少し、ある種族の話をしようか。
栄華を極めた惑星があった。その惑星の種族は姿こそ、現世人類と同じではあったものの彼らは進んだ科学の力を使って、彼らは生まれる前の同族の者に役割を与えてうまれさせることができた。精子と卵子提供者のDNAを機械が独自に掛け合わせ、受精させて目的に応じた者を誕生させるのだ。たとえば、兵士として誕生させるならばDNA情報に刻まれたそれらを掛け合わせることによって生まれながらにして兵士となるべく専用の施設にて育てられる。我々の常識からでは信じられないが、彼らにとってはそれが当たり前で当初は倫理観について物議をかもしていたが、それが成績を残すうちに次第に彼らにとって日常となった。身体能力は我々より上、容姿も思いのままで誰もが『何かを為す為』に相応の力を兼ね備えている。だが、自分で自らの生を選ぶことが出来ないのは生き物と言えるだろうか?
「……正士郎は今、こうして俺たちと普通に生活できるのは正士郎はあいつらとは違うからかもしれんな」
どこで得たのか知らないが、部下の男が取り寄せてきた異種族の知識。現在こそ、その惑星も種族も存在せず、ただあるのは数百年前のクリプトナイトと呼ばれる水晶にて滅んだクリプトン人と呼ばれる者。なんでも、月に一回行われるTAKAMAGAHARAの健康診断にてその部下によれば正士郎の身体には身体を弄り回した後がないという。とすると、その種族の中では珍しく正士郎は『人間らしく』生まれてきたということがある。父親の鼻から生まれてきたタケハヤが言えたことではないが、皮肉にも超人的な能力を通常の人間から見れば持つであろう正士郎が最も『人間らしい』のだ。
タケハヤはそんな少年が義兄と義姉(?)とで写っている写真を社長室で眺めながら、黄昏るタケハヤの後頭部をレイナーレが叩いた。唐突に叩かれたことによってタケハヤは「殴ったね!?ねえやにも殴られることあるのに!秘書ちゃんに殴られたくないと思ってた!」と漏らすタケハヤに、「馬鹿ね、社長は」と笑みを漏らした。デレが来たー!デレが来たー!と騒ぐタケハヤに対し、照れ隠しにファイルの角でタケハヤの後頭部を叩くと、タケハヤは泣きそうな様子だ。すぐに傷は治ってしまったとはいえ、タケハヤにだって痛みを感じるときはあるのだろう。罪悪感に駆られ、タケハヤに昼食を作ってこようかと言おうとした所、タケハヤが畳み掛けるようにして挑発してきたのでレイナーレはデレを見せるのをやめた。
※※※
バルパー・ガリレイなる者が来るのをゼノヴィアから聞き、全ての聖剣を破壊することを約束した正士郎ら百鬼夜行。来るべき日が来るまでタケハヤの用意した社員寮で待機すると決めた彼らは思い思いのときを過ごしていた。愛おしいと思う栗毛の少女と時間を過ごすのもいいが、覚悟の炎を瞳に秘めた白髪の少年と会話をするのもいいだろう。リーダーというのがどういうものかはよくわからないが、長男は大変なんだなと義兄を見て思っていた正士郎はふとした気遣いで騒がしいリビングとは対照的に静かなベランダへと向かった。
「…・・・おや?しーくんじゃねーですか、どうしたんです?俺っちのところに来て。だーいすきなイリナ姉ちゃんはいいのかい?」
「フリードと話をしたくなったんだ。隣いいかな?」
「べっつにぃ、俺ちゃんはいいぜ?拒絶はしねえよ、来るモンは来い。悪魔はお断りだけどな?」
「違いないや」
二人の笑い声がベランダに響く。そういえば、此処の屋根の上で白音と正士郎はフェニックス戦で劇場したことについて尋ねられた。生き急いでいる正士郎を心配してくれたのか、普段はあまり言葉を発さない白い同級生の少女が見せた意外な一面。アーシアといるときはバカップルで親馬鹿な様子を見せてくれるが、そういえばあまり一誠との絡みを白音は見せていなかった。基本的に友好的な兄と関係が薄いとは珍しい、と自分が気遣いをしないことから二人きりになれていないことを知らない正士郎は背中から視線を感じて手に持っていた肉まんをフリードに差し出した。
