一つ、タケハヤは魔王一行による急な訪問とメチャクチャな申し出に業を煮やした!
二つ、タケハヤにとって金髪美少女は正義である!
三つ、完全に傷を治す前に攻撃を打ち続けるのが不死身殺しのポイント
「ミスドまで遠いなぁ」
アーシア・アルジェントが百鬼夜行に加わり、構成員が増えた。
しかし、女子の構成員がみな兄に好意を抱いていてなんとなく居心地の悪いと思うのが普通だが、兄や一つ上であろうアーシアの恋愛を応援することに決定。
近いうちに一誠がアーシアを護る、という名目で駒王学園に編入することとなるらしいが、最近のグレモリー眷属の動きがあまりしなくなったのが怪しい。
アーシアの治癒の力に目をつけて不穏な動きをしているんじゃないだろうか、と思って警戒の色を正士郎は強める。
こうして深夜の住宅街を歩くのは神器持ちの一誠とアーシア、猫又の白音を護る為ではぐれ悪魔の討伐も仕事の一つだ。
「こう、どうして駅前まで行かなきゃ行けないんだろう。もっと近くに出来ないものか」
駅前のミスタードーナツまでの距離は遠く、自宅の「ステイツ・タケハヤ」からは正士郎の脚力でなら早い方だが時間がかかって仕方ない。
たまにならば朝ごはんにドーナツも悪くないだろう、ということで美少女に囲まれる兄がアーシアの宿題を見つつ、白音に勉強を教える器用な真似をしているので、外出するのを伝えるとついて行きそうだったので、「誰が僕の留守を護るのか」と言えば、俺が護ってやる!と意気込む兄は留守番中。
ミスタードーナツがいくつか入った箱から甘い香りがし、遠い道のりの苦労を忘れさせてくれるようだ。
アンニュイな表情は緩やかになり、普段の表情しか知らないクラスメイトが見れば驚くだろうが、肝心の本人が気づいていないので誰の目にも留まらなかった。
ほんの少し向こうには街灯が照らし、短いながらもアーチのようなトンネルが出来上がっている。
壁には落書きが多く、最近出来たようで不良が屯して仲間とともにスプレーで書いたんだろうか。
こういう景観を乱すことはやめていただきたいなぁ、と高速で手を摩擦させてスプレーによる落書きを剥がすと、利き手からは出血している。
このまま家に帰れば優しい兄やアーシアは心配するだろうし、白音には兄を想っているはずなのに膝枕を強制されて治療されそうだ。
「どうするかな、これ……」
回復能力は普通の人間よりは早いものの、戦闘による怪我でなければ一日を要する。まるで戦闘であるのかないのかを知り尽くして居るような、本能によるシステムに脱帽するも、街灯の下で金髪の女性らしき人物が体育座りしている。
「おい、そこのうぬじゃ」
「いや、せめて、初対面にはおいとか使わないでもらえると……」
上等なドレス、良いプロポーションは幼い時の楽しい記憶の海水浴に行った際にぶつかってしまった黒いビキニを着た美しい女性を思わせ、金髪や髪につけている髪留めまで似ていて他人の空似と分かっていても見蕩れてしまう。
言葉を発するたびに口から覗く、その鋭い牙は女性が人外であるのを示していた。
「何故じゃ?それに、儂を見て恐れないとは豪胆の持ち主のようじゃのう?」
「もっと怖い人がいますからね、僕の知人には」
金髪の美女は貴族のように気品があり、それでいてリアス・グレモリーから感じた「嫌悪」がしないことから悪魔ではない、と分かる。鋭い牙に美しい容姿と言えば、世界で最も有名なモンスターの一つ、--吸血鬼だろう。
思い浮かべる正士郎にとっては怖くも自分を思ってくれる、父親のようなタケハヤを思い出すと自然と笑みが零れるが、女性の気分が悪い様子や身体が小刻みに震えているのに気づく。
「手に持っているのはなんじゃ?儂に見せてみろ」
「あ、これですか?これはミスタードーナツなんですけど……」
「食わせてみよ」
ミスタードーナツに視線が向かい、興味を抱く女性。
妙齢の貴婦人のようなので丁寧に敬語をつけ、嫌味に聞こえないのは幼少期から感じた懐かしさによるものか。
レイナーレに騙されて以降、異性に対して恐怖を覚えているのではないか、と兄や白音に心配されるが、別に正士郎は自分では特に気にしていないように感じられた。
