ツヴァイウィング大好き娘、追っかけ続けて装者になる   作:わらぶく

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少女は、その身を器として生き永らえる

「ぅぁ……」

 

 目を覚ましぼやけた視界に映ったのは、正に知らない天井そのものだった。口に付けられた酸素マスクが呼吸をする度に白い露が付いて、私が生きていることを実感させてくれる。

 

 ……そう、生きている。

 あのライブを、私は生き残ったようだ。

 絶唱を歌ったときは、あまりの痛さと体が千切れるような感覚に死んだと確信していたが、幸運にも私はこうやって生きている。決めたことを折らずに済みそうだとホッとする。

 体の節々がまだ痛むが、体を動かすことに問題はない。

 

「んしょっ、と……」

 

 マスクをはずし、体を起こす。

 腕に繋がる無数の点滴、人生初の経験に心の中で『こんな感じなんだぁ』と一人楽しんでいた。意外と、初めての体験には敏感で結構楽しい。

 まぁ、身体中包帯だらけで、私の顔ぐらいしか素肌を晒していないんだけれどもね?

 

 なーんてバカなことを考えていたら、がらがらと病室の引き戸が開かれて話し声が聞こえてきた。

 

「司令にはなんて説明するの?」

 

「説明も何も、全部誤魔化さずに言うってば。それこそ、翼も付き合わなくて良かったんだぞ?」

 

「私も、アヤメにはお礼を言いたいから。起きたときに読んでもらえればと手紙、を……」

 

 話しながら入ってきた翼さんが私に気付く。

 口を開けたまま動かない翼さんに困惑してか、その視線の先に私を見て同じく奏さんも固まった。何とか笑顔を作り包帯だらけの右腕を動かして微笑みかければ、バッと動いた奏さんが私の体を抱き締めていた。

 

 思わず思考が止まる。

 

「バカッ! 何で無茶なんかするんだッ! アヤメが起きなかったら、アタシは、アタシは……ッ!」

 

「あわ、あわわ……」

 

 だき、抱き締め……ッ!

 頭が真っ白になる。私の胸と奏さんの胸がくっついて……。

 あばばばばばばばば……ッ!

 

 んまぁ奏さんに抱き締められるのは嬉しいんだけども。

 包帯なんて体に巻いてる時点で、私の状況はお察しな訳でして。そんなところに抱き締められようものなら……。

 

「アダダダダダダダッ!?」

 

「あ、アヤメッ!? ご、ごめんッ!」

 

 痛みと嬉しさでグチャグチャで、手がバタバタ動いて。

 指先がナースコールのヒモに引っかかるのも時間の問題だった。引っ張ってしまい、ナースコールがかかってしまう。

 

「「「あっ」」」

 

 

 

 

 

「まったく何をやってるんだ、お前たちは……」

 

 腕を組み叱る弦十郎さんの言葉を私たちは神妙な面持ちで聞いていた。

 

 あの後、駆け込んできたナースさんが顔を真っ青にして部屋を飛びだし、私たちの責任者となる弦十郎さんが呼び出され、今の状態に。

 ただ、私が意識を取り戻したことに弦十郎さんも喜んでくれているようで、優しい笑みを浮かべている。

 

「まぁでも、アヤメくんが目を覚まして嬉しいのは俺も同じだ。ただ、場所は考えるようにするんだぞ。それに、怪我人を怪我させるようなことをしてどうする」

 

「ごめん、弦十郎さんのダンナ」

 

「反省してます……」

 

 色々とレアなお二人の沈んだ姿。

 私としては結構眺め続けていたい光景だけど、まぁそんなことが許されるわけもなく。早速、私が気になっていることを聞いていくとしよう。

 

「弦十郎さん」

 

「む、どうしたアヤメくん」

 

「お二人の様子からして私が眠ってたのは二日三日じゃないと思うんですけど、どれくらい眠ってたんですか?」

 

「やはり気になるか。ショックを受けないで冷静に聞いてくれるもらえると嬉しいが、大丈夫か?」

 

「……? まぁ、はい」

 

 寝ていた期間を聞くだけでそこまで恐れることは──

 

「君が眠っていたのは五百五十日、年月にして約一年と六ヶ月眠っていたことになる」

 

「……ほ?」

 

 思わず自分の耳を疑う。

 五百五十? 550? 一年半?

 ショック、というよりは私が耳が狂ったんじゃないかという疑問しかない。

 

「……やはりそういう顔になるか」

 

 よほどのアホ面を晒してしまったらしい。弦十郎さんが私のことを心配そうに見てくる。

 

 けどしょうがないじゃん!

