なんでも、精神の安定の為に付けてるらしいです。
メンタルは強くありたいものですね。
P家三男、ビビる
「は?ふざけんな、赤毛小僧。何故、焼き鳥野郎の為に接待ゲームせねばならんのだ」
「ですからタケハヤ殿、これには深い理由が……」
とある会議室はワカメのようなボサボサヘアーで着流しを纏い、会談相手がいるにもかかわらず、キセルを吹かすタケハヤと紅髪の魔王、サーゼクス・ルシファーが女王にしてメイドのグレイフィアを連れて不機嫌な様子で椅子を逆にして座っているタケハヤの機嫌をとっていた。
冥界において、そして三大勢力でも名を馳せる魔王を目の前にしても不敵な態度を崩さず、人間界にある、とあるビルの会議室で会談している。
「私の妹が政略結婚と言いますか、それを高校卒業と共にすることになってるんですが、父やフェニックス郷がそれを早めようとしていましてね。なんとか妹の我がままを叶えてやりたいんです」
「ハッ、魔王もサマサマだなァ?それで決闘をするってェのかい?」
「タケハヤ殿、お言葉を気をつけなければ……」
「メイドの悪魔の嬢ちゃんなんざ、怖くないね。権力をコソコソ使おうってのかよ」
タケハヤの不機嫌のボルテージが上がると、いつも以上に悪口が冴える。
サーゼクスの言い分を整理すれば、魔王の権力を使って日本に乗り込んできて、そのトップの一人のタケハヤにアポ無しで訪問し、都合の良いことをぺちゃくちゃと捲くし立てている。
帝釈天のような武神ならば命を落とす可能性も考えられるだろうに、サーゼクスは辺境の島国の神如き、と軽く考えているようだ。
「それで、タケハヤ殿。どうなさいますか?」
「ああん?お断りだ、赤毛の坊主。てめえが妹を大切なように、オレはオレの部下が大切だ」
サーゼクスは引く様子を見せない。老狐のように老獪な狡猾さを見せる、サーゼクスはタケハヤが何重もの側面を持つ神だと知っているんだろうか?あるときは娘婿に無理難題を繰り出す舅、あるときは高天ヶ原をかつては追放された暴れん坊、またあるときは人々の為に神霊と戦った英雄。
羽虫の一匹や二匹、殺すのはタケハヤにとっては造作もないことだ。
営業スマイルを絶やさず、自らの出した条件を飲めというサーゼクスは塔城小猫の一件を根に持っているようだ。
サーゼクスの出した条件とは、フェニックス家三男とのレーティングゲームを兵藤兄弟ら「百鬼夜行」を行い、その後には冥界への旅行を許可するという。
タケハヤにとって大切なものの部下を人質にとる寸法であるのは間違いなく、古びたビルの中で周囲が豪雨が降り注いでおり、ガラスに大きな雨粒が降り注ぐ。
従業員の無銘の神達は心配そうにタケハヤとタケハヤが害虫と称する異国の妖魔をガラスの扉越しにみていた。
これはタケハヤにとっての作戦で向こうが手を出せば、従業員にしてタケハヤ系の神達が一斉に「赤毛の坊主」たちに飛び掛る寸法だ。
三大勢力がどうのこうのとどうでもいいタケハヤにとっては、この島国を護ることさえ出来ればいいのだから。
「しかし、そちらの顔もあるだろうが、もちろん、今日の押しかけのアポには焼き鳥小僧は来ているんだろうな?」
「ええ、ライザー君は部屋の外で待たせております」
タケハヤの口端が歪にゆがむのをグレイフィアは逃さなかったが、外で待たせている爆弾王妃の女王を連れてきているライザーのことを考えると、下手に手出しはできなかった。
目前にいるタケハヤという神は様々な一面を見せる、この国の四季のように獰猛な一面も穏やかな一面も併せ持つ、三大勢力にとっては「精神病患者」と認定できる人格の持ち主であった。
魔王の業務でもなんでもない、ただのプライベートでフェニックス家の三男を連れまわしてきているのだから、嵐の神であるタケハヤにかかればバラすのは容易である。
