正士郎は夢を見ていた。
何処までも続く、白いビーチの上をただ歩いているだけだ。左手にはウルティマブレスレット、右手にはSのエンブレムがあるバンダナだ。歩いているビーチについて正士郎は見覚えがあった。此処は十年前、まだ一誠と正士郎がごく普通の人間として暮らしていた最後の年に訪れた海だった。
目の前にはテトラブロックが(一般人から見れば地平線に近いところにあるが)見え、人がいないことを除けば此処はあの頃から何も変わらない。下に敷かれていたビニールシートは当時見ていたウルティママンのそれであり、手に装着しているウルティマブレスレットが見えることから自分が好きなウルティママンだとはっきり分かった。
「やぁ、いいかな?」
「ああ、どうぞ」
ビニールシートの上に体育座りをして座っていると、人のよさそうな男が声をかけてきた。どこかゾッドに似ていたが、気にする必要もないと思ったので問いたださなかったが懐かしさを覚えた。傍らにつれた女性は彼の妻だろうか?また穏やかそうな顔をしている。
「貴方はお一人?」
「ええ、迷子になってしまったんですけどね」
「はは、一人で見て回るのもいいと思うよ。君は好きな人はいるかい?」
「え?ええ、いますよ。昔から好きだった人が」
民族衣装のようなものだろうか、不思議な服装に身を包んだ二人は不思議と話していて心が温かくなる。すると、不思議と饒舌になってきて日常の話を行った。一誠に溺愛されていること、同級生の少女によく突っ込みを入れられていること、『アルバイト先の上司』がいつもお節介をしてくれること。そして愛おしい少女のこと。金髪の吸血鬼についても話したし、なんだかそうすることが自分にとっては当然のことで普通のことに思えた。
二人は嬉しそうに自分の話をする正士郎の話を頷きながら聞き、話を終えると男の妻のほうが涙を浮かべた。妻が涙を目に浮かべたのを見て男は妻を抱き寄せた。なにかまずいことでも言ってしまったのではないか、と正士郎が焦ると男は気にするなと妻を宥めながら微笑を浮かべた。
「私達には息子がいてね、ちゃんと一緒に育っていれば君と同年代くらいだと思う」
「もしかして、息子さん……」
「ええ、もう私達の元にはいないわ。貴方が自分を責めることはないわ、息子が生きているみたいで良い時間を過ごせたもの」
ふと女性から伸ばされる手は頬に当たり、正士郎の頬を撫でる。女性に抱き寄せられれば、男のほうが妻ごと正士郎を抱きしめた。まるで包まれている不思議な暖かさは兵藤夫妻に抱きしめられたときを思い出した。しばらく彼らの腕の中にいると、彼らの唇が動いているのが見えて何かを伝えようとしているようだが何を言おうとしているのか分からない。
「正士郎―!」
「しーくん!」
向こうで亡くなってしまったはずの兵藤夫妻が呼んでいる。自分の息子同然に育ててくれた兵藤夫妻の方を向き、その夫婦に対して気まずそうに苦笑いしながらお辞儀をして謝罪した。
「すみません、ちょっと呼ばれたので行ってきます」
「ああ、ご両親を大切にな」
はい、と正士郎が頷いて兵藤夫妻の元へと走っていくと男――ジョー=エルは妻のララの肩を抱きながら正士郎の背中を見送る。彼の話してくれた日常に自分達はいないが、自分が彼に望んだことは確かに実現していたようだ。自分で悩んで苦しむことはあるだろうが、自分で選択した道を歩んで未来を掴むことを。同胞たるクリプトン人達は永い時の間、科学の発達の中で人間として大切なものを過去に置き去りにしてしまった。
生まれる前から
「どうして、ララは彼に名乗らなかったんだい?」
「貴方もでしょう?ジョー。もしかしたら、彼に怒られるのではとか心配したのよ」
「だけど、彼は怒らなかった。よほど育ての親の方の育て方が良いと見えるよ」
「いいえ、貴方に似て優しいのよ。それにガールフレンドもできてよかったわ、ご挨拶しなくちゃいけないかしら?」
「ララ、化けて出るというのかい?」
それもありかもしれないわね、と冗談交じりに笑う妻を小突きながらジョー=エルは今を生きる息子の背中に希望を見出す。地球にて育ちながらも、その力は地球人ではない。
地球人ではない身でありながらも、よりよい選択肢をその手で掴んでいかなくてはなるまい。