むしろ、「そんなものだ」と諦めを感じているように自分で思い、離れていくならば手を伸ばす必要がないと諦めを抱くのと同時、兄やタケハヤ、白音らが離れるならば全力で取り戻す、と奇妙な欲が湧き上がってくるのを不思議に思う。
口をぱっくり開け、ズラリと並ぶ牙を見せ付ける女性は正士郎にドーナツを食べさせてもらうのを待っている。
イチゴをコーティングしたドーナツを見せると首を振り、粒がリング状に連なっているのを見せると興味を抱き、目を爛々と輝かせて正士郎によって食べさせられる。
甘味が口内に広がり、食べたことのない味に戸惑いながらも幸せな気分になれる。
吸血鬼の女性は血液を欲するが、同様にこれほどに旨いものを食したことがなかった。
「どうですか?おいしいでしょう?百円セールしてて、たくさん買えたんです。欲しいなら箱一つ貰ってくれませんか?二つも買いすぎちゃったかなって思って」
照れくさそうに笑う正士郎は吸血鬼の女性には不思議に思えた。
敵意のない純粋な笑みはいつぶりだろう、と。
差し出された箱にはお気に入りのドーナツがあり、上品に食べる様子は吸血鬼の女性に似合うドレスのように気品を感じるものだ。
「おやぁ?こんなところにはぐれ悪魔のネーチャンがいたか」
「どうしましょう?楽しんでから殺しましょうか?」
「それがいい、と言いたいところだが、羽虫がいるな」
トンネルの両サイドから聞こえる下卑た声は本能のうちに正士郎を膝立ちの状態で女王に貢物を持ってくる者を思わせる雰囲気から、理性を失いそうな野獣へと駆り立てる。
服装や口調、そしてこの嫌悪感からはぐれ悪魔狩りを生業とする悪魔と予想し、吸血鬼の女性に向ける視線は性的で下卑たもので、とくに一番の下っ端と見られるものは胸ばかり凝視している。
「うぬらは……!?嗅ぎつけおったか、どこで気づいた!?」
「十年前からだよ、ハートアンダーブレードちゃん。お前がこの国で観光している時から狙っていた。吸血鬼なのに、S級はぐれ悪魔認定されているのにはビックリだけど、とんでもねえデケェモンもってんなぁ?そそられるぜ」
ミスタードーナツの箱を置き、吸血鬼の女性ーーハートアンダーブレードは身体に力が入らないのに気づく。
この甘味を味わうより先にこのやる気のなさそうな顔をした小僧の血を吸っておけばよかった、と後悔しつつ、重要な食料が自分の力不足のせいでうしなわれ、あまつさえ自分より弱い悪魔に殺されようとしている。
「密入国者で女の人を追い回してんのか。どうしようもねえ下衆野郎だな、こりゃ報告しなきゃな、あの人に」
「なぁ、おい、人間。そいつを差し出したら殺すのは一番最後にしてやってもいいぜ?死に方を選ばせてやるし、よぉ!」
チェーンソーのような大剣を振り回す、ハンターは正士郎に向けて剣を振り下ろした。ハートアンダーブレードが背後にいることとはぐれ悪魔狩りの自分たちを目の前にして逃げる様子を見せない、その人間ごと弱ったハートアンダーブレードを始末できる。
その豊満な肢体で弄べないのは惜しいが、収入を得て、遊べるのならどうだっていい、と周囲の大剣のハンターの仲間たちは誰も止めなかった。
「まだ死んでやるつもりもねえよ、三下。ただで死んじまったら、お前らのボスは殺されんのが可哀そうだからさ……」
主にあの過保護な上司やブラコンのこの国では神としての扱いを受けるドラゴンを宿す、あの兄によって。
三大勢力なんかクソだ!と言って退ける上司のことだ、些細な理由で戦争を仕掛けるために冥界に乗り込んでいくだろう。
回転する刃を振り下ろされ、握り締め、手からは溢れるばかりの鮮やかな赤さの血液が溢れる。
ハートアンダーブレードは食料の『人間』により、放出される血を飲む隙を見失わなかった。
溢れるそれを勿体無い、とばかりに口を開け、血の味を楽しむ。
己のために動く、食料同然の
「てめえ、正気か!?この悪魔狩りの武器を受け止めるとは!?」
「その台詞、お前らにブーメランだ。この
ハートアンダーブレードは飼い犬が襲撃者に立ち向かう時の飼い主の人間の気分が理解できた。
この変な「のらいぬ」はこちらに自らの「しょくじ」を与え、あまつさえ、その与えた「にんげん」を護ろうとしている。
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードは吸血鬼である。
