ジェットストリームアタック・デルタフォーメーションを決めた百鬼夜行男子の三馬鹿。その後に出てきた白いヤツとドライグが呼んだ者だとか堕天使で戦争大好きなコカビエルが出てきたとき、有無を言わさずに一誠がその拳で黙らせたのは圧巻である。だが一誠によると、ウルティマブレスレットは一誠の朱守龍帝のガントレット部分にウルティマガントレットとして装着されていたはずだという。気がつかぬうちに正士郎の腕にブレスレットとして戻ってきていたらしく、その不思議な現象に彼らは首をかしげるばかりだった。残ったナンバーズシリーズをどうすればいいのかをタケハヤに尋ねると、全部処理しろと告げられた。黒幕であろうドクターとやらが出てきて木場が激昂したものの、ウルティマスラッガー(ただのブーメラン)を放って殺した。ナンバーズをすでに戦闘不能にし、ウルティマブレスレットの能力で縛り上げたままだったのでウルティマブレスレットの万能性を百鬼夜行は確認した。
その後に訪れたグレモリー眷族だったが、正直、魔王の妹と堕天使の混血とそして木場しかいない彼らを集団と認めて良いのかわからなかったので百鬼夜行は即時撤退した。早く家に帰りたいばかりに開けた平地から駒王学園の校庭でクレーターを作り上げるほどの威力を発した一誠の拳。激昂状態といえど、ここまでの破壊力で本気でないのだから百鬼夜行としてはおそらく最高火力であろう。
「………あとは、羽虫に任せるとして。お嬢さん方はどうする?」
「特にまだ決めていない。よければ、観光をしたいのだが」
「って相棒は言うけど、君はどうする?」
「わ、私ですか?」
事後処理については全て悪魔サイドにやらせる、という旨を書いた委任の手紙をタケハヤスサノオの部下の一人である伝達課の神に渡し、TAKAMAGAHARAの社員寮に正士郎達は集まっていた。一誠が正士郎にキッチンで任務終わりということでご馳走作るよ、というのに対して反応してリクエストしている。無難にハンバーグなんだろうな、と思っているとフリードが横から「トムヤムクン!」と真顔で主張し、アーシアはパスタがいいと言ってゼノヴィアは君が作るならば任せようとすっかり長年連れ添った夫婦の夫側のような曖昧な答えで正士郎は困っている。
普段着に着替えて全てのエクスカリバーをタケハヤスサノオから渡されたウルティマブレスレットによって破壊された今、イリナとゼノヴィアは教会に帰らねばならない。報告を兼ねての帰投となるが、次、いつ正士郎と会えるかわからなかった。今後はどうするのかと言われて日本に興味を抱いたゼノヴィアは観光をしたいらしい。
「少し来てくれるかな?」
「あっ、はい」
「タケハヤ様、イリナちゃんに手を出したらメシ抜きです」
「落ち着け、しーくん。偉大なるタケハヤスサノオ様は純愛派だ」
タケハヤがイリナとベランダで話そうと思い、イリナに声をかけると何を勘違いしたのか正士郎が少し不機嫌そうに反応した。正士郎に嫉妬されるのはイリナとしては嬉しかったが、アロハシャツにハーフパンツでクセの強い天然パーマの目前の男がとても荒神には思えなかった。正士郎とのやりとりから気のいいお兄さんに見えるし、兵藤兄弟にとっての兄貴分と言ってもいい。だが忘れてはならないのが彼が兵藤兄弟に戦う術をたたき込み、あの宇宙人ーークリプトン人の元軍人ともと渡り合えたのは彼らの才能とはいえ、タケハヤの手腕によるものだ。
タケハヤが正士郎がまだ細かく彼に詰問する中、なあなあと宥めてイリナとタケハヤはベランダにやってきた。
「単刀直入に聞こう」
「はい」
「君は、しーくんは好きかい?」
「答えなければなりませんか?」
「ああ。しーくんの今後が左右される」
タケハヤスサノオは遠慮を知らぬ男だった。この手の話題には花も恥じらう乙女と言えるイリナは恥ずかしがって否定して話をなあなあにするのが常だが、真剣な声色で仮にも神に言われれば答えざるをえない。たとえ、タケハヤスサノオが冗談交じりの言葉で真剣な口調で言ったとしてもだ。
「私は、しーくんが好きです」
「ほう?それはどうして」
「最初はただ、昔馴染みのかわいい男の子だと思ってました。私やイッセー君の後を追いかけてくる。けど、今は、現在のしーくんは私に好意をずっと持ってくれている」
「それはしーくんへの同情か?ならば、やめておけ。同情であいつを選ぶのは俺が許さん」
夜風の気持ちいいベランダでタケハヤスサノオはイリナを威圧する。兵藤兄弟の弟で自分のお気に入りの兵藤正士郎に幸せになって欲しいからという願いと身内に優しく、他者に厳しいお国柄かもしれない。誰でも照らそうとするアマテラスと違い、荒ぶる神としての一面を濃く現すタケハヤスサノオは日本の神を体現し、その髪は逆立っているように見えた。しかし、紫藤イリナは諦めない。
「同情なんかじゃない。しーくんの愛に応えたい。しーくんが宇宙人だったとしても、私はしーくんが好き。エビチリを作ってあげるんだから。そんなので思いは受け止めないよ、ふざけないで」