タケハヤスサノオという人物と出会ったことで力の制御を学び、自分のものとしてきただろうがお前はいかんせん年齢はまだ若い。クリプトンの者の中でもまだまだ若輩者と言えるお前はこれからたくさんの障害にぶつかってくるだろう。悩むこともあるだろう。だがお前は決して一人ではない、お前の傍にはお前の大切なものがある。お前が私達の力を受け継ぎ、そして何かのために力を求めるならばタケハヤスサノオという人物はきっと答えてくれる。
「正士郎、我が息子よ」
「この世界は、お前が見ている夢かもしれない。起きれば覚めてしまうかもしれん。私は長い間、学者をやってきたが息子の見る夢の中に出てくるのは学者の人生としてはじめてだろう。だが忘れないでほしい。例え、お前がこの地球で生きていくことになって悩むこともあるだろう。お前をタケハヤスサノオ殿が見守っているように、私達はいつでもお前を見守っている。―――強く生きろ、カル=エル」
ジョー=エルとその妻は異なる星で生きる息子に伝えることは伝え、そして蒸発するように消えていった。
「よう、正士郎」
「父さん……!」
「しーくん」
「母さん……!」
兵藤夫妻はあの死亡した日から変わらず、綺麗なままだった。成長して背が伸びた正士郎はとっくに父親の身長を超えており、母親が涙ぐむ正士郎を抱きしめる。あの先ほどであった夫婦のときに感じた温もりは彼らによって増え、それが実感できた。強くなくてはならない、と自分に言い聞かせて誰かに甘えることなく意地を張って生きている兄に申し訳ないと思っていると頬が引きつっていたようで誠一郎は苦笑いした。兄と、一誠と変わらぬ顔で。
「ごめんなさい、僕のせいで二人を死なせてしまって……」
「気にするな、正士郎。誰だって子供を奪われそうになれば、自然と身体が動くものだ。それに私はお前と約束したからな、いつかバイクでツーリングに行くと」
「それにお母さんとお父さんは、一誠としーくんに生きて欲しいのよ。だから、しーくんがそこまで背が高くなって男前になってくれて嬉しいの」
「でも、僕は二人とは……」
「血縁関係がなんだ?そんなものを私が気にすると思うか?母さんが気にすると思うか?お前の兄ちゃんが、イッセーが気にするとでも?お前とイッセーには短い間でしか接してやれなかったが、お前が優しい子に育ってくれて良かったと思う。これが縁、という奴なんだろうな。お前がたとえ、人間でなかったとしても私はお前を息子とできたのを誇りに思っている」
それは兄の一誠と違って緑色の瞳を持っていることやまだ人間であったときに一誠より力持ちであったことを悔いていたのを全て見透かされているような言葉だった。二人は正士郎を責めず、むしろ全てを肯定していっている。否定されたほうがどんなに楽か、どんなに良かったのか。休み時間に兄が何故昼食に誘ってくるのかが分かった、兄も両親のように自分を愛していたから。一番、両親の愛情を受けているべきだと思った兄ではなく、この場で言葉をかけられている自分が申し訳なく感じてしまい、罪悪感に駆られる。
それがタケハヤスサノオとの修行の中でも決して弱音を吐かず、果敢に挑んでいった当時の感情を取り戻すかのように。
数年来の人間としての感情を、正士郎は取り戻した。
「知ってたんだ、僕が宇宙人だって」
「何を言ってるんだ、正士郎。私が知るはずはないだろう?ただなんとなく、力が強くて私よりカッコいいな羨ましいな畜生としか思わなかっただけさ。別にお前が宇宙人だったにしろ、それはそれで良いじゃないか。それもまたお前だ」
「お父さんも変わらない人よ?そこがいいところだって知ってるでしょう?しーくん」
「……うん」
「さて!正士郎、お前にはやるべきことがあるはずだ。私はベターってやつはトーストにでも塗りたくってやればいいと思っている人種でね、しばらく来るなよ!」
今から時間を計測する、と腕時計を見はじめた父親を見て正士郎は慌てて身支度を整えた。ウルティマブレスレットをバンダナを巻きつけているくらいしか持ち物はなく、ようはこのまま走っていったほうが速かった。爆発するぞー、と暢気に言ってのける父親だが兄やタケハヤと同様に本当に何時の間に仕掛けたのか分からない人種である以上、さっさとその場から走り出した。
「まだ来ないよ!好きな人を泣かしたくないからね!」
「なにっ!?正士郎に彼女だと!?誰だ!イリナちゃんか!」
「なんとなく、そんな気はしていたけどね」
「ばれていた、だと……!?」