それも只の吸血鬼ではない、「
無敵の存在である自分によって殺されるものはあれど、容姿に惹かれて血を吸われて死亡する者はあれども勝手に懐いて鉄血にして冷血にして熱血の吸血鬼のキスショットに懐く
「のらいぬ」は大剣の賞金稼ぎによって切り開かれた、手から血をあふれ出しながらキスショットが零れた血を飲み、奇妙な食事を不思議に思いつつ、熱くなっている「のらいぬ」を不思議に思う。
大剣による一撃を受け止め、それを力任せにねじって賞金稼ぎで大剣の所有者のものの腹に貫くのは並大抵の人間が出来ることではない。
神聖な儀式を受け、それで神の加護を得ることで戦場で鬼神のように暴れまわる狂戦士、ベルセルクならば怪力を発し、それに乗じて腹を貫く野生的な行動を可能とできるだろうが、この「のらいぬ」は加護を受けた感じがしない。
生まれ持っての才能で、身体能力で行なえているならば、「食料」の「のらいぬ」はどんな生涯を送っているのかキスショットは興味を抱いた。
大剣の所有者の賞金稼ぎの腹から剣を思い切り引き抜き、その仲間の吸血鬼の方に飛んでいくように移動して大立ち回りをするのは、あのサイズの大剣を片手で軽々と小枝のように扱うこと、重力を無視した動作は離れ業である。
吸血鬼と人間の子、ヴァンパイアハーフでも可能に出来なさそうな動きは「てん」がキスショットが「のらいぬ」と勝手に名付けた正士郎が与え、人を“超えた”人、超人であるからこそ出来る行為で本能のままに動いて美しい動作で戦える正士郎を武人同然であった、かつての唯一の初代眷属を思い出す。
「これでおしまい」
大剣と二人目の賞金稼ぎの爪が重なり、力任せに押し込んでいくと賞金稼ぎの爪と剣の刃が同時に砕ける。
わずかな隙や賞金稼ぎが人間による行動には思えない、人間離れした正士郎の動作に唖然としている隙を突かれ、顔面を掴まれて三人目の方へと吹っ飛んだ正士郎が三人目の顔を掴み、なんどもなんども壁に叩きつけている。
賞金稼ぎの顔を中心に壁にはクレーターが出来上がり、無心で壁に義務的に打ち付ける様子は指の隙間から正士郎の顔を見ていた賞金稼ぎには死神に見え、その凍てつくような冷たい息を吐きかけられ、身体が凍っていくのを感じつつ、壁に軽くこづかれて砕け散る。
「面白い素養を持っているな、うぬ」
力が「のらいぬ」の血によって力と調子が戻ったキスショットは立ち上がり、正士郎を見下ろす。
百八十センチを超える、女性にしてはあまりにも高い身長は圧巻で、ビーチで見た背の高い女性を思い出す。
「つかぬことをお聞きしますが、いいですか?」
「いいじゃろう、のらいぬのわりには上出来であった。なんでも聞くがよい」
気づけば「のらいぬ」が呼称となっているようで、キスショットは胸の下で腕組みをして正士郎を見下す。
豊満な実りが更に強調され、魅了されそうな視線は正士郎を射抜くものの、気になっていたことを聞きたいと思っていた正士郎の好奇心は魅了されそうになりつつも、食いしばった。
「十年前の○×▽ビーチ、お姉さんいました?」
「おねえちゃんじゃと?儂が?……なかなか良い響きじゃな。ビーチに居たかどうかだと?愚問じゃな、儂は鉄血にして冷血にして熱血の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードぞ。憎き太陽の下に出る、なんと愚かしいことか」
そうとう永い
「いや、自分で告白してますって。太陽の下に居たなんて。ビーチパラソルしてませんでした?」
「だ、誰かー!?ここにストーカーがおるぞ!?」
「吸血鬼なのに俗っぽいんですね!?」
キスショットの反応からして明らかになった、驚愕の真実。
片手でメガホンのようなモノを作ったり、老人口調だとか、この人は何時から日本に来たんだろう、とタケハヤに尋ねるか迷った。
金髪美少女か美少女を贔屓するのがデフォルトのタケハヤだが、金髪美女はどうするんだろう、と表情が曇るのを感じる。
国籍を持っているかさえ定かではない、吸血鬼が警察に通報した所で身分を証明できるものがなければ逆に書類送検されそう、とか人体実験されるんじゃないか、とか心配事は膨らむばかり。
「ごほん、先ほどは済まなかったな、のらいぬ。儂に血を寄越したのを誇りに思うがいい」
