ツヴァイウィング大好き娘、追っかけ続けて装者になる   作:わらぶく

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少女は始まってしまった歓迎会に入りにくい

「たはぁぁ……これ、入りにくいんですけどぉ……」

 

 二課施設、長い長いエレベーターを降りた先で、ガングニール装者になった子が盛大に祝われていた。『大・歓・迎! 立花響様!』と書かれた横断幕がこれでもかというほど自己主張している横断幕が天井から吊り下げられている。並べられた料理も、それはそれは豪華でこんな状況じゃなければ私もすぐに混じっているところだ。

 

 ……そう、私は今、廊下の曲がり角からひょっこりと顔を出して歓迎会を観察している。

 どうして参加しないのかだって?

 昔からどうしても途中参加というやつが嫌いだからだ。何より目立つ。

 こんなに大勢の人間から目線を浴びたら体が溶けてスライムになる。

 混ざるとしても、シレッと最初から居ましたよ感を出していかないと。

 

「やっぱり、止めとこうかなぁ……」

 

 ホント、どうしようか……。

 

「なーにしてんだぁ、アヤメぇ」

 

「ぴぎゃあぁぁぁぁッ!?」

 

 突然、後ろからカッコいい囁き声と息を吹きかけられて、女の子が出してらダメな声を出して驚いてしまう。ついでにバックステップで距離を取ろうとするものだから、私の体は必然的に曲がり角から飛び出してしまう訳で。

 あっ、と気づいて後悔した時にはもう遅い。

 数十人の職員の目線が一気にこっちに向けられて、場がさっきの悲鳴のせいで完全に静まり返っていた。

 

 一秒、二秒、三秒、四秒……。

 そう長い時間でもないはずなのに、体感がおっそろしく長かった。

 

「あ、あはは……遅くなりましたが、不肖、明乃菖蒲、ただいま戻りましたぁ……」

 

 静寂が痛いんだよぉッ!

 お願いだから、誰か、誰か喋って……。

 

「ほらアヤメ、今日のМVPなんだからもっと胸張っていきなってッ! 一人悲しく隠れてようなんてアタシが許すと思うなぁ?」

 

「か、かにゃでしゃん!? だ、ダメです! む、むにぇが、わ、わらひのせにゃかに──」

 

「なに男の子みたいな反応してんだよ。アタシら女同士なんだから、別にこれくらいどうってことないだろ? アヤメはアタシよりも立派なもの持ってんだからさ」

 

「は、はひゃっ……」

 

 背中にやって来る憧れの人のやっわらかい胸の感触。 

 私がさっきの巻き込まれで上着が塵になっていたことと、奏さんがチューブトップの横縞へそ出しを着てるせいで、ビックリするぐらい鮮明だった。

 

 周囲の目線がいたぁぁぁいッ!

 何よりも翼さんの殺さんばかりの目線が心に刺さるんだぁッ!

 

「アヤメくん、ようやく帰って来たな。歓迎会の真っ最中だ。料理もたくさんあるぞッ! 遠慮することは無いッ! そして今日の主役、第三号聖遺物装者、立花響くんだッ!」

 

 弦十郎さんの言葉で、パーティの空気がやっと温まる。

 覗き込んでいたときと同じような騒がしい空気になってきた。

 

 ただ、七面鳥にかぶりついている女の子、立花響さんがこちらを向いて、頬張りながら目をキラキラと輝かせてくる。

 

「あ、あーッ! 私を助けてくれた人だッ!」

 

 めっちゃ口の周りに食べかすを付け、もぐもぐしながら顔にパァッと笑顔を浮かべている立花響さん。ごくんと言わんばかりに頬張っていたものを飲み込み、私の元までやって来て手を握ってきた。

 改めて、すっごい手が温かいことを実感した。

 

「あの時はありがとうございます! おかげで生き残り続けられましたッ!」

 

「い、いえいえ~……」

 

「それで何ですけど、もしかして奏さんとアヤメさんってそういう……?」

 

「うぇッ!? ちょっとそういう冗談は──」

 

「そうそう、アタシとはそういう関係なんだよ。なぁアヤメ」

 

 アカン、周りに私の仲間が一人も居ないじゃんッ!

 奏さんもニッコニコで完全に私の止めさそうとしてるしッ!

 あぁ違うんです翼さん。これは奏さんに仕組まれた罠なんですぅ!

 

 周囲三方向を完全に包囲され逃げ場を失った私は、ただひたすらに体を震わせながらこの状況を甘んじて受け入れるしかない。何よりも翼さんがヤバすぎる。いつもはめっちゃ優しくて頼りになる先輩なのに、奏さんの話となると目が死んでこちらを見つめてくる。

 これが恐ろしいことこの上ない。私はお二人がいちゃつくのを見たいのであって、その間に割り込む気なんてないというに。まぁ楽しいからもうほとんどOKみたいなところもあるけど、住み分けはやっぱり大事なのだ。

 

 私も含めて、皆がパーティの食事と会話に現を浮かす中。

 さっきから子供のカルガモのように後ろをついてくる響さんに私は困る。

 いやもう何か目がキラキラしててあんまりにも眩しすぎて、むしろかなりキツイ。響さんからは奏さんのような人を引っ張っていく雰囲気を感じる。

 だからだろう、どこか憧憬が湧き出てきて一緒には居づらいのだ。

 