どうも、湿っぽい別れをするのは兵藤家ではないらしい。相変わらず、兵藤夫妻や兄煮に対しては突っ込んでばかりだと正士郎は溜息をつくが、口端を吊り上げて二人に手を振りながら堂々と宣言する。
「僕、無敵になってくるわ!」
「おう!あとで思い返して後悔するなよ!」
「そうよ、しーくん!イッセーが黒歴史ノート書いたら、探してやりなさいよね!」
笑って言っているつもりなのにどうして泣いているのだろう?もう二度と会えないわけでもないのに。あの奇妙な服装の夫婦が言っていたではないか、心の中にいると。だから、兵藤正士郎は高らかに叫ぶ。
「二人の子供で、兵藤正士郎で良かった!」
※
※
※
「……そして、儂の犬でも良かったと」
「一体何を言っているのか」
目を覚ませば、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードが枕元でくつくつと笑っていた。どうやら寝起きの叫び声だったようで愉快愉快、とばかりに笑っている。人のツッコミの苦労も知らずに、と愚痴を漏らす正士郎だったがキスショットはこちらの様子を窺ってばっかりに見えた正士郎から憑き物が落ちて見えた。
「……頼みがあるんだけど」
「兄君の元に向かいたいのじゃろう?知っておるわ」
「じゃあ、連れて行ってくださいな」
了解してやる、とキスショットに肩をつかまれ、ドレスからその大きく開いた背中から翼を生やしてキスショットは飛び立つ。翼の大きさこそキスショットの女性にしては高い身長よりは高いが、その飛び方は強引だ。力任せに飛んでいるのはいいが、果たして太陽が出ているのに大丈夫かと思っていれば、すでに日は暮れていた。あまりにも時間の進行が早くなっていると首をかしげていると、あの夢のような世界に滞在していたのが大きな原因だろう。あの場所でかけられた言葉は重くのしかかるが、正士郎がほしかったものと言っても良い。だからこそ、正士郎は戦意が折れずに済んだのだ。
場所は変わって、空けた土地。ゾッドは怖れを抱いていた。戦闘が始まって数時間が経ち、金髪の剣士が入ってきたのはどうでもいいとして目前の鎧を纏う青年から戦意が全くそぎ落とされていない事実に。元々、地球人のスペックと神聖さを属性として併せ持つことから基礎スペックから異常だとは思っていたがこれほどとは思わなかった。ゾッドは下とは言えど、軍人である。そんなゾッドのスピードやパワーと渡り合い、それでいてスタミナが落ちていないことに。
自分のDNAから生み出された、ナンバーゼロ、ナンバーツー、ナンバースリーと刃を交えている白髪の少年、白髪の少女、栗毛のツインテールの少女とメッシュの少女の方は明らかに体力が落ちていっている。回復薬と思われる少女の方は彼らを案じ、時折、回復を行おうとしているが殺気を飛ばすと怯んでしまったようにも見え、しかし鎧の少年に回復を行った。何かを確信しているのだ、鎧の少年は。傷は確かに鎧の少年が切り札ともいえる力を解放したときからつけることはできているが、それにしたっておかしい。
「何をそんなに期待している?夜になり、流石に体力が落ちてきたのではないのかね?」
「なんだ、その植物。そんなプラントマンに負ける俺じゃねえ。なんたって、俺にはいるんだからな」
「ほう?」
「―――弟が」
鎧の少年がゾッドに空を示すと、どういう理屈で飛んでいるのか知らないが金髪の美女に掴まれて宙に飛んでいるカル=エルの姿がある。思いきり美女が振りかぶって投擲するが、どうやら目標はこちらのようだ。
「フン、考えも為しに特攻と言うわけか?」
「しーくん!フリード!ジェットストリームアタックだ!」
「イッセーちゃん!ついに気が狂ったか!?」
ナンバーゼロに村正で抗っていたフリードが怒号を飛ばすと、その意味不明な作戦を強いる理由が分かった。イリナとゼノヴィアが見上げると、左腕が光っている正士郎の姿がある。あまりよく人間である二人には見えないが、正士郎は何かを言っているようだ。
「しーくん!生きてたのね!」
気を失っていただけといえばソレまでだが、イリナは正士郎が復活したことを喜んだ。相棒が想い人であろう、正士郎の復活に喜んで気を抜くなよと諭そうとするゼノヴィアだったがイリナのパワーが普段よりあがっている。いわば、これはイリナの普段の押しの強さが物理的に現れたのだ。正士郎と早く接したいがために手数ではこちらより上のナンバースリーを凌駕したのには恐れ入るが、ナンバースリーの剣を弾いたところで白音というらしい少女の相手をしていたナンバーツーが木場から離れ、牙を向いてイリナを組み伏せんと襲うが―――。
