事前動作に顔に水をかけないと発動しない超能力、と言う設定らしいですが
昼食後に待ち受けていた、午後の授業はまるで深淵に潜む魔物のようであった。この日はちょうど、数学だったが正士郎はうつらうつらとカックンカックン頭部を上下させている。
クラスメイトはカックンカックン頭部を動かしながらも、手が黒板の板書を取っているのが不思議でならなかったが、小猫が板書を確認すると眠って殆ど意識がないのでノートには楔形文字と見間違うような文字の羅列。
ハッ!として正士郎が気がつくと小猫はクスッと正士郎のほうを見て笑い、慌ててノートの板書を書き直し始めた。
高校入学前に一誠が語っていた、午後の魔物の存在を噛み締めつつ、昼食後の授業は教科がなんであれ苦痛に感じるのだ、と正士郎は学習した。本当ならば一誠との昼食後、昼休みを昼寝して過ごすが、タケハヤの式神の訪問の為にそれは叶えられなかった。
「しーくん、小猫ちゃん!一緒に帰ろうぜ!」
「兄貴、毎日来るなぁ、本当に」
「……いいじゃないですか、迎えに来てくれる兄弟がいて」
午後の
通常通りに一誠が正士郎と小猫を迎えにやってきていて、すっかり慣れきったクラスメイトは苦笑いしており、中には一誠を悪く言う者がいるのがデフォルトだが、「よき兄」となるために成績を学年トップクラスで維持し続け、一度だけ、学年トップをとったことがあるので一誠は有名人だった。
原動力が正士郎であるのは公然の事実で一誠の中学時代からの同級生の松田と元浜は一誠に大胆にも、教室でAVや十八禁のエロ本を貸し出そうとするも、こうして一年の教室へとやってくる。
「そうは言うけどさぁ、物には限度があってだな…」
「早く帰りましょう、しーくん。今日から私の家がどんな所なのか、とても楽しみです」
「そうだぞ、しーくん。早く帰ろうぜ!」
「お、おう」
一誠が教室に待ちきれずに乗り込んでくると、小猫は一誠の裾を掴むか掴まないかを葛藤した挙句、一誠の裾を掴んだ。
大胆なアプローチに気づかず、ただ弟と帰ることを望む一誠に驚き、小猫と一誠が良い雰囲気に見えるので言葉を発さず、ときおり振られる話題に質素に答えると下駄箱前に辿り着く。
正士郎は下靴に履き替え、小猫や兄が履き替えるのを待つ。
紐靴のように結ぶタイプではなく、自分で紐の締める強さを調整するタイプの靴なので履き易く、そして脱ぎやすい。
同じクラスで同じ下駄箱の小猫より早く履き終え、一誠が履き替えて集合すると校門へと向かう。
「そういえば、二人共さ、週末空いてるか?」
「週末ですか?いえ、特に用事はありませんけど……」
「なにすんの?兄貴」
唐突に思いついた提案を満面の笑みで述べる一誠に二人は疑問を抱く。正士郎からすれば何か思いついたな程度の認識だが、突然の提案に小猫も戸惑っているように見える。そのときにサッと裾から手を離したのは見逃さなかった。
一誠を中心に左側を小猫、右側を正士郎が固めて校門を出ると私服の見知らぬ女の子がいる。
赤紫色の瞳と長い黒髪は背中まであり、私服の上からでも分かるプロポーションは出るところが出ていて引き締まっており、いかにも“美少女”であった。
「あ、あの、お尋ねしたいんですけど……」
「ほら、尋ねられてるぞ、しーくん」
「そうです。此処で無視したら私はしーくんが寝過ごした授業のノートを取らせません」
「息ピッタリだな、二人とも!?」
女の子は正士郎へ近づき、若干、上目遣いである。一般的な男子高校生なら多分、コレで落ちるんだろうなと自分も高校生になってそんなに経っていないくせに正士郎はそんな確信が出来た。
何か困っているようにも見えるが、同時に照れくさいのか顔が赤い。
色恋沙汰に首を突っ込み、お兄さんはまだ許しません!と何処かのカーチャンみたいな口調で真顔で叱る兄のせいでロクに好きな人も出来なかった中学時代。
「にいちゃんと塔城さんは黙っててくれ。なんでしょう?迷子にでも?」
明らかにそう見えないのに正士郎は戸惑っていた。
仮に本当に迷子になって目的地にどう行けばいいか分からずに迷っていたにしても、案内は今までたくさんの人に正士郎はお節介をしてきたが、同年代の女の子にはなかった。
それも結構可愛らしいのもあり、正士郎は珍しく動揺していた。
「兵藤正士郎さん、ですよね?」
「はい」
「はじめて見たときから好きでした!付き合ってください!」
「!?」
その日、兵藤兄は思い出した。
どうしようもない事実は常に兄弟だからこそ付きまとい、高校生となるとそれが顕著になる。
新たに兵藤家に加わった、塔城小猫は勢い余って一誠に抱きついてしまい、慌てて離れるも一誠自身もよほど動揺していたのか、小猫の手を握ってしまう。