 

 

 

 

 パーティの喧騒が一段落して少し。私はいつもの休息スペースで三角座りをしながら、自動販売機で買った缶コーヒーをチビチビと飲んでいた。甘党の癖に間違えてブラックを買ってしまい、後悔しながらも我慢して飲み続ける。

 他の皆さんはと言うと、響さんの聖遺物やらなんやらのお話で了子さんと一緒に身体検査の結果を見に行っている。部屋の中にいっぱい人がいても邪魔になるだけということで、私はこうしてマイポジションに避難してきた次第だ。

 

「苦っ、さってと今日も無事に生き残れたとお母さんに伝えておかないと」

 

 日課として、私は基本毎日母親へ連絡を送るようにしている。

 二年前、一年半もあった永い眠りから覚めて二課職員として正式に雇用されることになったあの日から、無用の心配をさせてしまったのでメールを送るようにしている。

 メール内容は二課にバッチリと見られているが、困ることではないのでそれは良し。ただし、やはりというか行動制限がしんどい。

 

『今日も、一日生き残りました』

 

 この文言をまずは二課のメールアドレスに送信、検閲してからお母さんへという流れだ。それはお母さんからこちらにくる。

 

 このやり取りも、最早慣れたものだ。

 

「アヤメ、やっぱりここにいた」

 

「うえっ、翼さん? どうしてここに? 皆さんと響さんの状況を聞いてたはずじゃあ……」

 

 声をかけられて顔を上げたら、腰を手に当てて私をみている翼さんの姿があった。

 

「あの子、立花の体の中にあるガングニールのことについては奏が詳しく聞くべきだから、私は一足先に抜け出したアヤメのところに来たの。わざわざ逃げ出さなくても良かったのに。アヤメも立花のことは気になるでしょ?」

 

「そりゃあまぁ。でも、それこそ響さんのことは奏さんにお任せしますよ。あのお二人、結構気が合いそうな性格してますからね。私は外から眺めるのみです」

 

「そう? あなたは二年前に立花の命を救ったのに」

 

「まぁぶっちゃけてしまうと、グイグイ来る立花さんと気が合わないだろうなぁと思ってるだけです。だってあんなに陽気な人ですよ! 何もかもをずっとツヴァイウィングを追いかけ続けることに注ぎ込んできた私には、あの人の陽気さはキツすぎるんですよォッ!!」

 

 正に、これが本音。

 私の心からの叫びに、翼さんがくすりと笑ってこちらに鋭い目線を向けてくる。少しの間見られ続けていたものの、ふぅと息を吐いて自動販売機で同じく缶コーヒーを買って私の隣に腰を落ち着けていた。

 

「私たちを応援し続けてくれるのも嬉しいけど、アヤメの人間関係を疎かにしたらダメだ。聖遺物がお腹にあるから自由な行動は出来ないかもしれないけど、リディアンでは同級生の友達をたくさん作って欲しいと思ってる」

 

「また難しいことをぉ~……」

 

 いやでも交遊関係は必要かもしれない。

 何かあった時、二課以外に連絡を取れる友達というのは精神面的にも、何かと安らぐ。ただ問題はこの身体中に残った聖遺物の痕をどうするか。

 いっそのこと全身火傷したッ! と宣って同情を集めながら友達を集めるのも良いのかもしれない。

 

 いや、やっぱムリだな……。

 

 そもそも聖遺物と一生のお付き合いをすることになった時点で普通の人間と同じ生活をすることは出来ないと、二年前に私の中にアメノムラクモが見つかった時に、頭を深々と下げる弦十郎さんから聞かされている。

 そもそも身体中の痕は二年前に自分で選んだことだから、あんまり後悔していない。

 

「それでアヤメ、一つ質問があるの」

 

「はい? どうしました──」

 

 笑顔で翼さんの方を向いたとき、体へふわっと来る浮遊感に思わずビックリ。気が付けば私の背中に柔らかい座席のシートの感覚があって、私の目の前に翼さんの影を被った顔があった。

 いや近い。

 鼻と鼻がごっつんこするほど、距離が近い。

 

「な、なぜ……翼さんに私は押し倒されているのでしょうか……?」

 

「こうすれば逃げられないでしょう?」

 

「い、いやそうですけどもッ!」

 

「アヤメにはしっかりと答えてくれないと困るから。だから、ちゃんと答えてね? ──奏とは、どういう関係なの?」

 

「アッ!!」

 

 あの時の奏さんの冗談を真に受けてらっしゃるッ!!

 あーダメです翼さんッ! そんな、そんな殺人目線を受け続けてしまうと私が死んでしまいますッ!

 

「ち、違うんです翼さん! あれは全部奏さんの冗談でしてぇ……」

 

「……ならどうして満更でもなさそうだったの?」

 

「そ、そりゃあ私は奏さん推しなので、奏さんにされたことはメチャクチャ嬉しいというか……」

 

「へぇ……。はぐらかすなら、アヤメの体に直接聞く必要がありそうね」

 

「アッ!! 待って翼さんッ! その手を、その手を止めてッ! アーーーッ!!」

 

 

 

 

 拝啓、お母さん。

 推してるアーティストから、すっごい圧をかけられています。

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