「さて、兄弟仲良く弁当を食べるのだが」
「兄貴、僕は空腹なんだ。それこそコンクリートをバターで炒めて食べれるくらい」
「お前が言うとシャレにならないからやめろ。……小猫ちゃん、なんつってた?」
一誠にほぼ強制的に連行された先は新校舎のほとんどすぐ隣にある、旧校舎の屋上に正士郎は連行された。一誠と正士郎に「ミッション」を下す、タケハヤによると魔王の妹が率いるグレモリー眷属の本拠地があるとのこと。
三大勢力の一つで所謂、魔王の身内の本拠地のある場所で昼食を取るのはどうかと思うが、タケハヤは旅行につれて行ってやるから許せ、と交換条件を出してきたところ、正士郎の顔が曇るのをみて一誠はすかさず抗議して報酬の昇給を申し出た。
そしてらタケハヤはすんなりと受け入れた。
なんでも、タケハヤらの気配を身に纏っているあくまでも「人間」である兵藤兄弟に加護を与えることで日本全国ならば何処でも情報を得られるが、逆に自分たちでは隠密行動が出来ないらしい。
「さあ?でも、アレじゃないか。グレモリー先輩のところで身柄は保証されてるけど、猫又って日本の妖怪だし……」
「タケハヤ様たち姉弟はフリーダムでおられるからなぁ、俺らをどこまでサポートしてくれるのか」
転生悪魔の地位は低く、塔城小猫の姉で冥界で上位のはぐれ悪魔として指名手配中の黒歌とともにある主人の元にいた際の虐待や暴行をどこからともなく察知したタケハヤの姉のアマテラスは兵藤兄弟に猫又姉妹を全力で助けてきなさい、という全力の意味を死力と間違っていると見たアマテラスの無茶振りに応じ、アマテラスに
百鬼夜行。
それは日本が誇る妖怪たちの行列で夜中にある妖怪たちの行脚であり、夜中に起きて戸を開いて百鬼夜行を見ると病にかかる妖怪が行列で歩いているだけのものだが、集団で主の向かうところへついていく一種の“妖怪”の集合体といえよう。
「そう心配するな、イッセーにしーくんよ」
「タケハヤさん!?」
「……なんで清掃員の服装なんですか」
旧校舎内でバケツにモップを突っ込み、モップがけを行なっているワカメのようなボサボサヘアーをした男性、タケハヤはモップをバトンのように回転させながら真顔で兵藤兄弟の前に立っていた。
食事中にモップを回転させんじゃねえ、という部下の視線にタケハヤは真っ先に気づいていたが、掃除中にバケツを遠心力で回転させたい小学生男子の気持ちを体感する為か、真顔で振り回していた。
清掃員服と帽子が似合っていて、本当はタケハヤが清掃員で妄想が激しい男ではないか、と二人は混乱していた。
「金が足りなくなったのと、旅費稼ぎだな」
「アマテラス様にお仕置きされても知りませんよ?」
「せめて櫛は通して下さい」
「おいおい、息子同然の
こうして一誠と正士郎がタケハヤに毒を吐くと、血縁関係がなくとも兄弟であると分かる。ジト目や表情はそっくりでいい歳になってもやはり姉のアマテラスは恐ろしいらしく、ガクガクと体を震わせたタケハヤだったが、舐められたら終わり、とくるりと一回転して服装を着流しのようなモノを着た男性へと早変わり。
モップやバケツはそこになかったように掻き消え、二人の前にある僅かな水溜りがタケハヤがモップをバトンのように振り回していた結果を残す。
「姉貴は正士郎に百鬼夜行の設立を云々言ったらしいが、イッセー。お前にもそーゆーのは必要だろう。悪魔の眷属とは言わんがな」
「……」
タケハヤの言葉に二人の顔色が変わる。
過去の出来事ゆえに悪魔、という単語は忌むべきものとなっていて出来ることなら悪魔を統べる魔王の身内のいる駒王学園には来たくなかった。
タケハヤは一誠と正士郎を部下として高天ヶ原に迎えた際、三大勢力について全て叩き込んだ。
タケハヤやその兄弟のアマテラスとツクヨミら三人の三貴子らがこの日本の地を海外の悪魔に支配されている、という事実を許せなかったからだ。
誰の許可でこの土地を我が物顔としているのか、と。
「オレはお前たちの過去の傷を抉ろうとしているのではない、この国の“やり方”で三大勢力の黒船共に対抗してやろうと思っているのだ」
「この国のやり方?」
タケハヤは一誠と正士郎の瞳を強い意志を感じる視線で見つめる。
