しーくんが「しーくん」であるためのストッパーの為のヒロインで白音かイリナで迷う作者はきっと優柔不断じゃないはずなんだ!
屋根の上の会話の時点で白音のヒロイン力は上昇しているんですし、御寿司
Sさん達とFちゃん
人には誰しも、綺麗な思い出というものがある。大人にとっては淡い学生時代の思い出、甘酸っぱい初恋、年端の行かない少年ならば幼少期の思い出。それは人間だけではなく、「にんげんであろうとする」兵藤正士郎にも当てはまるもので幼少の日に兄と共に遊んだ栗毛の少女との思い出が綺麗な思い出に含まれるだろう。あの小さな何も知らなかった頃、ただ
「……しーくん、食べ放題行きましょう」
「食べ放題?放課後から直行でいくの?晩御飯はどうするのさ」
「……しーくんのごはんはおいしいので入ります」
放課後、いつも通りの教室でぐだーっとだらけきっている正士郎の前に白音は肩をトントンと帰る支度をしながら、買い食いの提案をした。この辺りで食べ放題と言えば、やはり中華料理店の「鋼鉄の男」だろうか。キラキラと目を輝かせている白音が自分の料理を気に入ってくれるのは嬉しいが、それならば少しは食費を遠慮してもらいたいと思う気持ちと褒められて嬉しいと思う気持ちがぶつかぅてどうしようもなかった。
正士郎の財布は果たして月末まで持つのか。
「しーくん!帰るぞ!」
「兄貴」
「……イッセー先輩」
そんな殺伐とした状況(正士郎の財布)に颯爽と現れたのは、他でもない一誠であった。これぞ我が幸せ、と言わんばかりに正士郎の手を握って満面の笑みを浮かべている。白音も正士郎も一誠の方へと振り返るが、クラスメイトからの視線が突き刺さって離れない。このクラスで友人と呼べる存在が白音くらいなのが一誠のせいだったりするが、一誠本人には悪意がないので正士郎としては突っぱねるわけにも行かないのだ。正士郎は正士郎でブラコンだった、さすが兄弟。
「兄貴、これからどうすんの?僕、塔城さんと何処か食べていこうかなと」
「ッ!?」
そのとき一誠に電流が走る。全高校生が安堵の気分に陥る、放課後においても未だにアンニュイな顔をしている正士郎が言った言葉は本人はいつもと変わらない様子だが、一誠にとってはそれでこそ死活問題であった。日ごろの自分の様子を自覚はしている一誠、タケハヤの元で一高校生が持つにはあまりにも過ぎたと言えよう、強大な龍の力。そんな力があったところで結局、『大正義しーくん』に敵うはずもなく、そしてその『大正義しーくん』の食事を楽しみに生き、弁当まで『大正義しーくん』仕様となっていることから推して知るべしである。
「二人とも、ちょっと濃い!」
「……来いじゃなくて?」
「流石は塔城さん、そこに痺れるゥ!憧れないッ!」
鬼気迫る表情で正士郎と白音の手首を掴んで駆ける一誠、それに釣られるようにしてカバンを掴んで外に出ざるをえない正士郎と白音はまるで全てを察していたように、引き摺られて出て行ったのだ。
周囲からすればまことに微笑ましいことこの上ないが、正士郎らにとっては既に慣れっこであった。
夏も近い初夏の季節、夕日が優しく差し込み、彼らを優しく包み込む。廊下を駆け、下駄箱に辿り着くまでに生徒会長の支取蒼那に注意されたような気がするが、決して気のせいではないはず。
息も絶え絶えに下駄箱に辿り着いた時、正士郎と白音は二人して一誠にジト目を向けており、正士郎にいたってはアホ毛がぴろぴろーん♪と軽快なリズムを出せそうなほどのようで、きっとキスショットならば愛でること間違いなし。
「本当かよ、本当かよ、正士郎!」
「なにがだよ」
ばーん!と双肩に両手を置き、一誠の顔は正士郎の鼻スレスレにまで近づいた。顔近いなこの兄貴、と漏らそうにも真面目な様子なので漏らせなかった正士郎はさすが兄弟と言うべきだろうか。
何時になく真面目な様子でそして愛称の『しーくん』でなく、本名の『正士郎』の方で呼ぶのはよっぽどのことだろうし、それほどにショックな出来事だとか真面目な案件なんだろうな、と白音は取り乱している兄と冷静な弟の対照的な兵藤兄弟の様子を傍観していた。ちゃっかりと自販機でカフェオレを購入し、ゆっくりと啜りながら。
一誠はまだ正士郎から視線を外そうとしない。むしろ、そのアジア人離れした顔立ちを見つめているようにも見える。
「しーくんの晩御飯が食べられないなんておにいちゃんは認めないぞ!きっと、アーシアだってそういうはずだ!いいか、しーくん!おにいちゃんは買い食いをしたことがない!そう、しーくんがご飯を作ってくれるときは尚更なのだよ!考えてもみてくれ、俺はしーくんが大好きだ!それは白音ちゃんだって知っているし、アーシアも知っている!しーくんのごはんを真に美味く感じる方法とはッ!『限界』にまで腹を減らしッ!味わうことなんだ!」
