ツヴァイウィング大好き娘、追っかけ続けて装者になる   作:わらぶく

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少女はあの時の少女と再会する

「踏み込みが甘いぞアヤメくんッ! 腰を落とし踏ん張りながら、雷を喰らい稲妻を握り潰すように打つんだッ!!」

 

「だぁぁぁッ!!」

 

 足で畳を目一杯踏みしめながら、弦十郎さんのミットに拳を打ち込む。パンッ! と弾けるような快音を鳴らしただけで弦十郎さんはその場から動くことなく、私の拳を易々と受け止めていた。

「やるじゃないかッ!」と褒めてくれたけど、こんなので満足しちゃいけない。私の後に入った響さんはもう奏さんたちと一緒に肩を並べて戦っている。なのに、私だけがここでじっとしているなんて許しがたかった。

 

「呼吸を乱すなッ! 呼吸を失するものは戦いに負ける、一定のリズムを保つんだッ!」

 

 拳を打つ。蹴りを入れる。

 その全てを容易く受け止められてしまい、その腕力で弾き飛ばされる。がむしゃらに打ったところで効くわけがないとは分かっているけど、それでも一発入れられればと打ち続ける。

 結果は結局のところ、一発も及ばなくて凹みそうになったけども。

 

「一旦休憩だ。筋は良くなっていているぞ。後は打ち込みに慣れるしかあるまい」

 

「ゼェ……ゼェ……ありがとうございます……」

 

 私は汗だくで濡れ濡れになった体をタオルで拭く。二課の施設内では体の包帯を外せるから、今ではここがありのままを出せる憩いの場所になってしまった……。

 もう少し戦い方に改善の余地があるんだろうけど、今の私にはこれが精一杯。仰向けにバタリと倒れながら、ペットボトルの水を一気に飲み干していった。

 

 これじゃあ、響さんにはまだまだ及ばない。

 あの人もあの人で飲み込みが早すぎるという天才型で、凡人の私がそんなのに勝とうとするなら、何年技術を仕込まれなければならないのかと思うと気が重くなる。

 

「ただ、無闇に打ち込むのは感心しないな。それに呼吸も酷く乱れていたぞ? 整った呼吸こそ戦いにおいて最も重要なことだ」

 

「やっぱり、ですよね……。すみません……」

 

「その様子だと、何か悩みがあるようだな。良ければ俺が聞こう、的確なアドバイスは出せないかもしれないが、君の吐き出し口にはなれるはずだ」

 

「なら、どうやったら強くなれますか」

 

「鍛練に励むしかないな」

 

「ですよねぇ……」

 

 当たり前の常識を告げられて、凹む。

 

「それで、本音はどうなんだ?」

 

「気付かれますか……。

 前にも言ったとは思うんですけど、私はお二人を守れる力が欲しいんです。私だけまともに聖遺物を扱えないポンコツで、後から入ってきた響さんにももう手が届かない始末。両翼を休められる止まり木があっても、その両翼が居なくなったらただの枯れ木になるんですよ。

 そこでお願いがあるんです」

 

「何だ、アメノムラクモを起動することは許さんぞ」

 

「あーいえ、そういうわけではなくですね」

 

 ……少し意地悪みたいな質問になってしまうだろう。

 だけれども、と声にならない覚悟を口の中に留め、ごくりと飲み込んだ。ここまで来たら聞くしかない。弦十郎さんなりに出した答えを参考にして、私なりの答えを出したい。

 

「弦十郎さんは、響さんや翼さん、奏さんたちが危険な場所が向かう時ってどんな心境で送り出してるんですか?」

 

「……なるほど、そう来たか」

 

「最近思うようになってしまいまして……戦いに行ったお三方がもし帰ってこないことがあればと思うと……気が気じゃなくなりまして……せめて、皆さんのことをずっと見続けられたらなぁと……すみません、やっぱり忘れてください。ダメですね、こんなに弱気じゃ。皆さんの帰るところにならないとダメなのに」

 

「いや、アヤメくんの質問に答えよう。そうだな、悔しいというのが本心だ」

 

「悔しい、ですか?」

 

「ああ、もし俺がノイズに対抗出来る力を持っていたなら、戸惑うことなく最前線へと出ていたはずだ。だが、いざノイズとなれば、俺は司令室のイスに座って三人に指示を飛ばすだけ。大の大人が子供たちに命を懸けさせなければいけない。結局、俺は無力なままだ」

 

 悔しさを噛み締めるように、その手に握ったタオルを強く握り締めて、でも悔しそうな表情は私には見せずに。それもそうだ、何年も奏さんと翼さんが戦うのを見続けてきたのは、他の誰でもない二課の皆さんであり、弦十郎さんなんだ。

 

「そうですか……じゃあ、私なんかよりももっと重い悩みを抱えていたんですね」

 

「ははは、君の悩みほどではないさ。さて、湿っぽい話はここまでにして、次は竹刀を使ったトレーニングにしよう」

 

 まだまだピンピンしている弦十郎さんから竹刀を差し出され、上半身を起こしながら受け取る。この竹刀がまた特注で、めっちゃ重い。絶対五キロ以上はある。

 明日は、全身の筋肉痛かなぁ……。

 

「一撃一撃、気合を入れて振るうんだぞ!」

 

「はい、行きますッ!!」

 

 

 

 

 

「最近筋肉痛が酷いんですよぉ、響さぁん……」

 

「あ、あはは……アヤメちゃん最近特訓頑張ってるもんね……」

 

 リディアンの帰り、同じ寮ということもあって私たちの帰り道は重なり、今こうして少し肩を貸してもらいながら歩いていた。

 

 というのは建前で本当のところはと言うと、やたらと響さんが落ち込んでいたから声をかけただけのこと。

 だって、ビビるくらいにポジティブでコミュ力お化けの響さんが、あからさまに落ち込んでいるんですよ? こんなもん明日、明後日は季節外れの雪で東京が埋もれてしまう……。

 

 でも、真っ正面からぶつかっても全部話してくれそうにはない。まだまだ好感度が足りないのだろう。

 このギャルゲー難易度ぶっ壊れてるんですけどー!!