「ウルティマスパァァァァァク!」
落下するときに発生する重力を正士郎にとっては防具であるバンダナをマントのように変化させ、ブレスレットをしている手を翳すとウルティマブレスレットが変化して光の短剣の雨が降り注ぐ。ナンバーツーの頭部を呆気なく貫いて額をまるでスイカ割りをして果肉が弾けとぶように肉が割れて(補完をしておくと奇襲攻撃にナンバーツーが反応できなかったのもある)、兄の意図を理解したのか地面に立った正士郎の顔に迷いはなかった。
「百鬼夜行男子によるジェットストリームアタックだってよ!」
「え?中央は僕だよね?」
「しーくん、中央に来るの?」
「フーたんするの?」
「しーくん、あとで屋上な」
「落ち着けよ、二人とも。しーくん、おにいちゃんが中央だ」
「「ゆるさん」」
フリードが敵に丸聞こえな作戦を宣言すると、正士郎の反応は兵藤家として流石の反応である。どこのポジションに来るかについて、どうしても真ん中に行きたいらしいフリードを煽るが、兄として譲れんとばかりに中央に来たがる兄の言葉に息ぴったりなフリードと正士郎の否定の言葉に一誠が鎧を纏ったまま、やれやれと肩をすくませる一誠。陣地もめちゃくちゃにナンバーツー降り注いだ光が正士郎の手に戻り、結局は三方向からゾッドを襲撃すると決まった。
「いいか、しーくん!全員で近づいた際にウルティマブレスレットをウルティマハリケーン形態にするんだ!」
「えっ?イッセーちゃん、ウルティマブレスレットのウルティマハリケーンってなにさ!?」
「ウルティママンを見ろ!DVDBOXはしーくんが持ってる!」
「無駄だ!学者の息子がこのゾッドに敵うとは思えん!」
「学者の息子舐めんなよ!父さんの仕事忘れたけど、触手を馬鹿にする奴はロクな死に方しないぜ!」
「ああ!神聖さがこうかばつぐん▼だってんなら、お前のボディスーツにしーくんとフリードと俺で黒髭危機一髪してやるよ!」
『……正士郎が来ると、相棒はシリアスができなくなるのか』
相棒の意外な一面を知ったドライグは呆れるが、この力におぼれない宿主が赤龍帝の篭手に新しい道を弟をきっかけに見出したのであれば新しさも捨てたものではない。
温故知新。
古きを大切にして新しさを作り上げていくスタイルは現在の彼と―――それと正士郎が作り出したものだろう。
「えっ?黒髭危機一髪やりたい」
「イリナ、自重しよう」
「イリナちゃん!あとでしよう!」
正士郎の常人以上の聴覚でイリナの言葉を捉え、そして百鬼夜行の馬鹿な男子三人によるジェットストリームアタック・フォーメーションデルタと旋風を纏うウルティマスパークであるウルティマハリケーンは呆気なく決まってしまう。膳方向からでもドクターと共にゾッドのDNAから作り出したナンバーズシリーズで太刀打ちしようにも、一人でも欠けていればナンバーズはやる気を失ってしまうのだ。
学生のノリによる編み出した必殺技によってゾッドは鎧越しに生身で馬鹿三人による黒髭危機一髪をモロに食らってしまい――。
「ば、馬鹿な……!ジョー=エルはこれほどに愚かな男ではなかった。奴はもっと賢く、そして……!」
「馬鹿をやるのもいいもんだと思うよ。なぁ、しーくん?」
「そうだね、にいちゃん。僕さ、思ったんだけど、アイツって薔薇臭いよね」
「あ、それ俺ちゃんも思った」
でしょでしょー、と正士郎の平和な朝を邪魔されたのが全てのきっかけだった今回の戦闘。得体の知れない気持ち悪いボディスーツの男こと、ゾッドは神聖さを乗せた百鬼夜行男子の三馬鹿によって爆発四散。そんな光景を見ていた白い少女は、
「えっ?」
思わず目を疑った。
ウルティマハリケーンとは?
劇中作品『ウルティママン』の必殺技である。ウルティマブレスレットが変形した形態、ウルティマスパークを使う業ではなく、敵を投げ飛ばして必殺技のウルティマレイを撃つ技なのだがタケハヤスサノオの荒ぶる嵐の神としての属性が付与されたウルティマブレスレットの形態のひとつとなってしまった。ウルティマスパークと呼ばれるナイフ形態が旋風を纏って襲撃する形態らしいが、実はホーミング機能付きである。