「……だから、イッセー先輩の食事量が並大抵じゃないんですね。間食しないから」
「兄貴はその辺マジで自重してくれ。別に食えるなら晩ごはん作るし、塔城さんもアーシ……ねえさんもいるし、作らないわけにはいかないだろう」
ついつい必死乙、と言ってしまいそうな剣幕を見せる一誠の演説は至極どうでも良かった。結構大切な話をされるんじゃないかとか、珍しく先輩真面目になったなぁとか思っていた二人にとっては本当にどうでも良かった。アーシアをアーシア先輩と呼ぼうとしつつも、『ねえさん』と呼び変えた正士郎が微笑ましかったので白音は周囲に人が集まっているのも含め、それらを知らせるために仲良しな兵藤兄弟の制服の裾を引っ張ってみた。
「なんですか、セイシロウ。私を呼ぶ声がしたんですけど……」
そしたら、アーシアが来た。
「ああっ、アーシア!しーくんがデレたぞ!」
「本当ですか、イッセーさん!そんなセイシロウはいい子ですね、いい子いい子」
ここではじまるバカップルの会話。「もうお前ら付き合っちゃえよ」なんて野暮なことはいってはならない、これが彼らにとっての自然体であり、これでも少し前に出会った仲であって、そして信じられるだろうか?傍らの金髪美少女は自分より背が高い少年の頭を幼児にするように満面の笑みでなでているのであった。そんな顔をされちゃあ拒絶できない正士郎は撫で受けられることしか出来ず、白音に助けを求めようにもさっさと下駄箱で靴を履き替えてスタンバイしていた。
①友人に恵まれてる僕はきっとこの状況を何とかしてもらえる。
②頭の回転の速い僕は自分でなんとか切り抜けられる。
③何にも起こらない。大人しくかわいい先輩に撫で受けられていろ。現実は残酷である。
正士郎の頭を過ぎった三つの選択肢のうち、①を颯爽と選んで白音になんとかしてもらいたかったし、第二の選択肢ではこの場を切り抜けられる言葉が浮かんでこれば最高であった。
で、三番である。
この三番は普段から幼児でもないのに幼児扱いされるのは流石に年齢的にキツイわけだが、アーシアの笑顔には断れない『スゴ味』と善意を感じてしまう。白音が兄に好意を抱いているならば誠至極に申し訳なかった、彼女の好きな人と夫婦のようなやり取りをしているアーシアとのやり取りを見せていることを。だけど、周囲の視線を気にしてくれ、と言えなかったのはきっと、そんな二人に大好きだった両親の面影を見出してしまったのがやはり大きいだろうか。
「ねえさんも兄貴も。バカップルみたいに騒いでないで、早く行こう。時間は待っちゃくれない、一番遅かったのがメシ抜きな」
「「だ、誰がバカップルなんだ!?(なんですか!?)」」
完 全 に 一 致。
なんとも息がピッタリなことで慌て方も丁度同じ。これは確信犯ですわ、とタケハヤならば漏らすことだろう。正士郎の彼らにとっては死活問題な一言を受けたことでアーシアと一誠はそさくさと靴を履き替え、それぞれがさっさと靴に履き替えた正士郎の手首を引き、さきほどに待ち構えていた白音に至っては呆れ顔である。が、僅かに頬を緩ませたようでスッと制服のズボンに缶コーヒーを入れられた。颯爽と本人は立ち去るつもりだったんだろうが、やっぱり赤龍帝と元シスターに捕まってしまった。
「……ということで、中華料理を食いに行こうと思う」
「……いえーい」
「しーくんの奢り!?」
駒王学園の校門を超えた辺りで正士郎は何事もなかったかのように切り出した。白音は喜び、一誠は颯爽と移動して正士郎の両手を包み込む。一方、何も分からない様子のアーシアは首を傾げるばかりだ。彼女の境遇を考えてみると、きっと中華料理を食べたことがないため、話についていけないのだろう。弟に奢らせようとしていた、なんとも情けない兄にはキッと流石ににらみつけた正士郎。
こればっかりは許せなかったらしく、一誠は気まずそうに弟の両手を離して口笛を吹き始めた。
『
「セイシロウ、チュウカリョウリとはなんですか?」
「そっか、ねえさんは知らないか。チュウゴクってところのヤツなんだけど、商店街で見なかった?『鋼鉄の男』。あそこの良い匂いを嗅いだら分かると思うんだけど、凄く美味しいところなんだ。
ねえさんがどれだけ食べられるかはだいたい分かっているけど、ちょうどお腹空いちゃってさ。今から行こうかなー?って話になっていたわけで。来る?」
「チュウカリョウリ……」
アーシアは少し困ってしまった。教会に居た頃と現在では食事量は変わらないので、このまま彼らと共にその料理を食べてみるのも良い経験になるだろうが、セイシロウの手料理が食べられないのは彼女にとって死活問題だった。困っていた自分に手を差し伸べてくれた、大好きな人の、そして自分をねえさんと慕ってくれる愛しの
