間章1:フリドドド!
「フリード、ちょっと濃い」
「来いじゃなくて!?」
「シャチョーも大概ですが」
TAKAMAGAHARA社長室、タケハヤスサノオが社長席でふんぞり返っている傍ら、スーツに身を包み、メガネをかけたレイナーレが書類に目を通しているその脇でフリードは妖刀・村正を腰に下げて掃除に取り掛かっていた。つまらなさそうに掃除に挑むフリードを見かねたのか、「大正義しーくん」とのタイトルが書かれたアルバムを片手に開いたまま手招きすると手ひどいツッコミがスサノオへとフリードから入る。
レイナーレの毒にはタケハヤは慣れっこと言った様子でやれやれ、と肩を竦めた。日常茶飯事である。
「……もういいよ。一人でハイパークロックアップしてくる」
「仕事放り投げんじゃねえ!」
キュインキュイン、とタケハヤのベルトが機械音を立てればフリードが義務感に駈られ、「ハリセン」を瞬時に居合いの動作で引き抜いた。フリード・セルゼンは剣術に通じている。その動きは達人クラスと言っても過言ではない。が、そこはエンシェント・ドラゴンスレイヤー=サンたるタケハヤである、生半可なケンジツ程度では翻弄することはできないだろう。
川の流れのような流れる動きでハリセンをかわし、背後に回りこんで手刀を備えた。さすがタケハヤ、日本が誇るスーパーヒーロー。
「甘いな、フーちゃん。これからの成長に期待」
「さりげなくフーちゃん呼びするんじゃねえ!?」
やれやれ、と再び肩を竦めるタケハヤスサノオ。相も変わらず浴衣姿で動き回っている、と描写しておけばいいんだろうが、タケハヤスサノオは浴衣姿だと某堕天使総督と被るから面倒くさいらしい。
フリードはこの短い間にレイナーレと共にタケハヤの側近としてタケハヤの上の兄弟二人と対面しているが、二人ともキャラが濃かった。とにかく濃かった。キャラに拘る三貴子の末っ子、タケハヤはジタバタして駄々をこねているような子供のような声色を出した時は引いた。さすがに。
「秘書ちゃん、フーちゃんが反抗期。もうマジ無理、羽虫駆除する」
「よしよし、私がついていくから泣かないの」
「なんなの!?ねえ、なんなの!?俺っちが悪いみたいな雰囲気やめろよ!」
フリードが少し大声を出してみれば、タケハヤがレイナーレに泣きついていた。TAKAMAGAHARAに来た当初は少し刺々しい雰囲気があったが、もう既にタケハヤに『毒されて』いた。タケハヤの外見年齢は『せいじんだんせい』とだけそっと添えておこう。カミサマにもプライバシーがある、プライバシーを主張するとのことだそうだ。ノリが良くなっているレイナーレに脱帽、僅かな間に荒tな環境に適応していく精神にもだが、アマテラスによってタケハヤの側近となってからは以前より明るくなったのとタケハヤの扱いが分かったらしい。震えるタケハヤの背中をさすり、優しい言葉をかける姿はまさにヒロイン。
「……とまぁ、この剣はおいといて。――本題に入る」
キリッと面持ちを正し、デスクの上にそっと刀を置いて肘を立てて両手を組む。どうしても突っ込みを入れたくて仕方ないフリードだったが、これ以上、タケハヤの茶番を見るのはもう飽きた。日常の如く繰り返されるのだから、たまにはこういうのがなくてもいいはず。そもそも、しーくんタイムとは一体なんなのか。ついにはレイナーレも突っ込みを放棄した様子。
「ようやくっすねえ、どれだけ待たせるのか」
「個人的にはまだ続けたかったよ」
「さ、左様ですか……」
が、かくいうフリードは三角巾にちりとりと箒の二刀流である。これが何を示すのか?賢明な読者諸君はお分かりだろうが、フリードは清掃員(+腰に村正)衣装で社長室の掃除を行い、ハリセンを引き抜いてツッコミを入れた後、二刀流のままでタケハヤからの指令を待った。短期間の間になんだかんだと仕込まれ(なんだかんだは、なんだかんだである)、すっかりタケハヤ色に染まったのだ。
「今回のフーちゃんへの辞令はこちらッッ!」
バン!とタケハヤが机に叩きつけたのは極秘ファイル風に綴じられたバインダー付きの資料。目配せでフリードに目を通すように示すと、フリードは頷いて資料を手にとってパラパラとめくった。
駒王学園の周辺事情、地形、これからの予定、行事、女子は未だにブルマー、しーくんは素晴らしいとTAKAMAGAHARAにおいて勤めていくには欠かせない情報の数々だ。
目次にはフリードのフルネームと社員番号、そして異動先の組織の名前がある、『百鬼夜行』だ。
「……フーン、俺が百鬼夜行に、ねえ?いいんですか~?俺を百鬼夜行に入れちゃっても。特殊部隊じゃなかったっけ?」
「敬語を使えよ、デコ助野郎。……テメーの方がちょうど良かったんだよ、生憎、他のトコから人員は裂けなかった。日本の全国の霊所を監視させるだけで精一杯だったからな」