 目が覚めたら一年半後。信じられる?

 少なくとも私は無理だ。

 

「アヤメ、大丈夫……?」

 

「あー……ごめんなさい……。やっぱり、ちょっと受け入れがたいというか……その、実感が沸かなくて……」

 

「仕方がない。簡単に受け入れられるようなことではないことは、こちらも理解している。俺も無理に受け入れろなんてことは言わん。アヤメくんのペースに任せるぞ」

 

「すみ、ません」

 

 ……どうしようか。

 

 私が変に暗い顔をしてしまったせいで、お二人に余計な心配をさせているようだ。このままではいけないと、何とか口角を上げて笑顔を作ったものの、それがむしろ良くなかった。

 寂しそうな目を向けられて、思わず目を背ける。

 結局、この気まずい空気が解決されるのは私のことを聞きつけてきた了子さんが来るまで続いてしまった。本当に申し訳なかったけど、私にはどうしようもなかった。

 

 

 

 

 了子さんが来たのは私の怪我の状態を説明するためらしい。

 大事で機密な話だからと了子さんはお二人は部屋に帰し、病室に残されたのは私と了子さんと弦十郎さんの三人。了子さんの手には大きめのタブレットがあって、映った画像を私に見せてくれる。

 

「これがここに運ばれた時のレントゲン写真。見てもらえれば分かるけど、全身の粉砕骨折に加えて心臓や腎臓などの体内器官の甚大な損傷。筋肉組織もズタズタで、本当に生きてたことが奇跡ね」

 

「ヒェッ……」

 

 素人なりに聞いてもダメな怪我の仕方である。

 いやほんと、よくこんなで生きていられたなと。人間だと間違いなく死んでいるような怪我の数々。当時中学生だった私なんかが生きていられたのは、まさに奇跡と言えるのだろう。

 

「だからもう、私はほとんど諦めてたのよ? もし治ったとしても、寝たきりは免れないからいっその事──ってね」

 

「あはは、割りと笑えないですね。私の怪我からして」

 

「笑えなかったのよ。一か月前まで」

 

「一か月前?」

 

「そう。次に見てほしいのは一週間前に撮ったレントゲンなんだけど……これ、どう思う?」

 

「……これ本物なんですか?」

 

 見せられたのは驚きのレントゲン。

 粉々になって見る影もなかった骨が、めっちゃ健康的な形の骨になっていた。他にも傷だらけでゴミまみれみたいなレントゲンが、いつも見るようなものに様変わり。これ下手したら別人の奴なんじゃないかと言われても、おかしくないレベルだ。

 

 となると、やっぱり原因は私のお腹の中にあるアメノムラクモだよねぇ……。

 聖遺物に人の体を修復させるようなものがあるのだろうか……。もしくは私の体が生まれつきおかしいのだろうか……。確かに言われてみれば、小さい頃から傷の治りとか周りの子たちと比べて早かったりはしたけども。

 それでもこれはおかしいのでは?

 

「本物、だから私も驚いてるの」

 

「人体って不思議……」

 

「というよりは『天叢雲剣』が不思議よねぇ」

 

「あ、やっぱりですか」

 

 ですよねとしか言えない答え。

 お腹の中にあるのはやっぱり異常な訳で、どうしたらこれが私の体から取り除けるのか。

 それともこの聖遺物と一生のお付き合いをしなければならないのか。

 

 はっきりと言ってしまえばあんまりお付き合いしたくないというのが本音。

 私の本望はツヴァイウィングのお二人を応援し続けることであって、聖遺物を持ち続けることではない。でも、ノイズが現れてもお二人を守れたのはアメノムラクモのおかげであって。

 うーん、何とも言えない関係性にお腹が痛くなりそう。

 ……いや、お腹が痛くなったら半分くらいアメノムラクモのせいなんだけど。

 

「これは聖遺物研究の第一線に立つ櫻井了子博士としての考えなんだけど、もしかしたら『天叢雲剣』はアヤメちゃんの体を器にしているんじゃないかしら」

 

「私の体を、器に?」

 

「了子くん、詳細な説明を頼む」

 

「良いわ。少し長くなるけどしっかりと聞くように♪」

 

 コホンと小さな咳を前置きにして、了子さんは話し始めた。

 

「まずはシンフォギアの話。奏ちゃんや翼ちゃんが使ってるシンフォギアは、聖遺物の欠片をペンダントという器に収めて歌で展開させているの。あくまでシンフォギアは本来の聖遺物のほんのわずかの出力しか出せないことが肝ね。

