた。

 マジ感謝。学園生活はまだまだ捨てたものじゃない。

 

 それにしても、私はこれからどうなっていくのだろうと考えると不安が溢れてくる。

 ……ちょっとだけ、お母さんに電話をしてみようか。

 

 ──プルルルルルル……プルルルルルル……。

 

『もしもし、明乃です』

 

「お母さん」

 

『あら、アヤメ? こんな時間にどうしたの。まだ学校の時間でしょ?』

 

「今は昼休み。ちょっと声が聞きたくなって、かけてみた」

 

『嬉しいこと言ってくれるじゃない。そうね、じゃあお母さんと少し世間話でもしましょう。人間関係はどう? 中学の時はいろいろと不安があったけど?』

 

「ちょ、ちょっとお母さん!? 世間話に突っ込むにはあまりにも重いんだけど!?」

 

『そう? 中学生の時はアーティストを追いかけ続けて、人間関係かなぐり捨ててきたじゃない。私からすれば、高校生活はもう少し活気のあるものにしてほしいの。それこそ、夢の友達百人を目指す、みたいな』

 

「私には流石に無理だよ。あーでも、良い人たちに会えたから、ちょっとはマシになってるかな」

 

『それって、結構前に家に来た『二課』って人たち?』

 

「うん」

 

 思えば、今の私がこうしていられるのは二課の人たちがいるからだ。

 こうやってお母さんの声を聴けて、変わらずツヴァイウィングのお二人を追いかけ続けて、リディアンに入ることが出来ている。いやなことはもちろんあったけど、それ以上の物を貰った。

 それに、私が一人で生きていたら、二年前の事件でただの観客としてノイズに殺されていたはずだ。その中で奏さんか翼さん、どっちかが死んでいたかもしれない。

 

 ツヴァイウィングのお二人が居ない世界なんて考えられない。

 そんなの私が存在する意味がない。

 

「私、いろいろあるけど中学の時よりも満喫してるよ。話し相手は出来たし、何より楽しいから。その代わり秘密も多くなっちゃったけどね」

 

『あなたが楽しそうなら、私は安心できるわ。そうだ、ちゃんと伝えておかなきゃいけないことがあったのよ』

 

「なになに?」

 

『来週の土曜日、海外赴任からお父さんが久しぶりに帰ってくるの。なんとか時間を空けられないのかしら。久しぶりにすき焼きにでもしようと思うのだけど』

 

「すき焼きっ! 分かった! こっちで話つけてみる! だから安心して待ってて!」

 

『ふふっ、楽しみにしてるわ♪ 無事に帰ってきなさいね』

 

「っはーい!」

 

 電話を切り、ベンチの背もたれに背中を預けた。

 やっぱり持つべきは良い両親。これに限る。大好きなすき焼きを作ってくれて、家族三人で食べられるんだ。

 お父さんには、体の包帯のことはやけど跡とでも伝えておこう。

 

「たはぁ……今の内にこの幸せを噛み締めておかないと」

 

 だから、もし神様なんてのがいるのなら、私は感謝したい。

 何もない平凡で色の無い私を、ここまで活気づけてくれたんだから。

 その分のお礼は、あの人たちを守ることで果たしてみせる。

 

「よっ、アヤメ」

 

「んぶっ! か、奏さんッ!?」

 

 突然聞こえた大好きな人の声に飲んでいたシジミ汁を噎せながら、思わず名前を読んでしまう。屋上入り口の扉にはリディアンの制服を着た奏さんが、扉の枠に腕を置きながら優しい笑みを浮かべて私を見ていた。

 

 いや、シャツが大きな胸でパツパツになっているのは、流石にいかんでしょう奏さん。女生徒しか居ないから良いものの、男子生徒も居たら大惨事ですよ。

 

「な、何で奏さんがここに……?」

 

「アタシはリディアンの卒業生だからな。事前に許可さえ貰っとけば、学院内に入れてもらえるんだよ。たまぁに、歌唱のレッスンとかもアタシがするんだぞ」

 

「は、はぇ……」

 

 なるほど、いわゆるリディアンOGというやつか。

 

「り、理解しました。それで、今日奏さんは何を……」

 