「おっ、サンキュー、しーくん」
「これでもつまみながらな」
「これ、『あわじしま』の?」
「そう、ヒルコさんお手製の。テイクアウトもできるし、店内でも食べれるよ。豆板醤もあうからオススメの一品」
「へぇ、こういうのははじめてだ。よく知ってんだな、しーくんって。物知りで俺ちゃん嬉しいってばよ」
「やめい」
タケハヤスサノオの『兄』である気のいい男が営む、夕飯に訪れた場所の店主の男の笑顔。昼の字印の薄い包みに覆われ、そこには昼昼昼昼昼昼昼昼……と連なった文字がある。
シュールなそれにフリードは苦笑いを否めない。確かにタケハヤスサノオの血縁関係なだけはある、ただ唐突に社長室に呼びつけて客を追い出すように部下に頼む性格ではなさそうなところが救いだろう。タケハヤの兄弟であるアマテラスやツクヨミはまだ見たことはないが、どんな性格かはなんとなく想像できるのが辛い。
「なぁ、しーくん。聞きたことあるんだろ?」
「具体的にはフリードから話して欲しかったんだけど」
「俺ちゃん話すと思う?」
「話さなかったら、タケハヤ様にチクる」
「そいつは辛い」
HAHAHAHA。
ベランダで響く、肉まんを掴んだ白髪の青年とアホ毛の青年の笑い声。乾いた声色は暫く互いを見合い、そして同時に溜息をついた。誰かがこの光景を見ていれば、まるで義兄弟のように見えるだろう。だがそれをきっと一誠は即座に否定する。アーシアもきっと否定する。それくらいに正士郎が愛されているのは対照的なフリードとしては羨ましかった。身内もなく、兄弟もいない。信じられるのは己と己の戦闘技術だけと言った環境で今では同僚だがレイナーレに雇われていた。そんな彼の元に全てを破壊するようにやってきたのは同じ香りのする男、タケハヤスサノオだった。俺の下に来いと素直にストレートに言ってのけた男の直属の部下は話に聞いた境遇から想像した人となりを比べてみると、非常に明るい性格だった。もう少し早くタケハヤと出会えていたら、と思っていた。フリードは正士郎が羨ましかったのだ。
「俺は、羨ましいよ、しーくんが」
「へ?」
「美人な世話焼きの幼馴染、おちゃらけてはいても頼れる兄貴、父親代わりの上司。俺ちゃんのキャラじゃあないけどよ、羨ましいぜ、ったくよォ。俺ちゃんとしちゃあ、どんな陰気な奴かと思ったわけよ、しーくんのこと。けどよ、聞いた話よりもしーくんってさ明るいじゃねえか。はぐれエクソシストだとかなんとか言われてきたんだがよ、まぁ、俺ちゃんも人の子だ。モグモグ……、帰る場所とか……、モグモグ……、欲しいと思うわけじゃん?」
「喋りながらァァァァ!物をォォォォ!食べるなァァァァァ!」
肉まんを咀嚼しながら過去の一片を語るフリードの頬に体重を込めた、拳を突きこむ。常人の数倍はある正士郎の拳だ、「ふべらばっ!」と突っ込みにしては重い一撃を受けたフリード。しかし、流石は聖剣の使い手。正士郎の一撃を足で食いしばって耐え切り、思い切り勢いを殺したのだった。これには流石の正士郎も吃驚、勢いを殺して腫れ上がった頬を除けば後遺症らしいものはどうもないフリードに正士郎は実にセンチな気分になった。
まさかマジレスで返されるとは思わなかったので、あとは……何故か口端を吊り上げて笑っていたのでフリードなりに満足していたんだろう。ミッションの関係上、そういう相手とやりあったこともあるのでフリードはそういう類でも珍しいタイプだ。
「……まぁ、今回の終わったらメシ行こうぜ?しーくんよ」
「フラグ立てんなよ、フーちゃん」
肉まんを食べ終えた二人はビシッバシッグッグッと交差しあった。
そして、その日はやってくる。