 

「このままじゃ私、ムキムキのゴリマッチョになりそうなんですけどぉ」

 

「アヤメちゃんがアマゾネスに!?」

 

「いや飛びすぎ飛びすぎ、流石にそこまでいきませんよ……多分ですけど」

 

 流石にムキムキは嫌だなぁ……。

 めっちゃ目立つし、何より私の好みじゃない。

 どちらかと言えば翼さんのような、スラッとした体型を目指したいねぇ。

 

「それで、先程は何を落ち込んでたんです?」

 

「あっ……気付いてたの……?」

 

「そりゃそうですよ。だって、いつもビビるくらいに元気な響さんが、こんなにショボくれてしまって……ハッキリと言って、今の響さんは響さんじゃないです!」

 

「ひ、酷い……」

 

「な・の・で、二課では先輩であるこの私が、響さんのお悩みを解決して差し上げましょう。ご安心を、こう見えても色々なお悩みには乗って上げられますよ?」

 

 へへっ、もう戦闘面ではマウントを取られてるんだ。

 こういうところで先輩面しても問題はないはず。

 さぁ響さん、私を先輩と崇め奉りなさい!

 

「じゃ、じゃあ! 友だちにシンフォギアの秘密を打ち明けず、仲直りする方法ってあるかな!?」

 

「と、言うと?」

 

「昔からとっても仲の良い友だちが居て、名前は未来って言うんだけど……一緒に見ようと約束してた、こと座流星群を任務のせいで見られなくて……」

 

「ふむふむ」

 

「未来は私に隠し事をしてないのに、私は未来に隠し事ばかりして……それがどうしても辛いんだ……」

 

「なるほどなるほど……」

 

「未来を危険なことには巻き込みたくなくて、でも未来に隠し事するのも辛くて……。私は何とか未来には安全な場所にいて欲しいのに、上手く伝えられないから全部空回りしちゃって……。もう、どうしたらいいか分からないの……」

 

 ……いや、おっもッ!?

 秘密を抱えていることに罪悪感を覚える人は確かにいますけど、ここまで悩み込むとはなかなかにあれですね、隠し事が出来ないタイプですね……。

 これはぁ、重いぃぃ……!

 

 でも、そんなに重い感情を持てる友達がいるのって、正直羨ましいなぁ。

 人間関係をかなぐり捨てた私が悪いんだけれども、やっぱり憧れる。

 

「そうですね。私が提案できるのは二つ、一つはその秘密も罪悪感も全て抱え込んで一人で生きていくこと。もう一つは、いっそのこと弦十郎さんに相談してその未来さんを二課を保護してもらうかです」

 

「えぇぇッ!? で、でもそんなことをしたら未来が──」

 

「響さん一人だけよりも、皆さんで守ったほうが安全でしょう? 私のお母さんも極秘に二課で保護してもらってますからね。あの弦十郎さんですよ? 私たちよりも屈強なんですから、安心です」

 

「それは、そうかもだけど……」

 

「決めるのは響さんです。私は、響さんほど人間関係に恵まれては無いですけど、助言をすることぐらいは出来ますからね。だから──ッ?」

 

「アヤメちゃん!?」

 

 い、いきなりお腹のアメノハバキリが反応して……。

 急に来るから蹲っちゃうんだよなぁ……そのせいで響さんに驚かれたし……。

 

 でも反応してるってことは、絶対に近くでノイズか何かが──。

 

「お前がぁぁ──ッ!!」

「響ーーッ!」

 

 私の左耳からはいつか聞いた女の子の怒声、右耳からは聞いたことのない声。

 顔を上げれば、紫色の水晶が連なるように出来たムチが、私たちの向かいから走ってくる白いリボンの少女の方へと向かっていた。

 

「未来ッ! こっちに来ちゃダメだッ!!」

 

「響さん、行ってッ! 私は大丈夫ですからッ!」

 

「っ、はいッ!」

 

 

 ──Balwisyall nescell gungnir tron──

 

 

 響さんが、白いリボンの子のところにダッシュ。

 私は、さっさとここから──あら?

 

「のわぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 ムチがいつの間にか私のお腹に絡みついて……引き寄せられるッ!

 

 私の体が木々の間をすり抜けて、いきなり後ろからぎゅっと抱きしめられた。

 

「やっと、やっと助けてやれる……!」

 

「その声、まさかクリスさん……ッ!?」

 

 しっかりと聞こえた声は紛れもない、雪音クリスさんのもの。

 頭のバイザーの向こうに見えるネフシュタンの少女……いや、クリスさんの目は覚悟の決まった人間の目だった。

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