「すぐに呼べ、すぐにだ」
「分かりました。ライザー君、入ってきたまえ」
「失礼します、サーゼクス様、グレイフィア様」
タケハヤの部下らしい、スーツに身を包んだ中世的な顔立ちの男性神が扉を開け、会議室へキンパツでホスト風の青年、ライザー・フェニックスを入れる。
周囲の無銘の神々はライザーの性質が「炎」であることを感じ取り、大雨が降り注ぐことと雷が鳴り響いていることもあり、ニヤニヤして見守っていた。
タケハヤはある意味で彼らを人質にとっているのだ。
会談が始まるのと同時、タケハヤは害虫の悪魔の顔を見ただけで怒りを催し、周辺地域に嵐を吹かせていた。
ゴーストタウン同然のオフィス街は人気が少なく、下級の妖怪が集落を幾つか作って暮らしており、そこを見知らぬ者が通れば追いはぎに遭う場所である。
タケハヤのビルから誰も使いに来るものはなく、当日にいきなり電話がかかってきた時は百鬼夜行が送ってきた写真を待ち受け画像にし、幸せな気分のタケハヤを一気に怒りを催させた。
タケハヤのオフィスにはルールがあり、「しーくんタイム」なるものが存在する。
アンニュイな表情の人間として扱われている、兵藤正士郎の写真を机に飾っているのを見つつ、コーヒーを飲むタケハヤのための時間である。
その間に邪魔をしようものなら、邪魔した者は行方をくらますという。
「……貴様、名はなんと言う?」
「ちょ、ちょっと貴方!ライザー様になんてことを!?」
「よしてくれ。フェニックス家三男、ライザー・フェニックス。タケハヤスサノオ殿、お目にかかれて光栄です」
「うっせえぞ、種馬。てめえがハーレム築いてウハウハしてるって知ってんだよ、青二才の焼き鳥野郎が。今回の訪問、てめえのパパ上は知ってんのか?」
「知りません」
タケハヤはライザーの顔を上から下へと見下ろし、それからライザーが信頼を置ける部下とすぐに分かった女王のユーベルーナを見上げる。
高慢そうで嗜虐的に見える女はライザーが夜な夜な行なっている行為を想像し、ゲラゲラと下卑た笑みを浮かべ、壁に向けて灰皿を投げつける。
炎は勝手に消されてろ、とのタケハヤの意思表示から分かるとおり、タケハヤはご機嫌斜めである。
そして、タケハヤの問いには真顔で答え、この件をこのキンパツ坊ちゃんの父が知らないとはまた笑える話だ。
貴族の三男ともあり、放置されているんだろうか。
「そいつはご苦労。あとは、今回の件をお前のパパ上に手紙出してやっからよ、お仕置きは覚悟しな」
「タケハヤ殿、今はそれは関係ないのでは……」
「うっせえ。種馬くんのパパ上から聞いてるぜ?三男っつー微妙な位置から期待もされてねえんだろ?妹を眷属にするのはイイ趣味してると思うが、気持ち悪いなあ。妹さんに同情するぜ。……てめえ、妹の髪色はなんだ?」
「タケハヤ殿!ちょっと口を慎んでもらえますか!?」
怒りに震えるグレイフィアはタケハヤの目が死に濁っているのに気づく。
写真のヘアバンドの少年と酷似しているところから、妙な虫の騒ぎを感じる。そういえば、タケハヤの会社の扱うジャンルが分からない。社内には案内のパンフレットの一切合切がなく、社訓も見当たらない。
魔王の女王である立場からタケハヤにとがめる言葉を投げかけなければならなかったが、タケハヤは聞く耳を持たない。
この会社において、タケハヤこそが絶対的な権力を振るう、王であり社員はみなタケハヤが嫌うのならばよほどなんだろう、とこちらに関心を持たない。
ビルに入ってくるに当たり、近くの集落を形成する妖怪が警備員を行なっているらしく、その中には猫又やかわうそもいた。