弟の成長を喜ぶのと同時に悲しさも感じる。
肩を落として帰路を急ぐ一誠、その背中を摩りながら慰める小猫。
兵藤弟こと兵藤正士郎は目の前の真実を認められなかった。
「さて、こうして食事が終わったわけだが」
「……しーくん、教えてもらいましょうか」
「そうか、そんなに聞きたいのか」
その後、一誠と小猫が帰宅してほとんどすぐに帰って来た正士郎。
大きな日本家屋のようなアパートは建物が丸まるひとつがタケハヤの所有物で「
真顔ながらも正士郎の前に座る小猫、そして逃しまいと小猫の前に座る一誠は正士郎の手をドサクサ紛れに掴んで握る。
夕食を話すまで渡さない、との恐喝に負けた正士郎はしぶしぶ小猫と兄に話すことにした。
それから時間を飛ばすが、それ以降は兄として俺は語るのを拒否する。
小猫ちゃんと暮らすようになり、俺はますます松田や元浜からのお誘いを拒否せねばならなくなった。
同性の友人としては貴重な存在だが、俺は頑として断らざるを得なかった。
弟にエロ本をばれるのは別に構わないが、小猫ちゃんはロリといえども女の子である。
失礼だけど。
あんなに直球で来られたんだから、あの女の子からの告白を受け入れるのかと思えば、さすがは俺の弟、付き合うようになったらしい。
しーくん、マジぱねえ。
さて、しーくんがあの子と今日にデートに行くらしいが、帰ってきたら内容を聞いてみよう。
小猫ちゃんを起こしに行かないと。
「しーくん、楽しかった?」
「なんていうか、はじめてだからさ、こういうのって」
正士郎は映画館の帰りに付き合うようになった、あの女の子とのデートの帰りに正士郎は身を寄せる女の子の笑顔に顔を赤らめた。
チラッチラッ、と電柱から顔を覗くワカメのようなボサボサヘアーをしたギャング風のスーツ姿の男性がマスクを着用しつつ、こちらの様子を窺っているのが見える。
タケハヤが親代わりである身分上、心配になるのは分かるが、何故、部下のデートについてくるというのか。
「そうなんだ?実は、私も初めてなの。しーくん、お願いがあるんだけど……」
「うん?」
電柱に隠れているストーカーのようなワカメっぽいボサボサヘアーの男性は地団駄を踏んでいる。
通行人に見えていないのは何らかの神通力を使用しているからに見えるが、女の子の方は正士郎の胴回りに手を回して柔らかな双丘が正士郎に当てられて正士郎の心臓の鼓動が早く脈打つのを感じる。
ワカメヘアーの男性はワクワクが止まらないらしく、先ほどより動きが激しくなっている。
「私のために死んでくれない?」
「あ?」
女の子は正士郎を抱きしめた手の中に光の槍を手中に出現させ、正士郎の背中に突き刺さんとした時に正士郎は女の子を突き飛ばす。
変なヘアバンドを付けた高校生程度にしか認識していなかった、女の子は正士郎が発揮した力に驚きを隠せないが、しおらしい様子から一転して艶やかな笑みを浮かべる。
「そんな力が眠っていたなんてね。でも、もう遅いわ。貴方は神器を持っていたばかりに運悪く死亡するから」
「セイクリッド……ギア……だと?」
正士郎はヘアバンドを外し、利き手の右手に巻きつける。
妖艶な表情を浮かべる女性としての本性を見せた女の子は正士郎の行動を嘲笑う。
所詮は人間の散り間際の行動、おかしな行動を行なっても最期を目の前にして無駄な抵抗を行なうのか、と女の子は溜息をついた。
「つまらなかったなぁ、ホイホイついてきちゃってさ。もっと考えてみたら?脳みそにはろくな物が詰まっていないだろうけど」
「……残念だよ、僕、君に一目惚れされたって知ったのは嬉しかったんだけど。残念だったな、僕は神器なんて崇高なものは持っていない。僕には相応しくないし、それはもっと持つべき人がいるんだ」
正士郎との先ほどのやり取りを嘲笑う女の子の名前を正士郎は聞いていなかった。
それに名前も知らない女の子とよくもまあ、デートが出来るものだ。一目惚れと言われて嬉しかったのは事実だし、
誰よりも力に相応しいのは、血縁関係がなくとも命を救ってくれた父親や自分よりも核上の悪魔に立ち向かった過保護ながらも弟思いな兄にこそ相応しい。
「じゃ、じゃあ、なんなの?この気配は……」
「さあな。たぶん、君が感じている気配ってのは、」
「恐怖って奴じゃないかな?」
女の子は正体を現した。
いかにもな鴉のような翼はタケハヤの講義に出てきた、堕天使の特徴と同じ。
彼女が無茶苦茶に振り回す光の槍を回避しながら反撃のチャンスを窺うと、光の槍の先端が右手に巻きつけたヘアバンドに触れる。
瞬時に外套のようなものに変化すると、光の槍の攻撃を弾く。ただ、攻撃を弾くだけの外套はかつては正士郎が赤ん坊の頃に巻かれていた布を母の美奈子が使わないのを勿体無いと思い、最初に見た布への印象が「まるで正士郎を護るかのよう」ということだったので、ヘアバンドを作った。
