ツヴァイウィング大好き娘、追っかけ続けて装者になる 作:わらぶく
「何が、起きてるんですかッ……?」
私の質問に答えてくれる人はいなかった。耳を包む雑音に思わず顔をしかめてしまう。聖遺物起動の時に突き出てきた刀のせいでお腹の異物感が凄まじい。ずっと残ってるような感じがする。
何よりさっきの起動で体の疲労がスゴい。いつもならライブの帰りに感じてるあのクタクタ感を今全身に感じていた。
「弦十郎さん、了子さん……?」
扉を開けて装置の中から、重い体を動かして外に出る。
綺麗に並べられていたはずの機材がとっ散らかっていて、私のことを観察していたはずの研究員さんが居なくなっていた。
代わりに残されたのは、足元に積もる黒い塵。それを見て、今ここに現れたノイズなのだと悟った。
ともかくお二人と合流するために、舞台裏からステージの方を目指して歩く。もしこれでライブ中なら大目玉だけど、ノイズが発生してるならそれどころじゃないはず……。
どうして、どうしてお二人のライブに現れるんだ。
ライブ会場に悲鳴なんてあっちゃダメなのに。
お二人は歓声に包まれているべきなのに……ッ!
「奏さん……翼さん……ッ!」
舞台裏からライブ会場に出れば、そこは酷いの一言でしか表せないほどの大惨事が起きてきた。夕焼けの赤い空を濁らせる黒い塵と、会場を埋める色とりどりのノイズ共。
お二人は避難する観客のためにシンフォギアを身に纏って戦っている。会場のスタッフも避難させる為に誘導している。
皆頑張っているのに、私だけこんなザマなんて嫌だッ!
「私は、ここにいる……ッ! 翼さんと奏さんと同じ、聖遺物の力を持っている……ッ! なら、私はッ!」
ステージに向かって駆け出す。お二人の元へ。
疲労感が何だ、初戦闘だからって何だ。
私は奏さんのために、翼さんのために、お二人のために応援し続けると決めていたんだ。だったら、私はノイズだろうと何だろうと戦ってやるッ!
足に力を入れて思いっきり踏み込めば、私の体が人並外れた跳躍力で宙を舞う。地面に落ちるまでの浮遊感で内蔵が浮き上がるような感覚に息が詰まるけど、ここまで来たら根性で耐える。
「奏さんッ! 翼さんッ!」
「アヤメッ!? その姿は」
「聖遺物の起動に成功しましたッ! 私も戦いますッ!」
会場の中央に着地すると、戦闘を続けるお二人の元まで駆け寄る。私を見るお二人の目は「逃げろ」とでも言いたげだったが、守るためにも逃げるわけにはいかない。
そんな私の覚悟を理解してくれたんだろう。
「アームドギアは出せるか?」
奏さんに聞かれて、体を見回す。
私には剣や槍はない。作り方も分からない。
だけど、戦いたいと願えば頭の中に産み出し方が浮かび上がる。
「これから作りますッ!
うぐっ、おおおぉぉぉ──ッ!」
ヘソの辺りに手を突っ込む。グチャリと生々しい肉と突き破る音が聞こえて、ボタボタと溢れる血液が足元に広がる。だけど痛みは全く無い。
指先にコツンと硬いものが当たった。これがお腹の中にある天叢雲剣──面倒くさいからアメノムラクモ──なのだろうと理解する。手で掴み、一気に体の中から引っ張り出すッ!