イリナはタケハヤスサノオの頬を、神の頬を叩いた。なぜか人気は消えて(おそらく、客間でゲームをしているんだろう)キッチンで料理をしている正士郎だけだ。仕込みを終え、様子を見に来た正士郎はイリナがタケハヤスサノオを叩いた音が聞こえてタケハヤスサノオにイリナに非はないと主張するがーー。
「ふ、ふはははは!面白い、面白いぞ!紫藤イリナ!この建速素戔嗚の頬を姉上や父上以外に叩き、あまつさえ啖呵を切ってみせた!………見くびるなよ、小娘」
「タケハヤ様!イリナちゃんはーー」
「大丈夫、しーくん。イリナお姉ちゃんはーーいいえ、紫藤イリナはしーくんに愛されて幸せだもの」
タケハヤスサノオが建速素戔嗚へと為る。自らに無礼を働き、そして抗った者に対する粛清をせんとしたときに正士郎は迷わずイリナとタケハヤの前に立ってイリナを守る盾となった。力を与えられた恩はある、住む場所を与えられた恩もある、学校に通えることへの恩がある。だけど、その恩と同じくらいに大事なものがある。
自分の犯した罪に感情的になったことで気づいて身体を震わせる愛おしい少女の身体を抱いて正士郎はウルティマブレスレットを光らせる。
「違うよ、イリナちゃん。これからも幸せになれるんだ。この僕がしてみせる」
「ーー合格だ。………おい!イッセー!アーシアたん!白音たん!メシ行くぞ!ゼノのんも行くか!おいちゃんの奢りな!」
「………タケハヤ様?」
「アホ、誰がしーくんとしーくんの大事な人を殺すかボケ。おいちゃん、しーくん兄弟とか大好きなんでね、ま、ちょっち試練よ。料理の準備させてごめんな、しーくん。明日、俺が持って帰るからいいかな?」
ただ下処理したものだけど、と正士郎が言うとタケハヤスサノオは愉快そうに笑ってベランダから部屋へと戻っていった。交戦を覚悟した、この場で死ぬのも頭に入れた。だけど、それがなかった。そして失念していた。タケハヤスサノオは己を頼り、己を慕う者に慈悲深い男だと。そして、そんな男の背中を見ていたのだと。豪快に笑って去っていくタケハヤスサノオの背中を見送っていると、イリナが正士郎の手を握る。
「ねえ、しーくん。私、凄く嬉しかったんだ。ほんのちょっとしか一緒にいられなかったんだけど、君はどうして私のことが好きでいられたのかなって。でも、しーくん。君は私のどこが好きなの?」
ドラマを兄と見ていたときでは面倒臭いなと愚痴をこぼしあっていたが、アーシアらといい感じの一誠にも今の自分にも言えることではない。上目遣いに正士郎より背の低い年上の彼女は何かを期待するように見上げている。
「僕は、嬉しかったんだ。この世界で、僕のことを愛してくれている人が家族以外にもいるってこと。不思議な夢を見てね、ある夫婦と話したんだ。その人たちは子供を愛する資格はないってのを聞いた。別れなきゃいけない、って言っていたから事情があったんだろうね。そのあとに父さんと母さんと話したんだ」
「もしかして………?」
「うん、そういうこと。でも不思議だったんだ、父さんと母さんの温もりがさ、その前に出てきた人たちと………同じだったんだ」
兵藤正士郎は本能で感じていた。あの兵藤夫妻の前に夢としている世界で出会ったのは、自分自身の本当の両親だと。彼らに抱きすくめられていたときに抵抗しなかったのは、身体が温もりを覚えていたことだ。その後に兵藤夫妻に抱きしめられた時の温もりも同じで、イリナの手から感じるものも同じ。
これが『愛情』なのだと。イリナはこっそりとタケハヤから教えられた兵藤夫妻の死。そして、正士郎の正体。それらを受け止めてもなお、彼女が返したのはーー。
「えっ、イリナちゃん………?」
「そんな泣きそうな顔しないでよ、しーくん?もっと嬉しそうにしてよね?ウルティママンになりたかったんでしょう?」
柔らかい唇で正士郎の唇を塞ぎ、そっと離すと正士郎が予想通りの反応を取ったことで悪戯っぽく笑う。それでいて正士郎を抱きしめ、ウルティマブレスレットをなぞって正士郎のかつての夢を語る。
すると、正士郎。
「ーーいや、僕はウルティママンじゃないよ。僕はスーパーマン。バンダナのSからとった」
愛おしい人を抱き、バンダナにあるSを見せると誇らしげに語る。
右手に巻きつけた、思い出のSのエンブレム付きバンダナ。
左手のしている、現在と未来を表す力たるウルティマブレスレット。
それらを見せる正士郎の姿は昔と重なるも、優しいところは変わらない。
「じゃあ、私はスーパーマンの恋人?」
「ああ、そういうところだろう」
その後、二人はキッチンを片付けてタケハヤ達の元へと向かう。もう離れないと誓うように手をしっかりと握って。
完
これにて百鬼夜行の兵藤正士郎の物語は終わらない。
兄の背中を追いながら、その身に受ける愛に気づいて大切な人を得た少年は、未来へと歩むのだ。
右手で大切なものを守り、左手で大切なもののために戦うスーパーマンとして