それが功を奏したのか、オーバーテクノロジーを発揮してヘアバンドは外套へと変化した。
「なん……で、それに変わるの……?答えろ!人間!お前は一体、」
「何者だ、ってか?残念だな、僕にも良く分からないんだ。ただ、今の僕の身分はタケハヤ様のご姉弟にお仕えし、百鬼夜行に所属する者でーーにいちゃんの弟だ」
「神器を狙うってんなら、間違ってたようだな。けどさ、僕はお前をただで見逃すわけにはいかないんだ。このまま逃せば新しい犠牲者が生まれるだろう、そして、」
フラッシュバックが脳内に起こり、外套は光の槍に受けた攻撃をそのまんま跳ね返した。未だにその構造と仕組みは正士郎は理解できなかったが、外套の形態こそ、正士郎にとっては最強の鎧である。
「……なんでタケハヤ様が此処に?」
「通りすがりだ。この地域に堕天使がいたということは姉貴に報告しなきゃならん、来い、堕天使」
「ま、待ってよ!しーくん、私はレイナーレというんだけど、私はしーくんのことが大好きだよ!?」
「好きなら殺すなよ。んな過剰な愛情表現はお断り。せめてサプライズで花火バーン!くらいだ」
「んなことやるのはいねえよ、探せばいるのかもしれんがな。じゃ、連れてくわ」
タケハヤに連行されるレイナーレは何か正士郎に言いたげだったが、正士郎は自らの命や神器を求めて襲い掛かってきた悪魔を思い出し、レイナーレにかける言葉は見当たらなかった。
タケハヤの動作は素早く、レイナーレが正士郎に命乞いの言葉を述べる前に嵐のような勢いで言葉にならない言葉で罵った。口調からしてとある地域で限定された方言だろうが、そこまで嗜みがない正士郎はタケハヤのいつもの剣幕だ、ということで気にしなかった。短気なタケハヤやタケハヤの姉弟だが、この国の領土と人間を思う気持ちは負けなかった。
今夜の出来事はタケハヤが兵藤家に連絡として結果を報告してくれるだろうが、まずは正士郎自身が一誠に一通り説明するべきと見た。
新たに加わった小猫にも説明するべきだろうし、一誠より飲み込みが早そうなので説明は小猫に任せて帰ろう、と思った。
「待ちなさい」
「なんでしょう?僕に待たなければならない理由が分かりません」
背後からかけられた声は女性のもので、振り返ると黒髪でポニーテールの女性と金髪の青年、そして見慣れない男子生徒を連れた赤毛の駒王学園の一学年上の女子生徒、リアス・グレモリーだった。
互いに面識はないものの、学園二大お姉さまの朱乃とリアスは校内でも目立っていて食堂を出入りするだけでも騒ぎになるほど。
アイドルには人並みに興味があるほうだったが、悪魔には借りがあるので魔王の妹といえど、悪魔なので全く興味がなかった。
タケハヤによると、情報は必要とのことで仕方なく覚えざるを得なかったが。
「貴方、兵藤正士郎君よね?」
「そういう貴方はリアス・グレモリー先輩ですか。あとは姫島朱乃先輩に木場祐斗先輩。それともう一人は……知りませんね。」
もう一人、と呼ばれた四人目は怒りを露にしたが、正士郎は気にも留めなかった。こんな場所で大嫌いな悪魔と会話をするために時間を無駄にするならば、さっさと家に帰って報告をして三人で馬鹿話をするのがよっぽどいい。
「あのギャング風の男、タケハヤスサノオよね?」
「先輩が何をおっしゃているのかさっぱり分かりません。では、おやすみなさい、皆さんお気をつけて」
踵を返して普通に家に向かって歩き出す正士郎は外套で堕天使相手に立ち回っていた、一般人の酔うには到底思えない。
否、“逸”般人と言うべきか。
「部長、彼をどうなさるおつもりで?」
「堕天使相手に立ち回る
「はい、分かりました」
「絶対、手に入れて見せるわ。兵藤正士郎……!」
残された四人の中で朱乃はリアスに正士郎の背中を見つつ、リアスの考えを問う。
この場にタケハヤがいればリアスの見解に馬鹿笑いしそうだが、タケハヤはすぐに姿を消していたので「赤毛の坊主」と呼ぶサーゼクスの妹とその他の眷属と邂逅することはなかった。
リアス・グレモリー、姫島朱乃、木場祐斗の他に新たにオカルト研究部に所属しているのは一誠の友人の一人の
三人の会話に取り残されつつ、会話の隙を窺おうにも、それは不可能だった。
今夜の月は妖しく美しく輝き、我が物顔で国土を領地扱いして威張り腐っている三大勢力を嘲笑うかのような妖しさだった。
アマテラス、タケハヤ(スサノオ)、ツクヨミは三大勢力を嫌悪していますが、その技術を真似して自分達が使いやすいものに変えています。
なお、日本神話勢力の構成員は一誠、正士郎、小猫の三人でレイナーレは高天ヶ原に連行されました。