彼女が出した答えはいかに。
「セイシロウ!私も、私も行きたいです!具体的にセイシロウの世話「そこの御仁らはしーくんとイッセーとお見受けするけど、ちゃあんと当たっちゃってる~?」
空気をぶち壊したヤツによって、アーシアの言葉は遮られてしまった。白髪に首から下げた
と腰の左右両隣に下げた二本の刀剣、見るからに教会関係者と分かるが、血の気が多そうな顔からはアーシアの持つ穏やかな雰囲気は一切感じられない。やけに軽薄で聞くものが聞けば不快に感じそうな、その声色と調子はどこか兵藤兄弟らの上司に近いものを思わせた。
「……お前、誰だ?」
最初に切り出したのはほかならぬ一誠だった。怒気迫る様子からは普段の「しーくんLOVE!」と書かれたTシャツを実は着ていたりだとか(描写はしていない、ここ大事)、正士郎に絡んでいるだとかそのあたりがまるで感じられなかった。流石はドラゴンを宿す者、と言うべきだろうか。そして日本のメジャーな神の一柱である、タケハヤスサノオの部下のことだけはある。
それほどに鬼気迫っていたのだ、主に正士郎と兄弟の中を深めようとしていた所で。
『(迫力は満点だが、いかんせん憤る理由がなぁ……。
「(お前にとってはそうかもしれないが、事と顛末次第では俺はアイツを全力で殴る必要がある)」
『(!?本気か、相棒!ドラゴンの握力で殴れば、普通の人間は簡単に壊れちまうぞ!?)』
「(いや、左手で殴るよ)」
『(お、おう……)』
新たに現れた、第三者の前では流石に
そう、この目前の者の正体次第では。
ドライグは一誠から一種の殺意のようなモノを感じていた。己を目覚めさせ、ファーストコンタクトを行なう前にドライグ自身が一誠から感じたのは唯一人残った家族である正士郎を護り、幸せに生きて欲しい、との一誠の小さいながらにして徐々に膨れ上がった執念によるものからだ。その執念は十年経った今でも変わらず、日に日に膨張を続けている。普段はブラコンなだけの高校生でしかない一誠の戦闘能力だとか集中力を上げるのはいつでも正士郎だった。
『(正士郎は相棒のトリガーか……)』
「おいおい、別に今ここで刃を交えようと言うわけじゃねーんですよ?とりあえず場所変えようぜ?な?互いにも目立つのは裂けておきたいわけだし?避けたいだけに」
しょうもないギャグセンスの持ち主であると判明するものの、諸手を挙げて戦う意思が無い事を示す白髪の青年。が、未だに武器を捨てないところを見ると、事の次第では刃を交えるつもりだろう。
時折、垣間見える狂気の片鱗は白髪の青年が一誠とアーシアと同年代に見えるものの、年不相応のものがあるように見えた。
「……なんでだよ」
足早にその場を駆けていった第三者は既に姿を消していた。戦闘するつもりの姿勢だとか、武器をこの法治国家の日本においてどうやって持ち運びしているかだとか、そんなことは正士郎にとってはどうでもよかった。拳を握り、うつむいて震える姿にアーシアは心配し、「セイシロウ?大丈夫ですか?」と声をかけて気にしている。白音もまた、背伸びをして手を伸ばし、正士郎の様子を伺い、一誠は消えていった方向を確かめている。
「……とにかく、しーくんの気を害したということでアイツは必ず殴り飛ばすとして、だ。しーくん、大丈夫か?アイツの言動になにか気分でも悪くしたか?大丈夫だ、しーくん。兄ちゃんが必ずアイツをぶっ飛ばしてくるからな!」
周囲に人が集まってくるのを避けるため、四人は校門を出てとりあえず白髪の青年剣士の後を追いかけることに決めた。道中、一誠は力瘤を作って見せ、いつも通りの過保護な様子を見せ、アーシアはさりげなく正士郎の手を握っている。恋人同士でするような恋人繋ぎではなく、年の離れた姉が幼い弟にするような、そんな繋ぎ方。さすがにそんな年齢じゃない、と普段ならばツッコミを入れるところであったが、今の正士郎はそれを言う元気がなく、ショックの方が大きかった。
「……不愉快だった、って言うのは同意しますよ、しーくん。掴み難い性格みたいだし、さすがの私もあれはいただけない」
「違うんだよ、違うんだよ、塔城さん。それじゃないんだ」
白音が一誠の言葉に小さく頷き、同意の意思を示せば、正士郎はようやく顔を上げた。放課後に兄が来たときの言葉、そして先ほどの白髪の男の言葉とあの愉快で陽気で人騒がせな嵐のような上司の言動を照合しーー
「どうして、さっきのヤツのギャグセンスがにいちゃんとタケハヤ様と同じだったんだ!」
『えっ、そこかよ!?』
ついつい、幼少の頃のように一誠を『にいちゃん』呼びに戻させてしまい、そしてドライグにツッコミを入れさせてしまうほど、正士郎は実にくわっ!とした様子でその点を指摘したのだった。
上司のセンスは部下にも移る。はっきりわかんだね