ツヴァイウィング大好き娘、追っかけ続けて装者になる   作:わらぶく

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少女は翼の稽古にくらいつく

 私の体の中に聖遺物が入っていることが判明して、もう一週間だ。

 経過はと言えば、あの後結局帰宅できたのは三日後。弦十郎さんの方からお母さんの方に電話を入れてくれて、聖遺物等の話を抜いて事情を説明してくれた。この聖遺物というのはどうやら世界中の政府にとって喉から手が出るほど手に入れたいものらしく、私の身柄は聖遺物と同等の扱いがあれるようになった。

 

 それからというもの、私の中学生と立場を考慮して一定の護衛が付くことになり、私服警官みたいな人が周囲に就くことになっている。

 そして、週五で二課の方に顔を出すことが義務になった。

 

 ……どうしてこうなった?

 

 ちなみに、私はと言うと。

 

「腰が入っていないぞ、アヤメ! 重心が高い!」

 

「こ、こうでしょうか……!」

 

「違うッ! へっぴり腰になったらダメだッ!」

 

「ひぃぃぃっ!」

 

 私は今、二課トレーニングルームで翼さんに刀の指南を受けている最中。

 正直に言って、ただの女子中学生だった私に木刀を一時間以上素振りをする腕力と体力が無い。キッツいこれ、キッツぅい……。手に豆は出来るし、筋肉痛で足腰は生まれたての小鹿みたいになるし、人間がやるような特訓じゃないよ、これ!

 

 どうしてこんなことをしているのかと言うと、私の体にあるのが刀だかららしい。

 『天叢雲剣』は翼さんの使っている『天羽々斬』と似た性質になると予測して、刀を使う翼さんに稽古をしてもらっているという状況。いやそれでもキツイ。

 

 でも、まだ奏さんが見てくれているからやる気も出てくる。

 こういう時、憧れの人が近くにいるってモチベーションの上がりようが違うのを思い知らされる。いつもなら間違いなく三日坊主になる、絶対に。

 

「や、やぁッ!」

 

「意外と呑み込みが早いわね、アヤメは。いったん休憩にしましょう」

 

「あ、ありがとうございます……ゼェゼェ……」

 

 木刀を手放し仰向けに倒れながら死にかける。

 改めて、こんな稽古ばっかりやってる翼さんは化け物のように感じる。おそらく奏さんも同じようなことをしてるのだろう。そりゃ、ライブ中走りながら歌ったりできるわけだ。

 私たちとは積んでいる場数が違う。まさに別次元の人間だった。

 

「ほら、水を飲みなさい。水分補給は絶やさないように」

 

「どうも……んぐっ、んぐっ……ぷはっ。やっぱり自堕落人間の私には、翼さんみたいな立派な人間は厳しいですね。こんなことを自主的に出来るなんて、すごいと思います」

 

「何事も継続が命。一日でも絶やせば、ツヴァイウィングのとしての私も、装者としての私もダメになってしまう。何より、側に奏がいてくれる」

 

「やっぱり、お二人は仲いいですね。姉妹みたいです」

 

「し、姉妹──!?」

 

 ポッと翼さんの頬が赤くなる。何で?

 それにしても、赤い髪と青い髪のお二人は本当にご一緒なのが似合っている。

 むしろこうであるべきと、決められているみたい。

 

 赤面する翼さんに気を取られていると、ドアがシュッと開いて紙袋を両手に提げた奏さんが入って来る

 

「お疲れー二人とも。シュークリーム買ってあるんだけど、食べるか?」

 

「奏さん! はい、いただきます!」

 

「甘い物、久しぶりに私もいただこう」

 

 包み紙ごとシュークリームをもらいながら、紙をめくって早速一口。

 口の中に広がる冷たくて甘いクリームを楽しみながら、一心不乱に食べ続ける。

 

「アヤメは食べるの速いなぁ」

 

「あぐっ……昔からご飯は早く食べるのが主義でして、食事のために時間を他のことに当てたかったんです」

 

「他のこと」

 

 奏さんが聞いてくる。

 

「そりゃもう、お二人のライブDVDを見直したり、部屋に飾ったサインの色紙を眺めたりですね。ライブハウスでの映像も残ってますよ」

 

「マジか!? いやぁ、そこまで尽くしてくれるなんて嬉しいなぁ」

 

「でもアヤメ、金銭面で家族に迷惑は……」

 

「大丈夫です。今までの小遣いの貯金と、お年玉で全てやりくりしてきました! 流石に足りない時は、母親に土下座してお金借りてましたね。あ、でも一つ後悔があってですね……。

 私、ドームでのライブになってからお二人の歌を最後まで聞けたことがないんです」

 

 私がそう告げると、二人は不思議そうにこちらを見てくる。

 どうしてを言ってきそうなお二人だが、そんなことは私が聞きたい。

 

 この体質のせいで、最後までライブ見れないんやぞ……!