「あぐぁッ!! はぁ……はぁ……、疲れます……」
出てきたのは翼さんの刀の形に似た刀。
翼さんがすぐの駆け寄ってくれて、私の体を心配してくれる。
「アヤメ、大丈夫なのッ!?」
「はい、不思議と痛くも辛くもありません。
ただ疲れているだけです。それより、早くノイズを倒さないと被害が広がります。私は、お二人のライブをメチャクチャにしたこいつらを許せませんッ!!」
「無理だけはするな、アヤメ。さぁ行くぞノイズどもッ!!」
駆け出すと同時に、私は刀を振り回す。
翼さんに比べたらクソみたい振り方だけど、それでもノイズを斬り裂ける。真っ二つになったノイズを見下ろして、私はようやくお二人の側に立てたんだと感激した。
ただひたすらに切り裂き続ける。
お二人のようには出来ないけど、それでも負担が少しでも減らせるのならと刀を振り回し続ける。
それでもノイズは数が減っている気がしない。
何体も何体も溢れてきて、私たちを数で押し潰そうと襲いかかってくる。
「なっ、ク──ッ!!」
「奏さん!?」
突然、険しい顔でどこかへ駆け出す奏さん。
向かう先には一人の女の子が倒れていて──って、あの子はあの時の同志になった子ッ!? 逃げ遅れたんですかッ!?
まずいまずいッ! 目の前で人を死なせるわけにはいかないのですッ!
「間に合えぇッ!」
飛び出し、横に凪払う。
相当な数が塵になったのを確認しながら奏さんの方へと駆け出していた。お二人は私の存在理由でもあるのです。こんなところで死なせない、老衰で亡くなられるのを見るまではぁッ!
だけど私の行動は遅くて、大型の芋虫みたいな溶解液のようなものを奏さん目掛けて吹きかける。奏さんは槍を舞わして防御するも、ジリジリと押されて体の装甲にヒビが入っていく。
その時に出来た破片が吹き飛ばされて。
──ドスッ!!
「え……?」
女の子の左胸に突き刺さって、その衝撃で体が飛び壁に叩きつけられる。舞う血飛沫が怪我の酷さを物語っていて、広がっていく血溜まりに言葉が詰まった。
「おい死ぬなぁッ!! 目を開けてくれッ!
生きるのを諦めるなぁッ!!」
私が駆け寄った時には、女の子の意識はほぼ無かった。
今もジリジリと距離を詰めてくるノイズ。翼さんは自分のことでいっぱいいっぱいで、奏さんは女の子の解放をしなければいけない。
なら、ここで命を張るのは私ということになる。
(アメノムラクモ、私は皆を守りたいッ!
だから、だからお願いッ! 私に力をッ!!)
……これは答えてくれたのか、それとも見捨てたのか。
頭の中に思い浮かんだのは、聖遺物の力を最大限まで引き出してフォニックゲインを吐き出すという技。こんなことをすれば私の体がもたないということは、何となく察する。
でも、お二人を守れるのなら倒れても良い。
弦十郎さんも何かあればお母さんのことは見てくれると約束してくれている。なら迷うことはない。ここで燃え尽きても、奏さんは私のことを覚えていてくれるんだから。
「奏さん、あとはお願いします」
「へ……?」
ノイズと奏さんの間に立ち、刀を掲げる。
頭の中に刻まれていくのは歌詞。これを歌えば、私の夢は守れるんだ。
「Gatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el baral zizzl」
「絶唱……ッ!? 待てアヤメ、歌うなッ!!」
こんな状況で歌えないのなら、私の価値はない。
奏さんには悪いけど、その言葉だけは聞けなかった。
「Gatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el zizzl」
歌を歌いきり、私の体が光り輝いている。
そして、私を中心に丸い球体のようなものが広がっていき、触れたノイズを全て塵に変えていった。私の体が悲鳴をあげているのが分かる。皮膚が破れ、穴という穴から血が流れて、ブチブチと体の色々なものが千切れていくような感覚。
やがてドーム全体を包み、会場と空を埋め尽くしていたノイズの姿が消えた。
出来ること、私は全てやりきってその場に倒れた。
翼さんが私の体を抱き抱えてくれて、心配してくれているみたいだ。目尻に涙が溜まっている。
「泣かないで……ください……。私は、満足、です……」
耳が聞こえない。目も見えなくなっていく。
手の感覚もない。ただ、ただ眠気ばかりが襲ってくる。
お二人と女の子、私はそれを守れたら満足でした……。
思わず顔がにやけて、私は意識を失った。