同時に兵藤兄弟はタケハヤの言う“やり方”に疑問を抱いた。この国のやり方、つまりは日本人らしさというのでタケハヤは三大勢力と肩を並べようというのだ。イマイチ、それが浮かんでこない表童兄弟を比べ見てタケハヤは口端を吊り上げて笑う。
「ああ。この国はこうして発達するまでは様々な“真似”をして発展してきた。古代では隣国の真似を、近代になるにつれて独自の文化を見出してきたが、それでもつい最近までは欧米諸国の真似をしていたんだぜ?」
一誠や正士郎にとってはタケハヤの言う“最近”は百年の間のことをいい、タケハヤが何を言いたいのかはおおよそ察しがつく。
タケハヤの言葉を信じるならば、タケハヤは悪魔の現在の眷属システムを“真似”をした技術を使おう、と提案しているのだ。
坊主の袈裟まで憎い、だとかそんなことわざがあるのを一誠は思い出し、自分達がまさにそんな心境でタケハヤの言葉に従おうとしているのか、と苦笑い。
かくいう弟の方は真剣な眼差しでタケハヤを睨み、タケハヤは真顔だけども明るい口調、しかし目は笑っていなかった。
「……それで僕らにどうしろと?」
「塔城小猫ーー否、猫又の白音を百鬼夜行に加えたいと思う」
「タケハヤ様、それが正士郎にとってはどんな行いか分かっているんですか!?」
一誠はタケハヤの襟首を掴みかかりそうになるも、同時にタケハヤが命の恩“神”だと思いだす。
三大勢力のうち、現在、悪魔の眷属システムを使用しているのは天使側の“ブレイブ・セイント”と悪魔の眷属システムの“
天使側は心が清らかな人間でなければ使用が出来ないというが、悪魔の駒はそれこそ悪魔自身が気に入った人間や他の種族を無理矢理従えさせるもの。
人間を下等な種族と見る、悪魔を正士郎は良い印象を抱いていないのと同時にアンニュイな表情が怒りを帯びていると
「だからこそだ、イッセー。“模倣”とは素晴らしい武器なんだ。戦争で相手の戦闘機を撃墜した後、回収して調べるだろう?それと同じだ、模倣が出来れば対抗策が生まれ、オリジナリティが生まれる。高天ヶ原にある、技術開発課に頼んで俺達は全く新しい効果をつけた」
タケハヤは懐から鮮やかな勾玉をいくつか取り出した。
それぞれを正士郎と一誠に握らせる。
「両者が了承しなければ勾玉が使えない、とな。悪魔の駒の方は一方的であるのと同時に使用者の力量次第で消費量が増え、変異の駒とやらがある。そして天使側のやつは清らかな心を持つ人間にしか使えねえらしい。少しでも雑念抱けば堕天だとよ、とんでもねえ。人間たるもの、雑念の一つや二つを持ってるのにな。本当に持たない奴はセージンサマかなにかだぜ」
宗教に寛容な日本らしい、最もな意見だが旧校舎に熱心なキリスト教の信者がいれば殺されるんじゃないか、と兵藤兄弟は顔を見合わせた。
国教を現在になってはルーズで持っていないように思える、日本はハロウィンやクリスマスとか様々な国の行事が混ざっている。
かの有名な宣教師、ザビエルが布教しに来た際は質問攻めで困らせたらしく、宣教師が考えたこともなかったことを聞いていたという。
「さて、ここで新たなガキ共の仲間を紹介しよう。入ってきてくれ」
「小猫ちゃん!?」
タケハヤが呼んで連れて来たのはオカルト研究部に所属しているはずの正士郎の同級生の小猫だった。
相変わらずの無表情だが、アンニュイな表情ばかり浮かべている弟と共に十年以上暮らしてきた一誠には何処か緊張しているように見えた。
「……改めてはじめまして、猫又の塔城小猫と言います。これから宜しくお願いします」
「小猫ちゃん、グレモリー先輩らと一緒だった部活はいいのか?」
「ああ、そのことだがな、しーくんよ」
タケハヤが二ヤリと凄惨な笑みを浮かべている。
先ほどの兵藤兄弟を気遣う、子煩悩な父親のような
タケハヤの兄弟のアマテラスやツクヨミはあまりよく会わないこともあり、タケハヤの豹変振りはタケハヤの口でしか知らないが、同じものと見た。
大抵、こうして御ふざけで正士郎を呼ぶときはロクでもないことだらけだ。
「魔王に恐喝してきた」
「なにしてんすか!?」