 まぁでも、こうやってお二人に近付けたので実際プラス、かな。

 

「そうだ、ライブの件でもう一個アヤメに伝えたいことがあるんだ」

 

「私にですか?」

 

「そうそう、三か月後にまたアタシたちのライブがあるんだ。会場ももっとデカいから、もっともっと賑やかになるぞ。そういうことでほら、ライブのチケット」

 

 手渡されたのは、正しくライブチケット。

 使用期限、未使用、金額九千円。本物、マジで本物のライブチケット。

 

 ……マジ?

 夢かどうかを確かめるために頬を引っ張るが、力の入れ過ぎでヒリヒリする。

 いや、そんなことは良い。夢なんかじゃない。

 しかもチケット裏には奏さん直筆サインが入っていて、こんなの国宝級である。

 ファンに見つかったら殺されてしまうのでは?

 

「ずっと見てくれたんだ。これぐらいのサプライズはお手の物さ」

 

「あ、あや、あばばばばば……こ、こりぇ」

 

「舌が回ってないぞアヤメ。相変わらず面白いなぁ」

 

 手が震える。さっきまでの疲労が全部ぶっ飛んで、意識がチケットに。

 やばいやばい、手汗でチケットが汚れる!

 

「は、はひ、カバンの中に直してきます!」

 

 即座に立ち上がり、お辞儀をしてから退出! 我ながら完璧な所作!

 走らないよう逸る心を抑えつけて早歩きで廊下を進む。休憩スペースには自分のカバンが置いてあるので、そこに。貴重品? 財布やら電話やらは全部二課の方に預けているのでそこらへんは万全なので安心!

 まぁ実際、私が持ってるよりも無くさなくて済むのでOK!

 

 速足で向かった休憩スペースには、丁度作業と研究を終えた弦十郎と了子さんの姿が。

 何やら険しい表情で話し合っていて、私に気づくと一斉にこちらを向いた。

 

「弦十郎さん、了子さん、こんにちは」

 

「アヤメくんか、翼の稽古の帰りか」

 

「いえ今は休憩です。翼さん容赦なくて、もうクタクタです……」

 

「はははっ、翼は弟子が出来て舞い上がっているんだろうさ。奏との関係とみても、どちらかと言えば妹のような感覚だったからな」

 

「そうそう。アヤメちゃんは翼ちゃんが持った初めての弟子だから、それだけ力を入れて稽古をしてあげたいのよ」

 

 弟子……確かに良い響きだ。

 慕ってくれる人がいるってことは、確かに嬉しいことかもしれない。

 私はまだまだ半人前で何も出来ていないけど、いつかそんな人が出来たらと思う。

 

「でも、初弟子が私なんかで良いんですかね?」

 

「むしろアヤメちゃんだから良いんじゃないの♪ 天羽々斬と天叢雲剣、同じくヤマタノオロチに関する剣、どんな形なのかとっても気になるわぁ♪」

 

「そう気負う必要はない。君と君のご家族は二課が責任をもって守る。安心してくれ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 弦十郎さんが言うと、声も相まって結構安心できる。

 カバンの中にあるファイルの中に入れて、チケットの保護は完了。

 ふぅと息を吐いてトレーニングルームに戻ろうとすると、肩にポンと手が置かれる。

 振り返れば了子さんが私に向けてめっちゃ笑顔を向けてきていた。

 

「ねぇアヤメちゃん、三か月後のライブで舞台裏に来てみない~?」

 

「ふぇ?」

 

 ……私は死ぬのだろうか?

 あまりに自分に都合のいい展開の数々に、私は本当にこのままでいいのかと考えてしまう。

 いやむしろ、ここまで甘い展開が続くのなら訝しむべきなんじゃないかと。

 

「い、良いんですか?」

 

「モチのロンよぉ♪ ただ、実験に参加してもらうことになるけれどね?」

 

「……実験?」

 

「アヤメちゃんの聖遺物、天叢雲剣はいわゆる休眠状態。高いフォニックゲイン、簡単に言うと強い衝撃が必要なの。ガツンと殴れば、起きるかもってこと」

 

「ガツン!? 私腹パンでもされるんですか!?」

 

「されたい?」

 

「嫌です!」

 

「でしょ? 実験と言っても、舞台裏に作った特別な個室でライブの映像を見ながら、楽しく盛り上がってくれれば十分。とっても有意義な時間になるはずよ♪」

 

 おお……おおおお……!

 嬉しいッ! ツヴァイウィングのファンの皆さん、私は一歩先に極楽に行きますッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       Gatrandis babel ziggurat edenal

 

       Emustolronzen fine el baral zizzl

 

       Gatrandis babel ziggurat edenal

 

       Emustolronzen fine el zizzl

 

 あぁ、奏さん……ごめんなさい……。

 

 命を燃やす悲しい歌が、ドームを包んだ。

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