明らかに神格も持たず、下位に存在すると認識していた悪魔側にとっては新鮮な発見だったが、タケハヤの怒りが届いているのか、みなサーゼクス一行を警戒していた。
「……き、金髪です」
「素晴らしい。そしてくたばれ、種馬!てめえの母親、泣いてんだろうなぁ?自然界でもありえんぞ、妹をハーレムに加えるとは。まぁ、なんだ。座れよ、そのねーちゃんもよ」
風も吹いていないのに髪を靡かせ、ライザーとユーベルーナに座るように示す。硬直して座る様子を見せないライザーらに怒り、「座れって言ってんだよ!」と机を叩いて怒りを見せると、ライザーががくがく震えている。
ライザーに舌打ちしつつ、同時に自らの力を過信している金髪の青年に笑いすらこみ上げる。
ふと、タケハヤが清掃員ではないが、雑用として傍においている白髪の神父少年の姿を見つけると、にんまりと笑った。
「あー、駄目だなぁ。そこの掃除しているフリード・セルゼン君!」
「YES,BOSS!なんか用でございますか!?」
「タケハヤ殿、彼ははぐれエクソシストとして高名なフリードですぞ!?」
「お客様がお帰りだ!君が送って差し上げろ、魔方陣の場所は覚えていような?」
「イエッサー!俺ちゃんは記憶力には自信あるッス!」
ライザーがタケハヤに意見するも、呼びつけたフリードが敬礼をしながらよい返事をするのに満面の笑みを浮かべ、フリードにカギ付きの首飾りを渡す。
いわゆる、それはこの会社の社員であると示すIDカード代わりのもので、フリードを雑用から昇格させたという証である。
二週間以上、社内の雑用をさせていたフリードをそろそろ討伐の武神として扱おう、というタケハヤの意図であり、輪投げのようにフリードの首に引っ掛けると、周囲の神々が拍手喝采を送る。
普段は客人の前では行なわないが、タケハヤにとっては悪魔は害虫であり、羽虫である。
客人と扱っていない為、平然と普段どおりに振舞うと社員から飛ぶ賛辞の嵐。
「素晴らしいぞ、フリード!
「イエッサー!ムラマサ=ブレードは常に仕込んでありまっす!」
サーゼクスは奥歯を噛み締め、タケハヤには自分達の声は届かないのだ、と自らの力不足を痛感する。
フリードがライザーとユーベルーナらを追いたて、その後をサーゼクスらに進ませる。その後ろをモップから日本刀の形をとるフリードにタケハヤが入社記念に渡した武器を腰に差してにんまりと笑ってあとをついていく。
正社員として正式に雇用された際の通過儀礼が客人を送っていくことだが、まがりなりにもタケハヤはほんのちょっぴりだけはサーゼクスらを客人とは思っていたようだ。
数を急激に減らしている純血悪魔に対し、徳川家を崩壊に追い込んだ妖刀を新入社員に持たせ、途中まで送らせるのはタケハヤがいかに今回の訪問を根に持っているのかが分かり、野次馬として集まっていた社員は即座に魔王一行が帰ると普段の業務に戻り始めた。
「ふむ」
社員の無銘の神達はサーゼクスらがかえったことで、席についてタケハヤが大雨の降る外の風景を眺め、最近に送られてきた兵藤兄弟、塔城小猫、アーシア・アルジェントの写真を眺める。
真顔で眺めてはいるものの、内心ではにんまりとしたいのを社員らは知っている。
そんな彼らの視線に気づくと、ブラインダーを降ろして閉じてしまった。
タケハヤが姉のアマテラスの引きこもりになったことを話しつつ、ゲラゲラ笑うのをよくみる社員たちはタケハヤに言いたいことがあった。
「しーくんはどんどんオレに似てくるな。アーシアちゃんはかわいい、白音ちゃんはかわいい、一誠は男前になった。やっぱり、デキる男は違うな」
自分でデキる男とさえ言わなければ、タケハヤをいくらでも賛辞するのに、と残念な上司の一面を見た彼らだった。