 そして、アヤメちゃんの『天叢雲剣』、この際だから翼ちゃんと同じようにアメノムラクモって呼びましょうか。アメノムラクモはシンフォギアに似たシステムで、アヤメちゃん自身に収まっていると考えられるわ。今回の怪我は完全聖遺物の出力に体が追いつかなかった。だから、起動したアメノムラクモが器のアヤメちゃんを壊さないように修復してたのかも?」

 

「私に、ですか?」

 

「どういうことだ了子くん」

 

「それがすぐに分かれば苦労なんてしないわ。どういう原理か私にも全く分からないけど、あの時起動した完全聖遺物であるアメノムラクモを、アヤメちゃんシンフォギアのように纏っていたということ。こればっかりは研究課題ね。元気になったらアヤメちゃんにも手伝ってもらうわよ♪」

 

 シンフォギアに似た……。

 それが了子さんの言う通りなら、私からアメノムラクモが無くなったらどういうことになるのだろう。死ぬ? それとも生きられる?

 

「現状、アメノムラクモは一種のブラックボックス。それこそアヤメちゃんの体を解剖でもしないと解明は出来そうにないけれど……」

 

「俺がそんなことをさせると思うか?」

 

「でしょうね。まぁそんなに急いで解明しなきゃいけないことでもないから、ゆっくり行きましょう。アヤメちゃん、長い付き合いになるかもしれないけど、よろしくね♪」

 

「は、はい……」

 

 私の聖遺物人生は長く続きそうです……。

 ……ん? そうだ一つ忘れていることがッ!!

 

「あの弦十郎さんッ! 私中学生だったんですけど、学生人生どうなりましたかッ!?」

 

「残念ながら退学処分となることが確定した」

 

「……お母さんには?」

 

「既に連絡済みだ。君の身柄、これからどうなるかについては伝えている。後は君に承諾を取るだけだった」

 

「んんぅ、お母さんには迷惑かけたくなかったんですけどねぇ……」

 

「そのことで、君に謝りたい。本当にすまなかった」

 

 弦十郎さんの巨体が腰から曲がって頭を深く下げた。

 

「あ、別に弦十郎さんを責めてる訳とかじゃないんですッ!」

 

「いや、前の事故は全て俺に責任がある。アヤメくんにこれ以上の不自由を強いてしまうことになったのは、すべて二課が招いてしまったことだ。俺一人が君に償えるとは思っていない。だからせめて、君のサポートをさせてほしい。

 進学先には二課の手が近いリディアン音楽院に入ってもらえればと思う。君の身を守れるはずだ。学費、生活費共にこちらが出そう。どうだろうか」

 

 何という好条件なのか。

 私なんかにここまでしてもらって良いのかという思い。

 結局のところ、あの時私がアメノムラクモを持ってお二人の元に駆けつけたのは、私の確固たる意志であって強制されたものでもなく。入院料は払ってもらいたいなぁとは思っていたけど、ここまでされてしまうと本当に申し訳ない。

 

 でも、弦十郎さんの私を思ってくれる気持ちは嬉しくて、お母さんの負担を考えれば二課からの支援を受けるなんだろうけど、ただ一つ私自身に大きな問題があって……。

 リディアン音楽院といえば、その名の通り音楽に精通するような人間たちが通うのだろう。

 そして私はあんまり歌に自信がない。入学してもついていけるのか……。

 

「君には相応の待遇を約束する。その代わり、アヤメくんには行動制限がかかることになるのだが……」

 

「……お母さんのこと、お任せできますか?」

 

「ああ、こちらで最大限の支援をしよう」

 

「……ありがとうございます。なら私リディアンに入ります。お母さんにこれ以上心配させたくありませんから」

 

「アヤメくんの決断、ありがたく思う。奏は既に卒業してしまったが翼はまだ在学生だ。何かあれば、翼から聞くと良い。奏も二課にいるから聞くと良いぞ」

 

 ……おやおやおや?

 私はなかなか有益な情報を聞いてしまったぞ?

 翼さんがいる学校、そこに一年だけとはいえ一緒に居られるとか至福なのでは?

 

「そして、君を二課の正式な職員として雇用することになる。相応な給料も出るし、こちらで衣食住も提供しよう」

 

 

 

 拝啓、お母さん。

 一年半も眠っていましたが、災い転じて福となすとはこの事なのでしょう。

 私はリディアンで、ツヴァイウィングの方々と一緒に勉学に励もうと思います。




原作以前はここまで。
これからは無印編と行きます。
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