ツヴァイウィング大好き娘、追っかけ続けて装者になる 作:わらぶく
研究者の櫻井了子さんが言うには、私の体から聖遺物の反応がするみたいだった。
聖遺物っていうのが良く分からないけど、政府には何かとても重要なモノらしく私の身柄は不服にも『拘束』という形になってしまって、常日頃の監視が付くようになってしまった。
もちろん、私なんかが聖遺物なんてものを持ってるわけもない。
最初は反抗したけど、あんな赤シャツの強そうな人に頭を下げられたら断れるわけもなく。
今はこうして、休憩スペースで家族に連絡を取っていた。
「ゴメンお母さん。今日は帰れそうにない」
『もしかして、また調子乗って遊んでたら終電逃したの?』
「あは、あはは……まぁそんなところかな……」
『全くあなたって子は。アイドルが好きなのはお母さんも分かるけど、それでも終電は逃す理由にはならないのよ?』
何だかんだ、叱りながらも大切にしてくれる母には感謝しかない。
『それで、どこか泊まるところはあるの? 良かったらお母さんが迎えに行こうか?』
「あ、ううん! 平気! 近くに友達の家があって、そこで泊まらせてもらえることになったから! こっちは大丈夫だから心配しないで!」
『そう? ならちゃんと帰ってきなさい。朝ごはんは何がいい?』
「卵かけごはん!」
『分かった。無事に帰ってきなさいね』
通話を終え、ケータイをスカートのポッケの中に入れる。
そして溜め息。
母親に嘘を吐いてしまったことを後悔しながらソファに倒れた。
だって、政府の組織にお世話になっていますッ!
なんて言っても信じてもらえる訳無いし。
とある組織に捕まってますッ! とか頭おかしい子扱いされかねない。
つらみ。
そもそも私が今ここにいるのは体の検査をするための準備待ちだ。
そろそろ準備が出来ると、職員さんから聞いた。
「は~いアヤメちゃん、お待たせ♪ 検査の準備が整ったから、ついてきてちょうだい♪」
「け、検査ってどんなのなんですか? 私、痛いのはちょっと……」
「大丈夫大丈夫♪ 輪っかみたいな機械に通して、体の中をピピッと調べるのよぉ♪」
……何かやばそうなんですけど?
そんなこんなしてる内に、おっきい検査室に通される。
白衣を着た人がいっぱいで、いろいろ映ったディスプレイの前に整列していた。
が、何よりもッ!
「じゃあ、全部脱いでもらおうかしら」
「ぜ、全部ですか!?」
「ええもちろん。大丈夫よ、奏ちゃん以上のプロポーションはあるんだから、もっと自信持ちなさい」
「い、いやです! このデカいだけの胸が何ですか! それに、この純血は何時までも奏さんに捧げるために──」
「はーい御開帳~♪」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ……」
我、純潔を失う。
見られたぁ……。見られてしまったぁ……。
機械で体の隅から隅まで、余すところなくじっくりと。
「もうお嫁に行けない……」
「大げさなんだから」
「うぅ……それで、私の体の検査は何が分かったんですか」
「いろいろと♪ 子細は指令室で話しましょう。こういうことが、皆にも知らせないといけないから。特に、翼ちゃんにはね」
……翼さんに関する重要なことなんだろうか?
そうこうしている内に私は広い部屋、了子さんが言っていた指令室に通される。
場所的には一角の休憩スペースで、制服を着た優しい女の人が紙コップに入ったホットココアを差し出してくれた。
そして、大事な話の所に当然のようにいるツヴァイウィングのお二人。
い、嫌ではないけど、こんな近くにお二人を感じてしまうと体が死んでしまう!
「あったかいものどうぞ」
「あ、あったかいもの、どうも……」
あぁ、熱いココアが頭に染み渡る……。
んな訳ない! 気まずいと思ってわざわざソファの遠くに陣取ったのが間違いだった。
めちゃめちゃフレンドリーな奏さんが、私のすぐ側まで近寄って来る。
タスケテ……タスケテ……。興奮のし過ぎで死ぬ……。
「よっ、無事そうで良かった。了子さんの詮索大変だったろ? あの人、いっつもこんな感じだからさ」
「アッ!(高音) ソ、ソウデスネ」
「あ、真っ赤になった。翼、この子、面白いぞ!」
「奏、その子困ってるみたいだからもう止めてあげて」
私の命が危ない!