「アヤメの顔を見に来たんだ。学校で何をしてるのか、ちょちょ~とな。んでも、屋上にばっか居るなんて寂しいやつだなぁ。もっとクラスメイトと友達になれば良いのに」

 

「無茶言わないでくださいよ。今まで女オタとして色々とかなぐり捨ててきたのが、この私『明乃菖蒲』なんです。今更捨ててきたものを拾い集めようなんて、私にはとてもとても……。それに、いまは二課の環境で満足してますから。

 何より奏さんのコミュ力を基準にしたら、そこら辺の生徒なんて霞みますからね! 響さんと一緒、もしくはそれ以上です!」

 

「そうか?」

 

「そうですよ!!」

 

 ダメだ、この人は色々と規格外過ぎて話にならない。

 そりゃあツヴァイウィングの観客盛り上げ兼トーク担当にもなろうというもの。隣で静かでキリッとした翼さんとは正反対だ。

 それも最近のあれでその印象が崩れつつあるけども……。

 

 それにしても、翼さんのところにはお見舞いにいったのだろうか。リハビリはもう半分のところまで来ているから、行っても特には問題がないはずなんだけども。

 

「あの──」

 

「翼のところには響が行ってるよ。今はアタシが行くよりも、響が行った方が翼のためになるからな」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「今までずっと、アタシも翼も互いにベッタリだったからな。これからのことを考えたら、いつまで二人一緒じゃない方が良いと思うんだ。もちろんツヴァイウィングは解散させるつもりなんて無いぞ? ただそろそろ個人の活動も視野に入れた方が良いんじゃないかってな」

 

「なるほど……」

 

「ありゃ、アヤメからは結構反発来るとは思ったんだけど?」

 

「ツヴァイウィングはお二人のグループですから。私はただ応援し続けるだけです。本音を言っちゃうと、お二人には離れて欲しくないなぁというのがありますけどね……」

 

 追いかけ続けた両翼が別れてしまうのは、耐えがたいほどに辛いと思う。でも、それがお二人の望んだことなら、私はなんとか飲み込まないと。

 

「ほーん……。で、さっきから何飲んでるんだ?」

 

「これですか? シジミ汁です」

 

「……何というか、すげえ家庭的だな。アタシにもくれよ」

 

「どうぞ」

 

 水筒を奏さんに手渡し、私は空を見上げた。

 考えても仕方ないIFの世界。もしも二年前に奏さんが死んでしまった世界を、どうしても考えてしまう。あの時、あのままだったら多分奏さんが響さんを守るために絶唱を歌っていただろう。

 

 ……どうしたものだろうか。

 やっぱり人を、奏さんを守ろうとするならお腹のアメノムラクモを使いこなすしかない。まともに起動したのは二年前のあの時だけ。

 理論上、起動した聖遺物はどんな人間でも扱えると了子さんから聞いた。なら、アメノムラクモも扱えるはず。でも実験もせずになるなんて、間違いなく怒られるですまない。

 

「奏さん」

 

「ん?」

 

「もし私が聖遺物に飲み込まれて人間じゃなくなったら、その時は奏さんと翼さんが倒してくれますか?」

 

「……冗談にしては笑えないぞ」

 

「冗談じゃないですよ。私はいつか、このアメノムラクモを使わないといけない時が絶対に来ます。でもまともに運用したのは二年前だけです。

 もしです、もし私が失敗した時は、奏さんの手で殺されたいという願望です。大丈夫、当分は死にません! だってまだまだやりたいことはたくさんありますからね!」

 

「悪いがそんな願い事は聞けねぇ」

 

「ですよねぇ。あはは」

 

 キッパリと、断られてしまった。

 

「あ、そろそろ昼休みが終わります。教室に戻って午後からの授業に集中してきますね!」

 

「あ、おい──」

 

 その場を逃げるように、私は屋上の階段を駆け降りていた。

 水筒は奏さんに渡しっぱなしだけど、この際仕方ない。二課で会った時とかにでも返してもらおう。

 

 それにしても、最近は心が逸る。

 役に立ちたいとか、命を捨ててでも守りたいとか。

 私にこんな自傷、自殺に似た衝動なんて無かったんだけどなぁ……。

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