回転椅子から立ち上がり、タケハヤはガラス張りの窓に広がるゴーストタウンの景色に思いを馳せる。妖怪の住まう地区である、TAKAMAGAHARA周辺の地域は低級妖怪や下級妖怪が多く住む居住地帯であり、治安がいいか悪いかはやはり地域による。そんなところをゴーストタウンと呼んでいいのか、と以前、レイナーレがタケハヤに疑問をぶつけたが、人間がいないならゴーストタウンでええやん、と結論付けた結果である。
「それにだ」
タケハヤスサノオは振り返り、パイプを咥えたまま、フリードの双肩に両手を置いた。いつになく真面目な面持ちのタケハヤ、真面目な顔をしているのがふざけている時間より少ないのは致命的ではないか、との意見はこの際聞かないことにしておこう。
視線を捉えて離さない、「兵藤正士郎」とか「駒王学園の女子生徒が未だにブルマーなのは、やはり羽虫の仕業と捕らえても許されるはずだ」とやたらと長い項目ページが脳裏に焼きついたので真面目な話の今、噴出さないようにしようと堪えるので精一杯だった。
「しーくんって同性の友達いないんだよね」
「……オチがなんとなく予想ついてたのが辛いところ。で、赤龍帝の方はいんの?」
「あー、いるっぽいね。教室で堂々とAVだとか、自分の好きなジャンルとか属性を語ってるみたいだが。そのうちの一人はケチャップヘアーの妹の眷属になったらしいが、もう一人は知らんな。二人ほど仲がよい奴みたいでな、中学からの付き合いだった筈だ。……まぁ、人間としての生活はあの二人だからこそ、大切に映るんだろう」
軽い調子からも兵藤兄弟を思うタケハヤの感情が伝わってくる。人外と言うことでタケハヤとの対面時にはフリードも警戒していたものだが、配下の者やミウチには、この男、全力で心配するタチのようでどこまでも人間離れしていて、どこまでも人間らしいという矛盾した例えが出来上がっていた。
一介の
現に伝説の吸血鬼が正士郎の影に潜んでいる事だとか、ライザー・フェニックス戦での一方的な
一介の人間が秘めているようには思えない、高い実力と才能。不死身にして高い攻撃力を持つであろうフェニックスを終始翻弄し、手玉にとって見せてTAKAMAGAHARAに資産を全力投資させたタケハヤもえげつないが、それ以上にそうさせるに至った正士郎の実力もまたえげつないと見て良い。
環境が良かったからではない、まるで環境が兵藤正士郎を中心に展開しているような……。そんな印象を受けた。
「人間らしく、ねえ……」
タケハヤの武器庫にあった刀、妖刀村正はこの国における曰く付きのカタナで魔剣の一種にカテゴリされるもので、現に測定しようにも波が大幅に揺れて測定できなかったとか、徳川家に真田幸村が呪いをかけたために歴代の何人かが不審死したとか曰くに事欠かない。
そんな『魔』に関するものの反対側に差している妖刀と対を成す存在、聖剣の方へと視線を向ける。
過去、フリードが聖剣計画の被検体となっていた頃、壁には兵藤正士郎に似た男の肖像画が飾ってあった。その傍らで共に手を取り微笑む男の写真があり、それは当時のフリードにとっては憎悪の対象であった。フリードらに実験を施したのは正士郎似の男ではなく、そのもう一人の方でやたらと『特別であること』だとか『超人』だとか『異能の力』に拘っていた。
正士郎の事情はファイルに記されていることから情報を得ているが、仮に正士郎が教会に拾われてあの場にいたらどうなっていただろう?そんな最悪の『IF』が頭を過ぎる。
あの場を打開する為、ひたすらにフリード・セルゼンは力を求めた。貪欲に、強欲に、餌を貪る獣のように。思えば、あのとき既にフリードは人間でありながらも人間をやめていたのかもしれない。
力を求め、その先は今のように戦闘狂となって、そしてタケハヤスサノオに出会った。本当ならば、あの研究所で自分は死んでいたのだ。そしてタケハヤスサノオと邂逅するルートなんてものがあれば、タケハヤスサノオに抵抗した時点で自分は初の邂逅をした際に彼の言うように細切れにミンチになっていたかもしれない。いくつもの偶然が重なり、自分がこうして生きていられれるのだ、と思うと目前の『神』を信仰せざるを得ない。
「オーケーですよ、ええ。合流しちゃえばいいんですよねぇ?しーくんに」
「そういうことさ、フーちゃん」
「まだ引っ張る気かよ、畜生!」
「敬語を使えよ、デコ助野郎!」
パラリ、と資料を片手にして掃除用具を直して背を向けるとタケハヤのからかうような声が帰ってきた。いつも通りのお決まりの返し言葉に食って掛かるのはフリードが慣れた証だろうか?タケハヤ自身はすっかり打ち解けている(?)らしく、フリードに頭突きをかまし、フラフラのフリードを引き摺って社長室を出ようとする頃、騒ぎの煩わしさにレイナーレが一喝し、戦々恐々とした二人はTAKAMAGAHARAビルから出たのだった。