「いやね、あいつら、自分の身内を我が国に住ませてるじゃないか。それでサーゼクスっつー坊主がクソッタレ悪魔の取締りがちゃんと出来てねえから問題が起こる、ってのとてめぇらの家族はオレ等の国にいる限り、いつでも殺せるからな、と姉貴と一緒に行ってきたわけだ。そしたらよォ、魔法少女っての?アレのコスプレしてた奴が怒り狂ってよォ、駒王で会議するらしいじゃねえか?その際に魔方陣に仕掛けを施してやろうか、って言ったらすんなりと飲み込んだわけよ」
「タケハヤ様、あんたって人は……」
「貴方といえよ、デコ助野郎。幸い、白音自身が悪魔となることを悩んでたらしいからな。ウチ来る?って言ったわけよ」
「……驚きました、本当に日本の神様が実在するなんて。でも、悪魔がいるなら神様もいるんですよね」
「が、ここで赤毛の坊主はこのオレに白音の身柄を渡す代わりに条件を突きつけてきやがった」
「タケハヤ様に条件を突きつけるなんて、魔王ってスゲェ……」
「そりゃあ、アレだよ、兄貴。まがりなりにも向こうはトップなんだし」
その気になれば雷だの落とせ、それでいて短気なタケハヤに条件をつきつけるサーゼクスとやらは何者だろう、と一誠は自らのイメージを浮かべてみる。悪魔が魔法少女のコスプレをしているのを想像するのはたやすく、笑いが零れてしまった。小猫と正士郎のWジト目によって、すぐに取り繕ったが。
「『妹の助っ人として手伝ってやって欲しい』だとさ。笑わせんじゃねえよ、青二才、つったけどよ、アイツのメイドがマジでオレ等に立ち向かおうとしてたし、それに子持ちらしいからな。いくらクソッタレで欲深な悪魔といえど、ガキがいるんなら手が出せねえわけよ、姉貴は。オレは構わずに我が国に巣食う害虫を駆逐してやりたかったんだが、姉貴には勝てなくてよ。みすみす、吞んじまったんだ」
「……そして、私が百鬼夜行入りすることになりました。しーくん、兵藤先輩。これからお世話になります」
「気にするなよ、えーっと……」
「お好きに呼んでください」
小猫の元主人を一誠が殺し、救い出したことで懐いているんだろうか、小猫は目を輝かせている。
その様子がどうしても、居眠り中の自分を起こしてくれない無表情なクラスメイトには思えず、この鈍い兄が気づいているかはさておき、彼女は好意を抱いている様子だった。
「じゃあ、小猫ちゃんのままでいいかな?」
「……ええ、今はそれで妥協します」
「……フム、おじさんの入る隙はなくなったな。しーくんよ、オレは帰るが、これはオレの通信用式神だ。このタケハヤにもっと親しみを込めてもいいんだぜ?」
「遠慮しときます、貴方は僕の親ではないので。けど、凄いのは認めます」
良い雰囲気の一誠と小猫に気遣い、うつろいでいくタケハヤの像は透き通ってしまうのにも関わらず、平均の男子よりは背が高い正士郎の頭部をなでてやる。
口答えはするものの、タケハヤに恩義を感じる正士郎は抵抗せずになでうけられた。薄らいでいくタケハヤは姿を消し、人型に切り取った白い紙だけが残る。
新たに一誠と正士郎の百鬼夜行に加わった小猫はあらかじめ、タケハヤに受けていた勾玉の講習を行い、一誠が百鬼夜行とする契約を行なっていた。
「我、汝が主となり、
「我、汝が百鬼となる者」
「汝、我が百鬼となるか?」
「我、汝が剣となり汝とともに如何なる時もある者となる也」
「よかろう、我が百鬼となれ」
契約の口上は言霊の存在を信じる、日本らしく言葉にさせることで真偽を問うようだ。
一誠と小猫が手を握り合っているように見えるが、それは儀式の上で必要なこと。
彼らの手の中には勾玉があり、手の間から光が発光している。ちょうど人通りが少なく、それでいて人気がない昼食の時間を選んだタケハヤのおかげか、儀式は滞りなく進んで勾玉が二人の手をすり抜け、小猫の胸に吸い込まれる。
「気分はどうだ?小猫ちゃん」
「はい、いい感じです。しーくん、イッセー先輩」
小猫は一誠と正士郎の前に正座し、猫の手を作ってみせる。それから二人の前で笑顔を浮かべた。
二人は互いに顔を見合わせ、父に似てお人好しな一誠は小猫に手を差し伸べ、そして正士郎は一誠の傍らに立つ。
「ああ、よろしくな、小猫ちゃん」
「あんな上司だけど、僕らは先輩風なんて吹かすつもりはないよ」
百鬼夜行に新たに塔城小猫が加入した!
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