しきりなおして咳払いすると、やっぱりキスショットは貴族なんだなと思わされる。
リアス・グレモリーより威圧感があることや、強大なオーラを纏っていることから半端な戦意なら吹き飛ばせるという、国民的海賊漫画の謎の能力を思い出した。
そして気づけば、隣に立たされてそして座らされた。
「離れてもらえますか」
「食料とされるのを分かっておりながらも、儂の為に立ち向かうとは出来たいぬじゃな。ほれ、儂の頭を撫でるがよい」
「わ、わかりました」
豊かな胸を張って自信満々に言うキスショットだったが、胸を張るたびに胸を揺らすのは健全な青少年としては気にならないわけがなく、言われたとおりに金髪の頭を梳くと同級生のような人工の金髪ではない本物の金髪で触り心地もよく、手入れが施されているのが分かる。
頭を撫でるのが吸血鬼の世界での服従の証なんだろうか。
世界の広さをつくづく感じる、「のらいぬ」こと正士郎であった。
「どうじゃ?儂の髪は心地良いじゃろう、のらいぬよ」
「気持ちいいっちゃいいけど、キスショットの髪を撫でるのがなんかの儀式?」
「……」
自らの髪を撫でさせたのは相応の意味があると見たが、タケハヤのように様付けとかさん付けをするよりもかえって呼び捨てにしたほうがいいような気がしたので、長すぎるハートアンダーブレードというよりもファーストネームで読んだ正士郎。
少しの間、沈黙が続いてキスショットは正士郎の瞳を覗き込む。
ファーストネームで呼ぶのはアーシアさんじゃあるまいし、まずかったか、と後悔していれば、
「服従の証、というやつじゃのう。これでのらいぬよ、うぬは儂のものじゃ。我が従僕になれたことを誇りに思うと良い」
「眷属にはならないからな、僕は」
「えっ」
「えっ?」
ちゃんと断りをつけておき、溜息をつくとドサクサ紛れに正士郎をキスショットは抱き上げる。
本人の感覚としては野良犬を抱き上げている気分だったが、柔らかな双丘が正士郎の背中に触れ、何かが破裂しそうになりつつも、理性がそれを押さえ込む。
うん?と首を傾げるキスショットは外見の割に可愛らしく、細いながらも怪力を秘めた正士郎よりも強い怪力によって締められ、抵抗しなくなった「のらいぬ」の温もりを楽しんでいるようだ。
「では、うぬの住処に連れていけ、のらいぬよ。いや、従僕よ。ここにおってはおちおち眠られん、うぬが儂の命を勝手に護ったのじゃ。責任を取って儂の安全を確保せよ」
「横暴だなぁ」
「別に眷属にならんでも良いが、儂の安全は確保せよ。主として、のらいぬの願いは最大限に叶えてやりたいつもりじゃからな」
容姿によるギャップは正士郎のストライクゾーンを破壊し、何百年ものある年の差は気にならなくなった。
これもまた魅了なんだろうか、と
「主じゃなくて、従僕以外になんかまともな名前はないのか!?」
「ではポチと」
「ポピュラーすぎるよ!」
「タマ」
「猫じゃねえ!」
全く考えるつもりのないらしい、キスショットに対して正士郎は人間が犬の品種を全てまともに覚えている人が少ないように、吸血鬼のキスショットにとっては人間の名前はそんなに意味がないのだろう。
そうこうしているうちに「のらいぬ」で定着してしまっては、危険な気がするので勇気を振り絞って兄や白音、そしてタケハヤに呼ばれている、
「しーくんか。まるでみーくんみたいじゃのう、入間人間の」
「ごめん、作品名正確に覚えてないからやめて!?」
こうして、正士郎はキスショットに「しーくん」と呼ばれるようになるが、ときたま、自然に「のらいぬ」と呼ばれるようになったのだ。
後日、金髪美女を引っ掛けたと捉えられる
「……しーくんに伝えておけ」
「なんでしょう、タケハヤ様」
「美少女じゃなくて、金髪美女だろ?っつーと喪女の可能性が……おや、こんな時間に誰か来たようだ」
こんなコメントを行なったらしいが、話を全て聞いていた姉のアマテラスに朝まで説教を食らって睡眠不足になったという。
キスショットにとって、しーくんは「無邪気で生意気なわんこ」です。
血を吸われたんでなく、飛び散って地面につく前に血を飲んだので、しーくんは吸血鬼にならないのであった。
キスショットを見たとき、タケハヤはなんていうか……。