翼さんの救援によって九死に一生を得たものの、これ以上は心臓が爆発する!
あっ顔を近付けないで、私の寿命が消えてしまいます。
「翼の言うとおりだ奏。そこまでにしてやれ」
「はいはい」
奏さんが私の隣から離れて、翼さんの隣に帰っていく。
高鳴る心臓を深呼吸で何とか抑えて、火照った頬に対抗する形でまたココアを飲む。
元々ただのファンで人間関係がよろしくなかった私がこんなところに放り込まれて何ともないわけなく、遂に限界を迎えて手が震えてきてしまう。
そんな私を察してか、赤シャツの人が笑顔で話しかけてきた。
「そう緊張しなくていい。俺の名前は風鳴弦十郎、ここの責任者をしているぞ。
そしてもう知っているだろうが、そこにいる二人が──」
「も、もちろん存じ上げているでございます!
ツヴァイウィングの天羽奏と風鳴翼さんですよね!」
「お、おう、そこまで食い入るとは思ってなかったぞ」
「ツヴァイウィングのお二人は結成当時から応援していました! ライブハウスでの公演もすべて見に行きました! ファンクラブも入ってます!」
あ、やば、気持ち悪い自分を出してしまった……!
ひ、引かれたか……!?
「あー思い出した! 確か握手会で一番最初に来てくれた子だな!
いやー、まさかこんなところでまた会えるなんて思ってなかったッ!」
「は、おぼ、おぼぼ……!」
おぼれてるのか私は。
いやでもまさか覚えていてくれるなんて……ッ!
「い、いま、今までファンやってて、う、嬉し、です……ッ!」
「アタシも嬉しいよ。今度どっか食べに行くかッ!」
「はひっ!?」
お食事なんて何と恐れ多い……。
でも、ニパッと咲く奏さんの笑顔には叶わない。いつもライブたとすっごい凛々しい声で煽ってくれたり、掛け声のタイミングを計ってくれたり。やっぱりこの人の強みは、人を引き寄せる活力とかだと思う。
何よりもイケメン。これに尽きる。
異性のファンよりも同性のファンの方が多いってヤバすぎるでしょう奏さん。
それでいて抜群のプロポーションだし……。
「さて、本題に入って良いかしら?」了子さんが言う。
「ああ頼む」赤シャツの人、弦十郎さんが答えた。
「よぉし、じゃあこれを見てほしいんだけどね?」
テーブルの上にいつの間にか用意されていたモニターに写されたのは、私のレントゲンみたいな画像。我ながら綺麗な骨格だと内心で褒めたたえながら、お腹の辺りで細長い何かが映っていた。
え、嘘でしょ?
お腹の中にあんなものあるとか、母親から聞いてないんですけど?
何というか訳が分からなさ過ぎて言葉が出てこない。
「了子くん、何故アヤメ君の中にこのような影が?」
「精密検査の結果、何とアヤメちゃんの中には聖遺物が入っていることが判明しました~パチパチパチパチ~♪」
「何だとッ!?」
……?
状況把握ができない。とにかくお腹の中に何かあるのは分かった。
けど、聖遺物? なんか神話で出てくるなんちゃら—みたいな感じだろうか?
「そう、名称『天叢雲剣』。あのヤマタノオロチから出てきた神話の剣ね。
まさかこんなところで出会うなんて、私も思いもしなかったわ」
「『天叢雲剣』……私が持つ『天羽々斬』と関係が?」
「簡単に言えば、『天羽々斬』で退治したヤマタノオロチから出てきたのが『天叢雲剣』ね。一説には、この『天叢雲剣』がヤマタノオロチの源とするものとも言われているわ」
わからない……! ヤマタノオロチという言葉しかわからない……!
こんな話でつまづくなら、ちゃんと神話関連調べとけばよかった……!
でも、この話を聞いて興味が出たのか、私の方を奏さんが楽しそうに見てくる。
嬉しい。役得!
「なので、当分は帰れないから、覚悟してねん♪」
「……はい?」
拝啓、お母さん。
帰るのは明日の朝では無理そうです。